経済はゼロサムゲーム?

2025.06.02


読者のみなさまは「ゼロサムゲーム」という言葉をご存じと思います。
簡単に言えば、ゲーム参加者の得点(利益)と失点(損失)を全部足すと、その総和(sum)は必ずゼロになるので「ゼロサム」という名前が付いている経済理論です。
麻雀のようなゲームを考えていただければ分かると思いますが、参加者は必ず勝者と敗者に分かれ、その勝ち負けの総和は“必ず”ゼロになります。
グローバルな外国為替取引も同じで、すべての国のレートが上がるということはあり得ず、一方の為替レートが上がれば、もう一方のレートは必ず下がることになります。
 
トランプ米大統領は、政治家というより商売人なので、当然、このゲーム理論はご存じで、この理論で政治を「商売」として動かしています。
彼が乱発する言葉“deal=取引”は、そのことを象徴しています。
かつて、トランプ大統領はウクライナのゼレンスキー大統領に向かって「きみにはカードがない」と言ったことがあります。
つまり、政治交渉はポーカーゲームと同じで、どんなカードを実際に持っているか、あるいは持っているように見せかけるかですが、「きみはなんのカードも持っていないじゃないか」という蔑みの言葉を言ったわけです。
 
では、トランプ大統領の手持ちカードはというと、誰もが分かっている「貿易関税」です。
それも「トランプ関税」とでも呼ぶべき、“バカげた利率”のカードです。
ただ、ポーカーゲームでは、自分の手持ちカードを最初に見せる“バカ”はいません。
ということは、トランプ大統領が最初に掲げるカードは、ブラフ(bluff)と呼ぶ「はったり」カードです。
これで相手を脅し、自分に有利なカードを相手に出させる「お決まり」のカードです。
こんなことは、読者のみなさまはもちろん、世界中が分かっていることです。
分からないのは、彼が懐に隠している本物のカードの中身です。
 
でも、確信を持って言えますが、彼自身、このカードの中身をよく吟味していないのだと思います。
「とにかく、出来るだけ高い関税を」という願望カードに過ぎないのです。
だから、そこを中国に見透かされ、双方115%引きというバーゲン結果で、事実上の負けに終わっています。
 
彼は、最初に日本から大幅な譲歩を引き出せると思っていたようです。
それを成果に、各国から大きな譲歩を引き出す戦略だったわけです。
そうすれば、ゼロサムゲームで自動的に米国の利益が上がると目論んだわけです。
だから、首脳会談で石破首相に「君はハンサムだ」と“歯の浮くような”言葉を並べ、渡米した赤澤大臣をわざわざ大統領執務室を入れ、ツーショットまで撮らせたわけです。
しかし、石破首相も赤澤大臣も、良くも悪くも「鈍感が服を着ている」ような方ですから、大統領の空振りに終わっています。
願わくは、お二人とも、この姿勢で「のらりくらり」を続けて欲しいものです。
キャラクターとして、ぴったりな役回りですから。
 
今、トランプ大統領は相当に焦っています。
彼は、とにかく大幅減税の予算を通して「減税大統領」の評価が欲しいのです。
それで、まずイーロン・マスクを使って連邦予算の大幅削減を実現し、その上で、高関税で外国から資金を吸い上げ、それを減税に回すというシナリオを描いたわけです。
つまり「予算の削減額+関税収入額=減税額」というゼロサムゲームです。
 
たしかに上式は、単純には成り立ちますが、世界経済はそんなに単純ではありません。
実際、世界経済全体は拡大を続けていて、決して「ゼロサムゲーム」で動いてはいないのです。
そのカギは、労働生産性の向上にあります。
次回は、その話を。