2025年6月15日号(国際、政治)

2025.06.16


HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2025年6月15日号
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発行日:2025年6月16日(月)
 
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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2025年6月15日号の目次
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◇小泉農水相はヒーローか
◇日本は同じ過ちを犯してしまうのか(続編)
◇トランプvs DEI(その1)
 
<HAL通信アーカイブス>http://magazine.halsystem.co.jp
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こんにちは、安中眞介です。
今号は国際問題、政治問題をお送りします。
 
日本製鉄は、米鉄鋼大手USスチール買収をトランプ米大統領が承認したことに関連し、両社が米国政府との間で国家安全保障協定(詳細内容はまだ不明)を結んだことを明らかにしました。
この問題は、月末の号で改めて取り上げる予定です。
 
ということで、今号は米騒動で突如前面に躍り出てきた小泉進次郎氏の話題から始めます。
 
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┃◇小泉農水相はヒーローか                 ┃
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令和の米騒動のドタバタ劇に小泉進次郎氏が新農水相として登場したことで、本当の劇場になってしまいました。
コメの品切れと異常な高騰に世間が沸騰しているところに、責任者である前農水大臣の発言が火に油を注ぐ結果となりました。
そこへ颯爽と登場した小泉農水相は、持ち前のタレント性をいかんなく(?)発揮し、「5kgで2000円」とか「いくらでもコメを供給する」とか、歌舞伎役者のような大見えを切りました。
すると、確かに、かなり古い米とはいえ、5kg2000円の米が店頭に出てきました。
TVでスーパーの店頭に大勢が並ぶ映像が流れたときは、「へえ~」と思いました。
 
無自覚に、こうした現象だけを見れば、小泉氏はまさに「ヒーロー」と言えるのかもしれません。
巷では「次の総理は小泉進次郎で決まり」などという声まで上がっています。
確かに、この勢いのまま参院選で過半数維持となれば、あながち「夏の夜の夢」ではないかもしれません。
ただ、「どこか変?」と思うのは私だけでしょうか。
この交代劇は、仕組まれた三文芝居のような気がするからです。
 
以前から、小泉氏の言動の軽さには疑問符以上の違和感を覚えました。
これから日本が迎える厳しい外交や内政改革の“かじ取り”を彼が担えるとは到底思えないのです。
観客を意識したような劇場型パフォーマンスに内実が付いてこないことが第一の理由。
能力のあるブレーンチームの存在が見えないことが第二の理由です。
結局、父親と同じ、ただの「壊し屋」に終わってしまうと思うのですが・・
 
そうは言っても、野党にも期待できない現状は、とても“寒い”です。
一時期「103万円の壁問題」の提起などで話題の中心になった感のある国民民主党も、玉木党首の個人問題の件以来、勢いが陰っています。
そこに来て、参院選の比例候補に問題の人を公認したり取り消したりとドタバタばかりが目立ちます。
支持した人たちの“がっがり”感が強くなり支持率は下がる一方です。
維新の会も失速したままで浮上の気配もなく、「関西の政党」で終わってしまいそうです。
そして、本来、野党の中心になる立場の立憲民主党ですが、野田党首の言動が旧態依然の新鮮味ゼロで、期待感もゼロです。
結局、自民党が少し負けるぐらいの結果で「何も変わらない」で終わりそうです。
 
ただ、こうした政治の不毛状態をもたらしている最大の責任者は、自民党でもなく野党でもなく、まして石破首相でもなく、有権者たる我々国民です。
とりわけ若い人たちの無関心、無気力さは深刻です。
こんなことを言うと、「うるさい年寄りだ」と言われるでしょうし、「そもそも、あんたら団塊の世代が、こんな日本にしたんじゃないか」と批判されるでしょうね。
その通りなのですが、そんなことを言っていても若い方たちの未来は開けません。
一つぐらいは年寄りの言うことを聞いて、選挙に足を運びませんか。
万が一ですが、投票率が70%、80%になったら、日本は劇的に変わること確実ですから。
 
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┃◇日本は同じ過ちを犯してしまうのか(続編)        ┃
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4月30日号(経済、経営の話題)の『◇日本は同じ過ちを犯してしまうのか』の最後で、以下のように書きました。
「40年前と状況は同じではなく、日本が打つべき手はあります。しかし、今の日本政府が40年前以上に無策なことが最大の危機です。今年中に、政治の仕組みを根本から変えなくてはなりませんが、その責任は国民にあります。その話は、次号(5/15号)で」との内容でした。
ひと月跳びましたが、今号でその続きを送ります。ただし、予告とは少し違う論点の話を送ります。
 
