2023年2月28日号(経済、経営)

2023.03.01


HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2023年2月28日号
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発行日:2023年2月28日(火)
 
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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2023年2月28日号の目次
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◇曲がり角の先の経済を考えてみよう(7):日本復活のカギは半導体(1)
◇2つの経済理論の激突(前半)
◇中小企業は儲かっていない(3)
 
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こんにちは、安中眞介です。
今号は、経済、経営の話題をお送りします。
 
先月号まで「中国経済は末期状態なのか?」の連載を続けました。
その中国では、3月5日から全人代という最高会議が始まります。
悪化する一方の経済状況に対して、どのような発表をするのでしょうか。
さすがに1年前に発表したGDP目標5.5%を「達成した!」とは言えないでしょう。
おそらく3%前後の発表と思われますが、さて、どうでしょうか。
 
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┃◇曲がり角の先の経済を考えてみよう(7):日本復活のカギは半導体(1)┃
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現代で、半導体という言葉を知らない方はいないでしょう。
でも、私が小さい頃は、知っている人が”いない”言葉でした。
そこで、昔話から始めることにします。
若い方には「?」でしょうが、今回はお付き合いをお願いします。
 
新潟の農村で暮らしていた子供時代、電気製品は電球とラジオぐらいしかありませんでした。
そのラジオの箱の中には数本の「真空管」があって、そこで受信した電波を音声に変えていることを本で知りました。
小学校へ上がる頃と記憶していますが、こっそりラジオの裏蓋を外して通電している状態の真空管を見ました。
10cmに満たない長さの“先が尖った”形の透明な管の中で電極が青く光っていました。
「あそこで電波を音に変えているんだ」と気持ちが高鳴ったことが、昨日のことのように思い出されます。
 
東京に越してきた頃には、真空管に変わるトランジスタ・ラジオが登場していましたが、出力が低く、イヤホンで聞くレベルのラジオでした。
それでも、小学生だった私の手が届く価格ではありませんでした。
そこで、科学雑誌に載っていた回路図を写し取り、自分でトランジスタ・ラジオを組み立てることを思い立ちました。
秋葉原に小さな電気材料屋がひしめいていた時代です。
近所の酒屋の配達で貯めたお金を握りしめ訪れた秋葉原は、子供の私にとっては宝島でした。
回路図を見ながら、あちこちの店を回り、部品やコードなどを買い集めました。
メインのトランジスタは、親切なお店のご主人が、回路図をチェックして選んでくれました。
値段も半額ぐらいにまけてくれた“おじさん”の顔が神様に見えました。
 
板で作ったボードの上に部品を配置し、ハンダで配線を繋いでいきました。
ご飯も食べずに深夜まで熱中しましたが、音が出るまで3日ぐらいかかりました。
板の上に部品を貼り付けただけの手製のトランジスタ・ラジオから音が出た時は「やった!」でした。
 
その後、驚異的なトランジスタ「トンネルダイオード」が生まれました。
世界が驚いた、そのダイオードは「エサキダイオード」と名付けられました。
そうです、当時ソニーの技術者だった若き日の江崎玲於奈博士が発明したダイオードです。
 
当時、世界中の科学者は、高性能のトランジスタの開発に“しのぎ”を削っていました。
その頃のトランジスタの性能は低く、かつ製造の歩止まりが極端に低いままでした。
シリコン基盤に載せる導電体には「リン」が使われていましたが、その純度を上げても思ったように導電率が上がらなかったのです。
それを、江崎博士は逆の発想で、リンの純度を下げていったのです。
当然、性能は悪化する一方でした。
ところが、諦めずに挑み続けた結果、ある純度まで下げたところで、突然導電率が跳ね上がったのです。
エサキダイオードが完成した瞬間でした。
この発見は「トンネル効果」と名付けられ、その後1973年に江崎博士はノーベル賞を受賞しました。
このダイオードは、導電体とも非導電体とも言えないということで「半導体」と名付けられました。
半導体は、日本人江崎玲於奈博士の発明なのです。
 
