2023年5月31日号(経済、経営)

2023.06.05


HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2023年5月31日号
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発行日:2023年5月31日(水)
 
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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2023年5月31日号の目次
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◇企業にとっての借入金(前半)
★建設会社に “のしかかる” 3つの課題(1)
◇曲がり角の先の経済を考えてみよう(9):日本復活のカギは半導体(3)
 
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こんにちは、安中眞介です。
今号は、経済、経営の話題をお送りします。
 
米国の6ヶ月定期預金は年8%と高額になっています。
1ドル139円台の円安が続く日本から投資資金が米国に流れるのは当然です。
でも、円安が悪いと言うつもりはありません。
円高に振れたら、投資家は逆にドル売り円買いに動きます。
投資家にとっては、円安も円高も関係なく、為替レートが動くことが大事です。
為替の動きには、そのような思惑も働いているのです。
 
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┃◇企業にとっての借入金(前半)              ┃
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2020年に始まったコロナ特別融資(通称ゼロゼロ融資)の総額は56兆円という巨額です。
帝国データバンクの調査によると、中小企業全体の49.2%がこの融資を利用したということです。
コロナ禍の経済落ち込みの中で、逆に企業倒産が大幅に減ったことから、この政策は一定の効果があったといえます。
しかし、読者のみなさまはご承知のことと思いますが、それだけの数の中小企業が困っていたというわけではありません。
この特別融資は無担保の上、3~5年間は利息が実質ゼロという破格の条件でしたから、資金が逼迫していない企業もこの融資を利用したはずです。
しかも、借入に伴う保証料も全額、国が肩代りしてくれるというのですから、借りない手はありません。
というわけで、弊社も、この特別融資を利用しました。
通常の借入に比べて総額で数百万円の経費削減(利益?)になりました。
 
このコロナ融資には、元本返済を最長5年まで据え置き可能という特典まで付いていました。
元本返済の据え置きは“麻薬”といえますから弊社は使っていませんが、据え置きを利用した企業の割合は32.6%ということです(多くは3年を選択したようです)。
現在、その3年が順次終わりを迎えてきていますが、予想通り、返済できない企業の倒産が増えてきています。
一部の業種を除いて収益の回復は進まず、今後、この種の倒産は増えてくるでしょう。
 
考えてみれば当たり前のことが起きてきたわけですが、数字で考えてみます。
帝国データバンクの調査では、「問題なく返せる」と回答した企業の割合が85.5%、「不安がある」とした割合が12.2%ということです。
据え置きせずに返済を行っている企業の倒産はほぼゼロと考えて良いと思います。
一方、「返済に不安がある」と答えた企業の多くは、据え置きを利用した企業だと推定されます。
 
中小企業庁の最近の調査では、中小企業の数は約350万社となっています。
特別融資の利用割合が49.2%で、据え置き利用が32.6%ですから、利用企業数は56万社となります。
このうちの12%が返済に不安があるとすると、6.7万社が“要注意”企業となります。
それでも、借り換えや条件変更などで、なんとか凌ぐ企業の割合を80%とすると、倒産する危険がある企業数は、1万3400社ということになります。
70%ならば、2万社ということになります。
 
さて、この数字、多いと思われますか、少ないと思われますか。
かつて、倒産が年1万件ぐらいあった時代がありましたから、驚きという数字ではないと思います。
私も「こんな少ない・・」と思いました。
 
そもそも、コロナ禍以前から中小企業の数は減り続けています。
400~450万社と言われていた時代からみたら、350万社という数字は「そんなに減ったのか」と思う数字です。
しかも、まだまだ減ることが予想されます。
つまり、マスコミが言うような「コロナ融資の返済」が中小企業の倒産を増やす要因ではなく、経済構造が根本から変わる時代に入ってきたのに、その変化についていけない企業の増加が増えるということなのです。
 
また、分かりきったことですが、企業は業績悪化で潰れるのではなく、資金不足で潰れます。
つまり、赤字が続いても資金調達さえできれば企業は存続できます。
いえ、たとえ倒産したって、新たな資金調達さえできれば、なんどでも再起できるのです。
この話、次号に続けます。
 
