2015年9月30日号(経済、経営)

2015.09.30

HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2015年9月30日号
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                発行日:2015年9月30日(水)
 
 いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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           2015年9月30日号の目次
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★新国立競技場騒動・異聞
★国民の生命・財産を守れない建設行政
★国民の不信感の強さに鈍感な建設産業
☆「業界」から脱却し、自分の足で市場の中に立つ
☆小さな会社の大きな手(7):投資
(本シリーズ(5)は欠番です。)
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こんにちは、安中眞介です。
今号は、経済、経営の話題をお送りします。
 
日本と並ぶ技術大国ドイツが大きく揺らいでいます。
言わずと知れた、フォルクスワーゲンの不正ソフト問題です。
「日本は大丈夫」と言い切りたいですが、一抹の不安を感じるのも事実です。
この問題、まだまだ新しい事実が出てきそうです。
論評は、もう少し先で行うとして、今号は、建設市場、建設業界のエピソードをお送りします。
 
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┃★新国立競技場騒動・異聞                     ┃
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先日、弊社に以下のような案内文が届きました。
 
【世界的建築家・安藤忠雄先生による経営者向け講演会「仕事をつくる」】
「安藤先生といえば、世界中に熱狂的なファンがいて、本業である設計の仕事をはじめ、講演、執筆、テレビ出演とあらゆる方面からオファーが絶えない方です・・・」
と続けて、
「安藤忠雄氏が、逆境だらけの人生にも負けずに、独学で建築家になり、世界的な名声を勝ち得たこと、
そして、あらゆる方面に多くのファンがいることで、今では、営業なんかしなくても仕事が舞い込んでくる存在になった」という内容でした。
 
「で、なんなの?」と思って読み進んだら、その安藤忠雄氏の「仕事をつくる術」を教えるセミナーの案内でした。
 
新国立競技場をめぐる騒動の渦中に届いた案内なので、もしかしたら、騒動の起こる前に発送したのかなと思いましたが、「タイミングの悪さ、この上ないな。本当にこんなセミナーやるの?」と“?”マークが3つほど頭に浮かびました。
 
私は、過去に2度、仕事で安藤忠雄氏と接点がありましたが、「次はゴメン」というのが、正直な感想でした。
ただ、世界的名声を持つ建築家とは、我々とは別次元の存在なんだろうなと思っていました。
 
なので、例の釈明にもならない記者会見の様子をテレビで見ていて、こう思ったのです。
「つまらない、ただの人じゃん」

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┃★国民の生命・財産を守れない建設行政               ┃
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今年もまた、鬼怒川の氾濫に代表される自然災害が起き、多くの犠牲者が出ました。
命は助かっても、家を失った人、生活基盤を泥水に奪われた人の数は相当に上ります。
でも、いっとき報道に示された後は、すぐに忘れ去られてしまいます。
行政の責任を問う声があがっても、財政難の地方自治体に根本のインフラ整備は不可能です。
頼みの綱の国家にしても、慢性赤字の予算編成の中では、抜本的な投資を行う余裕は全くありません。
 
国民としては、「今の建設行政に、国民の生命・財産を守る力はない」ことを認め、自分を含めた家族の生命・財産は、自分が守るしかない」と覚悟を決めるしかないと思うのです。
そうして、行政に対しては、「我々を守れ」ではなく、「的確な情報を出せ」と、要求の内容を変えるべきと考えます。
そして、そのような情報を分析できる能力を身につけ、安全に住める場所を自分の責任で選んでいくしかないと、強く思います。

