2015年11月14日号(国際、政治)

2015.11.14

HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2015年11月14日号
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                発行日:2015年11月14日(土)

いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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           2015年11月14日号の目次
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★金の力で、歪曲された歴史を世界の共通認識にと目論む中国
☆ユネスコ対策
★中英同盟?
★戦争と平和(その13):戦略的辺疆論

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こんにちは、安中眞介です。
今号は国際問題、政治問題の号です。
 
日中韓首脳会議と日韓首脳会談が3年半ぶりに開かれました。
ですが、「顔を合わせた」という以外の意味はありません。
両国ともしつように日本に歴史認識を迫っていますが、歴史を捏造しているのは両国のほうです。
それでも、日本は過去に何度も謝ってきました。
村山談話や河野談話という、日本人にとって屈辱的な謝罪もしてきました。
でも、両国の日本攻撃は止む気配もありません。
それはそうです。
日本に歴史認識を押し付けてくる事情は、両国とも国内事情にあるからです。
今回は、中国の事情を解説したいと思います。

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┃★金の力で、歪曲された歴史を世界の共通認識にと目論む中国    ┃
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中国は、自分に都合のよい歴史認識を国際社会に認めさせようと、あの手この手の外交攻勢を強めている。
日本は腹をたてる前に、なぜ中国が、ここまで執拗に歴史認識カードで日本を攻撃するのかを冷静に分析すべきである。

習近平政権になってから、中国の歴史改ざんは一気に加速した。
日本では、南京事件など日本絡みの歴史改ざんばかりが話題に上るが、注意すべきは、日本が絡んでいない中国の歴史の改ざんである。
チベットやウィグルなどの周辺国への侵略のみならず、日中戦争時の共産党の弱さや天安門事件など、負の歴史は全て封印し、「明の時代に南シナ海は中国の内海となった」などという仰天ものの歴史の捏造にまで至っている。

なぜに、これほどの無茶をするのか、その意図は明白である。
「中国の夢」と称する習近平国家主席の野望実現のためである。
これは「習の夢」と置き換えてもよいくらいの独善的な夢である。
具体的には、第一段階として、中国を米国と並ぶ2大大国に押し上げる。
そして、第二段階で米国を追い落とし、世界を中国の足元にひれ伏せさせるという夢である。

ところが、その夢の実現を阻む大きな壁がある。
それは、戦後、米国主導で築きあげられた民主主義による「普遍的価値観」である。

この価値観は米国の独りよがりの部分もあるが、米国は民主主義国家である。
行き過ぎた場合は、必ず政権交代がある。
共産党一党独裁の中国が絶対に受け入れられないことがそこにある。
中国は一党独裁体制だからこそ、民主的な手続きなしに、党が決めたプロジェクトを短期間で強行することができた。
そして、その効果で経済発展を遂げてきた。
その優位性を信じて疑わないのが、共産党幹部であり、習近平国家主席なのである。

ところが、日米が中心となってTPPなどの「普遍的価値観」が世界に広がろうとしている。
中国は、このような「普遍的価値観」による中国包囲網が思想的に出来上がっていくことがなにより脅威である。
なんとかして、この思想を切り崩したい。
そこで、日本を狙い撃ちにして、包囲の輪を崩そうとしているのである。
「世界平和のため」とごまかしながら、「日本の戦争犯罪を世界共通の認識」へと持っていき、反日意識を全世界に広げようとしているのである。
「日本の歴史認識カード」はそのための切り札なのである。

ユネスコの制度的欠陥を利用して「南京大虐殺」の資料を世界記憶遺産に登録認定させた時に、中国外交部の華春瑩(かしゅんえい)副報道局長(TVでおなじみの女性報道官です)は、こう述べた。
「南京大虐殺は国際社会が公認する歴史事実となった」
この言葉に中国の意図が色濃く出ている。

