新たな段階に入ったウクライナ侵攻

2023.07.15

【国際・政治】2023

予想されたことですが、ウクライナの反転攻勢は困難な局面を迎えています。
想定していたとおり、占領地におけるロシアの防御線はかなり強固です。
伝統的にロシアは攻めるのは下手ですが、守りには強いと言われています。
ただ、今回の侵攻自体は、祖国防衛ではなく、他国侵略です。
ゆえに、ロシア国民の多くは、本心では戸惑っているのです。
 
この反転攻勢に関しては、様々な報道や情報が錯綜していますが、ウクライナの狙いは、占領地全体をザポリージャ州で東西に分断することにあります。
それも一本の線ではなく二本の線での分断を図っています。
一本は、東側のドネツク州とザポリージャ州の境からマリウポリに到達する線、もう一本は、西側のオリヒウからトクマク、メリトポリを経由してアゾフ海に到達する線です。
この突破作戦が成功すれば、この二本の線に挟まれた占領地を開放し、ロシア軍を東西に完全に分断できることになります。
 
一方、ロシア軍は、当該地域の防衛を強化して抵抗するとともに、東部戦線のクピャンスク、クレミンナやバフムト方面に合計18万人の部隊を投入して逆に大規模攻勢に転じるという戦術に出てきました。
このロシア軍の狙いは明らかです。
ザポリージャ州におけるウクライナの反転攻勢の兵力を削ぐことが目的です。
ということは、南部戦線の兵力を割くことなく、東部戦線のウクライナ軍が、ロシア軍の反撃を阻止できるかどうかが鍵になります。
 
東部戦線におけるロシア軍の装備や兵員の練度は不明ですが、民間軍事会社や予備兵が多く、精鋭部隊は少ないようです。
全体の兵員の数だけは多いのですが、兵員の質や機甲部隊の存在感の薄さを考えると、ウクライナ軍が阻止できる公算が高いと推測しています。
しかし、推測に過ぎませんので、今後の推移を見ていきたいと思います。
 
また、ウクライナは、ヘルソン州のドニエプル川の渡河作戦も計画しているようで、浮き橋の敷設映像が公開されています。
夜間作戦なので、どのあたりかは分かりませんが、本格的な作戦か、それとも陽動作戦かは判断できません。
今後、こちらの情報も拾っていきたいと思います。
 
ウクライナ軍のバックには、英国のSAS(Special Air Service=陸軍特殊空挺部隊)と米国のシールズ(Navy SEALs=海軍特殊戦コマンド)の存在があると言われています。
直接、戦闘への参加はしていないようですが、兵員の訓練や作戦面での指導を行っていることは公然の秘密です。
当然、その後ろには米英の情報機関からの情報提供があります。
もちろん、これは善意からではありません。
米国およびNATOにとっては、これまで机上や電子システム、さらに実演習で練り上げてきた作戦を本当の実戦で確認する最高の場面を得ているということなのです。
作戦を練り上げた存在が、最前線の部隊とリアルタイムに情報共有する実戦の機会など、滅多に得られるものではありません。
その犠牲になっているウクライナ、ロシア両軍の兵士だけでなく、ウクライナの一般市民のことを思えば胸が痛みますが、辛くとも、これが現実と受け止めるしかないのです。