日本にとって欧州は遠い地です

2023.04.15

【国際・政治】2023

中国を訪問したフランスのマクロン大統領の言動が物議を呼んでいます。
習近平主席の異例とも言える歓待ぶりから、中国にとっては期待以上の結果だったのは明らかです。
なぜマクロン大統領は、ここまで踏み込んだ姿勢を見せたのでしょうか。
 
一つは、中国に対するフランス商品のセールスです。
年金改革の強行採決などで国内の大きな反発に直面している大統領としては、経済へのテコ入れで失地回復を狙っていました。
今回の訪問で、中国はエアバス社から旅客機を160機も購入することを明らかにしました。
さらに、30の経済協力の協定も締結しました。
フランス経済への貢献は35億ユーロ(約5110億円)と言われていますから、まずは成功と言ってもよいでしょう。
 
二つ目は、国際政治の舞台で埋没しかけているフランスの存在感の誇示です。
「台湾問題で欧州は米中どちらの側にも付くべきではない」の発言は、その典型です。
これは、中立を意識したものではなく、明らかに米国を意識しての発言です。
また、「欧州のリーダーはフランスだ」とする自意識も強く感じます。
ウクライナ侵攻後、プーチンとの19回に及ぶ電話会談を行なったのも、その現れです。
さらに、モスクワを訪問してプーチンとの差しの会談に及ぶという執拗さを見せています。
この会談は、実に5時間に及んだと言われていますが、ほぼプーチンの独演を聞き続けた会談だったようです。
呆れるほどですが、この驚異的な忍耐力には感心するしかありません。
 
今回も、ウクライナ問題で中国を説き伏せ、ロシアに対する働き掛けを狙ったのでしょうが、これには失敗したようです。
しかし、めげた様子は微塵もありません。
習近平主席による二夜連続の晩餐会という異例の厚遇でフランスの存在感を示せたと、本人は満足しているのかもしれません。
 
こうした派手な外交の裏で、フランスは4月4日に「次期軍事計画法(防衛力整備計画)」を閣議決定しています。
なんと、国防費を現行より約1200億ユーロ(約17兆5200億円)も増額しているのです。
しかも、インド太平洋における中国の戦略に対する備えも盛り込まれています。
大統領の中国寄り発言の裏で、政府としては中国を安全保障上の脅威と捉えているわけです。
相当に“したたかな”大統領というべきかもしれません。
 
しかし、こうした努力にも関わらず、国民からの支持率は30%にも届かないままです。
それでも「再選など考えていない」と強気な姿勢を崩そうともしません。
正直、「大したものだ!」と言わざるを得ません。
来月のG7サミットでは、どんなパフォーマンスを見せてくれるのでしょうか。
 
と、ここで20数年前の弊社の体験を思い出しました。
 
当時、日本と海外の建設会社にJVを組ませ、WTO案件を受注・施工するというビジネスを手掛けていました。
主に米国や韓国の建設会社と組んでいましたが、欧州の会社との提携も考えました。
日本ではあまり知られていませんが、フランスは世界一のゼネコンがある建設大国です。
そして、その営業の矛先は自国より海外です。
我々はフランス大使館に提携を持ちかけ、何度か協議を行いました。
その結果、フランス大手の建設会社を紹介してくれ、その会社と交渉する場を設けてくれました。
しかし、交渉相手の言葉に日本との距離を思い知らされました。
彼らが考えているアジア進出は香港までだったのです。
その先の日本は遠すぎる国なのです。
「極東」という言葉の深い意味を、そのとき知りました。
この言葉は、欧州から見た日本だったのです。
 
あの時から年月は経っていますが、今のマクロン大統領も、中国は見ていても日本は見ていない感じがします。
広島サミットでの彼の振る舞いに注目したいと思います。