さらに、「金の力」に物を言わせ、「日本悪玉論」の世界世論形成の根回しに力を注いでいる。
日本は、金の力の対決になることは避けなければならないが、沈黙は最悪である。

たしかに、民主主義は無駄が多く、手続きに時間がかかり、中国のようなスピードでは事が進まない。
しかし、三権分立、普通選挙、人権、自由などの普遍的価値観は、人間社会の基本的要素である。
それに逆行する今の中国は、一党支配の弊害が国内外で山積している。
習近平政権による「腐敗撲滅」など、三権分立の無い中国において成立するはずはなく、泥沼の政治闘争へと発展するであろう。
日本は「中国共産党の核心的価値観」より「民主主義による普遍的価値観」のほうが強いと信じて、国際社会に強くアピールしていくべきである。

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┃☆ユネスコ対策                         ┃
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中国が「南京大虐殺」に関する資料を世界記憶遺産に登録認定させたことに対し、日本はただちに抗議した。
抗議は当然の権利だが、その時に「ユネスコへの拠出金の停止」をほのめかした。
この日本の抗議に、さっそく中国が噛み付いてきた。
まず、中国外交部の華春瑩報道官が発言した。
「日本がユネスコに対して公然と威嚇発言をしたことは驚くべきことだ」とし、「日本が歴史を正視し、実際の行動を以て国際社会の信用を得ることを促す」と相変わらずの上から目線である。
さらに、新華社(中国政府の御用通信社)は、ウェイブサイト新華網国際チャンネルで、「日本がユネスコに報復することは自ら恥をさらすようなものだ」との記事を掲載し、「中国に自重を要求するとは笑止千万」と、これまた上から目線である。
ネットでは、もっとひどい声で埋まっている。
とても文章には出来ない罵詈雑言(ばりぞうごん)ばかりだが、その多くに“金”のことが書かれていることに注目した。
 たとえば、「ユネスコの経費はすべて中国が出してやる」とか「金は中国にいくらでもある。日本の分担金など“はした金”」というような書き込みである。
そう、彼らの意識は「成金」そのものなのである。
現に、中国は「金」をふんだんに使い、特に英語圏に対し「中国が描いた史実」を信じ込ませようとしている。

その中国に対し「金」で対抗するのは愚の骨頂である。
分担金の見直しは、中国の土俵に乗ってしまうことを意味する。
たしかにユネスコは制度的に多くの欠陥を抱えている。
しかし日本は、制度改革という正論で審査の透明性の確保を要求すべきなのである。
幸い日本政府は思い直したようで、それ以降、分担金のことは口に出さず、制度改革を主張し出した。
この効果はすぐに現れた。
南京大虐殺で問題になった世界記憶遺産であるが、申請国以外の国が絡む場合は、その国の意見を聴取することが決められた。
さらに、先日、日本に調査に訪れた国連の女性調査官が、「日本の女子高校生の13%が援交している」という驚くべき発言を行った。
外務省は、ただちに、国連に「根拠のない数字だ」と抗議した。
この抗議で、調査官は「根拠のない」ことを認め、撤回へとつながった。

ようやく、日本人も外交ということを理解し出したのかもしれない。
だが、こうした中国のプロパガンダに一番洗脳されているのが、ほかならぬ日本の「有識者」と言われる方々である。
中国も韓国も「反日」の材料の多くは、こうした人たちの発言やマスコミ報道なのである。
国民は、冷静な目で彼らの発言や報道を判断していかなければならない。

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┃★中英同盟?                          ┃
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先月末、中国の習近平国家主席が英国を訪問したが、英国の歓待ぶりに多くの日本人は驚かされた。
いや、その前の訪米とのあまりの好対照に世界が驚いた。
英国がAIIBに真っ先に参加を表明した時から歓待は予想されたが、大英帝国の誇りも何も見えない英国の卑屈さは予想外であった。
日本円にして7兆円超というおみやげに目がくらんだのかと、世界から半ば嘲笑の目で見られても英国は意に介さないのであろうか。

