2017年5月31日号(経済、経営)

2017.06.19

HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2017年5月31日号
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発行日:2017年5月31日(水)
 
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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           2017年5月31日号の目次
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☆フィデューシャリー・デューティー
★「一帯一路」の成功確率は?
★労働は「価値」ではなく「苦役」なのか?
☆短期的変動に備える経営へ(5)
これからの商売(1):ライザップ商法
 
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こんにちは、安中眞介です。
今号は経済、経営の話題をお送りします。
 
東京五輪の開催費用の分担について、400億円といわれた近接県の負担を350億円とし、かつ、どこがどう負担するかはグレーのままで「概ね決着」と報道されました。
でも、「これって、決着と言えるの?」でしょうか。
神奈川、埼玉、千葉の各県知事は「1銭も払わん」という姿勢を崩していません。
結局、東京都の丸抱えとなるのでしょうか。
さて小池都知事はどう裁きますか。
 
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┃☆フィデューシャリー・デューティー                ┃
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この言葉、読者のみなさまは聞いたことがありますか。
昨年7月、金融庁長官に就任した森信親氏の金融行政改革のキーワードと言われている言葉です。
英語で書くと“Fiduciary Duty”となるこの言葉、日本語では「受託者責任」と訳されています。
なじみの無い言葉なので、正直、よく分かりません。
そこで、元財務官寮の知人に詳しく教えてもらいました。
 
「フィデューシャリー・デューティー」は、昔からある金融用語で、前述したように「受託者責任」と定義されてきました。
信託銀行などのように、顧客から資金を預かって運用し、顧客の資産形成を助ける仕事をする機関が顧客に対して負っている「責任」と解釈されてきました。
つまり、そうした一部の金融機関だけが負っている責任と理解されてきたわけです。
 
ところが、金融庁の森長官は、今回、こうした「受託者責任」を、金融商品を扱うすべての金融機関にも求めると打ち出したのです。
例として、弁護士、会計士、税理士、医師などの「士業」を思い浮かべてみてください。
彼らは、専門家として顧客の利益を全力で守る義務を負わされています。
彼らと顧客との間には、圧倒的な情報量や技量の差があることから、仕事を請けた以上、最大限の「受託者責任」があるというわけです。
これと同じ責任を、銀行や信用金庫などの一般の金融機関にも求めるということなのです。
 
実は、「フィデューシャリー・デューティー」は、昨年、一般の金融機関にも通達されていました。
しかし、金融機関は「顧客満足度を高めれば良いのだろう」程度にしか理解していませんでした。
そして、相も変わらず、カネを持っている人には、資産形成に疑問があるような投資信託や保険商品を売りつけ、さらには、アパートローンなどを積極的に勧めてきました。
また、一般大衆に対しては、実態はサラ金である「カードローン」を大々的に売り出してきました。
ピーク時に10兆円といわれたサラ金は4兆円規模まで縮小しましたが、銀行のカードローンは、いまや5兆円です。
サラ金には厳しい規制を掛けながら銀行のカードローンに対しては野放しだったのですから、結果がこうなるのは当然です。
 
こうした金融機関の姿勢に業を煮やした金融庁は、森長官の指示で「フィデューシャリー・デューティー」の定義を「真に顧客本位の業務運営」と見直し、金融行政の最重要施策としたのです。
つまり、「あらゆる金融サービスが対象となる」と銀行等へ通告したのです。
 
企業への貸出しに対しては、これまでの担保や保証人、信用保証会社の保証に頼るのではなく、金融機関が、自らの努力で「顧客企業の経営内容や経営計画を評価」して貸し出すことを強制したのです。
そして、その政策に沿った新規の融資制度を打ち出しました。
金融庁のこの転換は、これからの金融庁査察が、これまでの不良債権探しから顧客企業の分析や積極投資支援の実施調査へと移ることを意味しています。
 
この新たな金融行政改革は、銀行、証券、保険など、金融に係る全ての機関のあり方を一変させる要素を秘めています。
企業経営者は、付き合っている金融機関と積極的にこのことを話し合うべきです。
程度の差はあるでしょうが、金融機関の姿勢の変化を感じ取れると思います。
 
