2022年6月15日号(国際、政治)

2022.06.30


HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2022年6月15日号
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発行日:2022年6月15日(水)
 
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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2022年6月15日号の目次
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◇ロシアの言い分
★ウクライナ侵攻が教えていること(その2)
★民主主義の脆さ(その2)
◇軍隊という組織(2)
 
<HAL通信アーカイブス>http://magazine.halsystem.co.jp
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こんにちは、安中眞介です。
今号は国際問題、政治問題をお送りします。
 
5/31号で、日銀・黒田総裁の「利上げもあり得る」との発言でドル円相場が127円台になったと書きました。
しかし、その後、再び円安が進み、現在は135円台となっています。
当の黒田総裁が、一転して現在の政策金利を続ける示唆をしたことが影響しています。
為替相場は、欧米日の中央銀行総裁の言葉ひとつで大きく上下動するようになっています。
そのくらい、世界経済全体が不安定になっているのです。
黒田総裁は、どんな思惑で発言をしているのでしょうか。
そこを知りたいです。
 
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┃◇ロシアの言い分                         ┃
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前号で「米国の役割」のことを書いたので、今号ではロシアの言い分を書きます。
正直、気が乗らないのですが、ロシア国民がプーチンを支持する背景を理解しないと、この戦争の先が見えません。
報道の公平性は大切な要素です。
 
マスコミは今回の侵攻に至ったプーチン大統領の思考をいろいろと書いていますが、私は、彼の思考は非常に単純なのではないかと考えています。
なぜなら、彼は2014年のクリミヤ侵攻時から同じことを言い続けているからです。
「ロシアは欧米諸国に誠実に付き合ってきた。それなのに欧米は『NATOは拡大しない』という約束を反故にして拡大してきたじゃないか」とです。
さらに、「ウクライナとロシアは一体化するのが自然だ」という考えを強く持っています。
実際、ウクライナ人とロシア人は民族的には同一といってもよい近さにあります。
「それなのに、NATOがウクライナのネオナチを支援して分断を煽っている」となり、「だから、我が民族を救わなければならない」となり、「そのネオナチの傀儡政権であるゼレンスキー政権を転覆することが正義なのだ」となったのです。
 
客観的に見れば呆れる論理ですが、問題なのは、こうした発言がロシア国民の共感を呼ぶことです。
ロシアでは、第二次世界大戦のことを「大祖国戦争」と呼んでいます。
あのナチスの侵攻を2000万人の犠牲を払って守り抜いたという自負が国民性となっているのです。
ゆえに「ナチス」という言葉によってロシアの敵が誰かが明白になるという効果があるのです。
 
ロシアに詳しい知人によると、大きな都市には、必ずといってよいほど、広大な「戦勝記念公園」と呼ぶ公園があるそうです。
ロシア国民の多くは、小さい頃に、こうした公園で年配者から「ロシアは多くの犠牲を払いながらも、勇敢に戦い、祖国を守ったんだ」という物語(誇張が多く、ウソも多いので、歴史ではなく物語なのです)を聞かされて育つのです。
こうした図式は、中国や韓国も同じですね。
ゆえに、多くのロシア国民は、今回の軍事侵攻を「ネオナチからウクライナを開放する戦い」として肯定するのです。
さらに、その先に「欧州の盟主はロシアであるべきだ」というプライドが頭をもたげてくるのです。
こうした国民感情が背景にあるので、現状での停戦は難しく、ましてウクライナからの無条件撤退は、プーチンが失脚か引退するという大義名分がない限りは難しいのです。
 
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┃★ウクライナ侵攻が教えていること(その2)            ┃
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今回は、ウクライナでの戦闘から分かる「ロシア軍の戦略戦術」について考察します。
双方が強気な発言を繰り返していますが、誰が見ても戦線は膠着状態です。
3日か、せいぜい1週間で終わらせるロシアの目算が100日を越えても先が見えない状態です。
ウクライナ軍の善戦といえますが、ロシア軍の意外な弱さが際立つ結果となっています。
 
そもそも戦闘というものは敵味方の相互作用なので、一方の思い通りにいかないことは当然です。
それなのに、ロシアは、あまりにもウクライナを見くびっていました。
ウクライナ側の行動・抵抗がロシアの想定をはるかに超えるほど強いということと、NATOがあれほどの武器援助をすることを想定できなかったことが主因です。
よって方針を変えざるを得なくなったのですが、第二、第三の戦略を用意していなかったことで前線は混乱に陥ったのです。
 