昔話が長くなってしまいましたが、次回は、世界的な大競争時代となっている現在の半導体開発の実態と、日本の復活について話を続けます。
 
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┃◇2つの経済理論の激突(前半)                    ┃
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日本経済をどう導くかに対し、両極端の2つの経済理論がぶつかり合い、議論が激化しています。
 
その一方は、「1000兆円以上に膨れ上がった国債でハイパーインフレが起きるのは時間の問題だ。政府歳出を抑え、増税を行い、国債発行を抑えるべきだ」という、緊縮財政理論です。
もう一方は、「国債の大半は円建てで、外国に対する借金ではない。日本は、まだまだ国債を発行できる余力がある。財政出動と減税で消費を喚起すべきだ」という、積極財政理論です。
 
TVやNetで露出の多い経済評論家も、この二派に分かれて、議論が沸騰しています。
財務省は、もちろん緊縮財政派の旗頭です。
一方の積極財政派はリフレ派と呼ばれ、日銀の黒田総裁や故安倍元首相が牽引役でした。
 
理論的にどちらが正しいのかという判定には、実は、何の意味もありません。
なぜなら、どちらの理論も間違いではないからです。
判断すべきは、現在の経済状態を好転させるには、どちら寄りの政策を採るべきかの一点です。
 
その時によく聞くのは、国家経済を家計や企業経営に例えることです。
例えば、「膨れ上がった今の国債は、国民一人当たり1000万円の借金だ」みたいな言い方です。
つまり「国債=借金」という単純化で、財務省の決まり文句です。
家計で、収入を超える支出を続ければ、当然赤字になり、やがて破産の憂き目を見るでしょう。
収入を増やすのは簡単ではないので、支出を抑えるのは当然です。
 
では、企業の場合はどうでしょうか。
赤字が続き、借入も社債発行も無理になれば、当然、倒産です。
そうならないように無駄な支出は抑えるべきですが、第一に考えるべきは、収入(売上)を増やす算段です。
それ以外は、企業の業態によって対策は異なります。
他社から商品やサービスを仕入れて販売する業態であれば、仕入価格の低減に取り組むべきですが、それは時間稼ぎにすぎません。
新たな商品の発掘や売上増進のため、投資を行うことが第一です。
そのための借金なら積極的に行うべきです。
 
開発型の業態であれば、選択集中理論に基づいた投資がカギです。
目が出ない開発は諦め、高い利益率が見込まれる開発に集中すべきです。
そのための手元資金が不足であれば、借入や債権発行による調達を考えるのは当然です。
そこが家計とは大きく違うことです。
 
では、国の場合はどうでしょうか。
無駄な歳出削減は必要ですが、これは家計や企業と同じです。
収入を増やす算段は企業経営に似ていますが、決定的に違うことがあります。
それは、通貨発行権を持ち、無尽蔵に近い債権(国債)の発行が可能なことです。
ただし、それが可能な国は限られます。
国債の大半が国内消化できる国だけです。
 
日本は、そうした国債発行で投資ができるのですから、このような国の経済運営は楽なものです。
ただし、やはり条件はあります。
投資対効果が10~20年内に2倍以上になることが期待される分野への投資を主とすることです。
つまり、社会の購買力が増すことへの投資であることが必要です。
 
もうひとつ大事なことがあります。
国民の購買力喚起には減税が必要で、増税は逆効果となり投資効果を打ち消してしまいます。
 
ここまで書くと、私は積極財政派と受け取られるでしょうが、そう単純ではありません。
それは、後半で。
 
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┃◇中小企業は儲かっていない(3)                   ┃
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トヨタやホンダの「満額回答の賃上げ」という発表や、最高40%アップというユニクロの年収発表など、大手企業の賃上げニュースが続いています。
商工リサーチの調査によると、中小企業でも賃上げを予定している企業の割合は8割となっています。
しかし、城南信用金庫と東京新聞の中小企業738社へのアンケートによると、7割以上の中小企業が「賃上げの予定なし」と回答しています。
これだけ極端な違いがあると、どちらを信用したら良いのか、判断に迷いますね。
 
