2016年3月31日号(経済、経営)

2016.04.18

HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2016年3月31日号
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                発行日:2016年3月31日(木)
 
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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           2016年3月31日号の目次
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★世界経済はどうなるの?(2)
☆黒田バズーカ第3弾の後
★TPPに暗雲が
☆小さな会社の大きな手(12):戦略投資の失敗(その3)
http://magazine.halsystem.co.jp
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こんにちは、安中眞介です。
今号は経済、経営の話題をお送りします。

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┃★世界経済はどうなるの?(2)                 ┃
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3月16日、中国の全国人民代表大会(全人代)が閉幕しました。
マスコミは、この全人代のことを「日本の国会に相当」と報道しますが、民主主義国の国会とは似て非なるものです。
そもそも一党独裁の中国に、我々が認識している「国会」など存在していません。
マスコミは、このような余計な注釈などは付けるべきではないと思います。

さて前号で「中国の政権が次に打つ政策を検証してみる」と大見得を切りましたが、この全人代の報道を見る限り、画期的な政策など見当たりませんでした。
李克強首相は(過剰生産の象徴である)ゾンビ企業の整理と、6.5%を超す高めの成長を同時に達成すると強弁しましたが、
この相反する2つの目標をどうやって達成するのか、具体策は一切ありませんでした。
たしかに構造改革を強調していましたが、欧米の市場関係者は疑いの目で見ています。
一党独裁の政治体制の中での構造改革は、共産党内部の血みどろの抗争を招くからです。
そして、その抗争の勝者が誰になっても、経済の悪化は深刻になるだけです。

中国は、トウ小平の頃より、政治には自由を認めず経済は自由にするという民主主義国家とは違う政策を採り、いったんは成功を収めました。
独裁政治の利点を最大限に活かし、固定為替制度を維持し、金融を全て国家統制の下に置いてきました。
その結果、国際的に安く豊富な労働力を背景に、大幅な経済発展を遂げてきたわけです。
この成功体験の故に、トウ小平後の政権も「一党独裁政治」の優位性を疑いもしませんでした。

しかし、経済の発展とともに対外圧力が強まり、やむを得ず、完全とは言えない形ですが、変動為替制度に移行しました。
この結果、元安の優位性が徐々に失なわれだしたのです。
さらに、金融資産を蓄えた中産階級が増え、その要求で資本の自由移動を認めました(つまり、日本での爆買いが出来るようになったのです)。
ここから中国経済は行き詰まっていきました。

そもそも、自由主義経済の三本の柱、為替相場と資本移動、金融政策は、相互に矛盾し合う関係にあります。
これを「国際金融のトリレンマ」と言います。
つまり、(1)為替相場の安定と、(2)自由な金融政策、(3)自由な資本移動の3つは同時に成り立たず、どれか1つを犠牲にしなければならないという定理です。
日本を含めた自由主義の各国は、この3つのバランスをとることに苦労しているわけです。
なのに、中国は、共産党一党独裁の政治形態の中で、この3つを完全に統制出来ると過信したのです。

中国は、自由な資本移動(海外の株や債券を買ったり、買い物などでドルや円を海外に持ち出したり)を認める一方、為替の安定を目論んで市場介入を行ってきました。
この介入は金融引き締め政策であり、続ければ金融政策の自由度を損なっていきます。
そこで、金融緩和策へ切り替え、市場介入を縮小したところ、人民元の下落を招きました。
慌てて大幅な市場介入を再開し、人民元の下落を食い止めようとしたわけですが、当然、失敗しました。
この矛盾を解こうと思ったら、別の選択肢として自由な資本移動を認めない(つまり、爆買いを禁止)という資本規制に踏み切らざるをえなくなります。

しかし、それでは、国際通貨基金(IMF)が認めた人民元のSDR(特別引出権)通貨入りが暗礁に乗り上げてしまう恐れがあります。
資本規制は、IMFが中国に求めた人民元改革に反するためです。
IMFは自由な資本移動と変動相場を認める(つまり為替相場の安定性を犠牲にする)代わりに、自由な金融政策を認める立場だからです。

でも、このまま月1000億ドルにおよぶ資本流出が続けば、中国は、人民元の下落を容認するか、資本規制を実施するか、さらなる為替介入を続けるかの選択を迫られます。
しかし、そのどれも中国経済の崩壊につながる道です。

残るのは一手だけですが、それは次回に解説します。

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┃☆黒田バズーカ第3弾の後                     ┃
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日銀のマイナス金利の効果はあったのか無かったのか、マスコミのその後の報道が乏しく、巷ではいつのまにか忘れられた感があります。

私は、公平に見て、3月31日現在の日経平均株価が17,000円前後で推移し、「買い」気配が強い現状から、「効果はあった」と見るべきだと思っています。
もちろん最大の要因は米国の株価上昇にあるので、「限定的な効果はあった」が公平な見方ですが。

