2023年3月31日号(経済、経営)

2023.04.03


HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2023年3月31日号
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発行日:2023年3月31日(金)
 
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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2023年3月31日号の目次
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◇日銀新総裁の政策は?
◇曲がり角の先の経済を考えてみよう(8):日本復活のカギは半導体(2)
◇2つの経済理論の激突(後半)
 
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こんにちは、安中眞介です。
年度末の今号は、経済、経営の話題をお送りします。
 
帝国データバンクの調査によると、4月からの新年度に賃金改定を考える企業は56%あり、ベースアップは過去最高になるとの予想です。
その結果、企業の総人件費は平均3.99%増加すると見込まれますが、従業員給与は平均2.10%の増加にとどまるとされています。
個人にとっても企業にとっても、社会保険料の重さがこたえる数字です。
 
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┃◇日銀新総裁の政策は?                  ┃
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3月10日、参院は、日銀の次期総裁に経済学者の植田和男氏を起用する政府の人事案を可決しました。
これを受け、政府は4月8日に退任する黒田東彦氏の後任に、植田氏を任命する見通しです。
学者出身の総裁は日銀初ですが、主な先進国では、近年、経済学者が中央銀行総裁を務めることが一般的となっています。
 
読者のみなさまは、報道で植田氏の経歴はとっくにご存知と思いますが、改めて簡単に説明します。
植田氏は、東大理学部を卒業後、MIT(マサチューセッツ工科大学)で博士号を取得しました。
MITは工学系の単科大学ですが、金融を工学と捉えて学科を設けています。
日本の大学には無い“考え方”ですが、工学出身の私には納得できます。
 
植田氏は、2022年にノーベル経済学賞を受賞した米国FRB(連邦準備制度理事会)元議長のベン・バーナンキと共に、スタンリー フィッシャーに師事した同期生と言われています。
ユダヤ系のスタンリー フィッシャーは、金融経済学の巨人ともいうべき人で、西側先進国の金融トップの多くが彼の門下生と言ってもよいでしょう。
植田氏もその一人なので、これからの日銀の政策に注目していきたいと思います。
 
では、退任する黒田総裁のこれまでの政策を振り返ってみましょう。
まずは、時計を10年前の2012年12月に戻します。
第二次安倍内閣が誕生した年です。
翌年の2013年からアベノミクス(この名称は朝日新聞が使い始めたと言われています)が始まりました。
そこで打ち出された「三本の矢」の最初の矢である「異次元の質的・量的金融緩和政策」をリードしたのが黒田総裁でした。
物価目標2%達成を掲げ、達成期間を2年とし、マネタリーベースを2倍にするという「トリプル2」と言われた政策パッケージを発表しました。
 
しかし、目標は達成できず、デフレの進行は止まりませんでした。
こうした事態に、黒田総裁は2016年1月、マイナス金利という思い切った手を含む質的・量的金融緩和政策を導入しました。
それでも結果は出ず、同年9月には長期金利操作付き質的・量的金融緩和政策を決定し、YCC(イールド・カーブ・コントロール)の導入やオーバーシュート型コミットメントの運用を開始し、
さらに、2018年7月に政策金利のフォワードガイダンス導入と、“なりふり構わぬ”策を繰り出し続けました。
その最後の政策が、2022年12月、長期金利の変動幅を「プラスマイナス0.25%」から「プラスマイナス0.5%」への拡大でした。
 
個々の政策に異論はありますが、黒田氏の執念のような必死さには敬意を払います。
野党は「失敗」だと非難しますが、ただの一つも対案を示せなかった自らを恥とすべきです。
 
結果として、ようやく消費者物価は2022年12月に4%上昇し、41年ぶりの上昇となりました。
しかし、当初の目標だった「経済の好循環によるマイルドなインフレ」ではなく、原材料価格の上昇、円安やウクライナ侵攻による輸入物価の高騰といった「コストプッシュ型」の物価上昇です。
 
帝国データバンクの調査によると、これまでの日銀の政策に対する企業の評価は100点満点中平均65.8点という結果でした。
学校の成績だと「優」は無理でも、「良」ということでしょうか。
さらに、点数分布を見ると、「90点以上」が14.5%、「80~89点」が22.2%あります。
黒田総裁の大規模緩和政策は、企業には一応評価されたとみてよいでしょう。
 
