2025年5月31日号(経済、経営)

2025.06.02


HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2025年5月31日号
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発行日:2025年6月2日(月)
 
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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2025年5月31日号の目次
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◇経済はゼロサムゲーム?
◇USスチール買収問題(前編)
◇新車陸送の世界(2)
 
<HAL通信アーカイブス>http://magazine.halsystem.co.jp
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こんにちは、安中眞介です。
今号は、経済、経営の話題をお送りします。
 
今号もまた、トランプネタが重なってしまいました。
少々、食傷気味でしょうが、我慢してお読みください。
 
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┃◇経済はゼロサムゲーム?                 ┃
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読者のみなさまは「ゼロサムゲーム」という言葉をご存じと思います。
簡単に言えば、ゲーム参加者の得点(利益)と失点(損失)を全部足すと、その総和(sum)は必ずゼロになるので「ゼロサム」という名前が付いている経済理論です。
麻雀のようなゲームを考えていただければ分かると思いますが、参加者は必ず勝者と敗者に分かれ、その勝ち負けの総和は“必ず”ゼロになります。
グローバルな外国為替取引も同じで、すべての国のレートが上がるということはあり得ず、一方の為替レートが上がれば、もう一方のレートは必ず下がることになります。
 
トランプ米大統領は、政治家というより商売人なので、当然、このゲーム理論はご存じで、この理論で政治を「商売」として動かしています。
彼が乱発する言葉“deal=取引”は、そのことを象徴しています。
かつて、トランプ大統領はウクライナのゼレンスキー大統領に向かって「きみにはカードがない」と言ったことがあります。
つまり、政治交渉はポーカーゲームと同じで、どんなカードを実際に持っているか、あるいは持っているように見せかけるかですが、「きみはなんのカードも持っていないじゃないか」という蔑みの言葉を言ったわけです。
 
では、トランプ大統領の手持ちカードはというと、誰もが分かっている「貿易関税」です。
それも「トランプ関税」とでも呼ぶべき、“バカげた利率”のカードです。
ただ、ポーカーゲームでは、自分の手持ちカードを最初に見せる“バカ”はいません。
ということは、トランプ大統領が最初に掲げるカードは、ブラフ(bluff)と呼ぶ「はったり」カードです。
これで相手を脅し、自分に有利なカードを相手に出させる「お決まり」のカードです。
こんなことは、読者のみなさまはもちろん、世界中が分かっていることです。
分からないのは、彼が懐に隠している本物のカードの中身です。
 
でも、確信を持って言えますが、彼自身、このカードの中身をよく吟味していないのだと思います。
「とにかく、出来るだけ高い関税を」という願望カードに過ぎないのです。
だから、そこを中国に見透かされ、双方115%引きというバーゲン結果で、事実上の負けに終わっています。
 
彼は、最初に日本から大幅な譲歩を引き出せると思っていたようです。
それを成果に、各国から大きな譲歩を引き出す戦略だったわけです。
そうすれば、ゼロサムゲームで自動的に米国の利益が上がると目論んだわけです。
だから、首脳会談で石破首相に「君はハンサムだ」と“歯の浮くような”言葉を並べ、渡米した赤澤大臣をわざわざ大統領執務室を入れ、ツーショットまで撮らせたわけです。
しかし、石破首相も赤澤大臣も、良くも悪くも「鈍感が服を着ている」ような方ですから、大統領の空振りに終わっています。
願わくは、お二人とも、この姿勢で「のらりくらり」を続けて欲しいものです。
キャラクターとして、ぴったりな役回りですから。
 
今、トランプ大統領は相当に焦っています。
彼は、とにかく大幅減税の予算を通して「減税大統領」の評価が欲しいのです。
それで、まずイーロン・マスクを使って連邦予算の大幅削減を実現し、その上で、高関税で外国から資金を吸い上げ、それを減税に回すというシナリオを描いたわけです。
つまり「予算の削減額+関税収入額=減税額」というゼロサムゲームです。
 
たしかに上式は、単純には成り立ちますが、世界経済はそんなに単純ではありません。
実際、世界経済全体は拡大を続けていて、決して「ゼロサムゲーム」で動いてはいないのです。
そのカギは、労働生産性の向上にあります。
次回は、その話を。
 
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┃◇USスチール買収問題(前編)                ┃
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この問題にもトランプ大統領が絡むので嫌になりますが、我慢してお読みください。
 
