2016年10月31日号(経済、経営)
2016.11.16
HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2016年10月31日号
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発行日:2016年10月31日(月)
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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2016年10月31日号の目次
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☆日本はドイツの“働き方”を目標にすべきか?
★未熟な日本の計画技術(1)
★インフレ誘導政策は是か非か(1)
☆AIは果たして人間社会に益をもたらすのか(3)
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こんにちは、安中眞介です。
今号は経済、経営の話題をお送りします。
東京都の五輪会場見直し案に対し、各スポーツ競技団体が猛反発。
「五輪を機に豪華な施設を」と目論む各団体は、「お金の問題じゃない」、「レガシーとなる施設が・・」と巻き返しに懸命。
そのために投入される巨額の税金を考えると、少々身勝手な気もしてきます。
ネットでは「それなら、あんたらがおカネを集めてこいよ」というような声も・・。
豊洲問題に五輪会場問題、さらに選挙と、小池東京都知事は息つく暇もないようで。
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┃☆日本はドイツの“働き方”を目標にすべきか? ┃
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電通社員の自殺が労災と認定され、波紋が広がっています。
某大学教授がネット上で「100時間程度の残業で・・」と社員側に批判的なコメントを寄せたことで、別の炎上騒ぎも起きています。
残業時間の問題は、これまで何度も話題になってきましたが、いつも一過性で終わってきた感があります。
そもそも、日本人は巷で言われているように“働きすぎ”なのでしょうか。
よく比較されるドイツと、データで比較してみました。
ドイツの年間労働時間は1371時間ですから、日本の1729時間と比べると、たしかに少ないです。
ですが、米国は1743時間なので日本とほぼ同じです。
(引用:グローバルノート - 国際統計・国別統計専門サイト 2015年統計)
韓国にいたっては2124時間と昔の日本のようです。
必ずしも、今の日本人が特別に働きすぎとは言えないようです。
ただし、統計データには、いわゆる”サービス残業”は入ってきません。
実態は、だれにもわかりません。
話をドイツと日本の比較に戻します。
労働時間あたりの国内総生産(労働生産性)を比較すると、ドイツは64.4ドル、日本は41.3ドルになります。
つまり、ドイツの労働生産性は日本の1.56倍となり、大きく差を付けられた結果となっています。
しかし、この結果を見て、単純に「ドイツ人の働き方のほうが上手」と断定できない面があります。
実は、ドイツは労働時間に厳しい規制をかけて、相当に厳格に運用しています。
1日10時間を超える労働は法律で禁止され、違反した企業には罰金が課されます。
罰金を課された企業は、長時間労働をした従業員の“上司”にその罰金を払わせると聞きますから、
びっくりです。
日曜祝祭日の労働は全面的に禁止され、土曜日の終業にも厳しい条件が課されています。
有給休暇は年間30日あり、100%取得が義務付けられています。
しかも、6週間までの病欠は“有給休暇とは別に”取得する権利が与えられています。
ドイツでは、ここまで国家が法律で企業を縛っているのです。
しかし、日本がこうしたドイツのやり方をマネするのは、難しいです。
まず、ドイツ人の根底には、「労働は罰」というキリスト教の宗教観があります。
「アダムとイブは罪を犯し、楽園であるエデンの園を追い出され、労働によって日々の糧を得なくてはならなくなった」という聖書の話は有名ですね。
