ウクライナ侵攻が示唆する近代の戦争(後半)
2023.04.15
【国際・政治】2023
ウクライナでは、現在、東部ドネツク州のバフムトが一番の激戦地となっています。
多大な損害を顧みず執拗な攻勢を続けるロシア軍は、防衛側のウクライナ軍の4~5倍の戦力で徐々に市の中心部に迫っています。
しかし、ウクライナの作戦は、反転攻勢までの時間稼ぎとロシア軍の戦力を削ぐことにあります。
その反転攻勢がどこから始まるかについては、様々な情報が錯綜しています。
引き続き情報の分析を続けていきたいと思います。
今回のウクライナ侵攻が示したのは、昔ながらの陸軍歩兵と大砲、戦闘車両が中心の泥臭い戦争です。
ミサイルやドローンといったハイテク兵器も使われていますが、戦局を見る限り、脇役です。
しかし、台湾侵攻があるとした場合、ウクライナとはまったく違う戦争になります。
台湾は島国です。
当然、中国による侵攻は海からとなりますが、上陸の前にミサイルと航空機による徹底した空爆が行われるでしょう。
とすると、太平洋戦争における米軍による日本攻撃と酷似したものとなる可能性が高いです。
当時、太平洋の島々を占拠していた日本軍を米軍は大量の物量で圧倒し、日本本土に迫りました。
しかし、本土決戦の前に沖縄と硫黄島が陥落したところで終戦となりました。
中国による台湾侵攻は、この過去が参考になると思いますが、大きく異なる点があります。
その第一は、台湾の地理的条件と人口です。
台湾の面積は36.000平方kmで、島部を除いた九州の面積とほぼ同じです。
沖縄本島の面積の30倍となるので、戦闘の規模もそれなりの大きさとなります。
当時の米軍といえども、九州全域に対する攻撃は困難との判断が働いたと思われます。
また、台湾の人口は2353万人で、九州の2倍です。
昭和19年当時の沖縄と比較すると、実に40倍です(昭和20年の国勢調査記録はありません)。
ウクライナのように国民総動員で戦うとなると、上陸してくる中国軍の規模を上回ることになります。
昭和20年当時、国力、軍事力とも日本を圧倒していた米国ですが、沖縄と硫黄島の戦闘での兵員損失の大きさから、九州に上陸しての戦いは天文学的な損害が予想され、不可能と判断したのです。
昭和20年当時と違うとはいえ、現在の中国が九州と同等の面積、そして人口が2倍の台湾を容易く攻略することは、どう考えても無理と思えます。
次に、中国と台湾の軍事力の差を見てみます。
戦力比でみると、陸軍10倍、海軍3倍、空軍4倍と、中国が圧倒しています。
しかし、台湾にとって最大の強みは、幅130~180kmにおよぶ台湾海峡の存在です。
しかも、台湾の中国側の海岸は崖が多く、上陸に適した地点は僅かしかありません。
大軍で一気に上陸とはいきません。
となると、反対の太平洋側の海岸からの上陸となりますが、背後に位置する日本の南西諸島が邪魔となります。
中国海軍の上陸用艦艇は370隻と言われていますが、東側に回り込んでの上陸作戦に使用できる艦艇は20%程度(50~70隻)と思われます。
日本は現在、南西諸島へのミサイル配備やステレス戦闘機F35を積む事実上の軽空母の配備を進めています。
中国の上陸艦艇は、その背後を日本に取られる形となるため、その防御に戦力を割く必要があります。
ならばと、南西諸島を攻撃すれば、日本および米軍との全面戦争となる危険が増します。
中国は、台湾侵攻の演習やシミュレーションを繰り返していますが、成功の確率は限りなく低いと出ているはずです。
日本の防衛能力の向上は、台湾有事を防ぐ意味も大きいということです。
結論として中国は、軍事攻勢を脅しに使いながら、政治的な攻勢を今以上に活発化させるでしょう。
実際、台湾の親中派を抱き込みながら、現政権に対する圧迫を強化しています。
さらに、日本の親中派勢力を抱き込む戦略も露骨になってきています。
先日の林外相の中国訪問などは、その前哨戦です。
ネットでは「Youは何しに中国へ」などと揶揄されていますが、不法な人質を取り返すことも出来ず、接待漬けにされただけでした。
日本が親中に近づくほどに台湾侵攻が現実味を帯びてくる構図です。
こうしたことを岸田首相はどの程度認識しているのでしょうか。
そこが気がかりです。