マイナス金利について、金融機関からは不平不満が多いと聞きます。
ということは、金融機関に対しては「効果があった」ということです。
日銀の当座預金残高を増やすことを止めた点だけでも「効果があった」と評価すべきと思います。

経済界では「黒田バズーカの第4弾はあるか」に関心が移っているようですが、常識的に考えれば「ある」が正解であり、その内容は「再度の量的緩和」です。
マイナス金利とはいえ、銀行が日銀に預けている巨額な当座預金(約258兆円)には0.1%の金利がついたままです。
つまり、これからも年間2580億円の利息が銀行に流れ続けるわけです。
マイナス金利は、新たに日銀に預ける当座預金に対してのみ適用されるので、銀行はこれまで積み上げた預金を崩すことはしないでしょう。

ということは、日銀の次の手は、大幅な量的緩和策となるのは当然です。
実際、この規模が80~100兆円になるとの観測が流れています。
このカネを、銀行が今までどおり日銀に預けると、逆に目減りしてしまいます。
銀行は、真剣に貸し出し先を探さなければならないというわけです。

このように、マイナス金利は「新たな量的緩和」とセットでないと真の効果が乏しい政策です。
日銀にはぜひ緩和策を実施して欲しいのですが、日銀の出来ることは「そこまで」です。
消費を喚起するのは民間企業の仕事であり、その民間企業の投資を促すのは政府の仕事です。
そして、投資意欲の高い企業を選別し支援するのは金融機関の仕事です。
この三者の仕事ぶりに日本経済の浮沈がかかっているわけです。

日本経済は成熟段階に入り、輸出より内需型の経済になっています。
米大統領候補のトランプ氏が日本非難を繰り返していますが、彼の知識は30年前で止まっているようです。
今や、日本の輸出依存度は、2015年のGDP依存度で11.4%に過ぎません。
米国7.5%、中国24.5%、ドイツ33.6%、韓国43.4%という数字から、日本が米国に近い水準であることが分かります。
一方、輸入依存度は、米国とほぼ同じ10~11%です。
トランプ氏は、基礎的な数字すら把握していないのか、それとも知っていて悪意で選挙民を煽っているのかのどちらかです。

ちなみに、中国への輸出に至っては、わずか2.79%です。
中国のネットユーザーが騒ぐ「日本からの輸入を止めれば日本は干上がる」は笑止ということになります。

つまり、政府が内需拡大に有効な手を打たなければ、「黒田バズーカ第4弾」を撃っても空砲となる恐れがあるということです。
それも家計消費を促す政策を打ち出す必要があります。
GDPに占める日本の家計消費の割合は6割程度です。
この割合を1割上げる政策を、与野党から出し合い選挙に臨むべきなのです。

与党は、当然、消費税増税の凍結を打ち出してくるでしょう。
野党第一党である民進党(旧民主党)には、その与党案を上回る政策案を期待します。
本気で政権交代を目指すのであれば、見通しのない安保法廃止ではなく、斬新な経済政策をメインに据えるべきです。
安保法廃止などは、共産党に任せておけばよいのです。
岡田代表、分かっておられますか?

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┃★TPPに暗雲が                         ┃
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アメリカの大統領選で、主だった候補がみなTPP反対を掲げている。
日本人からすると「何言ってんだ。TPPをゴリ押ししていたのはアメリカだろう」と言いたくなる。
たしかに腑に落ちないと思う人が大半であろう。
必死に推進しているのは、残り任期が9ヶ月しかないオバマ現大統領のみである。
このままだと、今回のTPP合意は流れてしまう公算が強い。

どうして、アメリカは豹変したのか。
それは、一言で言って、アメリカ政治に対するアメリカ市民の怒りの爆発である。
TPPは、そのとばっちりを受けているのである。

いろいろな方が評論しているが、米国は「カネで政策が買える」国である。
政治家個人への政治献金は禁止されているが、政治資金団体を介すれば、ほぼ無制限に政治家はカネを受け取れる。
米国では、民主党でも共和党でも、議会の評決に際し議員は党議に拘束されない。
つまり、各議員は自分の判断で賛否を決めることができる。
当然、自分の政治活動のスポンサーの意向に沿って賛否を投じることになる。
政治とカネの問題は、党議に拘束される日本のほうがよほど“キレイ”なのである。

つまり、米国政治は、金持ちのための政治である。
そんな政治に対して、今回の大統領選挙では、一般市民の不満が爆発しているのである。
(トランプ候補も金持ちであるのは皮肉としか言いようがないが・・)

ところで、TPPで一番恩恵を受けるのは誰であろうか。
それは、グローバル企業である。
そこで働くトップエリートたちはみな金持ちであり、カネの力で米国の政治を動かしてきた。
そんな政治に対する市民の怒りが沸き起これば、TPPがやり玉に上がるのは当然といえる。

TPP賛成派だった共和党のミルズ候補は、かくして選挙戦から脱落した。
賛成していたはずの民主党のヒラリー・クリントン候補も反対を表明せざるを得なくなった。
内向きの姿勢を鮮明にしている共和党のトランプ候補と民主党のサンダーズ候補は、当然のごとくTPP反対である。

