日銀と財務省の綱引き
2023.04.30
【経済・経営】2023
新任の日銀・植田和男総裁の記者会見をネットで視聴しました。
正直、抽象的な言葉ばかりで、肩透かしというか“煙に巻かれた”感じでした。
しかし、その後、鈴木蔵相の記者会見を視聴して、植田総裁の発言の背景が推測できました。
鈴木蔵相は以下のように発言しました。
「日銀が国債買い入れを前提とするような財政政策は取らない」
この発言は、明らかに日銀トップに就任した植田総裁に対する牽制球です。
今回の記者会見を前に、植田総裁は鈴木蔵相と何度も意見交換しているはずです。
その結果を受けての記者会見なので、慎重というより意味が理解しにくい発言になったのだと思います。
その中で、次の発言に注目しました。
「2%のインフレ目標の達成は“なかなか大変”なんです」
この2%のインフレ目標は、前任の黒田総裁が執念のように掲げていた目標です。
黒田前総裁は、この目標達成のため、安倍元首相とタッグを組む形で「財政政策をプッシュする」として、政府が発行した国債の多くを日銀が買う政策を続けてきました。
この政策は、アベノミクスの第一の矢である「マネタリーサプライの拡大」つまり、市中に出回る“おカネ”を増やすという政策です。
植田総裁も同じ2%目標を掲げましたが、「・・大変なんです」と、ややトーンダウンした言い方をしました。
財務省の「プライマリーバランスの達成=国債発行の抑制」の圧力の強さを、そのように表現したものと思われます。
このことは、鈴木蔵相の上司である岸田首相が緊縮財政および増税路線派であることを物語っています。
防衛費増額や少子化対策など、岸田政権の抱える課題は、どれも多くの財政出動が必要です。
この財源を、国債発行ではなく、増税や社会保険料の増額で賄う考えであることは明らかです。
さて、企業は、こうした政府の方針をどう受け止めるべきでしょうか。
岸田政権の方針は、経済回復に赤信号とは言いませんが、黄色信号の点滅ぐらいには受け止めるべきかなと考えます。
今年から始まるインボイス制度も増税に繋がる政策ですし、社会保険料の負担率も上げ続けていく方針です。
営利企業としては、緊縮財政派ではなく、積極財政派の首相を期待したいところですが、与党内に有力な候補が見当たりません。
頼みの綱は植田日銀総裁しかいませんが、日銀の打てる手は限られています。
発行される国債を引き受けることは出来ても、自らが発行することはできません。
出来るのは金利政策ぐらいです。
記者会見での「マイナス金利は続ける」と言う言葉から、植田総裁は利上げにはかなり慎重です。
日銀は金融緩和策を続け、マネタリーサプライは維持する方針だと受け止めました。
これまで、景気回復で歩調をそろえて来た日銀と財務省ですが、綱引き状態に入ったようです。
企業としては日銀を応援したいところですが、岸田首相を取り込んでいる財務省の優勢は明らかです。
さて、どうすべきは、次号以降で解説したいと思います。