このように、キリスト教国では「労働は罰」という考え方が人々の心理に深く根を下ろしています。
一方、日本では「労働は価値あるもの」との考えが主流なので、価値観が真反対です。
それと、顧客に対する思想の違いがあります。
日本の商慣習の基礎にある「お客様は神様」の思想はドイツには全くありません。
だから、日本で顧客と応対する従業員は、「顧客に対する自分の責任」を少なからず意識して働いています。
しかし、ドイツ人は、顧客に対する責任は100%雇用主が負うものであり、自分の責任はゼロと考えています。
だから、自分が休むことで「顧客や同僚に迷惑がかかるかも・・」といった考えが浮かばないのです。
それに対し、日本は、まさに「おもてなし」の国です。
企業からの命令もありますが、「顧客の喜ぶ顔がうれしい」といった従業員の純粋な気持ちも労働の大きな要素です。
この結果は「日本のサービス水準の高さ」となり世界的に高い評価を得ています。
日独のどちらが良いかの判断は難しいですね。
私は短期間でしたが、ドイツの設計事務所と仕事をしたことがあります。
その時、「とても彼らと一緒に仕事はできないな」と感じました。
良い悪いではなく、仕事に対する思想がまったく違うからです。
経験を積んだ今では、個人的には思想の違いを乗り越えて仕事はできると思うのですが、
制度や働き方において、「ドイツは日本のお手本にはできない」と思っています。
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┃★未熟な日本の計画技術(1) ┃
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新国立競技場、豊洲市場、五輪施設と、東京都の目玉事業が軒並み問題になり、国民の非難の的になっている。
また、福島第一原発の事故や巨額の費用をつぎ込んだ高速増殖炉「もんじゅ」の絶望的状況など、
日本の原子力事業に対する国民の不信感は、政治的課題として国政を揺るがせている。
こうした巨大プロジェクトの失敗に対し、日刊建設通信新聞は、社説で「未熟な計画技術」として論評を加えている。
「責任なき意思決定の横行」、「事業の進行が的確に管理されていない」、「計画と現実とのズレを無視する」といったことがまかり通って失敗に至った根は「計画技術の未熟さにある」とし、その課題と是正にまで踏み込んだ解説である。
同紙が指摘する原因分析や主張する是正提言には全面的に賛同である。
ただ、その是正の道のりの遠さと困難さに”ため息”が出る思いである。
この問題に対し、私なりの解説を加えていきたいと思う。
こうした問題が起こる根本の要因は、どんなプロジェクトや工事にも起こる「計画と現実とのズレ」であることは誰もが分かっている。
しかし、その大半は、現場がなんとかそのズレを収める、あるいは修復することで、問題の表面化を防いできた(妨げてきた?)のである。
時折、現場では収められない事態となり表面化することはあっても、現場責任者の処分や幹部の陳謝などで逆風が過ぎるのを待つという日本的対処でことは収められてきた。
たとえ社会的に大きな問題となった場合でも、日本ではおなじみの「大会社の役員が記者会見でそろって頭を下げる」シーンで世間は沈静化してしまった。
私には、現場所長をしていた頃の苦い経験がある。
現場の若い監督達が、夜、酒に酔った勢いで、現場からライトバンを持ち出し、あげくに自損事故を起こした。
幸い、第三者への被害はなく、かれらの負傷だけで済み、警察も穏便に処理してくれた。
しかし、翌朝、本社の安全部に電話を入れた私は、自分の耳を疑った。
状況を報告した私への安全部からの最初の言葉は、「マスコミは抑えたか?」だった。
勘の良い読者の方は、この意味がお分かりだと思うが、当時の私は30代前半で経験も浅かった。
聞き返す私に苛立った相手は、「新聞やTVなどで報道されないよう手は打ったか」とどなってきた。
ようやく理解した私だったが、会社の一番の関心事が、社員の体や社会への迷惑ではなく、体面にあることを肌で知った瞬間であった。
本メルマガで何度か言及してきたように、私は原子力施設の建設にも携わったきたが、そこで体験し、見聞きしたことが、福島やもんじゅの失敗につながっていることを痛感している。
そして、その失敗の根が、日刊建設通信新聞が社説で指摘した「未熟な計画技術」にあることは、そのとおりである。
