2020年4月15日号(国際、政治)

2020.05.07


HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2020年4月15日号
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発行日:2020年4月15日(水)
 
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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2020年4月15日号の目次
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★コロナウィルス禍が浮き彫りにしたこと(その2)
★P4をご存知でしょうか
◇日本の対応
◇終息後の世界政治
 
http://magazine.halsystem.co.jp
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こんにちは、安中眞介です。
今号は国際問題、政治問題をお送りします。
 
IMF(国際通貨基金)は、今年の世界全体の実質成長率を-3.0%とする予測値を発表しました。
日本は-5.2%、米国は-5.9%と各国は軒並みマイナスですが、中国だけは+1.2%とプラス成長です。
もちろん、それまでの6%台の成長に比べれば減速ですが、「それでもプラスなんだ」が正直な感想です。
中国自身ではなくIMFの発表なので「そうか」と思うしかないのですが、なんとなく納得しかねる数字です。
 
今号も新型コロナウィルスの話題で、読者の方々は辟易されるかもしれませんが、少しでも報道とは違う解説を心がけます。
 
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┃★コロナウィルス禍が浮き彫りにしたこと(その2)         ┃
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今回のコロナウィルス禍で、真っ先に頭に浮かんだのは、次の言葉です。
「賢者は歴史から学ぶが、愚者は経験から学ぶ」
 
致死性の毒を持つウィルスや病原菌の蔓延は、今回が初めてではありません。
かつて、欧州を中心に5000万人とも1億人とも言われる犠牲者を出し、「黒死病」と呼ばれたペスト菌などのことを、我々は知っています。
近代になっても、有名なスペイン風邪や近年のマーズやサーズといったウィルス禍で多くの人が命を落としました。
 
たしかに人類は、その後、衛生面や防疫面を目覚ましく発達させ、災禍を抑えこんできました。
しかし、その記憶も薄れ、直接経験者が代替わりで消えていくに従い、社会の警戒感はどんどん消えていきます。
そこへ、今回のコロナウィルスです。
世界中がパニック状態に陥っていることから、冒頭の言葉が浮かんだ次第です。
 
大衆は、歴史から学ぶことはせず、経験からしか学びません。
しかし、その経験が受け継がれるのは2世代までです。
それ以降の年代になると、歴史としては残っても、そこから学ぶ姿勢は失われます。
 
我々団塊の世代の人間は、分かるはずです。
団塊の世代の親の青年時代は、太平洋戦争の真っ只中であり、身を持ってその災禍を経験した年代です。
原爆や空襲、はたまた戦死といった形で、多くの人は大切な人を失った経験を持っています。
しかし、その経験を受け継げたのは、子世代である団塊の世代までです。
 
自分の経験に照らして考えても、そうです。
実際に戦場で米軍と戦った父から聞く話は、非常なリアル感を持って記憶に刻まれました。
乗っていた汽車が米機から機銃掃射を受け、血だるまとなって倒れた隣人を抱えたという母の話も、その臨場感ゆえ、深く私の心に刺さりました。
しかし、同じ話を自分の子供に話しても、「うるさいな、そんな昔の話・・」という顔をされるだけです。
そうです。又聞きの話はリアル感がないのです。
かくして、経験からの話は霧散して消えていくのです。
広島や長崎で、原爆被災者の方が語り部として語る言葉には胸が打たれた記憶があります。
しかし、その方々の大半はもう他界されたか、存命でも高齢でもう語ることができません。
被爆二世の方々がその語り部を引き継いでいますが、酷な言い方ですが、一世の方と同じようには言葉が響いてきません。
 
このように、残念ながら、記憶は、たちまちのうちに薄れていくものです。
しかし、その忘却能力があるから人は生きていけるのだともいえます。
その反面、どうしても、人は「愚者」となり、同じ過ちを何度も繰り返してしまうのです。
 
ゆえに、“感情を入れない”歴史として、過去の事実を学ぶ必要があるのです。
賢者となるためにです。
なぜ感情を入れてはいけないかは、おわかりと思います。
感情は、その人が立つ位置によって、180度変わるものだからです。
日韓の不毛な歴史対立を考えれば分かると思います。
歴史には善も悪もなく、裏付けの資料や遺跡・遺構が示す事実だけがあるのです。
それを踏まえて歴史を学ぶことで賢者となれるのです。
「日本は悪」と教える感情教育では賢者にはなれません。
韓国はもちろん、日本も、そのことを深く考えて欲しいものです。
 