一方、副作用としての国債増加を懸念する声も聞かれますが、どうするかは植田新総裁の胸の内にかかっています。
さてさて、どのような政策が打ち出されてくるか、注目です。
 
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┃◇曲がり角の先の経済を考えてみよう(8):日本復活のカギは半導体(2)┃
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今回は、始めに言葉の整理を行います。
前回、トランジスタとダイオードという言葉を使いましたが、それぞれの言葉が意味する範囲が違います。
「ダイオード(diode)」は電流を一定方向にしか流さない「整流作用」を持つ「電子素子」全体を指す言葉です。
ゆえに「真空管」もダイオードです。
その後に、電子回路で信号の増幅やスイッチングを行う半導体素子が生まれ、それは「トランジスタ(transistor)」と名付けられました。
つまり、真空管もトランジスタもダイオードなのです。
このトランジスタを微細化し、集合体としたものを集積回路(IC)と呼んでいます。
この集積度を上げていけば、小さくて性能のよい半導体製品が作れるわけです。
 
1980年代、日本の半導体の世界シェアは50%を超えていました。
それが現在は、わずか5%という惨めな状態です。
日本を恐れた米国の圧力によって技術を中国や台湾、韓国へ強制的に移転させられたことが最大の要因ですが、その上にバブル崩壊という重しが重なりました。
その結果、その間に起きた半導体レベルの急上昇に日本は置いてきぼりを食ってしまいました。
 
日本の台頭を恐れて中国や韓国に肩入れした米国は、いま、大きな後悔をしています。
その後悔が、今度は、日米で最先端半導体を開発するという事業化を後押ししています。
少々遅かったと思いますが、遅すぎたというわけでもありません。
 
半導体の性能は「ナノ」という単位で表現されます。
これは回路の幅を意味し、細いほど性能が高いということです。
「1ナノ」とは、0.000001mm、つまり「1mmの100万分の1」の細さということです。
現在、日本が作っているのは40ナノの半導体が主軸で、28~29ナノが限界です。
台湾の半導体大手メーカーTSMCが熊本で建設中の工場で生産するのはそのレベルまでの製品です。
現在、世界で量産出来ている最先端の半導体は「7ナノ」で、1年後に「5ナノ」ができると言われていますが、世界の主流は14~16ナノです。
TSMCなどは、2ナノレベルの開発に挑戦していますが、まだまだ道は遠いのが現状です。
 
こうした現状に大きく遅れを取っている日本ですが、大手8社が組んで設立した製造会社「ラピダス」は、米国IBMと組み、数年で2ナノレベルの半導体を生産するとしています。
この共同開発ではIBMは研究開発だけでラピダスが製造までを行います。
さらに、ラピダスは“beyond 2”つまり2ナノ以下の開発まで進めると宣言しています。
 
半導体の集積度を上げるには、各素子間の仕切り(ゲート)の薄さがキーとなります。
このゲートは酸化膜で作られていますが、極限までの薄さを追求するという意味で「ナノシート」と呼ばれています。
このシートの究極の製品ともいえる“FinFET”は日立製作所が開発したものです。
さらに、生産に必須の製造装置や建物、クリーンルーム、半導体の各種素材などは日本がとても強い分野です。
 
これまで、こうした生産設備や技術を、日本は中国や韓国に教え、支援し、輸出してきました。
しかし、その中国は、感謝の代わりに日本を脅し、武力侵攻すらほのめかす有様です。
韓国にしても友好国とは言い難い状況であり、日本の善意はすべて仇となっています。
 
政治的問題はさておき、日本政府はラピダスを全力で支援し、半導体の覇権を取り戻すべきです。
ラピダスへの政府の出資金は700億円ですが、開発には2兆円の資金が必要だと思われます。
それには政府の強い姿勢とともに、国民の理解が欠かせません。
 
