2022年1月31日号(経済、経営)
2022.02.17
HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2022年1月31日号
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発行日:2022年1月31日(月)
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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2022年1月31日号の目次
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◇新しい日本型資本主義の中身(4)
★今後の建設需要(24):最近の話題
◇これからの近未来経済(14):山なり多重回帰曲線型経営(その5)
☆商品開発のおもしろさ(19):コンピュータの話(その4)
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こんにちは、安中眞介です。
今号は、経済、経営の話題をお送りします。
<お詫び>
前号(2022年1月15日号)の目次が(2021年12月15日号)となっていました。
正月ボケとご理解ください。
温暖化対策で各国が「脱炭素」政策を競い合っています。。
その一方で原油価格が急騰していますが、当然の結果といえます。
このまま順当(?)に脱炭素化が進めば、2050年の石油需要は現在の半分どころか70~80%減になるかもしれません。
産油国は原油価格を2~5倍にしないと経済が持たないでしょう。
「増産? ふん!」と言う声が聞こえるようです。
もし、このまま原油価格が上がり続ければ、各国の経済は大打撃を受け、物価の高騰を招きます。
その結果「脱炭素」が進んで環境派は快哉を叫ぶでしょうが、庶民の暮らしは直撃されます。
「温暖化は自然現象だから何もするな」の意見も無責任ですが、具体性に欠ける目標も無責任です。
先進国からの支援が必要な開発途上国は沈黙していますが、本音は脱炭素に反対です。
この先、経済の現実が迫ってくれば各国の足並みはどんどん乱れていくことでしょう。
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┃◇新しい日本型資本主義の中身(4) ┃
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前回(3)、安倍前首相が岸田首相の「新しい資本主義」に注文を付けたという話をしました。
しかし国民には、そもそも両者の違いがよく分かりません。
そこで、今号から、互いの主張を要約し、私なりの解説を加えたいと思います。
まずは、岸田首相の「新しい資本主義」から。
実は、「文藝春秋」2月号の特選記事として、「新しい資本主義」を岸田首相自らが語っています。
この記事を要約して、以下に掲載します。
「資本主義は、市場を通じた『効率的な資源配分』が経済活性化を促すという理論ですが、同時に富の偏在や公害の発生という『外部不経済』という名の弊害をもたらします。
資本主義は、この二つの微妙なバランスを常に修正し続けることによって進化してきました。
これが19世紀以降の世界経済成長の原動力です。
20世紀半ばから起きた福祉国家に向けた取り組み(分配の強化)や、逆に分配の行き過ぎを是正するという意味での『新自由主義』などは、こうした資本主義の進化過程の一つです。
新自由主義とは『市場や競争に任せれば全てがうまくいく』とした経済理論ですが、1980年代以降に世界の主流となり、世界経済の大きな成長の原動力となりました。
しかし、その結果、経済のグローバル化が進み、弊害も顕著になってきました。
市場に過度に依存した結果、欧米諸国を中心に中間層の雇用が減少し、格差や貧困が拡大しました。
国民総所得に対する雇用者報酬や賃金支払総額の割合(つまり労働分配率)は、先進国では低下傾向にあります。
日本は2000年の50.5%から2019年では50.1%と、ほぼ横ばいですが、米国では56.4%から52.8%、ドイツは53.4%から52.3%へと減少しています。
さらに、1980年から2016年にかけての世界の所得階層別の所得の伸びをみると、最も豊かな1%の人々が、世界全体の所得の伸びの27%を獲得しています。
つまり、先進国の中間層の所得が抑えられてきたのです。
企業経営においても、短期的な効率化重視の限界が現れています。
コロナ禍において必要不可欠なモノが国内で供給できないというリスクが顕在化しました。
半導体不足によって、車やゲーム機などの生産まで滞る事態が発生しています。
効率性を追い求めすぎたゆえに、サプライチェーンやインフラの危機に対する強靱性が失われてしまっているのです。
私(岸田首相)は、アベノミクスなどの成果の上に、市場や競争任せにせず、市場の失敗がもたらす外部不経済を是正する仕組みを、成長戦略と分配戦略の両面から資本主義の中に埋め込み、資本主義がもたらす便益を最大化すべく、新しい資本主義を提唱していきます。
資本主義が課題に直面する一方、世界では、(中国のような)権威主義的国家を中心とする国家資本主義とも呼べる経済体制が勢いを増しています。
貧困や格差拡大による分断によって民主主義が危機に瀕する中、国家資本主義によって勢いを増す権威主義的体制からの挑戦に対し、我々は、自ら資本主義をバージョンアップすることで対応するしかありません。」 【引用元:文藝春秋】
