2015年5月31日号(経済、経営)

2015.06.01

HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2015年5月31日号
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                発行日:2015年6月1日(月)
 
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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          2015年5月31日号の目次
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★AIIBの未来
☆建設産業が生まれ変わるために必要なこと
☆小さな会社の大きな手(3):整合が取れない状態からの脱出法
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こんにちは、安中眞介です。
今号は、経済、経営の話題をお送りします。
 
経済悪化に悩む韓国が、日本に対し「政経分離で関係修復を」と呼びかけています。
日本政府はこれに応じて閣僚級の会談が再開されています。
しかし、日本国民の反応は冷ややかです。
「さんざん悪口を言っておきながら、虫のよい話だ」というのが、大方の意見のようです。
しかも、韓国政府は今後も悪口は続けるということのようで・・
「こりゃ無理だ!」と言うしかありません。
 
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┃★AIIBの未来                      ┃
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中国政府は、AIIBを国際開発金融機関だと主張しています。
つまり、世界銀行、IMF、アジア開発銀行などと同種類の銀行だと言いたいようです。
そして、そのための体裁を取り繕うためか、中国の出資比率をそれまでの50%から28~29%程度に下げる案を打ち出してきました。
しかし、同時に「25%以上の出資比率を持つ国は拒否権を有する」という条項を持ちだしてきました。
今のところ、この条件を満たす国は中国だけですから、中国がAIIBを思い通りに操作可能なことに変わりありません。
これで、国際機関だと主張するのは、戦略としては幼稚すぎます。
ちなみに、世界銀行の場合は、米国15.85%、日本6.84%、中国4.42%となっています。
 
仮に米国や日本が参加する場合、この出資比率が大きな問題になります。
最低でも、日米合わせて25%を超える出資比率がないと、中国の言いなりの状況は変わりません。
 
さらに、AIIBの本部はすでに北京に置くことが決定されていますし、総裁は未決定ですが、中国人を総裁にすることが確実視されています。
この状況が変わらないとすると、AIIBはとても国際機関と言えません。
国際機関は平等な立場に立つ加盟諸国が協力して運営するものであり、中国のみが拒否権を持ち、本部も総裁も独占するというのでは、実質的には、中国の国内銀行だということになります。
 
中国がこうまでしてAIIBを設立したがっている裏事情は見え見えです。
習政権が打ち出している「海のシルクロード」とも「一帯一路」とも呼ばれる戦略、つまり、軍事・経済にまたがる海洋大国化戦略の達成のためです。
そして、AIIBの融資決定はこの戦略によって選別される可能性が大きいといえます。
 
もうひとつ、中国側の切実な事情があります。
近い将来、資金不足が顕著になるという事情です。
中国商務省が発表した2015年1~3月期の対中投資の統計を見ると、よく分かります。
日本から中国への直接投資実行額は、前年同期比12.3%減、米国から中国への投資も40.4%減、さらに東南アジア諸国連合(ASEAN)からの投資も31.2%減です。
急激な外資流出を受けて、中国は人民元の拡大を急いでいます。
外報によると、中国はAIIBによる融資と決裁に使う通貨に人民元を加えるよう加盟国に働き掛けると報じています。
中国が設立したシルクロード基金と合わせ、AIIBに対しても、特別基金を設け人民元建ての融資を行うよう促す戦略に出てきたわけです。
それほど、外貨不足が深刻になりつつあるということです。
しかし、中国が拒否権を有する組織で、融資体制は不透明、使う通貨が人民元という銀行が信頼を得られるわけはありません。
 
競って参加を表明した英独などの欧州諸国は、そんなことは百も承知ですから、自国が不利になる条件や融資には一切応じないでしょう。
中国にしても、英国などに過去に食い物にされた歴史を忘れているわけではありません。
だから、喉から手が出るほどに欲しい日本、そして米国の参加に対し、習近平政権が、どんな手を打ってくるかを注意深く見守っていくべきです。
日本は焦る必要は全くありません。
政府の冷静で慎重な対応を望みます。
 
