2015年12月28日号(経済、経営)

2016.01.18

HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2015年12月28日号
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                発行日:2015年12月28日(月)
 
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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           2015年12月28日号の目次
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★杭問題は氷山の一角に過ぎない
☆中国経済はなぜ崩壊しない
☆小さな会社の大きな手(9):戦略投資と戦術投資
http://magazine.halsystem.co.jp
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こんにちは、安中眞介です。
今年最後の経済、経営の話題をお送りします。

3年前の選考からのドタバタの末、新国立競技場の案が決まりました。
業界通から見れば当然視された結果ですが、これ以外の選択肢はなかったといえます。

もう一つのドタバタ、杭偽装の問題はそう簡単には片付きそうにありません。
長い間の業界慣習が生んだ根の深さがあります。
今号もこの問題から解説します。

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┃★杭問題は氷山の一角に過ぎない                  ┃
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幾つかの一般マスコミは、杭工事を施工した旭化成建材の監督のことを「現場代理人」と報道していましたが、違和感を覚えたのは私だけではないと思います。
建設業界で「現場代理人」と呼ばれるのは、元請けの現場責任者だけのはずです。
そして、たとえ下請けの不正といえども、その全責任は元請けの現場代理人にあるはずです。
私は、自分が現場責任者であった時はもちろん、現在でもそう思っています。
もし、私の経験と知識が間違っているとしたら、ぜひ、教えていただきたいと思います。

また、データの偽装と施工の偽装は別物ですが、一般マスコミは、このこともきちんと区別していません。
そもそも、データの提出は法律上の義務にはなっていません。
国交省は、慌ててデータの提出を法制化しようとしているようですが、その動きは間違っています。
ただでさえ、今の現場は屋上屋を重ねるような規則に追われ、現場監督は書類屋になってしまい、肝心の現場を見る余裕を失っています。
さらに杭工事などの専門工事がどんどん高度化され、元請け監督の技術習得が追いつかないのが現実です。
今回の杭工事の偽装は、そのような背景の中で必然として起きたことです。
そして、今回の問題は氷山の一角に過ぎず、膨大な不正や偽装は表面化していないだけなのです。
この根底に潜む問題は、建設業界と行政が、分かっていながら、ともに放置してきた結果です。

では、昔はどうしていたのでしょうか。
私の現場経験から言えるのは、下記のような現場の実態です。
朝の7時の朝礼から現場作業が終わるまでの時間の大半を、職人とともに現場で過ごしました。
ですから現場の隅々まで自分で把握していました。
職人たちと話し、教えを受け、また設計意図や工程の説明などを何度もしてきました。
そして、夕飯を終えてから、現場事務所で日報作成、工程確認や修正、出来高のチェック、報告書類の作成などを終え、夜も更けてから施工図作成にとりかかり、それが終わる夜中の2時から3時ごろにようやく一日が終わるという毎日でした。
そうです。
現場の過重労働が、現場自体の管理と書類や図面作成の両方を支えていたのです。

しかし、時代は変わり、そのような荷重労働を現場監督に強いることは出来なくなりました。
かといって、監督の人数を増やせばコスト増となり、赤字になりかねません。
いきおい、現場管理は、下請け任せとなっていったのです。

つまり、偽装を生む根底の問題は何も解決されず、その見通しも立っていないのが現実なのです。
これまでとは発想を変えた設計・施工の新しい仕組みが必要なのです。
その一つの姿を創っていくことを自分の最後のライフワークにしたいと思っています。

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┃☆中国経済はなぜ崩壊しない                    ┃
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ネットでは、中国通の識者の方から、同様の疑問に対する解答が披露されています。
この中で、中国に対する敵愾心、あるいは反日や歴史問題を背景にした中国に対する嫌悪感が日本人の中にあり、それが中国経済の崩壊待望論を形成しているとの指摘がありましたが、「そのとおり」だと言えます。
マスコミには、そのような日本人の気持ちを利用した「反中国情報マーケット」とでも呼ぶべき市場があり、確信犯的な過剰報道、扇情報道がなされているわけです。

一方、そうした情緒的な見方とは別に、純粋に経済的に分析した別の見方もできます。
それは、中国政府の主張する「社会主義市場経済」という、意味不明な経済の実態です。
政治的には共産党一党独裁という社会主義だが、経済は自由主義ですよという言い分ですが、民主主義に慣れた我々には理解できない経済です。
これまでの世界の歴史から考えると、国家が経済的な成長を遂げると、国民は政治的にも自由を求め、
独裁政権は倒れ、民主主義が実現される・・となるはずです。
事実、ソ連など東欧の共産党独裁政権は、そうして倒れました。
しかし、GDPで世界2位の経済規模になっても、中国の政権は健在で、経済も崩壊しません。
私は、中国という国を、日本を含めた欧米の基準で考えること自体が間違っているのではないかと思うのです。