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┃★P4をご存知でしょうか                     ┃
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今回のコロナウィルスで、もう一つの記憶が蘇ってきました。
それは「P4研究所」です。
P4の「P」は、Physical containmentの略で「物理的封じ込め」という意味です。
この施設は、ずばり感染症の病原菌やウィルスを研究するための施設です。
こうした研究所には、扱うことのできる病原菌の危険度に応じてBSL(biosafety level=バイオセーフティーレベル)と呼ばれる4段階の格付けがされています。
「レベル1」は、病気を起こす可能性が低い微生物など。
「レベル2」は、重篤とはならないが、人への感染を引き起こすインフルエンザウイルスなど。
「レベル」3は、重篤な感染を引き起こすが、人から人へは伝染せず、治療法も確立されているウィルスなど。例えば狂犬病ウィルスなど。
「レベル4」は、人から人へ感染し、かつ生死にかかわる病原菌やウィルスで、治療法や予防法が確立されていないもの。例えば、エボラウイルスやペスト菌のようなものです。
 
この「バイオセーフティーレベル」は世界共通の規格で、研究所や実験室にはそれぞれのレベルに応じた設備が必要となっています。
 
日本で現在、最高レベルのレベル4に対応している施設は、2箇所あります。
茨城県つくば市にある理化学研究所・筑波研究所と東京都武蔵村山市にある国立感染症研究所・村山庁舎です。
かつて私は、つくば市にある理化学研究所の「P4」の設計に携わりました。
メインとなる設備設計は、ほとんど部下と二人で設計しました。
原子力施設の設計を幾つも手掛けた経験を買われての担当でした。
そうです。放射性物質の封じ込めと病原体の封じ込めの技術は同じものだからです。
 
今回、話したいのは技術的なことではなく、地元の反対運動の激しさについてです。
新聞に研究所の建設計画のことが載り、P4が“とんでもない”病原体を扱う施設という記事が掲載されたことで、地元に反対の嵐が巻き起こりました。
当然といえば当然の反応で、我々も反対運動のことは意識していました。
原発などの設計で幾度も反対住民の矢面に立たされてきましたから、覚悟もしていました。
しかし、P4に対する反対運動の激しさは、その比ではありませんでした。
会社からは「スーツを着て現地に行くな。普段着で行け」とまで指示されました。
「関係者が襲われた」という話まで飛び込んで来て、正直怖くなりました。
 
私は、ここで反対運動のことを批判するつもりはありません。
住民の不安は当然だからです。
「1mgで100万人が死ぬ」なんて聞いたら、誰でも恐慌状態になるでしょう。
しかも、原発と同じで、我々技術者は「100%安全」とは言えません。
100%はあり得ないからです。
 
しかし、世界の人々にとって必要な施設という使命感はありました。
どこかで誰かが研究を続けなければ、こうした病原体との戦いで人類は滅亡するかもしれません。
そのためには、こうした施設の建設は不可欠だからです。
 
結局、つくばのP4は完成しましたが、現在にいたるまでP3までの研究しか行われていません。
反対運動の激化に腰が引けた政府が許可しないからです。
武蔵村山市の国立感染症研究所では、近年、ようやくP4の研究が認められましたが、つくばの研究所はまだです。
 
今回のコロナウィルス騒ぎで分かるように、反対運動に対して逃げの姿勢に終始することで、研究が進まなくなり、有効な手が打てなくなります。
このウィルスも、P4施設で徹底的に研究・解明する必要があります。
どんなに手間や時間がかかっても、政府は反対運動と真摯に向き合い、解決への前進を続ける必要があるのです。
そんな政府を望みます。
 
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┃◇日本の対応                           ┃
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米政府が打ち出した2兆ドル(約214兆円)の対策を意識したのか、安倍首相は108兆円の対策を打ち出し、「GDPの2割に及ぶ支援策は欧米を超える最高水準」と胸を張りました。
しかし、真水と呼ばれる財政出動額は16兆円に過ぎないと指摘され、トーンダウンしてきました。
そこで、前々からくすぶっていた「制限なしに国民一人につき10万円支給」という話が急浮上してきました。
自民党の二階幹事長と公明党が火を付けたという報道がなされていますが、安倍首相にその決断が出来るかどうかです。
単純計算で、仮に全国民に支給となると、12兆円の財政出動が必要です。
かといって、先に発表している支援策を止めるわけにもいかず、合計で30兆円に迫る規模に膨れます。
 
しかし、国民の側から見たら、たとえ10万円もらっても雇用が打ち切られたら「焼け石に水」にもなりません。
いろいろな方が言っていますが、政府が真っ先に実施すべきは雇用を守ることであり、そのために雇用主を守ることが大事です。
米国は、いち早く38兆円の中小企業向け融資枠を設定しました。
実施するのは金融機関ですが、政府保証が付いていて、従業員の給与支払いに充てることを条件に、8週間分の経費(人件費、健康保険、家賃、水光熱費、支払利息など)に当たる金額は元本返済から免除されるという破格の融資です。
もちろん、種々の条件が付いていますが、迅速さと具体性においては日本政府の比ではありません。
 