世界シェア80%近かった日本の半導体を追い落とすために米国が使ったのが「スーパー301条」です。
これは、「米国の安全保障上の脅威を取り除く」という伝家の宝刀です。
この宝刀の前に、日本は抵抗することもなく敗れ去りました。
日本では「同盟国なのに・・」という嘆き節が聞かれましたが、それも虚しく、「再びの敗戦」という屈辱を味わうことになったわけです。
 
実は、このとき「スーパー301条」の適用対象になったのは、半導体だけでなく、当時、東大理学部の助手であった坂村健氏が開発した「TRON=トロン」というOS(オペレーティングシステム)もそうだったと報道されていて、私もそう思っていました。
しかし、後年、坂村氏ご本人がそのことを、以下のように説明していました。
「あれは、日本のマスコミが悪い。たしかにUSTR(The Office of the U.S. Trade Representative=米国の通商代表部)は、トロンを貿易障壁の候補リストに上げたが、その段階では「調査中」で確定していなかった。その後半年ほどでトロンは関係ないという判断が下された。しかし、日本のマスコミは、それを知りながら『ことさら大きな貿易摩擦の問題としてトロンを取り上げた』。実際には貿易摩擦には関わってはいなかった」
 
この話を聞いて、私は確信しました。
「米国がトロンを潰した」という報道は誤報ではなく、マスコミの「悪意の捏造」というべき犯罪行為であることをです。
この捏造報道が無ければ、パソコンのOSは“Windows”ではなく”TRON=トロン」になっていた可能性が大きいのです。
そのころ、若かった私は“TRON”の機能を知る機会を得ましたが、その先進性に驚きました。
後年、“Windows”を触ったとき、格段に落ちる性能にがっかりした記憶があります。
坂村先生の話を直に聞く機会に恵まれましたが、そのとき、先生はこう仰っていました。
「ある日を境に、研究に参加していた大手コンピュータメーカーが一斉に手を引いたんです」
あのときの坂村先生の悔しそうな口ぶりが忘れられません。
 
このように、日本が何度も繰り返した過ちの多くは、マスコミに大きな責任があります。
あの太平洋戦争だって、当時の政府も軍の高官の多くも米国相手の戦争は何としても避けようと必死の努力を続けていたのです。
しかし、マスコミは「情けない弱腰政府」と、連日の記事で国民を煽り立てたのです。
かつ、和平派の軍人を罵り、開戦派の軍人を英雄視し、開戦を煽ったのです。
こうしたマスコミの強硬論に煽られた陸軍の一部の青年将校が二・ニ六事変を起こし、高橋是清等の政府首脳や和平派の軍首脳陣を殺害したことで、米国相手の開戦への布石が引かれてしまったのです。
 
マスコミの“煽り”報道は戦後も変わらず、半導体やOSでも日本は敗北しました。
こうしてパソコン用の”B-TRON“は日の目を見ませんでしたが、産業用の”I-TRON”は生き残り、様々な機械に組み込まれ、産業用では世界の60%以上のシェアと言われています。
坂村氏は“TRON”の中身の設計や仕様をすべて公開する「オープンアーキテクチャ」にしたことで何の利益も得られていませんが、それが普及の大きな要因になりました。
近年、盛んに言われている「モノのインターネット、IoT(Internet of Things)」は、間違いなく坂村氏が創った世界です。
この続きは、間もなく別のブログで公開予定の『AIってなんぞや』で述べていきたいと思っています。
こちらもぜひお読みください。
 
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┃◇トランプvs DEI(その1)                ┃
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DEIとはDiversity(多様性), Equity(公平性), Inclusion(包括性)の頭文字をとった言葉ですが、近年のアメリカで急速に市民権を得てきた言葉です。
この標語の下、連邦政府の音頭取りで企業や教育機関などで、女性や有色人種、LGBTQを含めた多様な人々が公平に扱われ、「すべての人が活躍できる環境を整える」ことが米国社会の骨子となってきました。
この発端となったのは1964年に成立した「公民権法」で、人種、民族、宗教、出身国などによる差別は法律で禁止となり今日に至っています。
 
