米国の下院の混乱から2024年大統領選を予想する(共和党では)

2023.01.15

【国際・政治】2023
 
かつてのキューバ危機を描いた映画「13days」の1シーンを思い出しました。
ケネディ大統領から意見を求められた幹部の一人がこう言いました。
「ソ連が理解する唯一の言葉は“行動”だ、そしてリスペクトする言葉は“力”である」
ソ連を今のロシアや中国に置き換えてみると、米国の国策が「なるほど」と理解できます。
 
その米国が、下院議長選出で、共和党のドタバタ劇による呆れた醜態を晒しました。
共和党は、下院で勝ったとはいえ、議席数の差はわずかで、上院では1議席を失いました。
さらに、同時に行われた州知事選挙では2人の知事の座を失いました。
惨敗ではありませんが、敗北といえる内容でした。
その原因を作ったのがトランプ氏であることは誰もが知るとおりです。
しかし、当の本人には、その反省もなく大統領職に未練たっぷりなことが、この混乱の要因です。
 
ところで、彼が推薦した250人の共和党の候補者の当落はどうだったのでしょうか。
勝率は82%でしたが、大半は共和党の地盤で、もともと再選確実な現職候補でした。
民主党との激戦州で、トランプ氏が肩入れした候補の結果は以下のとおりです。
下院は0勝5敗、上院は1勝4敗、州知事選は0勝2敗
つまり、次の大統領選挙で接戦が予想される州では惨敗という結果でした。
その要因は、トランプ氏が政治家としての資質のない候補者をゴリ押しして、無党派層の離反を招いたことにあります。
それに責任を表明することもなく、次の大統領選への立候補に踏み切ったトランプ氏に対する批判が党内で高まっているのです。
そうした党内の空気に熱烈なトランプ支持派の議員たちが猛反発して今回の事態を招きました。
「しまった」と思ったトランプ氏は慌てて本命のマッカーシー院内総務への支持を訴えましたが、
効果はなく、氏の凋落が浮き彫りになっただけでした。
 
焦ったトランプ氏の攻撃対象は、党内で有力候補となってきたフロリダ州知事のロン・デサンティス氏に向かうでしょう。
明確な政治理念を持たないトランプ氏には、他者攻撃しか戦略がないのですから。
 
デサンティス氏は、“小型トランプ”と言われるように、かなりの保守派です。
しかし、44歳という若さに加え、名門イエール大学からハーバード大学を経て法務博士号を取得という米国人好みの超エリートであり、大学では野球選手としてならしたスポーツマンでもあります。
さらに、イラクに派遣された軍歴の持ち主と、これ以上ない“ピカピカ”経歴の持ち主です。
トランプ氏が焦るのは当然で、今後、デサンティス氏の家族にまで、なりふり構わぬ攻撃が及ぶことが予想されます。
 
このように、デサンティス氏の存在感は増すばかりですが、圧倒的な優位性は逆に落とし穴にもなり得ます。
たとえば、弱者である有色人種や低所得にあえぐ白人層の反発を招くという点です。
それを意識してか、ハリケーン被災の際には、バイデン大統領に協力して対策に奔走していました。
また、熱心なカソリック信者でもあり、キリスト教信者からの支持も厚いです。
冒頭に挙げた「敵対する国へは“行動”で、そしてリスペクトする言葉は“力”」という伝統的な米国の価値観に最も近い候補だともいえます。
ただし、こうした優位性はマスコミが作り上げている側面もあり、全米レベルで支持が広がるかは、まだまだ未知数です。
 
ところで、共和党で、ウィスコンシン州選出のマイク・ギャラファー議員(38)が面白いことを述べています。
「確かに今の下院は乱雑だ。だが、考えてみれば民主主義というものは意図的に乱雑な制度なのだ」  彼も、イエール大学を経て、ジョージタウン大学で博士号を取得した元海兵隊員で、安全保障問題のエキスパートとしても知られている共和党保守派のルーキーです。
まだ若すぎますが、彼の今後も要注目です。
 
次回は、民主党の動静を考えてみます、