よく練られた文章ですが、分析で終わっています。
なるほど、岸田首相の主張する「新しい資本主義」とは、市場原理に過度に依存した新自由主義経済から離れ、分配重視の社会主義の要素を強化した資本主義ということは分かりました。
しかし、肝心の成長戦略と分配戦略の中身についての具体論がありません。
首相の言う“バージョンアップ”の中身が知りたいのですが、これでは肩透かしです。
岸田首相、この記事の続編をぜひお願いします。
次回は、アベノミクスの分析と評価を行いたいと思います。
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┃★今後の建設需要(24):最近の話題 ┃
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最近の業界紙で目に止まった記事を挙げてみました。
働き方改革やDXは数が多い割には中身が浅く、かえって進捗の遅さが浮き彫りになっています。
それ以外に注目したのは、以下の記事でした。
・賃上げ企業は、総合評価で5点の加点
・CCUS(建設キャリアアップシステム)を23年度から民間を含むすべての工事で原則活用
・経済成長は建設投資がカギ
・受注時採算の低下が課題
・受発注関係の基盤を固めるには
・省エネ住宅の推進を
・個人の成長支える制度を
どれも大事な問題ですが、内容の浅さが気になりました。
(紙面の都合があるのは理解できますが・・)
例えば「賃上げ企業は5点の加点」の記事です。
民間工事にはまったく無縁の話ですし、公共工事においても「賃上げしたが受注できない」企業は経営が苦しくなるだけです。
言い方は悪いですが「官僚の浅知恵」というしかありません。
もう少し辛辣な解説があっても良いのではと感じました。
また、CCUSは「システム運営を23年度から黒字化する」といった運営側の事情が優先して、対象となる技能労働者の目線での内容は乏しいです。
「技能に応じた賃金体系を」とありますが、これを国が強制するのでしょうか。
2024年度から始まる時間外労働の罰則付き上限規制についても解説が不足しています。
つい先日も、弊社が顧客の代行を行っている工事の工程表を受け取りましたが、土曜は施工日となっていました。
施主にしてみたら短い工期は歓迎です。
それに逆行する形の週休2日を、受注側が吸収するのは難しい現状があります。
記事では「受注規律」という言葉が出てきますが、「受注規律ってなんぞや?」という疑問が湧きます。
大手デベロッパーの知人は、「業者は、やりたくなきゃ、受けなければいいんだ」と言い放ちます。
たしかに、それも道理です。
日本は、基本が自由主義の国ですから。
欧州に引きずり回されている感のあるCO2削減は、間違いなく建設コストのアップに繋がります。
これに強制的な「働き方改革」が加わったら、建設市場は崩壊しないまでも、縮小することは確実です。
「だからICTなんだよ」と言われても、実質的なコスト削減につながる道はさっぱり見えません。
一部企業の成功例にしても、内容が誇張されているでしょうし、記事からは経営成績への影響は見えません。
誤解して欲しくないのは、私は業界紙の批判がしたいわけでも、様々な取り組み自体を否定しているわけでもありません。
企業人、特に経営者や幹部は、目を引く派手な話題や記事に惑わされず、自社の現状を踏まえた地道な道を歩むべきだと、自戒を込めて言いたいのです。
もちろん、先進的取組みに邁進している企業は、そのまま進めば良いと思いますが。
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┃◇これからの近未来経済(14):山なり多重回帰曲線型経営(その5)┃
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1回空きましたが、本連載を続けます。
前回(11/30号)の最後から再開します。
私は、この経営分析で「危機領域」に落ちたならば会社を整理すると決めて経営データをプログラムに掛けました。
実際、「危機領域に落ちた」点数が出ることを確信して、会社整理の準備を始めました。
ところが予想に反し、ギリギリ「危機領域」に落ち込む寸前の点数が出たのです。
思わず天を仰ぎ、「これは、天が『まだ頑張れ』っていうことか」と思ったところまでお話ししました。
しかし、いくら「天の思し召し」と思ったところで状況はまったく変わりません(当然ですね)。
やはり会社を整理するしかないと決意して考えました。
まず、倒産にも「悪い倒産」と「良い倒産」があるはずと考えました。
「最も悪い倒産」とは「経営者の自殺」です。
実際、毎年の自殺者の多くは自営業者および中小企業の経営者だということです。
(昨年は自殺者がかなり減少しましたが、コロナ対策の補助金の効果で経営者の自殺が減ったからと考えます)
経営者が自殺する心理はよく分かります。
この時の自分も、頭の中には自殺の文字が浮かびましたから。
しかし、自殺は残された者に大きな心の傷を残し、関係者にも大きな迷惑を掛けます。
つまり「最低の解決策」なのです。
では「最も良い倒産」とは、どんな倒産なのでしょうか。
私は、この時、以下のように考えました。
一番大切なのはお客様です。
こんな状態の我社でも信じて付き合ってくださっているお客様への迷惑を最小限に抑える具体的な方法を考えました。
次は、給料遅配まで起こしているのに頑張ってくれている従業員の雇用です。
この2点に絞って、数字を基にした具体策を作成しました。