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┃★国民の不信感の強さに鈍感な建設産業               ┃
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アベノミクスの恩恵でバブル後の市場衰退が止まり、ようやく一息ついた感のある建設産業だが、
資材・人件費の高騰で、目論んだほどの利益は取れず、焦燥感がつのってきている。
期待した「地方創生」による市場拡大も幻に終わり、失望感が広がっている。
そのような中で、早くも「補正予算の執行を」との声が出てきている。
いつもの光景になりつつある建設産業の姿だが、「いまこそ、産業構造自体の変革を」という声が若手経営者の間から出てきている。
「次世代建設産業戦略」なる運動などである。
それは、とても良いことなのだが、気になることもある。
それらの運動の提言の大半が内向きで、市場に訴えかける力が弱いことである。
相変わらず、国民は建設産業自体を強い不信の目で見ている。
その視線は変わることなくシビアであるのに、建設産業自身は驚くほど鈍感なままである。
先の「次世代・・戦略」にしても、そこへの真摯な対応戦略は全く見えない。
 
若者が建設産業に入りたがらないのは、処遇の低さもあるが、産業のこの鈍感さ故ではないか。
新国立競技場をめぐる関係者の醜い姿も、国民は建設産業の醜さに重ねて見ているのである。
 
最近、競技場の建設費高騰の本当の黒幕は建設業界ではないかという声が出てきている。
白紙に戻されたザハ事務所からも、そのような恨み節が聞こえてくるが、全く的外れとは言えないことは、この産業に関わっている人間なら分かるはずである。
 
新たに行われる設計・施工一括の入札にしても、実態は不透明なまま、形だけの公平性を取り繕おうとしている。
国民の業界に対する不信感は募る一方であろう。

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┃☆「業界」から脱却し、自分の足で市場の中に立つ          ┃
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ここまで、さんざん建設産業をこき下ろしたような今号の内容であるが、私は、この産業で40年間過ごしてきた人間である。
建設に対する思いは人一倍強く、建設産業に対しては、育ててもらった恩義を強く感じている。
若いころの現場での思い出は、辛さと同時にかけがえのない財産でもある。
 
故に、批判者になるつもりは毛頭なく、評論家になるつもりもない。
残り少なくなったビジネス人生も、最後までこの産業で生きていくことに徹したい。
 
「では、どうするのか」であるが、建設関係の企業経営者の全てに言いたい。
「業界の中から外に出て、自分の足で市場の中に入っていけ」とである。
たとえ、建設的な前向きな話し合いであろうが、うちうちの仲間どうしの会議や活動ではなく、
市場の中に入っての対話や活動を主にすべきてある。
 
私の知る経営者の中には、業界内の会合はそこそこにして、ユーザー側の経営者との対話や市場への働き掛けの活動を積極的に行われている方もいる。
 
そのような会社はおしなべて、社員の顔も明るく、業績も良いようである。
自社を支えているのは、業界や仲間の経営者ではない。
市場であり、お客様なのである。
そんなことは、分かりきったことであるが、実践できていない経営者は実に多い。
 
水は高きより低きに流れ、定形(定まった形)を持たず、僅かな落差でも流れを止めない。
孫子の昔より現代の至るまでの多くの兵法書、経営書に書かれている自然の理(ことわり)だが、
市場の中に入り、市場と対話するとは、まさに、その実践である。
 
そのような会社が1社でも多くなれば、国民の建設産業を見る目も変わってくるはずである。

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┃☆小さな会社の大きな手(7):投資                ┃
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(本シリーズ(5)は欠番です。)
ここまで、イノベーションの話題を続けてきました。
現代のように、経営環境がめまぐるしく変化する時代に、経営者が常に念頭に置いておかなければならないこと、そして、後継者が真っ先に実践すべきこととして、イノベーションを解説してきました。
それと深い関係のある経営課題の一つが、今回のテーマ、「投資」です。
 
投資には、金融投資と戦略投資があります。
少々乱暴な識別ですが、「カネにカネを生ませる」のが「金融投資」、「モノやヒトにカネを生ませる」のが「戦略投資」と、私は区別しています。
 
金融投資は、わかりやすいですね。
株や債券を買ったり、他社の事業にカネを投資する・・などが金融投資です。
投資先や投資金額など、判断すべき項目は多いですが、基本的に、「自分は努力せず」、「他人の努力に期待する」のが、金融投資です。
まあ、単純な世界です。
 