そもそもTPPは、シンガポール、ブルネイ、ニュージーランド、チリの「4つの小国」が、互いの国に無い産業を補完し合う経済連携だった。
それを、アメリカが強引に自分のルールで「アジア・太平洋市場」を席巻するために日本を引き込んで乗っ取ったものである。
それを今になって、自分の選挙事情で反対を表明するのであるから、どの候補も「無責任」である。

「経済は政治より強し」。

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┃☆小さな会社の大きな手(12):戦略投資の失敗(その3)     ┃
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弊社の戦略投資の失敗の話をさらに続けます。

最初の商品である「CADソフト」の開発投資に失敗した弊社は、「圧倒的に優れた『何か』」を求め、
次の商品として「ネットワーク環境で動くパソコン用の基幹業務ソフト」を製品化することにしました。

今でこそ、類似商品はいくつもありますが、25年も前の話です。
当時は、そのようなパソコンベースのソフトは皆無でした。
ゆえに、成功する自信は多いにありました。

当時、商品としてのパッケージソフトを作るには1億円の開発資金が必要と言われていました。
それで、1年で積み上げた5000万円の利益に、初めての銀行融資5000万円を加えて、1億円の開発資金を用意しました。
創業2年に満たない当時の会社としては、”たいしたもの”でした。
それで“いい気になって”いたわけではありませんが、しかし、大きな落とし穴が待っていました。

1年が経ち、1億円の資金を使い果たしても、パッケージが完成しなかったのです。
自信のある建設業の、自信のある基幹システムです。
何社かの中堅建設会社の同システムを作ってきた経験もありました。
しかし、それだけでは、商品としてのパッケージソフトを作ることは出来なかったのです。
それほど、「商品」を作るということは難しいことなのです。
そのことを「嫌というほど」思い知らされました。

考えてみれば当然です。
製造業でも、依頼を受けた製品を作ることと、「具体的な顧客が見えない」市場に対する汎用商品を作ることには雲泥の差があります。
試行錯誤を繰り返し、何度も試作品を作り直し、挑戦しては跳ね返されを繰り返し、ようやく市場に受け入れられる商品に仕上がっていくのです。
それを一発で作れると自惚れていた自分の甘さを呪いました。

しかし、悔やんでいても、時間もカネも戻りません。
受託システムの依頼を断って商品システムに大多数の経営資源をつぎ込んできたため、今更、元には戻れません。

追い込まれて考えました。
当たり前のことばかりが頭に浮かびましたが、その当たり前のことを「当たり前」とせずに、一つずつ丁寧に確認していくことが大事です。
まず、「だれが、この苦境を脱する案を考えられるか」でした。
社員数は増えていましたが、社長は自分一人です。
創業間もない会社です。
自分以外にいるわけはありません。
でも、そのことを客観的に確認して初めて「自分がやるべき」という覚悟が生まれます。

そうした確認作業の最後が「撤退するか、進むか」の決断です。
このような時、多くの人は、「撤退する言い訳」とか「進めない理由」とかを考えてしまいます。
つまり、「他責を見つけよう」としてしまうのです。
社員の能力が足りないとか、ろくな協力者がいなかったとか、いろいろ浮かんできます。
でも、それでは結論が出せません。
かと言って、「自分が悪かった」との自責も意味はありません。
悪い自分でも、中小企業の社長は簡単には辞められないのです。
代わりはいないのですから。

「撤退するか、進むか」を決めるのは、主観ではなく客観的事実からです。
先に述べた「当たり前のことを確認する」作業も、客観的事実からの確認を重ねていくことがポイントです。
こうして、1周間ぐらい時間を掛けて決断しました。
「進む」ことをです。

しかし、「進む」ことの最大の問題は、新たな開発資金の確保です。
長くなりますので、この話は次号でしましょう。

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<後記>
ここにきて、にわかに建設産業の「ICT活用」が言われ出しました。
“ICT”の一般用語は、”Information and Communication Technology”、
つまり「情報通信技術」と訳されますが、建設産業では、“i-Construction”と訳しています。
国交省は「建設現場の生産性向上策」との和訳を付けていますが、
そう言われて思いつくのは「情報化施工」という、一般の人には意味不明な言葉です。

多くの製造業と違い、一品生産が主体である建設産業では、作業の自動化は難しいとされ、他産業に遅れをとってきました。
それが技術的には解消されつつあることが、「ICT活用」につながってきました。
それは素晴らしいことですが、コスト面のギャップは、まだ”かなり”あります。
そのギャップを埋めるには、相当な年月とさらなる技術革新が必要です。
大手や中堅はともかく、中小零細な企業が取り組むにはハードルが高すぎるようです。

お手軽な価格になってきた「レーザー測定機器」を使う程度にとどめ、
焦らないほうが得策と思います。
かつてのCAD・CAMのように、打上げ花火で終わることを危惧します。
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