5月23日、トランプ大統領は、突如、日本製鉄によるUSスチールの買収を承認することを示唆しました。
だが、あくまでも“示唆”であって、「承認」ではないので要注意です。
しかも、奥歯に物が挟まったような表現で、「計画的なパートナーシップ」という意味不明な発言をしています。
 
USスチールの創業者「アンドリュー・カーネギー」は、鉄鋼王という称号だけでなく、カーネギーホールに名を遺す米国きっての文化人です。
ゆえに、同社は、多くの米国人の心理に触れる会社なのです。
しかし、その名門企業の前途は真っ暗で、倒産前夜と言ってよい状況に追い込まれています。
同社の窮状をチャンスと見た米国の鉄鋼大手クリーブランド・クリフスが買収を表明していますが、日本製鉄の半分程度の「火事場泥棒」と言える提示額です。
しかも同社には、日鉄に比べ数段劣る製鉄技術しかありません。
 
さすがのトランプ大統領も、日鉄に支援してもらう以外の道は無いと悟ったのでしょう。
しかし、日鉄が望む100%子会社化は実現させたくないというジレンマにあります。
彼は、昨年の大統領選挙中からこの買収には断固反対してきたので、この反対は選挙公約のようなものです。
それが「承認」へと180度舵を切ったわけです。
この背景を考察してみます。
 
第一の要素は、当のUSスチールの経営陣だけでなく労組および従業員全員が日鉄による買収を熱望している点です。
ピッツバーグ郊外にある同社のアーバイン工場において、USW(全米鉄鋼労働者組合)の副支部長を務める同社の労組委員長のジェイソン・ズガイ氏は、「連邦政府が主要な役割を果たし、ディールが成立したように見える」と言い、「ほっとした。ハッピーで、感謝している」とまで述べました。
地元ペンシルベニア州の住民はもちろん大喜びで、本社工場を置く鉄鋼の街ピッツバーグだけでなく、周辺の州を含めた政治家たちも、共和党はもちろん、民主党中道派も「トランプ大統領の承認で日本製鉄が巨額の投資を行い、老朽化した施設を作り変えることで、USスチールは蘇り、地元の雇用も維持される」と全面的な支持を表明しています。
 
全米の投資家たちも、この買収承認を支持しているようで、同日5月23日のニューヨーク株式市場で、同社株は一時26%も急騰し、終値も21%あまりで終えました。
東京市場でも、日本製鉄の株が7%上昇しました。
 
しかし、最大の懸念は、まさにトランプ大統領自身にあります。
米国の経済誌が指摘しているように「いったい、トランプ氏が何を承認したのか、はっきりと把握できていない」状態だからです。
トランプ氏本人は5月24日の記者会見で、「これは投資であり、部分的な所有だが、米国によってコントロールされることになる」と話したが、この“あいまいさ”は、彼自身が真に決断できていないことを証明しています。
果たして日鉄が実質的な経営権を握れるのか、完全子会社化が承認されないとしたら、いったい、どのような投資形態になるのか、「パートナーシップ」などという意味不明な言葉に騙されるわけにはいかないのです。
 
私は、トランプ大統領の腹の中は、「100%ではなく過半数の株式取得」で日鉄を納得させ、その上で工場強化の巨額の投資と技術供与を引き出す。さらに米国政府が同社の政策決定を覆せる権限を持つというような“虫の良い”決着を狙っているのだろうと見ています。
この問題、次号に続けますが、1ヶ月で事態がどう動くのか、報道と併せてお読みください。
 
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┃◇新車陸送の世界(2)                  ┃
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当時19歳だった私を含めて15人ぐらいの陸送メンバーを乗せたマイクロバスが着いた先は、日産自動車の座間工場でした(この工場は日産の主力工場でしたが、1995年に閉鎖されました)。
時刻は夜の10時になっていました。
同工場は、当時、3交代制で24時間(つまり休み無しで)稼働していました。
おそらく当時の日本においては、多くの製造会社は同様の稼働状況だったと思います。
 
マイクロバスは、正門でチェックを受けた後、工場内の広い道路に入りました。
ちょうど夜間勤務の休み時間だったようで、数えきれないくらい立ち並んでいる工場群から疲れ切った表情の工員たちが構内道路に出てきて、タバコを吸ったり縁石に腰を下ろしたりしていました。
ゆっくりと走るバスの窓から、その光景を眺めていた私は、一瞬、バスを見上げた一人の工員と目が合いました。
疲れ切ったような彼の表情が過酷な深夜労働を物語っていました。
ですが、その後に自分が味わう世界は、それ以上に過酷で危険に満ちたものであることは、その時点ではまったく分かっていませんでした。
 