しかし、習近平主席の訪英に先立ち、中国の中央テレビ局CCTVの取材を受けた英国のキャメロン首相の発言を改めて読んでみると異例の歓迎ぶりの背景がよく分かる。
以下にその発言内容を原文のまま列挙する。

1.今回の習近平国家主席の訪英は、英中関係が最も良い時期に当たっている。私はこれを英中関係の「黄金時代」と呼んでいる。
2.イギリスは世界各国に市場を開放しているが、中国が投資する先としては、EUのどの国よりもイギリスが最も適している。
3.中国の経済は転換点に来ているが、しかし今後も成長を続けるであろうことを私は信じている。イギリスの対中貿易は過去10年の間4倍になった。
4.ロンドンでは、世界に先駆けて2014年10月から人民元建ての債券を発行するようになったが、イギリスは金融街として全世界を牽引していくことだろう。
5.AIIB(アジアインフラ投資銀行)加盟にEUで最初に手を挙げたのはイギリスで、その後に他のEU諸国が続いた。
6.AIIBへの参加は決してアメリカとの衝突を意味しない。イギリスが加盟したことは正しい選択であり、今後は経済貿易のみならず、文化や人的交流に関してももっと力を入れたい。
7.中国の対英インフラ投資は、より多くのイギリス人の雇用を生んでおり、英中双方がメリットを互いに享受している。これからはチャンスの時代。より多くのチャンスが待っている。

キャメロン首相の中国への傾倒ぶりには驚かされるが、英国流のしたたかさと見るべきであろう。
逆に、これで中国の意図ははっきりとしてきた。

中国は太平洋への進出を悲願としてきた。
その突破口として東シナ海および南シナ海の占有を狙ったが、しかし、米国がそれを許さず強硬姿勢に転じ、日本の安保法案によって日米の軍事連携が強化された今、力での突破が難しいことを悟った。
それで、もう一つの戦略「一帯一路」の実現に重点を移してきた。
この「一帯一路」の終点に位置づけている英国を落とせば、地球の半分は中国の手に落ちると思ってのことである。
しかも、英国に続いてAIIBにEU主要国が加盟したことで、日米を除くG7の切り崩しに成功したと中国は見ている。
さらに、英国の後押しで人民元の国際通貨化に成功すれば、アメリカの対中包囲網を崩せるとの思惑である。

ただ、キャメロン首相が、中国のテレビ局の取材に対し「アメリカと衝突を起こしはしない」と断ったことに注目すべきであろう。
要するに英国は、アメリカと中国の二股をかけているのである。

今後、中国は必死になって英国を取り込み、西へ向けた地球儀の半分を制覇し、 日本に対しては歴史カードを掲げ、日本悪玉論を国際社会の共通認識にしようとするであろう。
この「思想闘争」も、日本をターゲットにして日米主導のTPP構想を切り崩そうというものである。

英国の金融街シティを仲介にして人民元の国際化を図るという中国の戦略に英国は全面的に乗っているように見える。
しかし、金融センターには透明性や民主的運営がなによりも求められる。
中国がすんなりその要求に応えていくとは思えない。
一歩間違えば、英国の国際金融に傷が付く。
英国は、中国と違い民主主義の国である。
キャメロン首相の失脚とともに、中国の野望が頓挫するかもしれない。

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┃★戦争と平和(その13):戦略的辺疆論             ┃
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南シナ海での米中の一触即発状態はしばらく続くと思われます。
しかし、偶発的な衝突が起きる可能性はありますが、軍事衝突まではいかないでしょう。
両国ともそれは望んでいないからです。