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┃★建設会社に “のしかかる” 3つの課題(1)         ┃
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3月決算企業の決算発表が出揃いましたが、営業利益率は以下の如くです。
資本金10億円以上 6.2%
1~10億円  4.3%
1億円未満  3.0%
 
零細になるほど利益を上げることが厳しい状況が分かります。
一方、大手企業の財務内容は向上していますが、少々いびつになっています。
財務省のデータですが、「10億円以上の企業」の1997年~2018年(つまり、20年間)の経営数字の変化を以下に記します(1997年度を100とした2018年度の指数で表現しています)。
売上高107、経常利益319、内部留保297、配当金620、給与96 設備投資96 平均役員給与132
 
売上高は横ばい、利益と内部留保は3倍、配当金は6倍強、給与と設備投資額は減少という結果です。
近年、経済学者や経済評論家の言っていることを裏付ける数字です。
 
これらの数字をどう見るかは、立ち位置によって異なるでしょう。
企業側は、デフレで売上高がほとんど上がらない中、必死にコスト削減に励んだ結果だと言いたいでしょう。
労働側からいえば、「やはり給与は下がっている。内部留保を給与支給に回せ」と言うでしょう。
マスコミは「日本企業の生産性は低いままだ」と言うでしょうが、経常利益の3.19倍は「生産性向上の賜物」と言えるかもしれません。
そうでないとすれば、「下請けたたき」の効果でしょうか。
 
しかも、その利益は、内部留保の積み上げと配当金の瀑上げにしか行かず、給与は下がっています。
(役員給与は上がっていますが・・)
一番の懸念は、設備投資が下がっていることです。
設備投資は将来の利益を創る原資となるものです。
従業員給与の減少もそうですが、経営者が将来への夢を描けず、設備投資をせず、自社防衛に縮こまっている様子がわかる数字です。
この先も暗い話題に事欠かないのが現状ですから、内部留保はさらに積み上がると思われます。
 
建設企業に対しては、前号で述べた3つの課題「インボイス対応」、「残業時間規制」、「BIM/CIMへの取り組み」が重くのしかかってきます。
その上、社会保険料のアップは続き、消費税などの各種税金のアップも政府は目論んでいます。
岸田首相は明らかに財務省主導の路線に乗っていますが、外国に対してだけは気前よくバラマキを行っています。
広島G7で気分が高揚し、「外交こそが自分の得点を上げる要素だ」と勢いづいている様子で、海外ヘのバラマキが増えているように感じます。
もちろん、国際貢献にケチを付ける気はありませんが、同じくらい国内への投資にも意欲を見せて欲しいものだと思います。
 
当然、こうした財源は国債発行が主になるしかありませんが、経済政策に不安がある岸田首相は財務省に強く出ることができません。
さらに、安倍元首相のような積極財政を唱える政治家が今はほとんどいない現状も成長のブレーキになっています。
次号からは、この3つの課題について解説していこうと思っています。
 
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┃◇曲がり角の先の経済を考えてみよう(9):日本復活のカギは半導体(3)┃
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1回休みましたが、この話題、もう少し続けます、
 
日本の半導体復活の望みを掛けたラピダスに対し政府の全面的な支援が必要だと、前回(3月31日号)書きました。
しかし、同時に「別の問題がある」とも書きました。
それは開発のスピードです。
 
現在、世界で量産可能なのは7ナノレベルまでで、2024年度に5ナノが「可能か?」という段階にあります。
ラピダスは、さらに上の2ナノの量産体制を、2027年に実現すると発表しました。
しかし、その発表を聞いてまず思ったことは、「遅い!」です。
私が描いていたのは、2025年にプロトタイプの完成、2026年に量産開始でした。
たかが1年の差ですが、その1年が重たいのが半導体の世界です。
海外のライバルたちが黙っているわけはなく、2ナノの製造は2026年には始まる可能性があります。
 
