2016年12月15日号(国際、政治)

2017.01.11

HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2016年12月15日号
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                発行日:2016年12月16日(金)

いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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        2016年12月15日号の目次
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☆トランプ大統領をどう判断すれば良いのか(2)
☆中国vsトランプ次期大統領
☆国つくりの難しさ
☆戦争を起こさせない二つの仕組み(5):日本の役割
http://magazine.halsystem.co.jp
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こんにちは、安中眞介です。
今号は国際問題、政治問題をお送りします。

 
安倍首相とプーチン・ロシア大統領との会談が始まりますが、ロシア側から流れてくる情報は厳しいものばかりです。
安倍首相は「自分の代で・・」などと名誉欲にとらわれていると、足をすくわれます。
「北方領土は100年のうちに返ってくれば良い」とでも言ってやると良いのですが・・

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┃☆トランプ大統領をどう判断すれば良いのか(2)         ┃
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前号を読まれた読者の皆様の中には、私がトランプ氏を評価したと誤解されたかもしれませんが、そうではありません。
やや脱線気味に、ひとつの見方を示したまでです。
もっと言えば、「この結果も面白いかもしれない」と思ったのです。
先が読めるクリントン氏ではなく、読めないトランプ氏が勝ったことで、世界が動くことが確信できたからです。

 
暴言とも言えるトランプ氏の過激発言は「卓越した選挙戦術であった」と書きましたが、暴言のかなりの部分に氏の本音が入っていることも事実です。
しかし、三権分立が厳格に確立している米国では、大統領が独断で実行できることは少ないです。
議会が賛成しない限り、暴言の多くは実行できないのです。
しかし、戦争は大統領の独断で始めることができます。
その意味では、米中が軍事的にぶつかる危険レベルが一段階上がったと考えたほうが良いでしょう。
しかもトランプ氏の行動原理は米国の国益のみです。
日本が危機に陥ることなど考えの外です。
そうなると、日本は、日米安保に頼った防衛体制を見直し、独自の戦略による防衛力整備を急ぐ必要があります。

 
ただし、トランプ政権は1期で終わる可能性もあります。
一番の懸念材料は、政権移行チームのメンバーにトランプ氏の家族たちが入っていることです。
しかも、トランプ氏は、その家族たちに、国家機密にアクセスできるセキュリティ・クリアランスを求めたと言われています。
まるで、韓国の朴槿恵大統領みたいです。

 
政治の私物化ほど危険なことはありませんが、トランプ氏は、そのようなことには関心を払わないのかもしれません。
前号で、私が「政治とはこういうものだと、トランプ氏から教えられた思い」と書いたのは、賛辞ではなく、警告です。
「政治家はウソをつくもの」ですが、そのウソを見抜ける国民の意識の高さが民主主義のレベルの高さを現します。
優れた政治家は、“現れる”のではなく、そうした民意の高さが“生み出す”ものです。
今回の大統領選の結果は、米国の民主主義のレベルが低くなっていることを証明したようなものです。
しかし4年後の選挙では、米国民は正反対の結果を出すような気がします。

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┃☆中国vsトランプ次期大統領                   ┃
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ある論者が、トランプ氏の勝利の直後、「中国はトランプ氏の勝利に沸いている」と書いたが、そうは思えなかった。
たしかに、トランプ氏の当選後すぐに中国共産党機関紙である人民日報系の環球時報は、以下の記事を掲載した。
「トランプ現象は米国が世界を支配する時代が終わったことを意味している」
この記事を寄稿した程亜文・上海外国語大教授は、「西側国家の民主、複数政党、福祉などの制度は役に立たなくなっている」と民主主義をこき下ろし、「われわれは米国が多くの領域で指導者の役割を放棄する現実を受け入れ、『ポスト覇権』時代に新たな世界
秩序をどう構築するのか準備しなければならない」と、これからは中国が世界を統治するといわんばかりの自信を示した。
 
しかし、トランプ氏は台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統と電撃的に電話会談を行い、世界を驚かせた。
中国は慌てふためき、遺憾の意を表明したが、狼狽振りは明らかであった。
しかも、トランプ氏は、中国の態度によっては「一つの中国論」を見直すとまで発言した。
さらに、南シナ海の軍事基地化を進める中国に対する不快感を表明した。
完全に中国の期待は吹き飛び、両国は緊張状態に陥ることが予想される事態となった。