来月から数回に分けて、この問題を掘り下げていきたいと思う。
ご期待ください。
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┃★インフレ誘導政策は是か非か(1) ┃
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日銀が量的緩和を進めても、マイナス金利を導入しても、一向にインフレに向かわない日本。
安倍首相は、今年、世界の著名な経済学者たちを日本に呼び意見を聞いたが、その後の経済政策に大きな変化は見られない。
一時、「ヘリコプターマネー」とか「永久債による国家債務の帳消し」、「現金流通の廃止」等が報道されたが、やがて消えてしまった。
マスコミは、こうした刺激的な言葉が出ると、すぐに囃(はや)し立てるが、日本国民はさっぱり反応しない。
“国民の冷静さ”というより、国民には“意味が分からない”ので反応しようもないのである。
それは、国民のレベルの低さではなく、マスコミのレベルの低さのせいである。
一連の「欧米のスター経済学者」らが競って安倍首相に提示した種々の日本経済再生案に対して、的確な解説なり論評を加えたマスコミがあったであろうか。
経済専門紙である日経新聞ですら、読んで納得できる記事はなかった。
私は、まず、彼ら「欧米のスター経済学者」たちの無責任さを指摘したい。
彼らは、自らの経験や理論が全く当てはまらない日本という国に興味を持ち、そこに過激な政策を持ち込んだらどうなるかの”実験“がしたくてたまらないのである。
その実験に失敗したって、欧米での彼らの信用には傷はつかないと思っている。
言い方は悪いが、彼らにとって日本という国は、新薬を実験投与する犬のようにしか思っていないのであろう。
動物実験でその動物が死んだって、医者が社会の批判を浴びることはない。
しかし、人体投与で失敗したら裁判沙汰になりかねない。
彼らの考える“人体”は欧米であり、日本を同じようには考えていない。
安倍首相が、どの策も取り入れないことを祈る。
では、「アベノミクスは限界で、インフレ誘導は無理」との説は正しいのか。
この答えの前に、まずは以下のデータを見てもらいたい。
日本のGDP成長率は、2009年に -5.53%と大幅に減速したが、翌年の2010年には4.71%と急反転した。
これには政治的な大転換が関係している。
思い出して欲しい。
2009年は、自民党政権が完全に行き詰った年である。
そして、その年の9月に民主党政権が誕生したのである。
2009年-2010年のGDP成長率の大転換は、まさに国民の気持ちの浮き沈みの結果なのである。
しかし、その後経済は減速し、2011年には再びマイナス成長率へと落ち込んだ。
東北大震災、原発事故と続く大打撃が主たる要因だが、民主党政権への国民の期待はずれが大きくなっていくことに合わせて日本経済は減速の度合いを深めていった。
その後、2012年には1.74%と持ち直したが、この年の前半は民主党政権の末期、後半は自民党政権が返り咲き、安倍政権の下での日銀黒田総裁の「異次元緩和」が実施された年である。
いわゆるアベノミクスの始まりである。
だが、アベノミクスという経済政策の効果というより、政権交代への期待感と“アベノミクス”という言葉の効果のほうが大きかったといえる。
その証拠に、このような効果は長続きせず、2013年には1.36%とメッキが剥がれ始め、昨年度2015年は0.54%、今年2016年の予想値は0.51%と完全に停滞してしまった。
こうして過去を検証してみると、成熟経済は金融政策では動かず、消費者の気持ちで動くことがよく分かる。
次号では、今後の経済の行方を予想し、それに対する「インフレ誘導政策」の是非を論じてみたい。
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┃☆AIは果たして人間社会に益をもたらすのか(3) ┃
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8月31日号で「AIがもたらす未来社会の姿を想像する」と予告しながら、前号が「豊洲問題特集号」となった関係でお休みしてしまいました。
お詫びを申し上げ、今号で続きを述べていきます。
