福島第一原発の廃炉は出来るのか?

2023.08.15

【国際・政治】2023

4月14日に公開された福島第一原発1号機の原子炉土台の映像を見ました。
水中ロボットによる撮影映像は思ったより鮮明で、現在の状態がよくわかりました。
圧力容器を支えていた格納容器の土台のほぼ全周に渡りコンクリートは損傷し、鉄筋が露出していました。
 
私は、かつて、これらの場所に立ち残留放射性物質の調査を行っていました。
その当時、圧力容器の中には冷却水に浸された燃料棒が核反応を起こしていたわけです。
その後、何本もの制御棒が差し込まれ、核反応を止めた後、圧力容器の蓋が開けられました。
私は、その真上から圧力容器の中を覗き込みました。
核反応は止まっても、燃料棒からは強烈な放射線が放射されています。
その強烈な放射線によって、燃料棒周囲の水の分子がイオン化され、鮮やかなコバルトブルーの光を発します。
これを「チェレンコフ現象」と呼びますが、本当に吸い込まれそうな深く濃く鮮やかなブルーの光は今でも目に焼き付いて、消えることがありません。
 
圧力容器を満たしている、そのほぼ純粋な水が、強烈な放射線から我々を守っていました。
もちろん、我々は、全身を覆う潜水服のような防御服をまとっていましたが、厚さ数mの水の防壁がなければ、たいした防御にはなりません。
「もし、今、急激に水位が下がり燃料棒が露出したら、その瞬間、オレは致死量の放射線を浴びる」と考えて、いつも冷や汗が吹き出していました。
 
やがて、燃料棒は隣のプールに移され、圧力容器の冷却水が抜かれました。
その直後、私は、圧力容器の底に降り立ちました。
燃料棒がプールに移されても、直径4~6mの圧力容器の隔壁には、強烈な放射線を出している放射性廃棄物がびっしりと残っています。
それを特殊な試験紙で拭い、放射性廃棄物を採取するのです。
 
その拭う作業は、なんと手動なのです。
もちろん、三重の手袋をした手で拭うのですが、できるだけ強く拭うという、今では決してやりたくない作業です。
残留放射能があまりにも強く、三重の手袋をしても、私の指自体が放射化してしまうほどでした。
つまり、私の指が放射線を発する放射性物質となってしまったというわけです。
ナイフで指先の皮膚を削り落とすという荒療治で、ようやく外へ出ることができましたが、その繰り返しで、しばらく指の指紋がなくなってしまいました。
当時は、同僚たちと「泥棒するなら、今のうちだな」なんて言い合っていましたが、今思うに、ずいぶん危険を犯したなと思います。
 
そんな思いを思い出しながら、残骸と化した現在の格納容器の映像を見ていました。
いま、この場所に立ったなら数秒で致死量の放射線を浴び、その後数時間で死に至るでしょう。
こんな状態の壊れた原子炉をどうやって廃炉に持っていけるのでしょうか。
大半の作業は、ロボットによる遠隔操作になるでしょうが、おそらくロボットもすぐに故障すると思います。
その昔でも、最も危険な作業には遠隔ロボットを投入しましたが、すぐに故障してしまうのです。
強烈な放射線は遠隔装置を狂わしてしまうようで、高価なロボットを何台も無駄にしてしまいました。
あれから半世紀近くが経っていますから、ロボットや各種技術は、格段に進歩していると良いのですが、情報が極端に少ないのが現状です。
廃炉は、今世紀一杯掛かると腹をくくり、その間の若い技術者の確保と育成が何よりも必要です。
原発廃止を打ち出せば、廃炉に取組む技術者はいなくなり、原発は立ち枯れ、とんでもない危険が半永久的に残ることになるでしょう。
新たな原子力発電への道を開く大事な仕事との位置付けが必須です。
無責任な原発廃止論に負ける怖さを、国民は自覚すべきです。