もうひとつ別の問題があります。
それは次号で・・
 
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┃◇2つの経済理論の激突(後半)              ┃
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国家経済を考える時の重要な指標に「失業率」と「インフレ率」があります。
2022年度の日本は、失業率2.5%、インフレ率2.3%となっていて、安定状態だといえます。
たしかに物価は上がっていますが、物価上昇は経済発展に欠かせない要素です。
それを、マスコミは「悪いこと」として、庶民の不安を煽ります。
しかし、4%程度の物価上昇は騒ぐことではなく、“穏やかな上昇”であり、「良いこと」と認識すべきと考えます。
 
問題は、デフレ状態がかくも長く続いたことで、国民の購買意欲が衰え、企業が安売りに走ったことにあります。
こうしたデフレ・スパイラルを断ち切るため、企業はようやく商品、サービスの価格を上げ出しました。
それができてこそ賃上げができるという当たり前の経営に、ようやく踏み出してきたわけです。
でも、この循環だけでは弱く、次の収益を作るための戦略投資を本格化させる必要があります。
それこそが自分の一番の役割であるとの認識が経営者には求められます。
 
そのために政府がやるべきことは、第一に企業の技術開発への資金投入、第二に市場の購買力を上げるための資金投入、そして、プライマリーバランス目標の棚上げです。
結果として、国債のさらなる増加は必至となりますが、こうした政策で緩慢なインフレを継続させることができれば、GDPの持続的発展に繋がります。
 
日本の「国債/GDP比」が240%に上り、このままでは国が潰れるというのが緊縮財政派の主張です。
しかし、国債という分子を減らすことばかりに気を取られるのは“おかしな”考えです。
それより、GDPという分母を増やすほうをどうして考えないのでしょうか。
国家の経済発展の指標はGDPなのに、それが30年間まったく増えなかったことを考えるべきです。
上記に掲げた政策を実行すれば、たしかに国債の発行残高はさらに増えるでしょう。
しかし、それ以上にGDPは増えます。
たとえ増えなくても、この程度で日本は潰れません。
最悪の状態となったならば、首相が変わればよいだけの話です。
ならば、岸田首相、積極財政に賭けてみるのも悪くないと思うのです。
中小企業の社長のほうが、よっぽど厳しい決断を常に迫られているのですから。
 
と、ここまで書くと、私は積極財政派と受け取られるでしょう。
ですが、単純に積極策が良いと考えているわけではありません。
国家経済を企業経営として考えると、緊縮政策は倒産が必至の状態の時に採るべき策であり、現在は積極政策を採るべき時なのです。
国と企業は違いますが、軍事を除けば、国の経営は企業経営より楽です。
なにより、通貨発行権を持っていることの強みは大きいです。
もっとも、その通貨が国際的に通用しない場合は別ですが、日本円は通用します。
 
もちろん、無尽蔵の発行ができないのは当然です。
その意味で積極財政にも限度はありますので、その見極めができる人が国のリーダーとなるべきです。
2つの経済理論は衝突しているのではなく、どちらも正解なのです。
しかし、同時には成り立たず、その時々でどちらを採るかの判断が政治なのです。
 
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<編集後記>
本メルマガで何度も述べてきましたが、私の20年のサラリーマン時代はコンピュータメーカーから始まり、建設会社で終わりました。
その後の経営者の時代のほうが長いのですが、ほんの“わずかな”時間にしか感じられません。
それは失敗が9割で、成功といえるのが1割だからと考えています。
サラリーマン時代は、その逆で、成功ばかりに恵まれてきました。
その時代のほうが長いと感じるのは、その恵み(思い上がり?)のせいなのでしょう。
 
半分負け惜しみで言うのですが、成功は退屈で、失敗は面白いといえます。
もっとも、失敗のままでは面白くありません。
なんとかして失敗を乗り越えようとする時間が面白いのだと、ここまで来て、ようやく気付けた思いです。
新たに「建設ホームページ」を立ち上げ、建設とシステムの融合する世界をと考えたのは、その気付きからです。
もっとも、社会に出てからは、建設とコンピュータシステムの世界が私のすべてですから、それしかないのですが・・
 
正直、ホームページの設計に手間取っていますので、段階を追って公開していく予定です。
ご期待ください。
 
 
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