以下は、野村総合研究所が行った調査で「近い将来コンピュータによって置き換えられていく可能性の高い職業」にあげられた仕事の一部です。
「IC生産オペレータ、こん包工、コンピュータ保守員、一般事務員、電子部品製造工、鋳物工、産廃収集運搬員、電車の運転士、医療事務員、受付、自動車組立工、自動車塗装工、バイク便配達員、駅務員、出荷・配送要員、発電員、NCを使う機械工、ゴミ収集作業員、会計監査係員、新聞配達員、etc.,」
建設に関係する仕事としては、以下があげられていました。
「サッシ工、道路パトロール隊員、非破壊検査員、ビル施設管理技術者、ビル清掃員など」
さらに、AIは以下の職業から人間を駆逐していくと予測しています。
「アートディレクター、バーテンダー、アウトドア関係のインストラクター、シナリオライター、俳優、アンウンサー、鍼灸師、アロマセラピスト、社会教育主事、美容師、犬の訓練士、介護要員、医療ソーシャルワーカー、社会福祉施設指導員、ファッションデザイナー、インテリアデザイナー、フラワーデザイナー、ジュエリーデザイナー、獣医、フードコーディネーター、舞台演出家、映画監督、映画カメラマン、舞台美術家、フリーライター、柔道整復師、などなど」
意外と思う職業もありました。
「児童厚生員、小学校教員、社会学研究者、評論家、エコノミスト」
本来、きめ細かに人と接する、あるいは分析する職業なのに、近年は「機械的な対応になっている」という現れでしょうか。
別の調査におもしろいものがありました。
コンピュータやAIによって代替可能な労働人口の占める国別割合です。
それによると、日本49%、米国47%に対して英国が35%でした。
英国の職場ではシステムの導入が進んで、どんどん人がコンピュータに取って代わられているということでしょうか。
それに対し、日本や米国では、まだまだ人間が行っている非効率な仕事が多いということでしょうか。
この調査では日米の差はありませんが、単純に安心するわけにはいきません。
米国は貧富の格差が激しく、低賃金の労働者(かなりの比率で不法移民がいます)が多く存在しています。
システムを導入するより、彼らを安い賃金で働かせたほうが経済的という職場が多いのです。
そういった要素のない日本の場合、終身雇用制のせいでシステム導入が遅れているという側面があります。
「だから人員整理を」というわけではありませんが、経済競争がグローバル化してきた現代、弱点になることは確実です。
最近、自動車の自動運転が話題になっていますが、実用化されれば、路線バスの運転手、タクシー運転手などもシステムに代替されることになるでしょう。
さらに、プロの将棋や囲碁の世界でAIが人間の名人を打ち負かしていく姿を見せつけられると、
そう遠くない将来、弁理士、司法書士などの仕事は言うに及ばず、医師、弁護士や公認会計士などの難関の資格が必要な仕事もAIに置き換わるような気がしています。
(“ドクターX”こと大門未知子は生き残れるだろうか?)
建設関係では、建築士や建設コンサルも同様の運命をたどりそうです。
ただ、いずれの予測調査でも、建設現場の仕事の大半はリストに入っていません。
建設現場は安泰(?)なのでしょうか。
それについては次号で解説したいと思います。
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<編集後記>
今号は、テーマが大きいものが多く、「次号につづく」が増えてしまいました。
ご面倒をお掛けしますが、次号を引き続きお読みください。
<建設ビジネスサロンの開設>
予告したまま遅れています「建設ビジネスサロン」の開設ですが、まずは「ネットサロン」から開設することを計画しています。
それで、本メルマガの読者の方々を始め、弊社や私個人の付き合いの方々に案内を差し上げ、会員の募集を行う予定でいます。
小池都知事の「希望の塾」には、会費5万円で4800人もの応募があったとか・・
(注:審査で2902人が入塾)
「すごいな!」と、ただただ感心しますが、当サロンは、いたって質素に開設します。
会費は無料で行う予定で、人数も限らせていただきます。
近々案内を送信いたしますので、少々お待ち下さい。
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