 
それでも、両国は冷酷な現実を見なくてはならない。
中国とアメリカは、経済のグローバル化で最大の恩恵を享受してきた仲なのである。
特に、中国は自国市場の大きさを武器に、グローバル化の良いとこ取りをしてきた。
米国も、その中国を自国経済の拡大に利用してきた。
米中両国は、片方が駄目になればもう片方も道連れという二人三脚の間柄なのである。
いかに政治的に反目しようが、二人三脚の足かせは外せないのである。

 
ゆえに、米中の全面戦争などはあり得ないが、戦争の怖さは、弾みがつくと止まれなくなることにある。
特に、国民世論が煽られて先鋭化すると、政治が止められずに、無意味な戦争へと突入することは過去の歴史が教えている。
75年前の日本がそうであったし、今の米中両国にもその恐れは十分にある。

 
米中にロシアを加えた三国の覇権争いの時代になったとする意見もある。
古代中国の「三国志」を知らない読者はいないであろうし、物語としてはたしかに面白い。
しかし、2000年前、激しく覇を競った魏・呉・蜀の三国は、100年間の争いの果てにすべて滅び、魏の将軍であった司馬懿仲達(しばいちゅうたつ)が興した西晋が覇者となった。
さて、これから100年後の世界はどうなっているのだろうか。
もしかして、日本に司馬仲達が現れ、日本が西晋になるかもしれない(?)。
それを見ることが出来ないのは残念であるが、想像することは面白い。

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┃☆国つくりの難しさ                       ┃
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ローマ帝国の昔から現代に至るまで、「国つくり」は「膨張」することを前提に行われてきました。
そして、膨張が止まったときから「衰退」が始まり、やがて「滅亡」していきました。
世界の歴史を眺めてみれば、例外が全くないと言っても過言ではありません。

 
そもそも建国当時は“ないないづくし”で国づくりが始まります。
だから、まずは国家としてのインフラ造りが優先されます。
つまり、公共事業です。
こうしたインフラが整ってくると、国民の生活が安定し、商売の基盤が整備され、自然と人が集まってきます。
この好循環が機能すると、人口は増え続け、国家は「膨張」していきます。
どんな国家でも、組織から社会体制、経済システムの隅々にいたるまで、こうした「膨張」を前提として構築されていきます。
しかし、どんどん「膨張」を続けると、国家は大きくなり、やがて「膨張」が足かせになる節目がやってきます。
人口の多い中心部では効率の良い交通機関整備や道路建設も、人口の少ない周辺地区では非効率になっていきます。
しかし、「膨張」をやめれば「衰退」が始まります。
「衰退」を防ぐには、社会や経済の構造を変えなければなりません。
つまり「構造改革」です。

 
だが、「構造改革」とは既得権益の否定が前提の改革です。
当然、激しい抵抗が起き、改革は頓挫します。
そうなると、「すべての既得権益を否定・抹殺」するか、元の木阿弥に戻すかになりますが、いずれの行く先も「滅亡」です。
あるいは他国への侵略ですが、失敗すれば、もちろん「滅亡」です。
戦前の日本がそうですし、現代の中国、ロシアも同じ道を歩み始めています。

 
西欧各国は、産業革命から近年に至るまで、アジア・アフリカの植民地から膨大な富を収奪し、それを基礎に国家の基盤を作りました。
米国は移民国家であり、移民を受け続け、人口を増やす「膨張」政策で国づくりをしてきました。

 
現代に入り、従来の「膨張」政策を続けられなくなった西欧各国は、EUという統一国家に統合することで新たな国家つくりを目指してきましたが、難民の殺到と英国の離脱で破綻の危機を迎えています。
移民国家の米国も、トランプ氏の大統領就任で「膨張」の原動力であった移民受け入れに黄色信号が点っています。
ロシア経済はとっくに減速状態ですし、中国は発展途上のまま足元がふらつき出しています。
中国の「GDPの伸び」の3分の1は公共投資です。
このような経済状態で構造改革を実施すれば多くの雇用が失われ、政権が不安定となります。
つまり、中国、ロシアはともに自国外に向かって「膨張」を続けるより他に道はなくなっているのです。
両国は、これからも、手を変え品を変えて侵略を繰り返していく政策を採るでしょう。

