2023年2月15日号(国際、政治)

2023.02.17


HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2023年2月15日号
┏━┓┏━┓┏━┓┏━┓┏━┓
   H  A  L  通  信
┗━┛┗━┛┗━┛┗━┛┗━┛ http://www.halsystem.co.jp
発行日:2023年2月15日(水)
 
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
2023年2月15日号の目次
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇戦略における拙速(せっそく)という言葉
◇反撃能力の保有は、専守防衛と矛盾するのか?(後編)
◇米国の下院の混乱から2024年大統領選を予想する(民主党では)
 
http://magazine.halsystem.co.jp
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
こんにちは、安中眞介です。
今号は国際問題、政治問題をお送りします。
 
米国が領空侵犯した中国の気球を撃墜したことは、中国外交にとって痛手です。
この気球は中国人民解放軍が飛ばしたと見られていますが、当の解放軍はいたって強気です。
米国側から申し出があった国防トップ同士の電話会談を拒否し、報復まで言及しています。
政府の外交努力を無視して軍が暴走する構図は、戦前の日本とそっくりです。
文民統制が効かなくなっているのであれば心配です。
 
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃◇戦略における拙速(せっそく)という言葉             ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
古代中国の兵法書「孫子の兵法」の解釈は、そもそも難しいですが、その中でも特に難しいとされているのが、「作戦篇」にある次の“くだり”です。
「兵は拙速(せっそく)を聞くも、未だ巧久なるを睹(み)ざるなり」
 
孫子には「兵」という言葉が多く登場しますが、様々な意味に使われています。
文字どおり「兵隊」という意味で使われている場合もありますが、戦争(いくさ)を意味していたり国家を意味していたり、民衆つまり「国民」を意味している場合もあります。
そうした単語の解釈を間違えると、全体を誤って解釈してしまう恐れがあります。
 
数ある孫子の解釈本の中には、上記の“くだり”を以下のように解説している本があります。
「戦いは先手必勝であり、準備不足でも早く仕掛けるほうが良い。長く準備を掛けて良い結果を出した例はない」とか「兵隊は、仕掛けが拙く(悪く)ても、早く踏み切ることを好む。だらだらと時間を掛けるべきではない」といった類の解釈です。
私も、数冊の解釈本を読み自習学習していた時代は、似たような解釈をしていました。
しかし、孫子全体に流れる思想体系と「どこか合わないな」という違和感を持ち続けていました。
 
それが、30年前に故武岡先生と出会い、以来、教えを受けるという運に恵まれたことで、それまでの解釈がまったく違っていることが分かりました。
 
先生の教えは以下のとおりです。
「兵(戦い)は、一定の目的を達成したら、それ以上の欲をかかずに、早期に戦いを終わらせることが大事だ」
つまり、「目的達成が不十分でも、欲をかかずに、早く収めよ」という意味が「拙速」という語に込められているということです。
もっと言えば、「目的の完全獲得を狙ってダラダラと戦いを続けることが良くない。臨機応変に、ある程度の物事を達成したら、後は深追いせずに早く収束しろ」ということです。
 
「拙速」を「準備不十分でも早く始めることが肝心」と解釈することは、まったくの間違いなのです。
つまり「戦争は短期決戦に限る。それが思いどおりに行かなかったら、いったん引いて、次に備えよ」ということが孫子の教えだということです。
企業経営にも通じることで、ロシアのプーチンに言ってやりたい言葉ですね。
彼が孫子を学んでいないことは確かですから。
 
一方、台湾侵攻を目論んでいる中国は、孫子の作者である孫武を産んだ国です。
孫子の教えが生きていれば、台湾侵攻は用意周到な準備の上で、電撃的勝利を狙う作戦となるはずです。
それに失敗すると、中国共産党自体が崩壊するという危機に見舞われるでしょう。
ただし、台湾も孫武の末裔の国です。
しかも、民主主義の国ゆえ、共産中国以上に孫子に対する自由で広範な研究が進んでいる国です。
当然、共産中国の戦略を理解して準備を進めているでしょう。
共産中国が安易に侵攻に踏み切れば、ウクライナ侵攻と同じ結果になるであろうと考えます。
 
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃◇反撃能力の保有は、専守防衛と矛盾するのか?(後編)       ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
「トゥキディデスの罠」という有名な言葉があります。
読者のみなさまには釈迦に説法ですが、言葉の意味を簡単に説明します。
米国の歴史学者グレアム・アリソンが作った造語で、台頭する新興国家と覇権を握る国家との対立が、やがて戦争が回避できない状態になる現象を指した言葉です。
古代ギリシャ時代、台頭した新興国家のアテナイが強国となり、覇権国家のスパルタと衝突する戦争に発展した歴史を、アテナイの歴史家トゥキュディデスにちなんで名付けられました。
 