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┃★「一帯一路」の成功確率は?                   ┃
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中国が推進している「一帯一路」、この言葉を「聞いたことがない」という方はいないと思いますが、中身となると「よく分からない」という声が多いと思います。
日本では、その裏に中国政府(というより、習近平主席)の野望が秘められていると警戒する向きが強いですが、それとて「よく分からない」が偽りのない感想だと思います。
そんなわけで、少しでも理解の助けになればと、簡単な解説を以下に述べたいと思います。
既にご存知の方は、読み飛ばしてください。
 
5月14~15日に「一帯一路」の初めての国際首脳会議が北京で開かれた。
中国の意気込みはすごく、会議中、北京近郊の全工場の操業を停止させ、車の乗り入れも大幅に制限させた。
その甲斐あって、普段は深刻なスモッグに覆われている北京だが、当日は青空が広がった。
中国の歴代皇帝は「天につながる」として抜けるような青空を好んだと言われている。
現代の皇帝とも称される習近平国家主席もその例にもれず、「青空を作れ」と指示したのであろう。
 
そんな青空をバックに会議は中国がぶちあげる花火のような巨大プロジェクトの説明に終始していた。
ここで、おさらいをするが、「一帯一路」を一言で言うと、2013年に習近平主席が打ち出した「中華経済圏構想」である。
ユーラシア大陸の内陸部と周辺海域のインフラを整備し、すべてのルートを北京につなげるという「現代のシルクロード」だと言われている。
中国は、世界経済の発展に寄与すると訴えているが、実態は過剰生産に陥っている中国の工業製品のはけ口であり、インフラ整備を通じてアジアおよびユーラシア大陸の覇権を狙うという一石二鳥・三鳥の構想である。
 
そんな見え見えの構想に、EU諸国をはじめ多くの国が参加しているのは、単純な理屈である。
「カネは出したくないが、仕事にありつけるかもしれない」である。
 
中国が鳴り物入りでスタートさせたAIIB(アジアインフラ投資銀行)は、このための資金調達機関であり、他にも「シルクロード基金」「BRICS銀行」を創設した。
しかし、いずれもAIIB同様、「プロジェクトは欲しいがカネは出したくない」参加国だらけで、実態は中国の銀行に過ぎない。
 
主力となるはずのAIIBは2016年1月に開業したものの、半ば休眠状態である。
加盟国の数こそ日米中心のアジア開発銀行(ADB)を上回ったが、実際に払い込まれた出資金は定款上の資本金の7%にも満たないという有様である。
しかも、商売である融資実績は、単独融資はほとんどなく、多くはADB融資に相乗りしただけに過ぎない。
中国はADBから融資を受けAIIBに資金を入れているという笑えない現状も露呈している。
 
中国政府は、動きが取れないAIIBではなく、中国の国家開発銀行(CDB)や中国輸出入銀行(EXIM)などの政策銀行からの低利の融資を財源に「一帯一路」にからむ融資を、アジア、中東、アフリカに既に2000億ドル(約22兆円)も実施している。
さらに、今回の「一帯一路」会議では、両行がさらに550億ドル(約6兆円)を融資する予定であることを発表した。
 
これらの巨額融資を中国自らが支えるとすると、同国の外貨準備高が原資となるが、昨年だけで7000億ドル(77兆円)もの外貨が国外に流出し、外貨準備高は3兆ドル(約330兆円)にまで急減している。
しかも、この準備高には4.6兆ドルといわれている海外企業や海外金融機関への債務の大半が含まれている。
つまり、実際の外貨準備高はゼロに等しいのである。
 
習近平主席は、「一帯一路」構想の最大の障害は資金面だとして、そのボトルネックの解消を狙っているが、日米の参加がなければ、成功確率は極端に低くなるのが明白である。
日本は、当面模様眺めを決め込むほうが良いのであろうが、財務官僚の中には親中派の官僚も多い。
彼ら高官が中国政府に懐柔されることが危険要素かもしれない。
 