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┃☆建設産業が生まれ変わるために必要なこと          ┃
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5月29日付けの「建設通信新聞」の「建設論評」に「時は今!」と題する社説が載った。
労働力不足、生産性向上、人材不足、技能者支援など、建設産業の諸問題の根源が人間問題にあることを指摘し、業界が「真剣に取り組んできたようには思えない」と痛切な批判を述べている。
 
本紙の読者の多くは建設産業の経営陣および管理職である。
紙面を読みながら、おそらく「そんなことは分かっている」と舌打ちしながら、何も有効な手が打てない現実に暗澹として、お茶をすする姿が目に浮かぶ。
 
私は、大学を出た後、27歳までコンピュータメーカーでSE(システム・エンジニア)をしてきた。
その後、建設産業に転職し、現場勤務を志願した。
それ以来、40年間、この産業で働いている。
自分が経験した2つの産業を比べてみて、気付いたことがある。
世間の評価は、圧倒的にシステム産業のほうが上である。
給与は・・なんとも言えない。
個人の能力差が大きいことは、両産業とも同じである。
決して建設産業が低いわけではない。
建設産業のほうが低い水準の人が多いと思われがちだが、システム産業の底辺も悲惨である。
過労死の割合は、統計データを見たわけではないが、システム産業のほうが多いように思う。
残業時間は、私の経験では、両方とも変わりなかった。
250時間を超えていた月もざらにあったことは、両産業とも同じであった。
 
では、なにが世間の評価の基準なのであろうか。
おそらく、そのひとつが服装ではないか。
私の若いころでも、システム産業ではジーンズで仕事が出来た。
建設現場では、そうはいかない。
絶対に女の子にはモテっこない、ダサい作業着を与えられ、しかもダボダボ。
「ちょっと大きすぎる・・」と言ったとたん、現場所長に怒鳴られた。
そう、文句を言わさない職場の雰囲気も、若い人が敬遠する所以かもしれない。
 
今では少なくなったと思うが、若い頃は、現場でイジメられた。
上司や先輩から、職人から、顧客や設計事務所の先生から、そして近隣から。
イジメは耐えればいいが、無理難題には苦労した。
もっとも、その経験が今の自分を作ったと思えば、感謝すべき環境だが、
当時は、そうは思えなかった。
毎日、「明日は辞めたる」と思っていたものである。
 
「建設論評」の最後に、ずばり事の本質が書いてあった。
「理由は建設市場が買い手市場だったから・・」
その通りである。
そして、論説は、業界は発注者や世間に対して声を上げよという激で結んでいる。
これも、その通りであるが、難しいであろうと思っている。
なんといっても、発注者や顧客にモノ申すことは怖いから。
 
私は、独立した後、自分に出来ることを考え、少しづつ実践に移してきた。
システム技術を使った作業効率の向上、現場指導や経営コンサルによる企業力の向上、
複数の建設企業による共同受注・共同施工の仕組みの運営などなど・・
そして、ようやく、本丸に手が届くところまで来た。
それが何かは、そう遠くない“いつか”書きたいと思っている。
 
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┃☆小さな会社の大きな手(3):整合が取れない状態からの脱出法 ┃
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前号で、「現状維持では企業の存続が難しい」場合の打つ手のことを論じました。
そして、以下の2つの策を示しました。
1.人員整理を含む「縮小均衡」を図る
2.思い切った拡大策(新規事業を含む)に挑む
 
まともな策は「縮小均衡」であり、まともな経営者は、その策を取るべきです。
しかし、“まともでない”経営者は、あえて「拡大策」を採るかもしれません。
前号の最後で、そのような経営者のために条件を示しました。
以下に復習します。
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明確な「拡大策(あるいは、新規事業)」の具体案を持っていることが条件です。
それにはマーケティングが欠かせません。
ここでいう具体案とは、マーケティング結果から導かれた案でなければなりません。
さらに、「小さいがゆえの限界」を、ぎりぎりの線で明確化することです。
人員の配置転換、外部からの支援、資金調達など、あらゆる要素の「ぎりぎりの限界線」を数値化することでもあります。
これを、様々に変えながら、マーケティング結果から導かれる「目標とする成果」と整合が取れるまで、事業シミュレーションを繰り返すのです。
実際に、実行したかの如く、緊迫感を持って数字を作っていくのです。
 