有名な軍事学者にクラウゼヴィッツという人がいますが、著書『戦争論』には「戦闘には摩擦が伴う」と書かれています。
この「摩擦」とは、軍事作戦を行う上での困難や障害のことを指しています。
孫子は、軍事計画を立てる際には「天地人」を下敷きに置けと説いています。
「天地人」における「摩擦=障害」とは、天候の変化や未知の出来事、予想外の地形、そして無能な上司や足をすくおうとする同僚などを指しています。
 
軍司令部は、彼我の戦力比較から、いくつもの戦略を立て、机上演習でその優劣を確認していきます。その後、実際に軍を動かす実戦演習でそれらの結果を確認します。
しかし、それだけではダメなのです。
さらに、可能な限りの「不利な条件」をすべて想定し、それでどうなるか、どうするかのすべての検証が必要なのです。
 
ところが、ダメな組織は、机上演習では「勝てる条件」ばかりを並べて「成功」をお膳立てします。
さらに、実戦演習でも同様のことを行ってしまうのです。
以下は、旧ソ連時代の、ある実戦演習の実話です。
深い谷に汽車が通れる鉄橋を1日で掛け、実際に機関車が貨物車両を引いて通過するという演習が“お偉方”“を前に実施されることになりました。
実際、鉄橋は1日で作りましたが、強度不足で車両を通すことが難しいことは明らかでした。
しかし、「できません」と言ったら、司令官の首が飛びます。
そこで、司令官は、あらかじめ、次の策を命じていました。
機関車も貨物車両もオールアルミで作ったのです。
もちろん貨車に積む中身は、見かけは重そうですが、中は空にして演習を行いました。
そして、車両は無事通過して、演習は何事もなく終わりました。
 
また、戦車が橋のない川を越え進撃する実戦訓練では、あらかじめ川底をコンクリートで固めておくようなことまでしていました。
実際の戦争でそんなこと可能なのかは子供でもわかりますが、その場をごまかせればOKなのです。
 
先の大戦の旧日本軍も、同様のことを繰り返していました。
大敗北に終わった海軍のミッドウェー海戦、陸軍のインパール作戦などは、その典型ですが、その敗戦は国民には徹底的に隠されました。
今のロシアも同様の状況にあるようです。
 
想定外の事態に陥った場合は、別の戦略・戦術に切り替える必要があるわけです。
しかし、硬直した組織だと、抜本的な計画修正ができず、当初の計画を進めようとする部分と、変えようとする部分とで矛盾をきたし、結果的にちぐはぐになってしまうのです。
企業経営でもまったく同じですね。
 
戦争の遂行は、損害と「戦いの目的」のつり合いをみていく必要があります。
ウクライナ侵攻におけるロシアとウクライナの損害は、ほぼ同程度と思われます。
しかし、国土を守り抜くという明確な目的を持つウクライナ軍に比べて、目的がどんどん曖昧になっているロシア軍の士気の差は歴然です。
ウクライナ軍の意識は、一種「殉教」的になっていて、どれだけ損害を受けても防衛戦闘をやめる意思は無いように思えますが、ロシア軍の将兵にそうした意思はないでしょう。
 
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┃★民主主義の脆さ(その2)                    ┃
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米国が民主主義国家群のリーダーであることに異論を挟む方は少ないと思います。
しかし、その米国の民主主義が危機とは言えないまでもゆらぎを見せています。
その第一の要因は、急速に進んだグローバリゼーションです。
民主主義には個人の自由を最大限に尊重するという概念が欠かせません。
それゆえ、国家のドアを開き、外部からの人、物、カネの流入を自由にするという意味でのグローバル化は避けようもありません。
しかし、そのことが米国の中間層の没落、そして未来への不安を招いたのです。
こうした人々の心理を、トランプ氏は「アメリカ・ファースト」の一言で真正面から貫いたのです。
この言葉が「そうだ、世界よりアメリカが大事なんだ」という意識を目覚めさせたのです。
 
第二の要因は、深刻化する一方の人種対立です。
オバマ政権による「黒人および少数民族の権利拡大」により、それまでの白人優位の社会への批判が高まり、中間層の白人たちは危機感を憶えました。
トランプ氏は、明確な民族差別になる言葉を避け「不法移民を防ぐ壁の設置」などの、一見合法的な言葉に置き換えていましたが、今なお多数派である白人層は「白人優位」を守る政策をトランプ政権に期待したわけです。
それにより、とくに白人男性の間に岩盤のようなトランプ支持が広まり、今に至っているのです。
 
第三の要因は、米国の伝統であるキリスト教的価値観が揺らぎ、悲観主義が広がったことです。
米国は「清教徒」と呼ばれたプロテスタントの人たちが欧州から移住して作った国です。
ローマ教皇と偶像崇拝という外面重視のカソリックと違い、清貧と純粋な信仰という内面重視のプロテスタントは、それだけ個人の意識の深いところに錨を降ろす傾向が強くなります。
そうした意識が、貧富の格差や人種分断、さらには米国の国際的な地位の低下といった事象に影響され、「米国の未来は暗い」とする悲観主義に傾く要因になっています。
 