次号で、「一帯一路」プロジェクトの現場の実態を少し述べたいと思います。
 
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┃★労働は「価値」ではなく「苦役」なのか?             ┃
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過労死や長時間残業がクローズアップされたことで、今や労働は「価値」ではなく「苦役」となり、すっかり悪役となってしまった感がある。
そうした風潮に安倍内閣が唱える「働き方改革」がなびいていった結果、労働時間の一律規制や「○○フライデー」のような一律的な労働規制ばかりが強化される傾向にある。
しかし本当の問題は、長時間労働ではなく「自律性が欠如した労働観」や「理不尽な職場環境」なのではないか。
労働時間を一律に規制し、強制的に休日を増やせば、過労死がなくなり、自律性のある職場に変わり、かつ収益を上げることが出来るというのであろうか。
私には、どうしてもそうした道は見えてこないのである。
 
労働の歴史を少し調べたのであるが、「労働」を意味する言葉は、ラテン語の「トリパリウム」が語源ということである。
それがフランスに伝わり、“Travail”(トラバイユ)となり「労働」と定義されたようである。
元々の語源は、「重い荷物を載せた車輪がきしむ音」からきた言葉であり、古代の奴隷たちの労働をさす「労苦」や「苦役」というような意味で使われていたとのことである。
英語の“Labor”も、同様に「奴隷(Slave)」から派生した言葉で、やはり「苦役」という意味になっている。
 
では、欧米人は、労働を本当に「苦役」と感じていたのであろうか。
そんなことはない。
中世時代の職人たちの書き残した文書が残っているが、そこには「労働は苦しいこともあるが楽しみもある。なにより達成感が素晴らしい」ことが書かれている。
決して「苦役」とだけ感じていたわけではなかったのである。
 
しかし、産業革命が労働環境を一変させた。
単純な長時間作業が増え、しかも利益は労働をしない資本家が独占する。
つまり、資本家と労働者という階級社会の出現である。
階級社会の下で、労働者は命令に従うだけの労働に従事し、しかも厳重な監視下におかれる。
こうした労働環境を絶望的なまでに加速させたのが、米国のフォード社が始めたとされるベルトコンベア方式の生産ラインである。
 
これは、それまでの職人的な「ものづくり」の仕事を、一つずつ単純労働に分解し、横につなぐことによって、熟練の職人と同じものが生産できる「画期的」な方法であった。
このように労働が単純化されると、一つずつの労働のスピードを管理して生産量を最大化することが企業どうしの競争になる。
かくして、労働者にとっての労働は「製品をつくりだすこと」ではなく、「その作業に従事する時間」に変わってしまったのである。
経営者たちは、自社の利益を最大化するため、「時間管理」という生産管理手段を労働の現場に普及させ、現代に至っているのである。
 
しかし、当然の如く、こうした労働は労働者たちの不評を買った。
特に、自分の腕に誇りをもって働いていた職人たちの怒りは大きかった。
ストライキなどの職場放棄が起き、やがて、大規模な労働争議へと発展していった。
そこで、この不満を解消するために、20世紀前半のアメリカで「余暇を楽しむ」という考え方が出てきた。
「たとえ労働は苦役であっても、そのことによって高い収入を得て余暇を楽しむ。それが人間的な生き方なんだよ」という教えが、まことしやかに広がっていったのである。
現代社会は、まさにこうした延長線上に作られているのである。
 
労働は辛いけど、午後5時からの時間や休日を楽しみにし、働いて購入した家でくつろぐ。
車や電気製品などを買って物欲を満足させる。
さらに、子どもたちを上級の学校に進学させられる。
そういうところに人生の楽しみを見い出せば、労働の苦役にも耐えられる。
だから、「働いても労働外の楽しみが実現できないような低賃金や長時間労働」は「社会的悪」ととらえられるようになったのである。
 
しかし、本当にそれで良いのであろうか。
残業規制の強化や週休二日制の徹底などの「働き方改革」で、問題の多くは解決するのであろうか。
次号では、そこを論じてみたい。
 
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┃☆短期的変動に備える経営へ(5)                 ┃
┃  これからの商売(1):ライザップ商法             ┃
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今号からしばらく、「これからの商売」を論じていこうと思います。
もちろん、私も経営者ですから切実な問題です。
できるだけ具体例を“さかな”に、少しくだけた論評を心がけていきます。
第1回の“さかな”は「ライザップ商法」です。
 