実際のところ、中小企業の多くは、賃上げの余力が乏しいのではないかと思われます。
こうした企業も、政府機関の調査に対しては「賃上げを予定している」と回答します。
もちろん、「けしからん企業だ」との烙印を押されることを恐れているからです。
 
賃上げの原資は、もちろん利益向上であり、売上増進です。
しかし、大手企業を顧客とする中小企業にとり、顧客への値上げ要請は簡単ではありません。
「じゃあ、いいよ。他社に変えるから」との殺し文句が待っているからです。
前号で、以下のように書きました。
「下請側が優位に立つためには、大企業から見て『代替が効かない大事な会社』になるしかありません、しかし、多くの会社からは『そんなこと言ったって・・』と言われるでしょうね・・」
 
20年間のサラリーマン時代は大企業の側にいましたが、時代とともに元請・下請の関係がパートナー関係から上下関係に変わっていった過程を味わってきました。
コンピュータメーカーから建設会社に転職したのは1974年でしたが、その頃の年俸は100万円ぐらいだったと思います。
下っ端の監督として現場で働いていた時、下請け会社の棟梁の年収が「900万円ぐらいかな?」と聞いて、驚いた記憶があります。
その棟梁から、「どうだ、会社を辞めて、うちに来んか」と冗談とも本音ともつかぬことを言われて、一瞬、心が揺れました。
棟梁の話が本当かどうかは分かりませんでしたが、連れていってもらったキャバレーなどでの散財ぶりから、元請けの自分たちよりずっと高年収だったことは実感できました。
パートナーどころか、彼らのほうが上だったのです。
それは、当時の日本という国が元請の「管理仕事」より、下請の「技術仕事」に対して高い付加価値を付けていた時代だったということです。
 
昨年7月、経済同友会の櫻田代表幹事はメディアのインタビューで、こう発言していました。
「日本の賃金水準を引き上げるためには、中小企業が、合併や大企業の傘下に入るなどして中小企業を脱していくことが必要」と指摘し、さらに「賃上げできない利益率の低い企業の廃業を促すべき」と述べました。
その発言からは、中小企業の「技術仕事」に高い付加価値を付ける姿勢をまったく感じませんでした。
今の日本は、下請の「技術仕事」の価値を大きく落した国になってしまったのでしょうか。
昔の下請企業の棟梁のことを思い出しながら、考えてしまいました。
 
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<編集後記>
『ローマ人の物語』などの作者、塩野七生氏が、全15巻が完結した際に話した言葉が興味深いです。
「1巻目を読者が買ってくれたから2巻目が書けた。2巻目を買ってくれる人がいたから3巻目が書け、15巻まで完成できました」
比較にはなりませんが、本メルマガも読んでくださる方々がおられることで、続けることができています。
正直、心が折れそうになったこともありますが、いただく感想やご質問が励みになり、続けてこられました。
今後も、より深い内容の記事を心がけていきますので、末永くよろしくお願い致します。
 
 
<お知らせ>
本メルマガから建設関係の連載を外した際に、建設情報専用のホームページを立ち上げることを予告しました。
現在、新年度(4月)の立ち上げを目標に設計を進めています。
しかし、言い訳になりますが、本業の傍らということで作業時間は夜間と休日しか割けません。
結果、“そば屋の出前”状態となっていますが、もうしばらくお待ちください。
 
建設と情報システムをつなぐ事業は、私にとってのライフワークです。
一般の方にとっても、建設や情報システムは生活や仕事のインフラ基盤です。
興味が湧き、ためになる発信を心がけていきます。
 
 
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