そもそもの発端は中国による一方的な岩礁の埋め立てですが、これには中国の独特の考え方が根底にあります。
まず、それを分析することから始めたいと思います。
中国には「国境は国力に応じて変化するもの」という考え方があります。
これが、最近マスコミ報道にも載るようになった「戦略辺疆(へんきょう)」という考え方です。
この思想が初めて登場したのは、1987年の「解放軍報(中国の中央軍事委員会の機関紙)」に掲載された論文です。
この論文によれば、中国の安全と発展を保証するためには「国家と民族の生存空間」を確保することが必要とされ、そのために「海洋」「深海」「宇宙」という三次元において「国境」を立体的に拡大するとされています。

この論文が発表された翌年の1988年に中国は南沙諸島への進出を開始しました。
ベトナム軍との銃撃戦の末、6つの岩礁を占拠したことは、我々もよく知るところです。
しかし、当時の日本は、その背景にあった「戦略辺疆」の論文のことはまったく知らなかったのです。

この論文のことに触れたマスコミも皆無でした。
この程度の情報網および分析力もないマスコミには本当に失望させられます。
中国は、さらに1995年にフィリピンのミスチーフ礁、2012年にはスカボロー礁にも進出しています。
着実に、海洋における「国境」を拡大してきているのです。

そして、中国にはもう一つの重要な考え方があります。
それは「海洋国土」という思想で、簡単にいえば、領海のみならず 排他的経済水域(EEZ)も“国土”なりとの考え方です。
さらに、EEZのみならず、中国大陸から自然延長的に広がっている大陸棚も中国の“国土”と主張しています。
これが「海洋国土」という考え方ですが、2010年の『解放軍報』の中で紹介されています。

中国では、海洋国土は「国家管理領域」と称していますが、それが岩礁でも、国家が管理する中国の“国土”の一部としています。
また、沖縄は中国大陸から自然延長的に広がっている大陸棚に乗っているので、中国の国土だと解釈しています。
「辺疆」という言葉は辺境を意味しています。
かつて、歴史上の中国王朝は、みな北方からの異民族の侵入に悩まされてきました。
我々も歴史の時間に習った「匈奴」もその北方民族のひとつです。
その侵入を防ごうと、あの長大な万里の長城まで建造したのですから、その切実さが分かります。
しかし、長城を持ってしても侵入を防ぐことは出来ず、結局、強大な軍事力によって「辺疆」そのものを国土に組み入れるという考え方に行き着いたのです。

また、「辺疆」の考え方には、国家としての総合力(政治力・経済力・軍事力)が強ければ、どこまでも拡大できるという解釈が付いています。
現代においても、中国のパワーが強大になれば、周辺諸国を中国の傘下に組み入れても良いと考えています。
この考えで、内モンゴル、チベット、ウイグルへと地域支配を拡大していったのです。
第二次大戦の終了時に比べて、現在の中国の国土は35%も拡大しています。
これは、近代では帝国主義と呼ぶべき侵略国家の姿なのですが、中国の考え方では、すべて自国防衛のための必要処置となっているのです。

さて、日本は、こんな中国とどう対峙していけばよいのでしょうか。
次号では、そのあたりを解説します。

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<編集後記>
軍事力は経済力あってこそ成り立つ国家の力です。
太平洋戦争を起こした当時の日本のGDPは米国の19%でした。
孫子の兵法によれば「逃げるが勝ち」しかない数字です。
当時のドイツは25%でしたから、両国を足しても44%でした。

冷戦時代のソ連のGDPは、米国の40%と言われています。
両国による直接戦闘こそありませんでしたが、冷戦においてもソ連に勝ち目のなかったことは明白です。

今の中国のGDPは米国の60%です。
今までのライバル国をしのぐ数字ですが、問題は実態です。
中国の経済指標のデタラメぶりは、世界の知るところです。
実態はまったく不透明ですが、米国の40%ぐらいがいいところだと思われます。
とすると、中国に勝ち目はないわけです。
まして、米国に日本の数字を足すと、その差は10ポイント以上開くと思われます。
つまり30%以下となります。
経済の日米安保と言われるTPPの意味は、戦争の抑止力としても小さくないということです。
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