こうした要因が複雑に絡み合って生まれた悲観的感情を、トランプ氏は「強く豊かなアメリカを取り戻す」という単純明快な目標を、強く明るい語調で語ったのです。
そうした強いインパクトが、中間層の国民の意識を動かし、我々が想像できなかった大統領が誕生しました。
まさに、民主主義が「衆愚政治」に陥った出来事が民主主義のリーダー国で起きたのです。
古代アテネに誕生した最初の民主主義もフランス革命で誕生した中世の民主主義も、やがて衆愚政治に陥り崩壊しました。
 
幸か不幸か、トランプ氏が、まったく思慮に欠ける政治家であったことが露呈し、そこに危惧を持ったリベラル派が、かろうじて彼の再選を阻みましたが、トランプ人気を支えてきた要因は未だに米国内に健在です。
次回2024年の大統領選挙でトランプ氏が返り咲く可能性は、かなりあります。
米国は、果たして、こうした衆愚政治から脱却できるのでしょうか。
ロシアや中国といった独裁政治による外部からの危機以上に、民主主義が内面に持つ弱さからの危機のほうが問題なのです。
 
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┃◇軍隊という組織(2)                      ┃
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前回、軍隊組織は、上から軍、軍団、師団、旅団、連隊、大隊、中隊、小隊、分隊となっていると書きました。
ロシア軍の編成には詳しくないのですが、情報を分析する限り、ほぼ同じと解釈して良いようです。
米国の分析によると、ロシア陸軍は、BOG(大隊戦術群)を基本単位として軍事作戦を行っていると見られています。
 
今回のウクライナ侵攻においては、約120の大隊戦闘部隊が投入されていると言われています。
普通、大隊の規模は400~600名ぐらいですが、ロシア軍は800名程度と推定されます。
そうなると、全体で10万人程度の兵力となります。
読者のみなさまは「えっ、20万人じゃないの?」と思われるかもしれません。
たしかに総勢はそのくらいですが、全員を最前線に投入したのでは、戦争は継続できません。
後方から大砲を撃つ砲兵や弾薬や食料を輸送する兵站部隊、橋を掛けたりする工兵隊、傷病兵の移送や治療を担う衛生兵や医療班も大量に必要です。
 
話は逸れますが、中国の三国志における最大の戦い「赤壁の戦い」をご存知の方は多いでしょう。
あのとき、曹操率いる魏軍は80万と言われています。
しかし、中国の歴史話は誇張が多いので、実際は多くとも40万程度ではないかと思われます。
しかも、そのうち戦闘部隊は20万ほどでしょう。
つまり、半数ぐらいということです。
こうした歴史の分析と、先に述べたロシア軍の戦闘部隊10万人は、だいたい一致します。
 
欧米の報道によると、侵攻6週目で、120の大隊のうち30が任務から外れたということです。
つまり、25%の兵力を失ったということになります。
軍事的には、戦力の50%を失う状態は「壊滅」状態であり、まとまった戦闘は不可能になります。
30%の損傷でも「撤退」状態となり、戦闘継続は難しくなります。
多少の兵員補充はしているでしょうが、その後も前線での損耗は続いていますから、25%の損耗が事実なら、ロシア軍の侵攻が膠着状態になっているのは明らかです。
 
ロシアは作戦を変更して東部のドンバスを落とすことに集中しているようですが、たとえ成功しても、維持は難しく、膠着状態が続くと思われます。
侵攻した軍隊の損傷率が上がり作戦遂行が難しくなった場合は、部隊組織を再編し、それに応じた作戦変更が欠かせないはずです。
しかし、それが難しいロシア軍の事情があるようです。
それは、次回で。
 
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<編集後記>
立憲民主党の内閣不信任案の提出が批判を浴びています。
今や同党の敵は、与党ではなく、維新や国民民主党になっているようです。
彼らに対抗して「野党第一党はわが党だ」と誇示するための不信任案提出にしか見えません。
 
本気で不信任を成立させたいなら、野党をまとめ、与党からも造反者を生む仕掛けが必須です。
でも、そうした仕掛けを匂わせることすらしません。
こうした裏工作の“ウソっぽい”話すら上がらない(というより、上げる力もない)同党には、野党第一党を名乗る資格すらないと思います。
そもそも政治とは、表と裏の両面で動かすものです。
今年の大河ドラマ「鎌倉殿・・」を見て勉強でもしたら、と言いたくなります。
 
 
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