私は大学2年から株式投資をやっていました。
最初は、株をやっていた父から指示され、30ぐらいの銘柄の株価をグラフに付けていました。
その頃、実家は水商売をしていましたが、父は、本業を私と母に任せ、株と競馬に夢中になっていました。
私はじぶんの付けている株価の動きを見ているうちに、興味が出てきて、アルバイト代を貯めたカネで自分で株を買い始めました。
つまり、それが私の「金融投資」の始めだったわけです。
 
父の血を受け継いだわけではないと思いますが、賭け事には興味を持ち、麻雀やビリヤード、競馬もやりました。
もっとも、ギャンブル性の強い麻雀やビリヤードなどは、大学卒業と同時に全て止めました。
社会人になってからは、競馬と株だけをやっていましたが、結婚を機に競馬も止めました。
「では、株は?」となりますが、会社を設立するまで続けていました。
設立資金の半分は株で稼いだカネでしたので、実利はあったと言っておきます。
 
カネ以上に、株をやっていたおかげで、経済の動向にとても敏感になり、経済を勉強する大きな動機になっていました。
経営者になってからは、このことが大きな助けになったと思っています。
 
不道徳と言われそうですが、将来、経営を志す若者は、「ギャンブルをやるべし」とすら思っています。
もっとも、借金地獄に陥るほどののめり込みは厳禁です。
この当たりの節度を自分で設けることが苦手な方は、手を染めないほうが良いですが・・
 
話が逸れてしまいましたので、金融投資に話を戻します。
そんな私ですが、経営者になってからは、株を止めました。
企業経営そのものが“博打”だからです。
他人には、「株投資で“運”を使い果たしたくないから」と、今でも言っています。
でも、本音を言えば、株や債券、FXなどで利益を出せるという自信はあります。
それは、金融投資は“博打”ではなく、科学の世界だからです。
 
もちろん、博打的要素はありますが、それは企業経営も同じです。
「博打」という言葉が悪いので、「benefit&riskマネジメント」と言えば、現代風にカッコ良くなるでしょう。
この博打的要素を一切排除した「堅実経営」を標榜され、実践されている経営者の方も多いと思いますが、未来は常に未確定で不安定です。
リスクの完全排除はそもそも不可能です。
原発を「100%安全でなければならない」とする意見と同じです。
原発の100%安全を達成するには、原発全廃しかありません。
同様に、企業も閉鎖すべきとなります。
 
しかし、企業経営を続けていく限り、リスクは常に存在しますし、時には金融投資の必要も出てきます。
やる・やらないは別にして、経営者たるもの、経営の一要素として、金融投資への関心は持ち続けるべきだと思うのです。
 
私自身は、今は事業資金をリスクにさらすわけにはいきませんので、自粛していますが、金融投資を再開する機会が来ることを楽しみに待っています。
いえ、その機会を作っていこうと思っています。
 
次回は、もっと大事な「戦略投資」の話をしたいと思います。
 
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<後記>
文化800年転換説によると、現代は、価値の大転換の移行期の100年間に当たりますが、その第二期(2001年~2025年)の後半です。
第一期(1975~2000年)では、移行は水面下であるため、多くの人には見えません。
それが、第二期に入ると、水面上にその移行の様子が現れ、世界は混乱の渦に巻き込まれていくとあります。
世界は、まさに、この説の通りに移行していると思われます。
とすると、2025年に向けて、あと10年、混乱の度合いが増すということです。
私は、この説に従い、創業時から自社の未来年表を描いてきました。
そして、混乱がピークに向かう、これからの10年を最大のチャンスとして戦略を練ってきました。
なぜなら、2026年から始まる第三期は、混乱が、次の価値観に向かって収束していく期間に当たるからです。
残念ながら、私のビジネス人生は、2026年まで持たないかもしれません。
まして、第三期の収束が終わり、次の時代の姿が見える2051年までは、寿命が持ちません。
でも、この転換説を信じて、次の後継者たちにバトンを託していきます。
彼らが、そこで花開くことを信じて。
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