2021年9月30日号(経済、経営)

2021.09.30


HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2021年9月30日号
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発行日:2021年9月30日(木)
 
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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2021年9月30日号の目次
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◇財政健全化がそんなに大事か?
☆今後の建設需要(20):建設論評
◇これからの近未来経済(11):山なり多重回帰曲線型経営(その2)
☆商品開発のおもしろさ(16):コンピュータの話(その1)
 
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今号は、経済、経営の話題をお送りします。
 
自民党・総裁選は予想通り、岸田氏の勝利で決着しました。
100代目という節目の首相になる岸田氏には、総裁選のとき以上に踏み込んだ経済政策を発表することを期待します。
経済とコロナ対策との両立は、安倍前首相も菅首相も、失敗とは言いませんが、成功したとは言えない結果でした。
最難関の課題ですが、成功すれば「名宰相」と評価されるでしょう。
経営者の端くれとして、そうした結果が出ることを切に望みます。
野党は失敗することを願っているでしょうが、そうなれば被害は国家・国民全般におよびます。
だから野党のままなのでしょうね。
さて、来たる総選挙で国民はどのような審判を出すのでしょうか。
 
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┃◇財政健全化がそんなに大事か?                  ┃
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日経は、電子版で「国の財政がさらに危うくなる。総裁3候補は、財政規律の回復に腰が引けている」と、岸田、河野、高市の3候補を批判しました。
まるで、日経は財務省の代弁者になったようです。
では、日経が支持する(?)野田氏の経済政策はと言うと、失礼ですが、まるで旧社会党です。
総裁候補とすら認められないのが、正直な評価です。
 
記事を読む限り、日経は国家、企業、家計の財務手法を同じと考えているように思えますが、本当にそう考えているとしたら、経済誌の看板を下ろすべきでしょう。
日経の主張を要約すると、「財政収支黒字化の目標は堅持し」、「規制改革によって雇用環境の改善を促し」、「消費税増税で財源確保を」となります。
この論調から判断すると、「大型の財政支出ではなくワイズスペンディング(賢明な財政支出)を目指し、消費税率引き上げの選択肢を排除しない」とする河野氏を、批判しながらも支持していたことが分かります。
では、今回の河野氏の敗北をどのように受け止めているのか、興味があります。
 
日経は、経済紙を自称する以上、冷徹なデータ分析を基に経済政策を論じるべきです。
6月に発表された日銀の「資金循環統計」では、家計の金融資産は、1946兆円と過去最高を記録しました。
しかも、このうちの54%、1056兆円が現預金なのです。
格差はあれど、こんなに国民が豊かなおカネを持つ国は、日本以外にありません。
立憲民主党の枝野党首は、与党の政策を「金持ちが、大金持ちになっただけ」と批判しましたが、全くの経済オンチぶりを露呈している発言です。
実際は、一般国民の金融資産が大幅に増えているのですから。
 
こんなことを書くと、「ふざけんな、ウチの家計は大変だよ」とブーイングを受けそうですが、世界を見れば、日本国民がいかに裕福かが分かります。
 
ただ問題は、2000兆円近い家計の金融資産がほとんど“死に金”になっていることです。
例えば、このうちの1割、200兆円を預かっている「ゆうちょ銀行」の運用実績を見れば分かります。
同行は、有能なファンドマネージャーたちを欧米から引き抜き、様々な政策を立案させましたが、そのほとんどは道半ばで頓挫、結局、彼らの多くは絶望して去っていき、元の木阿弥に戻ってしまいました。
 
世界最大の公的年金の運用主体であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のガバナンス改革も、少し効果が出たところで足踏み状態。
官民ファンドの立ち上げも、縦割り省庁の利権確保で乱立のあげく、すべてが立ち枯れ状態。
せっかく集めた人材も霧散状態です。
 
今の日本の一番の問題点は、ここにあります。
官庁の権限を抑制し、相応の報酬で国内外から集めた人材で構成する独立組織に権限を移譲し、政策立案と執行をさせるべきなのです。
国会は、その結果を総括し、立法によって方向を正していく場にすることです。
このことを今回の総裁候補者たちの口から聞きたかったのですが、誰からも答えは得られませんでした。
ぜひ、新首相から聞きたいものです。
 
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┃☆今後の建設需要(20):建設論評                ┃
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今号は、建設需要の話と少し離れますが、大きな意味ではつながる話をします。
 
9月24日付けの日刊建設通信新聞の「建設論評」に目を引かれました。
「最適はつまらない」との題名に「?」と思い、読み始めました。
最近のトレンドとなっているDXやAIといった技術のデジタル化が行き着く「最適化された世界」は、「つまらない世界になる」という警告のような内容でした。
同紙は、建設産業のデジタル化の旗振り役をしているように感じていたので、「ほう~」と思って読み進みました。
結論は、日頃、私が感じていた違和感を見事に代弁してくれていました。
 