やがて、バスは広大な広場のような場所で止まりました。
私は、薄暗がりの中で、そこの光景に目を見張りました。
数百、いや数千台はあるように思える数の車が広場を埋め尽くしていたのです。
それもすべて新車。
この膨大な数の新車を、これから本牧埠頭まで、我々が運ぶのです。
そんな私の驚きを見て、横の席の社員が笑いながら言いました。
「安心しろ、運ぶのはウチだけじゃない。ものすごい数のウチみたいな会社があるんだよ」
そうだろうとは思いましたが、とにかく想像もつかない世界なんだなという思いがこみ上げてきました。
 
やがて、リーダーは私たちにカードを配りながら「各自、自分が運ぶ車を間違えるなよ」と注意を促しました。
横にいた先輩社員が「初めてだからわかんないだろう」と言って私のカードを見て、「この最初のアルファベットが車の置いてある場所なんだ。お前は“T”か。真ん中あたりだな」と走り始めました。
私も慌てて彼を追いかけて走ります。
ある場所で止まった彼は「いいか。“A”列が一番手前で、“Z”が最後列だ。
そして、ここが“T”だ」と、「T」を示す標識を指さしました。
次に、その後の2桁の番号を確認して、「これが横の配列だ。付いてこい」と、今度は横に走り出しました。
そして止まると、「87番はこれだ。これが、お前が今から運ぶ車だ」と言いました。
そこには、ピカピカの“出来立て”の2tトラックがありました。
ダットサン・トラック、通称“ダットラ”と呼ばれていた日産のヒット商品で、米国で売れに売れていた排気量1500ccの小型トラックです。
そして、その車は左ハンドルでした(当たり前!)。
つまり、北米向きの輸出車です。
先輩が「お前、左は初めてか?」と聞くので「ハイ」と返事すると、「ペダル類は右ハンドル車と同じだ。方向指示器とワイパーのスイッチが逆になるだけだ」と教えてくれました。
 
私は、その車の前方部分を見て気付きました。
「バックミラーが付いてないですね」
先輩は、「お~、忘れるところだった」と言い、手に持っていたバックミラーを私が乗る車の右側の窓枠に取り付けながら、言いました。
「いいか、この“取り外しできる”ミラーがお前のミラーだ。常に大切に持ってろ」
そして「アメリカ向けの車は、着いた先、つまりアメリカでミラーを取り付けるんだ。日本からはミラー無しで出荷する。でも、それだと陸送中は後ろが見えない。だから、こうして取り外しできるミラーを臨時に取り付けて運転するんだよ。埠頭に着いたら、そのミラーを外して持って帰り、次に運ぶ車に同じように着けるんだ」と教えてくれました。
「ハイ」と返答した私に向かって、彼は「おまえ、レーシングチームのメカやってるんだって。だったら運ぶ前の点検方法は分かるな。と言ってもなあ・・」と、そこで言葉を飲み込みました。
私は「うん?」と思いましたが、彼はそれっきり、「じゃあ、点検が済んだら、すぐに工場を出て、先行している仲間を追え。仲間が見えなくなったら、とにかく本牧埠頭に急げ」とだけ言うと、自分が運ぶ車を探しに去っていった。
いったい、彼は何を言いたかったのか。それは次回、分かります。
 
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<編集後記>
大相撲の大の里が横綱に昇進しましたが、彼の父親が書いた手記が地元石川県で物議をかもしています。
中学で他県に「相撲留学」をさせたことで、「地元の多くの人に『裏切り者』と言われました」と明かしたからです。
それを聞いて、あることを思い出しました。
ちょっと長くなりますが、以下に。
 
私のスキー時代に良きライバルだった友人がいます。
彼は、東北の地元では技術が伸びないと考え、当時、私が所属していた日本一と言われた新潟県のスキー学校に研修生として入ってきました。
彼の能力は高く、またたくまに私は追い越されました。
翌年、彼は地元の県で準指導員試験に挑みましたが、不合格にされました。
どうやら、「地元を捨て、新潟へ行った“けしからん”ヤツ」と地元県の幹部から睨まれ、落とされたという話を聞きました。
彼は仕方なく、翌年、新潟県の試験を受け、見事トップで合格しました。
こんな話、今もあるのですね。
 
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