トランプ劇場の幕引きはまだまだ先です
2025.05.19
前月号で「トランプ大統領の狙いは中国だ」と書きました。
両国の高関税合戦を見ると、その狙いは明らかです。
ところが、ここにきて、一気に115%下げるという、呆気に取られるような展開です。
この結果、中国の対米関税は30%、米国の対中関税は10%となります。
この合意前の145%対125%という高関税は事実上の禁輸であり、まったく意味のない数字です。
さすがに「意味が無さすぎる」と思ったのか、トランプ大統領は、その後「80%ぐらいが妥当」と、これまた意味不明な発言をしました。
が、最終結果は30%対10%となりました。
このようにドタバタ劇に見えるトランプ劇場ですが、当然、裏があります。
この裏の狙いを少し考えてみます。
外国から製品や部品を輸入する米国企業の在庫は3カ月分ぐらいです。
そこに、中国製品には145%という高関税(事実上の禁輸)が発表されたわけです。
その後すぐに出した90日間という猶予期間は、この在庫期間を考えてのことです。
しかし、パニックになった消費者の駆け込み消費が急増し、企業の駆け込み輸入も急増しました。
この後、米国で何が起こるかは明白です。
米国企業は、在庫がなくなっても145%関税では輸入ができません。
そうなると、消費は大きく後退し、企業収益は大幅に悪化します。
そうした事態が現実になる前に、悪化状況の先取りが発生し、株価の大幅下落だけでなく、国債市場の下落とドル安というトリプル安が起き、市場金利は4.1%から4.4%に急騰しました。
トランプ大統領は、高関税で得られる税金を使って所得税の大幅減税を行い、支持率の爆上げを狙っていました。
しかし、その減税の原資が金利上昇で吹っ飛んでしまう事態となり慌てました。
それで、早く手を打つ必要に迫られたわけです。
では、この結果は中国の勝利と言えるのでしょうか。
もちろん、そう簡単なことではありません。
ここで我々が見逃してはならないことがあります。
トランプ大統領のやり方があまりにも強引で世界から批判を受けていますが、一番悪いのは中国です。
我々は、そこを見過ごしてはなりません。
2001年、WTO(世界貿易機構)のルールを守ることを約束して加入させてもらった中国ですが、加盟が認められたら、後は好き勝手にルールを破り、自分の利益だけを享受しています。
もちろん西側陣営は何度も「ルールを守れ」と中国に抗議してきましたが、「馬の耳に念仏」状態。
それどころか、イタリアなどに甘い餌を撒き西側陣営の結束を乱し、BRICS諸国や新興国には甘い餌をばら撒き、「中国は頼りになる」とシンパにして、自分だけ大きな経済発展を遂げました。
野球に例えてみると分かりやすいでしょう。
野球のルールでは、進塁する方向は1塁から2塁へと反時計廻りです。
また、守りは全部で9人など、当然のルールのもとでゲームは進行します。
ところが、Chaniaチームだけは、反対廻りしたり塁を勝手にとばして本塁に戻ってきたり、果ては、いつの間にか10人で守ったりと、好き勝手し放題です。
他チームが抗議しても、知らん顔でルール破りを止めようとしません。
そこに、強面のドナルドさんが米国チームの新監督になりました。
「よ~し、オレがChaniaチームを懲らしめてやる」と、かなり自分勝手なルールを持ち出してきたのが現在の状況なのです。
そうした状況の中、今回の米中協議で注目したことがあります。
中国代表の何立峰(か・りつほう=ホー・リーフォン)副首相の記者会見での発言です。
「貿易問題を協議する新たな枠組みを設置する。米中の貿易関係の本質は共に勝つこと」
つまり、中国はルール無視を続けることが難しくなったので、今後はルールを守る気持ちがあるということなのです。
このことは、トランプ政権の成果といえるでしょう。
ところで、メディアはあまり取り上げませんが、トランプ大統領の発言で気になったことがあります。
香港の民主活動家の「黎・智英(れい・ちえい=ライ・ジーイン)氏」のことを、これからの「交渉の一環として議題に載せる」と発言したのです。
黎氏の名前に聞き覚えの無い方でも「香港メディア『リンゴ日報』の創業者で、2020年に香港国家安全維持法で逮捕・収監されている方」と聞けば、「あ~あの人」となるのではないでしょうか。
トランプ大統領は、昨年の大統領選挙中、「自分が再選されたら、黎氏を釈放させる」と発言していました。
もちろん、中国が一番嫌がることなので、持ち出したとたん、交渉は打ち切りとなる可能性があります。
しかし、安全保障と人権問題は、米国民にとっては日本では考えられないほど大きな関心事です。
中国に対するトランプ大統領の“バカみたい”な高関税は、中国を交渉の場に引きずり出すディール(取引)材料だったわけです。
さて、この行方は・・