まして、ラピダスは、これまでなんの実績もない新興企業です。
たしかに、ラピダスに出資・参加する企業群は日本を代表する大企業ばかりですが、半導体の技術開発の空白期間が長いことに不安があります。
設計に米国IBMが参加することは強みですが、時間との競争はシビアです。
その上、一段と高いレベルの生産ラインの構築も大きな課題です。
すべてを同時並行で進めなければ、競争に負けるでしょう。
 
一方、強みは半導体の素材や製造装置など、日本が圧倒的な力を持っている分野です。
前号で紹介した素子間の仕切(ゲート)で最高の製品を有する日立製作所の“FinFET”を始めとして、ウエハ、レジスト、スラリ(研磨剤)、薬液などの半導体材料の技術力は世界一であり、シェアも圧倒的です。
さらに、十数種類もある前工程の製造装置のうち、5~7種類において、日本はダントツのトップです。
米国やオランダも大きなシェアを持っていますが、彼らにしても、数千~十万点に及ぶ部品の6~8割は日本製なのです。
 
肝心の半導体そのものに話を戻します。
世界最大の半導体生産のファウンダリーメーカーは、台湾のTSMCです。
また、メモリ分野では、サムスンやSKハイニックスを擁する韓国が世界一位です。
しかし、前述のように、彼らは各種材料や部品の大半、また製造装置の多くを日本に依存しています。
前政権で日本に喧嘩を売った韓国がホワイト国から外されて大慌てだったことを覚えている方は多いと思います。
当時、サムスンのCEOが急ぎ来日して、各種メーカーを回り供給を懇願した話は有名です。
 
世界一位の台湾のTSMCは熊本に工場を新設中ですが、製造する製品は28~29ナノレベルと聞いています。
北海道にも工場新設の計画があるそうですが、それも14~16ナノレベルです。
彼らが5ナノレベルを日本で生産するよう圧力(利点?)を加えることは政治の世界の話ですが、そんなことより、国は、まったく新たな半導体の開発に資金を投じて欲しいものです。
 
4月17日、佐賀大学理工学部の嘉数誠教授が、ダイヤモンド半導体デバイスで、世界初となるパワー回路を開発したと発表しました。
現在の半導体素材はシリコンやケイ素が主流ですが、大電力での効率化や高速性において劣化が大きいという弱点を抱えています。
ダイヤモンドは、こうした性能において数千倍から数万倍という耐性を有しています。
さらに、ダイヤモンド半導体は「放射線に強い」という特性から宇宙空間での利用には欠かせないものになるでしょう。
 
「でも・・ダイヤモンドは高いだろう」と言われるでしょうね。
たしかに天然ダイヤモンドは高価です。
しかし、人工ダイヤモンドを造る技術は進化し、安価で天然物を上回る性能のものが造られています。
それでも、研磨の難しさも相まってコスト高であることは確かです。
ゆえに、製造が軌道に乗るためには国家としての支援が必須です。
米国や中国は数兆円から数十兆円規模の補助を計画しています。
それに対して、日本は数千億円と桁が低すぎます。
H3ロケットの打ち上げ失敗も開発費の削減が原因と思っています。
政府には、再考を促したいものです。
 
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<編集後記>
カーボンニュートラル、SDGs、再生エネルギー、
私は、こうした“美しい”標語言葉がどうも苦手です。
「賛同しない人は非国民」のような“有無を言わせない”圧力を感じるからです。
欧米各国の尻馬に乗る格好で、日本でもこれらの言葉が溢れています。
しかし、資源に乏しく経済も未発達、飢餓に苦しむ開発途上の国々からしたら「金持ちの独りよがりの道楽」にしか見えないはずです。
こちらの声のほうが気になります。
 
<お詫び>
予告していました「建設ホームページ」の開設が“蕎麦屋の出前”状態です。
諸般の事情で、公開は秋とさせていただきます。
申し訳ありませんが、それまでお待ち下さい。
その前に、予告ページのようなものを出したいと考えています。
 
 
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