ウクライナ侵攻が示唆する近代の戦争(前半)

2023.03.15

【国際・政治】2023

ロシアがウクライナに侵攻した1年前、現在の戦況を想定できた人はいたでしょうか(私を含めてですが)。
最も大きな“意外”は、ウクライナの官民一体の抵抗力の強さです。
欧米による武器援助や偵察衛星等の情報提供が大きいとはいえ、犠牲が積み重なっても“くじけない”ウクライナ国民の強い意思がその核になっています。
プーチンは、一番大事な“そのこと”を完全に見誤っていました。
日本の防衛を考える上での大きな要素といえます。
 
そもそも世界は、これほど大規模な国家間戦争が起きるとは考えておらず、もっぱら核戦争の防止のみに意識が傾いていました。
しかし、実際に起きたのは、先の世界大戦で終わったと思われていた“昔ながら”の泥臭い戦争です。
ドローンやミサイルなどの新たなハイテク兵器の登場もありますが、主要兵器は戦車や大砲といった従来型の兵器であり、戦闘の主力は歩兵です。
紛争を抱えている国、および、その怖れがある国は、戦略の立て直しが急務となっています。
 
日本が考えざるを得ないのは「国際合意を信じ切ることは出来ない」という冷徹な事実です。
ソ連から分離独立したウクライナは核兵器保有国でした。
ウクライナはこの核兵器を放棄する代わりに国際社会による安全保障を求めました。
これを受け、米英露の核保有3ヶ国はブタベスト覚書に署名し、この3ヶ国がウクライナの安全を保障することを約しました。
問題は、この時のウクライナ政権がロシア寄りの政権だったことです。
このことが、ロシアが同意した大きな要素でした。
しかし、その後の選挙で西側寄りのゼレンスキー政権が誕生しました。
民主主義国ならば当たり前の政権交代なのですが、プーチンは容認できなかったのです。
そして、国際合意であったブタベスト覚書を破りウクライナに軍事侵攻したわけです。
平和を希求する理想は大事ですが、このような現実がある限り、理想だけで国は守れません。
世界の歴史を俯瞰してみれば、理想だけで国を守れた例はほぼ皆無という現実は重いです。
 
ただし、軍事力で劣る国は、自力だけで国を守れません。
ゆえに、集団的自衛権なる軍事同盟が必要となるわけです。
外交的に中立方針を表明していたスウェーデンとフィンランドが、その立場を捨ててNATO(北大西洋条約機構)に加盟申請したのは、自国のみでロシアの侵攻を阻止できないからです。
ちなみに、この両国は、国際的に認められた「永世中立国」ではありません。
外交方針として中立を宣言しているに過ぎない国です。
国際的に永世中立国として認められている国は、スイス、オーストリア、トルクメニスタンの3カ国のみです。
 
軍事同盟を結ぶと、仲間(同盟国)を守ることは正当防衛とみなされますので、自国が侵略を受けて戦争になる確率は減ります。
では、日米軍事同盟を批判する人たちが主張する「米国の戦争に巻き込まれる」という懸念はどう考えるべきでしょうか。
米国が他国から軍事侵攻を受けた場合は、当然、日本も参戦する必要があります。
しかし、米国が他国に侵攻する場合には、参戦する義務はありません。
湾岸戦争やイラク戦争がそうした例です。
後方支援については明確な基準はありませんが、武器や弾薬の供与、機雷撤去などは可能というのが国際的な解釈でしょう。
 
直近の懸念は、中国による台湾侵攻があった場合の日本の対応です。
それは次号(4/15号)で解説します。