建設産業に限らず、現代のデジタル化が目指しているのは、まさに「最適化」です。
しかし、AIと呼ばれていても、半導体素子が人間の頭脳のように働くわけではありません。
所詮は、0と1の2進法の世界です。
実態はソフトウェアの世界に過ぎません。
かつ、そのソフトウェアは、みな同じようなアルゴリズムで作られていますから、最適化の行き着く世界は、みな似たような世界になってしまいます。
つまり、「多様性を重んじる世界へ」と言いながら、一点に集約していく「つまらない世界」に向かっているのです。
 
純粋に技術だけの産業ならば、それも良いでしょうが、建設産業は「人間の営みを支える産業」です。
解答が最適化された“ひとつ”であって面白いわけはありません。
 
と、ここで古い記憶がよみがえりました。
私の長女が小学6年の時で、私が、たった1回だけ授業参観に行った時のことです。
算数の授業で、先生が図形の問題を出し、生徒が答えるという形の内容でした。
淡々と授業は進んでいき、最後に、先生は難しい問題を出しました。
誰の手も上がらず、先生は「しょうがないな~」と言いながら、黒板に答えを描いていきました。
そこまでは普通の授業風景でした。
 
ところが、最後に先生が「これがただ一つの答えです」と言ったことで授業の様子が一変しました。
張本人は私です。
「答えは、これひとつ」と聞いた瞬間、無意識に手が上がり、「違います、まだ他に答えはあります」と言ってしまったのです。
授業参観に父兄が乱入した格好になったのですから、参観していた父母も子どもたちも、一斉に私のほうを見てフリーズし、教室は静まりかえりました。
 
私は「しまった!」と思ったのですが、先生は落ち着いて「では、前に来られて黒板に答えを描いていただけますか」と私に問い掛けました。
その言葉で、私は前に出て、黒板に、もう一つの解答を描きました。
その瞬間、子どもたちが一斉に声を上げたのです。
「こっちの答えのほうがキレイだ」
驚いた私は、先生を見ましたが、先生は落ち着いて「確かにそうだね。こっちのほうがキレイだね」と仰ってくれました。
私が後ろに戻る時、子どもたちは一斉に私に向かってVサインを送ってくれました。
 
私は、授業妨害するつもりも、自慢するつもりもなく、ただ純粋に「答えというものは、たった一つではない」ということを、子どもたちに考えて欲しかったので、思わず手が上がってしまったのです。
多分、その真意を分かってくださって、私に「答えを・・」と言ってくださった先生がすばらしいと思いますし、結果としては良かったと思っています。
 
長々と昔話を書きましたが、日刊建設通信新聞の「建設論評」も、人間の才能が単なる最適ではない“リズム”を生み出す“と、人間の感性の重要性を説き、そうした人材教育の大切さを説く結論になっていました。
さて、同紙は、自らが興したこの問答に対し、どのような回答を出していくのでしょうか。
今後の紙面を楽しみにしています。
 
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┃◇これからの近未来経済(11):山なり多重回帰曲線型経営(その2)┃
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前号で述べた創業期に陥る落とし穴を逃れた弊社は、数年で想定した以上の業績に達しましたが、そこに第二の落とし穴が待っていました。
急激な成長に伴い社員数も増えましたが、未成熟な統治機構が影を落とし始めました。
2本の柱だった建築設計部門とIT部門の対立が顕在化してきたのです。
両部門の幹部の心理的な衝突も増えてきましたが、私は新事業にかかりきりで放置していました。
「ともに大人なんだから・・」という期待感で放置したのです。
しかし、建築設計部門の幹部は40前後、IT部門は30前後でした。
そのようなことに無頓着だった私の欠点が露骨に出て、事態は深刻さを増していきました。
 
私は、子供の頃より“ものを作る”ことが食事することより好きでした。
創業にはそれがプラスとなりましたが、会社が一定の規模になると、それが裏目となったのです。
軌道に乗ったかに見えた建築設計とITの仕事への興味が薄くなり、新事業の立ち上げのほうに没頭してしまったのです。
 
企業の成長には一定の時間が掛かりますが、凋落は早いものです。
経営破綻の足音は一気に迫ってきました。
社員の退職が始まる前に、幹部たちの離脱が起きました。
「社長に、どこまでも付いていきます」と言った者ほど、先に辞めていきました。
人間とはそんなものだと思い知り、自分の甘さを呪いました。
 