この具体策を誰に提示するかですが、資本力のある相手でなければ意味がありません。
メインバンクは、資本力はあっても弊社の本業への本質的な理解は無理です。
そこで、弊社製品の販売会社の中で最も大きな企業に、この案を持っていきました。
その後の経緯は、以前のメルマガで書きましたので、以下に結論だけを書きます。
私は、現状の経営データを前に説明した後、次の提案をしました。
「弊社のお客様をすべて引き受けて欲しい。そのために御社が必要とする弊社の社員を雇用して欲しい。その代わり、弊社ソフトの版権はすべて無償で提供します」
相手の常務は、そのときに初めてお会いした方でしたが、以下の質問をされました。
「残りの社員の方はどうするのですか?」
私は「彼らの就職先は私が見つけます」と答えました。
次に、常務はこう尋ねられました。
「あなたは、どうされるのですか?」
私は「自分のことは自分でなんとかできます。必ず再起します」と答えました。
この時の私の答えが的確だったかどうかは、今でも分かりません。
結果として、この会社は、何の担保も保証も取らずに、危機を乗り切るために必要な資金を2日後に振り込んでくれました。
ということで、この連載は終わり・・ではありません。
肝心なのはこの後です。
それは次号でお伝えします。
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┃☆商品開発のおもしろさ(19):コンピュータの話(その4) ┃
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原子爆弾開発のためのマンハッタン計画は、1942年、米国ロスアラモス国立研究所で始まりました。
この爆弾の効果を最大限に発揮させるには非常に高度で複雑な計算が必要でした。
同時期にコンピュータENIACの演算回路の改良を行っていたフォン・ノイマンがマンハッタン計画に参加するのは、ある意味当然のことでした。
砲弾や爆弾の威力は、単純に爆薬の量だけで決まるわけではありません。
弾体の形状や構造はもちろんですが、起爆方法や爆発時の弾体周りの空気状態によって爆発力は大きく異なります。
フォン・ノイマンは、1930年代半ばから、爆発時の空気や水などの流体の衝撃波に興味を持ち、球面衝撃波の理論構築を進めていました。
その過程で、やがてNDRC(国防研究協議会)の委員となり、爆発時の噴流を特定方向に集中させることで爆発の威力を増す「指向性爆薬」の理論に行き着きました。
この理論は、爆弾に詰める炸薬を漏斗状に成形すると、爆発力が中心の空間に集中し、厚い装甲板を貫通する効果が得られるというものです。
これは、今でも「ノイマン効果」と呼ばれています。
この理論の成果は、第二次世界大戦において、対戦車砲弾や魚雷の開発に応用されました。
また、爆発時に衝撃波がどのように発生し伝搬するかは、流体力学の非線形偏微分方程式を何らかの手段で解く必要がありました。
この必要性が、彼が行っていたコンピュータの演算回路の改良に大きな役割を果たしました。
この分野でのフォン・ノイマンの業績のひとつに以下の理論があります。
「大きな爆弾による被害は、爆弾が地上に落ちる前に爆発したときの方が大きくなる」というものです。この理論は、広島と長崎に落とされた原子爆弾にも利用されました。
彼は、長崎に投下されたプルトニウム型原子爆弾(ファット・マン)用の「爆縮レンズ」の開発を担当し、爆轟波面の構造に関するZND理論を確立しました。
彼は、この理論を元にコンピュータでの数値解析を繰り返し、爆薬を32面体に配置することによって、原子爆弾が実際に実現できることを示しました。
彼は、それだけでなく、日本に対する原爆投下の目標地点の選定に関し、「日本国民にとって深い文化的意義をもっている京都をまず殲滅すべき」として、京都への投下を進言したのです。
このような一種の狂気的側面を持つフォン・ノイマンは、スタンリー・キューブリック監督の映画『博士の異常な愛情』のストレンジラヴ博士のモデルの一人ともされています。
ノーベル賞とは無縁だった理由に挙げられる「人間のふりをした悪魔」と言われたのも無理からぬことです。
もっとも、彼自身はノーベル賞に無関心だったと思います。
彼は、その後も、アメリカ合衆国国防総省、空軍、CIA(中央情報局)などの政府関係のコンサルティング、IBM、GE、スタンダード・オイルなど大企業の顧問などを歴任し、1957年に生涯を終えました。
<追記>
アインシュタインがルーズベルト大統領に送った信書がマンハッタン計画の発動につながったとする説がありますが、これは事実ではありません。
アインシュタインと同じ亡命ユダヤ人物理学者レオ・シラードらが、アインシュタインの署名を借りてルーズベルト大統領に送り、核開発をうながしたものです。
アインシュタイン自身はマンハッタン計画に関与しておらず、逆に、彼の政治姿勢から警戒され計画がスタートした事実さえ知らされていなかったというのが真相です。
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<編集後記>
中国のTPP加盟申請には当然裏の目的があります。
第一に、米国の復帰を阻止したい。
第二に、日本主導の妨害。
第三に、シンガポールなどの親中的な加盟国を抱き込み、中国寄りのルールに変える。
現代は外交と経済がリンクしている時代です。
岸田政権の真価が問われる問題です。
今後の経緯を追っていきたいです。
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