しかし、それでも、「整合が取れない」という事態に陥った時はどうするか。
拡大策を諦めるか、それとも、次の手をかぶせていくか。
まさに、ぎりぎりの経営判断が問われるわけです。
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さて、その続きです。
ここで、絶対にやってはいけないことがあります。
それは、「整合がとれないまま進む」です。
奈落の底に落ちていくだけです。
 
このような「八方ふさがり」の状況の打破に有効な道具が「兵法」なのです。
勿論、兵法は「勝ち易きに勝て」とか「優勝劣敗」とか「敗者の戦略はない」とかが主題となっていて、無謀な戦いを戒めています。
この原則は大事ですが、兵法は親切にも、その原則が崩れた場合の対処のことまで書いていてくれています。
それが「第七篇 軍争篇」です。
第六篇までの大きな意味での戦略解説から一変して、戦線が入り乱れる浮動状態からの脱出法が解説してあります。
戦国武将、武田信玄の旗印として有名な「風林火山」は、この軍争篇に書かれている4つの解決法の一つなのです。
では、この4つのポイントのエキスのみを解説します。
私の兵法の師である故武岡先生の解説を引用しています。
 
1.次々と発想を転換して効果を発揮せよという「風林火山法」
2.もの、特に新しいものを使って解決せよという「金鼓旌旗(きんこせいき)法」
3.他との連携、困難発生への調査と対策、新組織や他人を使えという「借刀(しゃくとう)法」
4.触らぬ神にたたりなしの君子危うきに近寄るなの「走為(そうい)法」
 
このままでは、「なんのこっちゃ?」かもしれませんね。
私は、実際には、このうちの2つを組み合わせたり、他の要素を加えたり、自分の創意で変形したりと工夫して使っています。
一番、即効で効果が上がるのは3番の「他との連携」ですが、失敗が多いのも事実です。
大事なことは、失敗を悟った場合は躊躇なく相手を切るべきという踏ん切りです。
次の連携の余力を残しておく必要があるからです。
トップが面子にこだわり、効果の出ない連携をいつまでも続けることが最悪の手です。
経営判断の意味さえ分からないと言っても過言ではないでしょう。
 
私は3割バッターを目指しています。
つまり、自分の打つ手の7割は失敗するという前提で、ことを起こします。
兵法を学び、徹底的に思考し、シミュレーションを繰り返しても3割がやっとなのです。
それらが欠けた策など、成功率は1割にも満たないでしょう。
 
先にあげた兵法の3番とともによく使うのが2番です。
ただ、私が使うのは「もの」ではなく「思考の軸」の追加です。
簡単にいえば、ナビゲーションシステムで使う「衛星」の数を増やすことです。
使う衛星が増えれば、ナビの位置測定は、それだけ正確になりますね。
それと同じです。
その問題に有効と思われる思考方法を、次々に加えていくのです。
「整合がとれない」状態から抜け出せる道が自ずと見えてきます。
 
実は、この反対の方法が「敵を破滅させる」戦法なのです。
三国志で名高い諸葛孔明が使ったと言われる「八箇の法」などは、この典型です。
それについては、物騒なので、解説は省きます。
 
次号では、具体的な例を紹介しましょう。
 
 
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<編集後記>
マイナーな話題ですが、プロになってたったの5回で世界チャンピオンになった若者が出ました。
WBO世界ミニマム級王者の田中恒成選手(19)です。
快挙にケチを付ける気はありませんが、全く知らない選手でした。
ボクシング界は、1972年まではWBA(世界ボクシング協会)一つでしたが、今や4団体が入り乱れ、
それぞれにチャンピオンを出しているだけでなく「暫定王者」や「スーパー王者」など、
意味不明なチャンピオンまで粗製乱造のオンパレードです。
それでも、先日のウェルター級のタイトルマッチのように、数百億円という札束が舞う世界です。
異様な世界で、一般社会からはどんどん遊離していっている感じがします。
ビジネスとして一時の大金に酔うことも有りでしょうが、醜悪なビジネスにしか見えません。
個人的にはボクシングは好きなスポーツですし、多くの選手は好ましい青年です。
健全さを取り戻すことを願って止みません。
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