「悪い時には悪いことが重なる」と言いますが、その通りです。
業績が下降に陥った時に、妻がガンで手術するという事態が重なりました。
医者から「手術の成功率は5%」と言われたことで、本人にはガンを隠すことを決意し、両方の家族にも言いませんでした。
重大事を自分ひとりの胸に収め続けることの苦しさは計り知れませんでしたが、これも自分への試練と受け止めて貫くことを決意しました。
 
この頃、私の頭の中にあった考えは以下のとおりです。
「私は、自分が末期ガンだと言われても耐えられる人間だ。ゆえに運命は、私自身を痛めつけるのではなく、私の最大の弱点を、こうした形で突いてくるのだろう。負けるわけにはいかない」
そして、
「思い返してみれば、サラリーマン時代から今日まで、私は後ろへ下がった経験がない。
いま初めて撤退戦を戦う局面に直面した。これも経験だ。必ず抜けてみせる」と決意しました。
 
もちろん、自分ひとりの力で倒産の危機を抜けたわけではありませんが、非常事態では何よりもトップの決意が重要です。
それがあって始めて様々な支援の手が伸び、奇跡のような事態が起きます。
 
しかし、「そうした経験が大事なのだ」というつもりは全くありません。
創業期から危機を脱するまで蓄積してきた経営データを詳細に分析して、一定の法則を見出したのです。
そこから理論化した手法が「山なり多重回帰曲線型経営」です。
次号で、そのことを述べたいと思います。
 
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┃☆商品開発のおもしろさ(16):コンピュータの話(その1)    ┃
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弊社の主力商品は、建設企業向けの基幹業務パッケージソフトウェアです。
つまり、工事の原価管理や財務管理、営業支援や見積作成、その他の機能をパッケージにしたシリーズ商品です。
建築設計を柱として始めた創業でしたが、その後、事業の主軸をソフトウェア開発に移したことで高収益の企業となり、その収益資金と借入金でパッケージ商品の開発へとさらなる方向転換を果たしたことで、今日の弊社があります。
その二度の転換を促した原動力は「商品開発のおもしろさ」です。
 
ここまで様々な商品開発の話を続けてきましたが、今回からコンピュータおよびソフトウェアシステムの話をします。
 
私は、大学で初めて扱った時から半世紀以上、コンピュータと付き合ってきた人間です。
それより以前、小学6年の時、科学雑誌でパスカル計算機が世界で最初に発明された計算機だと知り、同じものを自作しました。
この計算機は、複数の歯車を組合せた動きで掛け算、割り算まで出来ました。
このパスカル計算機の基本原理は現代のコンピュータでも同じです。
その意味から言えば、60年以上、コンピュータと付き合ってきたことになります。
 
その原点となるパスカル計算機の発明者パスカルは、「パスカルの原理」で有名な物理学者であり、また、「パンセ」などで有名な哲学者でもあります。
それだけでなく、思想家、数学者、神学者、実業家でもある超天才です。
また発明家でもあった彼が発明した中に、このパスカル計算機がありました。
友だちの家で読んだ「子供の科学」という本に、この詳細な図面が載っていました。
夢中になって、その図面を書き写し、自分なりに部品の設計図を描きました。
木を削って何枚もの歯車を作り組み立てましたが、微妙な噛み合わせがうまくいかず動きません。
何度も何度も作り直し、ようやく滑らかに動いた時は「やった」と叫んでしまいました。
そして、四則演算をやってみて、全ての答えが一致した時には、「パスカルってすげえな」と感動したものです。
このように、パスカルやガリレオ、アルキメデス、ニュートン達が、子供時代の私の先生でした。
さらに、アムンゼンやスコット、リビングストンといった探検家たちがもう一方の先生でした。
その先生たちからは、知識だけでなく未知への挑戦心と折れない精神力を学びました。
すべての子供、そして若者に言いたいです。
偉大な先人たち、そして偉大なる自然が自分の先生になるのだということをです。
 
現代のコンピュータの生みの親は、天才数学者フォン・ノイマンです。
「人間のふりをした悪魔」と称される彼のことを、次号で論じたいと思います。
 
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<編集後記>
「今年は山岳遭難が多く、その多くが高齢者」との報道をよく目にします。
「高齢者から運転免許を取り上げろ」という声も聞きます。
高齢者=罪人のように感じますが、攻撃している若者も、いずれは高齢者になるのです。
そのとき、同じ悲哀を感じるのでしょうね。
 
登山者の多くが中高年ですから、遭難者の割合も多くなるのが当然です。
また、登山者全体に占める遭難者の割合を考えれば、ごくごく少数のはずです。
マスコミは、ことさら、こうしたニュースを多く流すことで社会的悪者を仕立て上げていきます。
マスコミ以上に、ネットの世界は「言いたい放題、やりたい放題」の無法世界となっています。
それを煽る形になっている昨今のマスコミ報道のあり方に危惧を覚えます。
 
 
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