しかし、米国において、政治や経済の分野で、こうした平等が実現しているかというと、誰もが「違う」と言うでしょう。
米国社会での人種差別は今も深く残り、白人家庭と黒人家庭の世帯収入の平均は1.6倍の格差があると言われています。
さらに近年、ヒスパニック系やアジア系の移民が急増したことで人種の多様化が広がりました。
企業にしてみれば、給料が高い白人を優先して雇うより、非白人で給料が安く、そこそこ能力がある人間を雇うことは当然であり、2010年頃からDEIを経営理念に取り入れる企業が増えてきました。
実際、多様性がある企業は無い企業に比べて収益性が高いという数字も出ていて、そうした企業姿勢の下押しになっています。
そのような中、2020年に、白人警官による黒人男性ジョージ・フロイド氏の殺害事件が起きました。
この事件によりブラックライブスマター運動(Black Lives Matter、)という「黒人に対する暴力や構造的な人種差別の撤廃を訴える運動」が燃え上がりました。
その結果、世間の批判をかわすためにDEIを取り入れる企業はさらに増加しました。
この直後に誕生した政権が民主党のバイデン政権です。
当然のように、バイデン政権は、人種やジェンダーの面で史上最も多様なメンバーを登用した政権となりました。
現代の米国においては、Z世代と呼ばれる(13~27歳)の若者のほぼ半数が白人以外の人種で占められています。
さらに、ジェンダー面でも、彼らの2~3割がLGBTQを自認しているという数字も上がっています。
 
このような情勢が続くと、20年後の2045年には、米国の白人は人口の半数を割ると予測されています。
こうした予測に対し、白人層の多くが強い反発や危機感を感じることは当然といえます。
特に共和党は、その支持層の8割が白人で、かつ年長者が多い。
今のまま非白人が増え、いずれ白人が逆にマイノリティになれば党の存続自体が厳しくなります。
そこで共和党は、投票に無関心な人が多い白人の労働者階級に目を付けたわけです。
 
2016年の大統領選では、民主党のヒラリー・クリントンが有利と伝えられていました。
そこで、共和党は中西部ラストベルトの白人労働者の不満や怒りを意図して喚起し、第一次トランプ政権の誕生に繋げました。
しかし、その後に、先に述べたジョージ・フロイド事件が起こり、若いZ世代の白人層が社会性の大事さに目覚めたのです。
彼らは、黒人とともにブラックライブスマター運動を推し進め、自らを「ウォーク(目覚めた者)」と呼びました。
その結果、次の2020年の大統領選でトランプはバイデンに敗れたのです。
 
敗れた共和党は、今度はその「ウォーク」現象を逆手に取る戦術に出ました。
「ウォーク」は白人に対する“逆差別”であり、それが社会を分断させているというメッセージを打ち出して反撃に転じました。
フロリダ州を筆頭に共和党が強い州では、「白人の子弟に不必要な罪悪感を与える」という理由で、奴隷制などを教える歴史教育を制限し、さらに「子供に悪影響がある」として、LGBTQに関する本を図書館から撤去するなどの運動を大々的に推し進めたのです。
トランスジェンダーは特に標的にされ、未成年者への治療の制限や禁止を進めるなど、 DEIを進めていた企業を「ウォーク資本主義者」として攻撃のターゲットにしたのです。
こうした保守派の言動は過激化し、何か問題が起きる度に「原因はDEIだ」とする論調を煽るようになったのです。
例えば、2024年1月、アラスカ航空機のドアが上空で吹き飛んだ事故が起きたときは、「あれは機長が女性だったからだ」というデマを拡散させました。
こうした共和党の戦略の効果が出る中で、バイデンが大統領職に執心した末に候補をハリスに譲るという失態を犯しました。
ハリスはインド系の有色人種で女性です。
共和党の格好の標的となるのは当然でした。
バイデンが早くに再選を諦め、正式な民主党大会で若い白人男性の候補を選出したならば、民主党が勝利したでしょう。
誤解して欲しくないのは、私は、決してそれが良いと言っているわけではありません。
あくまでも、選挙戦術の問題として論じています。
 
しかし、結果としてトランプが大統領に返り咲いたわけです。
さっそく、トランプは、再任直後に起きた「旅客機と米軍ヘリの衝突事故」を「民主党の多様性政策のせい」だとする根拠なき放言をし、その後も類似の暴言が止まりません。
この話、次回に続けます。
 
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<編集後記>
イスラエルが、突如イランの核関連施設への空爆を行いました。
米国トランプ大統領がイランとの核交渉を打ち切ったことで、この事態は予想されていました。
イスラエルは、核交渉の打ち切りを、米国の暗黙の承認と解釈すると思ったからです。
当然、イランは直ちに報復のミサイル攻撃を行い、イスラエルにも被害が出ています。
この問題は、次号で論じたいと思います。