こうした債務免除を伴う融資は金融機関の自己資本を毀損(きそん)しますが、銀行への自己資本比率規制を一時的に棚上げするという策がセットになっています。
 
この「借入返済の一時棚上げ」と「雇用維持のための賃金支援」は、即効性のある支援策であり、日本でも実行可能な策といえます。
現在、発表されている企業支援策は実行へのハードルが高すぎます。
多くの書類を用意しての自己申請で手間がかかるのに、最大で200万円の補助という“しょぼい”支援策では、一時しのぎにもなりません。
しかも、法案を通すのに最短で4月いっぱい、支給開始は5月末か6月という遅さと言われています。
苦しくなった企業は、非正規社員を中心に雇用切りに行かざるを得なくなります。
 
しかし、安倍首相に財務省の反対を押し切れるだけの戦略と胆力があるでしょうか。
この第2幕は、そこに舞台が移ることになるでしょう。
 
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┃◇終息後の世界政治                        ┃
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今のコロナウィルス禍が収まっても、世界は元には戻らないでしょう。
世界は、今回のコロナウィルス禍が、経済のグローバル化の中心にいた中国から発生したことを忘れることはないでしょう。
これが、国際政治の図式に大きな影響を及ぼすことは確実です。
中国は、こうした事実をなかったことにするべく、「米軍がウィルスを持ち込んだ」などの宣伝戦を仕掛け始めています。
一方の米国は、中国に高関税を課す貿易戦争を拡大させ、中国の抑え込みを本格化するでしょう。
 
こうした米国の攻撃をかわすため、中国がEU諸国への接近を図るのは確実です。
コロナ禍の終息後、各国は、いったん閉じた国境を再開し、サプライチェーンの再構築を開始するでしょう。
それを狙って、中国は自国中心の経済圏作りをさらに加速させようとするでしょう。
近年のグローバル化で最も大きな果実を得たのが中国であり、その原動力となったサプライチェーンの再構築が欠かせないからです。
 
コロナ禍の影響もあって、EUの分断は加速される傾向にあります。
こうした情勢を踏まえ、中国は、イタリアなど経済的に脆弱な国々をターゲットに、医療支援などを積極展開しています。
結果、EUの結束力は弱まり、米国はますます強行に中国に対するようになると思われます。
 
その中で、非常に微妙な立ち位置にあるのが日本です。
本メルマガで、たびたび述べてきた「文化800年転換説」は、人類の歴史の分析から出てきた理論です。
そして、まさに世界はそのとおりに推移してきています。
それによれば、今後の世界の政治モデルは、欧米からアジアに移ることになります。
そのアジアでは、「共産党一党独裁主義」の中国と、「自由民主主義」の日本が2大国として並び立っています。
中国は、韓国を米国から離反させ、日本の孤立を誘い、両国を自国の配下に組み入れるという「離間の計」を仕掛けています。
そうして、世界の覇権を米国から奪い取る戦略を隠そうともしていません。
 
日本を「戦えない国」にしたのは米国ですが、米国はその失敗を補うために日米軍事同盟の強化をアジア戦略の軸にしてきました。
本メルマガで連載してきた「第一列島線の攻防」は、その一端を解説したものです。
 
中国のような独裁国家が、いったん手にした強権を手放し、民主的な手段で世界に貢献する可能性は到底あり得ません。
むしろ、独裁制と軍事力を前面に押し出し、より強硬な姿勢を打ち出す可能性のほうが高いといえます。
民主主義を守るためにも軍事力は必要です。
ただ、私は「物理的な戦争をせよ」と言っているのではありません。
外交力のバックアップに軍事力は不可欠であり、それは自国軍事力の強化と同盟強化の両面によって為すべきだと言っているのです。
 
一方、中国ですが、その政治は決して一枚岩ではなく、現在覇権を握る習近平主席率いる太子党派と、李克強首相率いる共青団派、根強く生き残っている江沢民率いる上海派の三つ巴にあります。
日本にとって、この三つ巴をどう利用するかが外交・軍事政策の要といえます。
今回のコロナ禍を経て、8月に中国で行われる予定の長老たちと現幹部が一同に集まる秘密会議「北戴河会議」の動向に注目です。
現幹部、とりわけ習近平主席の失態が問われることは確実ですが、どのような結果になるかは、現在予測不可能です。
アングラ情報を含めて、追いかけていきたいと思っています。
 
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<編集後記>
米国での死者の数が半端な数字ではありません。
1年での終息すら難しく、2~3年かかるという意見が米国で強くなっています。
延期した東京五輪が中止に追い込まれる公算もだんだんと濃くなってきました。
一部スーパースター選手の天文学的な年俸など、近年のスポーツ界は異常なカネまみれになっています。
そうした金銭感覚がドーピング蔓延の背景にあります。
努力している選手には気の毒ですが、肥大化した五輪を中止することも必要ではないかと思い出しています。
 
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