日本は同じ過ちを犯してしまうのか(続編)
2025.06.16
4月30日号(経済、経営の話題)の『◇日本は同じ過ちを犯してしまうのか』の最後で、以下のように書きました。
「40年前と状況は同じではなく、日本が打つべき手はあります。しかし、今の日本政府が40年前以上に無策なことが最大の危機です。今年中に、政治の仕組みを根本から変えなくてはなりませんが、その責任は国民にあります。その話は、次号(5/15号)で」との内容でした。
ひと月跳びましたが、今号でその続きを送ります。ただし、予告とは少し違う論点の話を送ります。
世界シェア80%近かった日本の半導体を追い落とすために米国が使ったのが「スーパー301条」です。
これは、「米国の安全保障上の脅威を取り除く」という伝家の宝刀です。
この宝刀の前に、日本は抵抗することもなく敗れ去りました。
日本では「同盟国なのに・・」という嘆き節が聞かれましたが、それも虚しく、「再びの敗戦」という屈辱を味わうことになったわけです。
実は、このとき「スーパー301条」の適用対象になったのは、半導体だけでなく、当時、東大理学部の助手であった坂村健氏が開発した「TRON=トロン」というOS(オペレーティングシステム)もそうだったと報道されていて、私もそう思っていました。
しかし、後年、坂村氏ご本人がそのことを、以下のように説明していました。
「あれは、日本のマスコミが悪い。たしかにUSTR(The Office of the U.S. Trade Representative=米国の通商代表部)は、トロンを貿易障壁の候補リストに上げたが、その段階では「調査中」で確定していなかった。その後半年ほどでトロンは関係ないという判断が下された。しかし、日本のマスコミは、それを知りながら『ことさら大きな貿易摩擦の問題としてトロンを取り上げた』。実際には貿易摩擦には関わってはいなかった」
この話を聞いて、私は確信しました。
「米国がトロンを潰した」という報道は誤報ではなく、マスコミの「悪意の捏造」というべき犯罪行為であることをです。
この捏造報道が無ければ、パソコンのOSは“Windows”ではなく”TRON=トロン」になっていた可能性が大きいのです。
そのころ、若かった私は“TRON”の機能を知る機会を得ましたが、その先進性に驚きました。
後年、“Windows”を触ったとき、格段に落ちる性能にがっかりした記憶があります。
坂村先生の話を直に聞く機会に恵まれましたが、そのとき、先生はこう仰っていました。
「ある日を境に、研究に参加していた大手コンピュータメーカーが一斉に手を引いたんです」
あのときの坂村先生の悔しそうな口ぶりが忘れられません。
このように、日本が何度も繰り返した過ちの多くは、マスコミに大きな責任があります。
あの太平洋戦争だって、当時の政府も軍の高官の多くも米国相手の戦争は何としても避けようと必死の努力を続けていたのです。
しかし、マスコミは「情けない弱腰政府」と、連日の記事で国民を煽り立てたのです。
かつ、和平派の軍人を罵り、開戦派の軍人を英雄視し、開戦を煽ったのです。
こうしたマスコミの強硬論に煽られた陸軍の一部の青年将校が二・ニ六事変を起こし、高橋是清等の政府首脳や和平派の軍首脳陣を殺害したことで、米国相手の開戦への布石が引かれてしまったのです。
マスコミの“煽り”報道は戦後も変わらず、半導体やOSでも日本は敗北しました。
こうしてパソコン用の”B-TRON“は日の目を見ませんでしたが、産業用の”I-TRON”は生き残り、様々な機械に組み込まれ、産業用では世界の60%以上のシェアと言われています。
坂村氏は“TRON”の中身の設計や仕様をすべて公開する「オープンアーキテクチャ」にしたことで何の利益も得られていませんが、それが普及の大きな要因になりました。
近年、盛んに言われている「モノのインターネット、IoT(Internet of Things)」は、間違いなく坂村氏が創った世界です。
この続きは、間もなく別のブログで公開予定の『AIってなんぞや』で述べていきたいと思っています。
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