政治的な解説は、新年の号で述べるとして、ここでは経済の視点で考えたいと思います。
まず、人口の多さです。
日本の10倍という人口を考えると、経済変動の波が国家全体に及ぶ時間も10倍かかるのではないかということです。
次に、華僑の存在に見られるように、中国人は商売に長けていて、どんな状況下でも商売を続けていく資質があるのではないかということです。
そして、何しろ、孫子をはじめとする偉大な思想体系を2500年も前に確立した民族です。
春秋戦国時代の中国には数多くの天才思想家がキラ星の如く生まれました。
我々の知る範囲でも、老子、孟子、孔子、荀子、荘子、韓非子、孫武など枚挙に暇がなく、現代でも世界に多大な影響力を与えている思想体系と言っても過言ではありません。

我々日本人から見れば批判したくなる中国の指導者たちですが、兵法から冷静に分析してみれば、なかなかにしたたかな経済運営を行っているといえます。

ただ、経済崩壊の芽は年々大きくなっています。
今後もメディアとは違う見方や情報から、中国経済の動向を分析していきたいと思います。

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┃☆小さな会社の大きな手(9):戦略投資と戦術投資         ┃
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1回お休みしてしまったので、2ヶ月ぶりの本項です。
戦略投資は、表題の「小さな会社の大きな手」の中心になる話です。
わかりきった話ですが、戦略投資には「おカネ」と「リスク」がつきまといます。
それも、戦略の大きさに比例して大きくなる要素です。
経営者の真の資質が問われる問題でもあります。
それ故、戦略投資が出来ない経営者を「番頭経営者」、出来る経営者を「戦略経営者」と呼んでいます。

ここで誤解して欲しくないことがあります。
どちらが優れた経営者だという優劣はありません。
タイプの違いを表している言葉の遊びのようなものです。
ダメな「番頭経営者」であれば、企業は衰退する一方になります。
また、ダメな「戦略経営者」であれば、その企業は倒産するリスクが大きくなります。
どちらのタイプでも、ダメな者はダメなのです。
ただ、ここでは、戦略投資の話ですから、その線で話を進めていくとします。

さて、今号の表題ですが、初めに戦略と戦術の違いを定義しておきましょう。
戦略には大きな目的、そして目標が必要です。
ただ単に「会社を大きくしたい」とか「先鋭的な会社にするぞ」では戦略になりません。
より現実的で、実現可能で、しかしイノベーションにつながる目的と目標が必要なのです。
「下町ロケット」の後編を例にとると、「難病に苦しむ子どもたちを救いたい」という思いが目的であり、「心臓の人工弁を開発する」ということが目標になるわけです。
まず、この2つがリンクしていなければ「戦略」とは言えません。

では、戦術とは何でしょうか。
私は、「戦略を実現するための具体的な手段」と解釈しています。
実は、ほとんどの会社では、当たり前のように戦術投資を実行しているはずです。
「そろそろ新しい重機を買おう」とか「新入社員を採用して教育に力を入れよう」とか「支店を出そう」とか、たくさんあるはずです。
ただ、いつの間にか、その戦術投資の前にあったはずの「戦略」があいまいになってしまい、ルーチンワークのような投資になってしまっているケースが多いのです。
そのようなことに気づいたら、来年からは、一つ一つの戦術投資の基にあったはずの戦略を改めて思い起こしてみてはいかがでしょうか。
きっと経営強化の一つとなるはずです。

さて、来年(あるいは来年度)に計画している戦略投資はありますか。
弊社では、もちろんあります。
それも社運をかけるような大きな戦略です。
本メルマガをお読みの方であれば、そのような投資案が必ずあるはずです。
経営者や事業者の方はもちろんですが、社員の立場で働いている方であっても、そのようなプロジェクトに関わっていたり、あるいは個人的な目標をもっておられる方は多いでしょう。
年が改まる次号から、弊社の戦略実行を例に取りながら、「戦略投資」の具体論を論じていきたいと思っています。

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<後記>
今年の後半、個人的なアクシデントがあり、しばし経営の現場から離れました。
その間も会社経営のことを考えない日々はありませんでした。
そして、自分の考えが変わってきました。
それが、この先の経営に大きな影響があることは当然です。

中小企業における経営者の存在は、とてつもなく重いものです。
経営者自身が芯から変わらない限り、会社は今より良くはなりません。
今回は計画した休暇とは違いますが、経営者にとって立ち止まることの大切さを改めて自覚しました。
次は、計画的な休暇を取ろうと思っています。
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