 
さて、各国に先駆けて人口減少時代に入った日本ですが、上記のどの国も参考になりません。
世界のためにも、日本が「新たな成功モデル」を創り上げることが重要になっているのです。
そのことは、次回解説します。

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┃☆戦争を起こさせない二つの仕組み(5):日本の役割       ┃
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今号で「戦争を回避する戦略」のまとめを行います。
日本が戦争を起こす可能性は少ないので、本章は、日本に対し他国が「戦争を起こさせない仕組み」ということになります。
原則を復習すると、

1.有効な同盟関係を結ぶ
2.相対的な軍事力を保持する
3.民主主義の程度を増す
4.経済的依存関係を強める
5.国際的組織への加入

 
この5項目に加えて、前号で「核兵器という”相打ち兵器“を持つ」こと6項目目として挙げた。
 
もし、私が政治家であったなら、このような発言をしただけでマスコミや平和団体に袋叩きにされることは確実である。
「核兵器を持て」と言っているわけではなく、「なぜ核兵器が存在しているのか」の解説に過ぎないのにである。
こうした問答無用の“乱暴な”平和論が、平和を真剣に論ずる芽をつぶしてしまうのである。
昨今の国会における野党の論調がこの傾向にあることを危惧している。
戦争することを考えない「戦争の抑止」など何の役にも立たないことは歴史が証明している。
2500年前、中国の思想家「韓非子(かんぴし)」は、「善を為すために悪を知れ」と言った。
この言葉が全てである。

 
では最後に、日本はいかなる仕組みで他国に「戦争を起こさせない」かを論じてみたい。
今の日本の平和を脅かしている国は、北朝鮮、中国、ロシア、そして米国である。
いつでもミサイルを日本に撃ち込める用意を整えている北朝鮮と中国、それに、北方領土を占領し日本の領空侵犯を繰り返しているロシアは、どう考えても友好国とは言えない。
米国は友好国だが、在日米軍の任務の一つが「日本を抑えておくため」である限り、真の友好国とはいえない。
中国に至っては、領海や領空の侵犯だけでなく、数々の軍事的挑発行動を繰り返している。
まるで、日本が我慢しきれずに軍事手段に打って出ることを待っているようである。

 
ただし、これらの国々に「止めろ」と言っても止めるわけはないので、先の6項目に照らして考えてみた。
まず、「1.有効な同盟関係を結ぶ」だが、米国と軍事同盟を結んでいる限り、米国とは戦争にはならない。
また、この同盟が中国に戦争を思いとどまらせている側面もある。
次の「2.相対的な軍事力を保持する」は自衛隊の存在のことだが、急ぐのは空の防衛力強化である。
詳しくは、別の機会に述べるとする。
「3.民主主義の程度を増す」を今の中国に期待することはできないから、この策はダメ。
「4.経済的依存関係を強める」は大事だが、かつてのレアアースのように、中国はすぐに政治に結び付けてくる国である。
多国間の経済関係を拡大し、中国依存度を増やさないことが肝心である。
「5.国際的組織への加入」は、南シナ海の裁定を下した国際司法を無視する態度から、期待はできない。
だが、太平洋を囲む各国と協調する協定や同盟を結ぶことは、大いに進めていくべきことである。
そうして、無視できなくなった中国が入ってくる環境を整えていくことである。

 
最後の「核兵器=相打ち兵器」を日本が持つことは外交的には損なので、米国の核抑止力に頼るか、諦めて「打たれたらおしまい」と腹をくくるかである。
 
結局、現在、日本が打てる手段は限られていると言える。
読者の皆様は、どのように考えますか。
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<編集後記>
小池都知事に対する都議会自民党と都議会公明党の対応の違いが明白になってきています。
五輪会場の問題は、一見すると小池知事の敗北のような印象を受けますが、それは都民が判断することです。
カギは、来年夏の都議選であることは明白です。
都民の意思は、その時に“はっきり”とするでしょう。
個人として小池新党を期待しているわけではありませんが、都民の多くは「久しぶりに面白い選挙になりそうだ」と思って眺めています。
都議会公明党は、その風を感じているのでしょう。
自民党と袂を分かっても風に乗ろうと画策しているように思えます。
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