「結果にコミットする」
こう聞けば、誰でも例のCM映像を思い浮かべるでしょう。
それだけ、あの赤井英和氏の膨らんだお腹と、事後の腹筋が浮き出た腹との対比は強烈でした。
赤井氏が元人気ボクサーだった経歴をうまく使ったCMには感心させられました。
(決して「高感度の高いCM」というわけではなかったことに、”特に注目“してください)
 
ダイエット商売は、古くからある商売で、雨後の筍のごとく登場しては消えていく商売です。
女性誌の広告では、化粧品と並ぶ2大広告といってもよいでしょう。
つまり、市場ニーズの非常に高い商売だということが第一のポイントです。
 
しかし、消費者の側から言うと、達成の難しさが「半端ない」という高いハードルの分野なのです。
そこで、近年は、耳に優しいキャッチのダイエット商法が主流になっていました。
いわく、「楽に痩せられる」「一日たった5分で」「普段の食生活のままで」・・
果ては「寝ている間に痩せられる」なんていう広告まであります。
「んなわけ、ね~だろう!」とツッコミたくなるような広告ばかりです。
 
そんな中に登場したライザップの広告、インパクトは特大でした。
しかも秀逸だったのは、「結果にコミットする」というキャッチコピーです。
10kg前後のダイエットが楽なわけはありません。
きつい運動と徹底した食事管理が欠かせません。
それが出来ないから人は太るのですから、当然のことです。
 
そんなこと、消費者はとっくに知っています。
知っていて挑戦しては、あえなく挫折を繰り返しているのです。
それを「結果を保証する」と言ってくれたのです。
入会金を含めて2か月で34万8000円(税別)という高額にもかかわらず、予約は数ヶ月待ちという状況らしいです。
当然、この会社は大儲けをしています。
 
成功したポイントは、それまでのトレーニングジム会社と正反対の商法であったことです。
従来のトレーニングジムは、会員を募り、機械やプールを自由に使わせるという方式で、指導員はいても、大勢を相手に初期の指導や機械の使い方を教える程度のサービスでした。
そのかわり、月1万円前後という低価格のビジネスモデルでした。
それをライザップは、「あなたのためだけの“オーダーメイド”」という完全なマンツーマンの個別指導で、食事内容の報告までさせて、違反には厳しい叱責までするという徹底ぶり。
かなりの高額だけど、目標が達成できなかったら返金するという甘い言葉も用意。
実際はほとんど返金なんか無いはずです。
日本人は「恥の文化」の中で生きています。
達成できなかったのは「自分の責任」で人のせいにするのは「恥」という思いがあります。
その心理を“いやらしい”ほどに掴んだ商法です。
 
私的な心理から言えば「嫌な商法」と拒絶反応が出ますが、論理思考からいえば、至極納得できる商法です。
「勝てば官軍」
これが商売の基本だと言えますから、違法でない限り賞賛すべきと思います。
 
ところで、「次はどうするのかな」と思っていたら、海外展開とゴルフや英会話という異分野への殴り込み。
「なんだ、ユニクロとおんなじか・・」と感じて、少し興ざめしています。
 
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<編集後記>
電通の社員さんの自殺を契機に始まった残業規制に対し疑問を述べたことで、賛同と同時に反論もいただいています。
誤解されるだろうと思っていましたので、少々追記をさせてもらいます。
 
私は、「修羅場が人を成長させる」というような従来の美談を奨励しているわけではありません。
職場がいやなら「逃げてもいいよ」とセットで語っているのです。
どちらも本人の意思による決定であることが大事なのです。
「理不尽さを我慢するか否か」も、どちらが正しいのではなく、どちらを選択するかなのです。
 
<建設ビジネスサロン>
5月は行いませんでしたが、6月はオフサイトのサロンを開催します。
14日(水)と21日(水)です。
どちらも時間は13時半~15時半、会場はHAL(ハルシステム設計)の1階会議室です。
会員でない方の参加も歓迎します。
無料ですので、気軽にお出でください。
 
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