これまでの大戦争に発展した経緯を分析すると、同様の歴史が繰り返されてきたことが分かります。
これは「どちらが悪い?」という善悪問題ではなく、必然的な帰結という論理問題なのです。
ゆえに、太平洋戦争もまったく同じ経過で発生した「必然のこと」と考えることが大事です。
これは、戦争肯定論ではなく、戦争を回避する論理なのです。
 
それを、米国と日本のどちらが悪かったのかという観点で眺めてしまうと、「負けたのだから日本が悪いに決まっている」という短絡的な結論になってしまいます。
戦後日本を覆ってきた自虐史観は、こうした意識で形成されてきたのです。
この自虐性が向かう先は、国民を勝ち目のない戦争に駆り立て多くの犠牲を生んだ国や軍隊となり、怒りとなっていきます。
米国は、こうした日本国民の怒りが自らに向かわぬよう、東京裁判で政府や軍の指導者を犯罪者として裁き、さらに職業軍人すべてを犯罪者として公職追放令で断罪したのです。
その結果、あの戦争を「加害者の立場に立った」当時の政府や軍が悪いと断定し、「恒久平和を求め、二度と加害者の側には立ちません」という戦後意識が日本人の根底に深く根付いたのです。
 
こうした国民意識が間違っていることを認識しながら、戦後、政府だけでなく野党勢力までが国民を騙し続けてきたのです(今も・・ですね)
遅いとは言えますが、若い世代のために今の国会が果たすべき役割があります。
それは、「あの戦争の中、当初の目的達成が難しくなった時点で、その後の被害を最小限に抑えるべく、米国とのコミュニケーションをどう回復させるべきであったか」とか、「国民の犠牲を減らすには・・」等という観点での戦前・戦中の総括を行うことです。
その後に、憲法を含めた法体系の再整備を行うことが大事です。
 
今の東アジア情勢の不安定さが中国の急速な台頭によってもたらされていることに異論がある人はほとんどいないでしょう。
それに対し、覇権大国である米国が「太平洋を奪われるかも・・」という恐怖感を抱いていることも明らかです。
それは、米国が80年前に抱いた恐怖の、デジャブ(既視感)そのものです。
当時の日本が今の中国に置き換わっただけです。
 
当時の日本は新興の「天皇制軍事国家」であり、今の中国は新興の「共産党独裁軍事国家」です。
対する米国は、当時も現在も、それとは異なる「民主主義軍事国家」です。
異なる価値観を代表する軍事国家同士の対立の先鋭化という点ではまったく同じ構図です。
グレアム・アリソンは、過去500年間の戦争を研究した結果を論文にしています。
それによると、覇権国の交代は覇権国同士の軍事対立となり、16の対立事例のうち12例は戦争に発展したと説き、日清・日露戦争および太平洋戦争もその事例として紹介されています。
 
今、日本は米国側に立ち、安保三文書で「日米同盟を強化し、対処能力を強化する」としています。
一方で、中国とは隣国であり、その交流の歴史は2000年に及びます。
米中戦争を回避する策が無いということは無いでしょう。
ただ、今の習近平政権は、軍事力偏重が強まる一方です。
日本は「平和憲法があるので加害者の側には立たない」ではなく、「いざとなれば、米国との同盟で軍事的反撃力を行使する」という意思を中国に対し示すことで、アリソンのいう13番目の事例になることを回避すべきです。
それが、「反撃能力の保有が専守防衛と矛盾しない道」ではないでしょうか。
 
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃◇米国の下院の混乱から2024年大統領選を予想する(民主党では)   ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
 民主党は、中間選挙の予想外の善戦で、皮肉にも次の大統領選での候補者選びが難しくなっています。
バイデン大統領は、80歳になったこともあり、「中間選挙の敗北で次は無い」と見られていましたが、逆になり、俄然、本命候補となっています。
当のご本人は、再選を目指して立候補するかどうかを2023年の早い時期に決断するとしていますが、やる気満々です。
確かに、バイデン大統領の求心力は回復傾向にあり、次の有力候補と見られていたカリフォルニア州のニューサム知事(55)等は、「バイデン氏が再選をめざすなら、自分は立候補しない」と発言しています。
 
そうは言っても、バイデン氏の年齢は、やはり大きな不安材料です。
2024年の選挙は82歳で迎え、仮に当選して任期を終える時には86歳の高齢です。
「大丈夫かな?」の声は次第に大きくなってくるでしょう。
 
となると、副大統領のカマラ・ハリス氏(58)の存在が重要になってきますが、目立った実績もなく不人気にあえいでいます。
就任時には、女性で、黒人で、アジア系の初の副大統領として鳴り物入りで起用されましたが、すっかり色あせた感じで、メディアもほとんどスルー状態です。
バイデン氏は、自分が2期目を目指す場合は、彼女を再び副大統領候補に指名すると発言していますので、自分の後の大統領候補にと考えているのは確実です。
2023年中に、若い有力候補が浮上してこない限り、民主党はバイデン・ハリスのコンビ継続で決まりのようです。
 
そのため、民主党幹部は、次の選挙でハリス氏を押し上げようと、大統領候補選びの仕組みを大胆に改革する方針のようです。
これまでの党員集会を廃止して予備選挙に一本化する案が有力になっています。
さらに、これまでは、白人が多い中西部アイオワの党員集会と、東部ニューハンプシャーの予備選挙からスタートしていましたが、これを黒人が多い南部サウスカロイナを最初の予備選挙とし、その後にヒスパニック系が多い西部ネバダを続け、3番目に白人が多い東部ニューハンプシャーと続ける案です。
その後は、南部ジョージア、中西部ミシガンの順というように、白人の多い州と有色人種の多い州をモザイク状に交互に実施していくという案です。
この案には、バイデン大統領の強い意向が反映していると言われています。
建前は「より多様性を反映させるため」としていますが、黒人女性の支持率が高いハリス氏に有利に働くような案であることは確かです。
 
この改革案は、来年2月の民主党全国委員会で決まる予定です。
ただ、これまでは緒戦の舞台として全米から注目を集めてきたアイオワ州などは反発していますから、なお紆余曲折もありそうです。
 
昨年の中間選挙では、年齢が若い層ほど民主党の支持が高い傾向が示されています。
激戦州で民主党候補が競り勝った決め手も、若者の投票率が比較的高かったからでした。
2024年には、有権者の世代交代がさらに進むわけです。
これまで社会の中核を担ってきたベビーブーマーは、全体の4分の1ぐらいまでに減り、現在40歳前半から下のミレニアル世代と次のZ世代を合わせた“新しい世代”が、4割以上を占めると予測されています。
両党の大統領候補が誰になろうと、こうした“新しい世代”から支持を得ることが勝敗を分ける鍵になりそうです。
このため、民主党は、次の大統領選挙を勝ち抜くため、女性やマイノリティー、若者からの支持を固めたいとしています。
その中で、エイミー・クロブシャー上院議員らの名前が上がるなど、まだまだ余談を許さない情勢です。
 
一方の共和党は、年齢の高い白人男性に偏ってきた支持層を、女性やマイノリティー、若者にも広げられるかどうかが課題になり、トランプ氏の芽は無くなりつつあります。
その中で、元国連大使でインド系の女性であるニッキー・ヘイリー氏(51)が名乗りを上げました。
こちらも、まだまだ余談を許さない情勢です。
まずは、両党の候補者選びに注目です。
 
----------------------------------------------------------------------
<編集後記>
ニュース報道が減っていますが、ロシアによるウクライナへの大規模攻撃が既に始まっています。
欧米が供与する新鋭戦車が前線に投入される前に決着を付けようとするロシアの意図は明らかです。
ロシアが前線に送り込んでいる戦車、兵員とも侵攻開始時の2倍規模に膨れ上がっているとの情報もあります。
その大半を東部のドネツク州に投入し、ルハンスクと併せ2州の完全制覇を果たして実質的にロシア領とし、そこでの停戦を狙っているとの見方が有力です。
カギは前線の軍への兵站能力ですが、それは防衛するウクライナも同様の課題です。
今後は東部の要衝バフムトへの補給路を巡る戦闘の帰趨が大きな要素となりそうです。
 
 
----------------------------------------------------------------------
◎[PC]配信中止、変更の手続きはこちら
http://www.halsystem.co.jp/mailmagazine/
このメールは送信専用です。お問い合わせはこちらからお願いします。
http://www.halsystem.co.jp/contact/
∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵
【編集・発行】
  株式会社ハルシステム設計
http://www.halsystem.co.jp
 
  〒111-0042 東京都台東区寿4-16-2 イワサワビル
  TEL.03-3843-8705 FAX.03-3843-8740
 
【HAL通信アーカイブス】
http://magazine.halsystem.co.jp
 
【お問合せ・資料請求】
email:halinfo@halsystem.co.jp
tel:03-3843-8705
 
Copyright(c)HAL SYSTEM All Rights Reserved.
∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