2022年10月15日号(国際、政治)

2022.11.01


HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2022年10月15日号
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発行日:2022年10月15日(土)
 
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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2022年10月15日号の目次
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◇サイレント・マジョリティ
★プーチンは、より大きなパンドラの箱を開けてしまった
◇政治家と軍司令官
◇中国の航空母艦の実力
 
<HAL通信アーカイブス>http://magazine.halsystem.co.jp
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こんにちは、安中眞介です。
今号は国際問題、政治問題をお送りします。
 
北朝鮮の長射程ミサイルが日本列島上空を通過したことに対し、「迎撃すべき」との勇ましい意見がありますが、実際には「できない」のです。
ミサイルの列島通過高度は約950kmと推定されていますが、国際法で領空とみなされるのは100km程度であり、今回の通過高度は領空ではなく「宇宙」となります。
となると、発射後の早い段階での迎撃となりますが、技術的な難しさに加え、北朝鮮の領空を侵犯する恐れもあるため、“まず不可能”です。
つまり、「もし日本に撃ち込んだら、倍返しで反撃するぞ」という抑止力を持つしか手段はないということになります。
日本は、そうした現実を認めるしかないのです。
 
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┃◇サイレント・マジョリティ                    ┃
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9月27日の安倍元首相の国葬は、早くも巷の話題としては色あせてきたようです。
その代わり、「サイレント・マジョリティ」なる言葉が飛び出しました。
 
世論調査で反対が多かった国葬に対し、政府関係者や自民党議員が、献花台へ並ぶ行列の映像やデジタル献花の数を指して「こうしたサイレント・マジョリティが・・」と言い出したことが発端です。
この言葉で、その昔、安倍元首相の祖父である岸信介元首相の言葉を思い出しました。
1960年の日米安保条約の最初の改訂時、激しい反対闘争が起き、デモ隊が国会を包囲するという異常な状態となりました。
その時の首相であった岸信介氏は、こう言いました。
「私は、声なき声を聞く」
まさに、今回のサイレント・マジョリティのことです。
当時、私はまだ子どもでしたが、この言葉だけはよく覚えています。
また、デモ隊を煽っている勢力の後ろにはソ連がいると聞いて、「日本が共産主義の国になるのは嫌だな」と子供心に思い、安保改訂の成立に「良かった」と思った記憶があります。
 
あの時と同じ言葉を62年後にまた聞くとは思いませんでしたが、今回の国葬に対しては、私は反対でも賛成でもありません。
「まったく関心がない」という人を含めて、私のような国民が大多数ではなかったかと思います。
そうした人たちが本当のサイレント・マジョリティであり、献花台に並ぶ人やデジタル献花をした人はサイレントではなく、明確な態度で示した賛成派だと思うのです。
また、反対派にも様々な人がいて、根っからの反自民党や「アベは大っきらい」な人もいれば、費用の問題や旧統一協会との関係の不透明さから反対した人たち、さらに「なんとなく反対かな」まで、いろいろです。
 
ひとつの意見として、私は以下のように考えていました。
今回は自民党葬のレベルにとどめ、安倍元首相の政治的評価が定まるであろう1年後ぐらいに、改めて国葬を行うか否かを国会で議論するという案です。
しかし、もはや“終わってしまった”問題です。
忘却が早い日本人の気質から考えれば、あっという間に“消えていく”記憶になってしまうでしょう。
 
今回の葬儀で私が注目したのは、ただ一点、インドのナレンドラ・モディ首相の参列でした。
モディ首相は、エリザベス女王の国葬を欠席し、日本の国葬に参列したのです。
この意味は、とても深いと思います。
オーストラリアのアルバニージー首相も参列したことと合わせ、日米豪印の「クアッド」に両国が大きな期待を寄せていることが浮き彫りになりました。
これは、安倍元首相が残した功績といってよいでしょう。
岸田首相が、この功績をどう発展していけるかに注目していますが、正直、なんとも心細いですね。
 
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┃★プーチンは、より大きなパンドラの箱を開けてしまった       ┃
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今回のロシアによるウクライナ侵攻は、意図せず、より大きなパンドラの箱を開けてしまったのではないかと思われます。
現在の天然ガスの不足は、ウクライナ侵攻だけが理由ではなく、近年の脱炭素の声の圧力で新規の開発が止まったことが最大の要因です。
しかし、今回の危機を受け、世界中で天然ガスや石油資源の新規開発が復活する兆しがあります。
 
ウクライナ侵攻は、もはや戦争と呼ぶべき拡大を見せています。
その結果、欧米を含めた総力消耗戦となり、石油燃料と火薬の大量消費で大気中には二酸化炭素が爆発的に放出される事態となっています。
それなのに、「カーボンニュートラルへの逆行だから戦争は止めよ」という声は起きていません。
より大きなパンドラの箱とは、「戦争が経済の停滞を打破する最も有効な手段だ」という歴史が証明してきた暗黒の箱のことです。
 
戦争ができなくなった欧米では、戦争によって既存インフラを全面償却し、復興需要という新たな経済活性を促すという手段が取れなくなっていました。
しかも、欧米のインフラ設備は十分なほどに成熟していて償却額もごく少額で済んでいます。
その結果、インフラ蓄積の薄い新興国のように、技術革新による設備更新が加速度的に進むことは期待できなくなっていました。
その中で起きたリーマンショックの際、対策として先進国の中央銀行は、大量の低金利資金を投入しましたが、その大半はBRICs諸国に流れ、中国やインド、ブラジル(ロシアも含まれます)の経済成長の原動力になっただけでした。
西側諸国は、そうした経済成長によってBRICs諸国が民主化され、新たな世界経済の発展につながることを期待しました。
しかし、その資金は、習近平やプーチンの権力拡大への貢献に終わり、西側はその清算を強いられるという皮肉な結果になったわけです。
 
一方、固定電話が携帯電話に変わるなどのIT革命が新たな経済を創るものと期待されましたが、早々と技術的な壁にぶつかり、現在は停滞を余儀なくされています。
その間、一気にスマホによるネット決済などが普及し、爆発的に発展した中国を狙って欧米や日本企業が大量に進出しましたが、同国の独裁的な政治形態が別の壁になり、懸念が高まっています。
 
そこで欧米が仕掛けたのが「二酸化炭素を元凶とする地球温暖化対策」です。
温暖化を阻止するという大義名分によって、化石燃料に依存した既存インフラを全面償却し、クリーンエネルギー文明を構築する巨額投資で停滞する経済を一気に活性化せんとしたわけです。
この象徴的な製品が電気自動車です。
高いレベルに成熟した日本の自動車産業に太刀打ちできないと判断した欧米は、温暖化阻止を大義名分とした電気自動車の普及を強引に法制化し、一気に日本の優位を覆そうとしているのです。
 
このような時、欧米にとって“天佑”のように起きたのが、ロシアのウクライナ侵攻です。
侵攻から戦争へと拡大しましたが、この戦争もいつかは終わり、復興の時を迎えます。
ウクライナのインフラ復興には100兆円を遥かに超える資金が必要で、その復興の担い手は、当然に欧米の企業になるでしょう。
かつ、大量に消費した欧米の武器・弾薬の補充で軍需産業は大いに潤います。
こうした復興や投資に必要な資金の心配はありません。
世界的に巨額なマネーが行き場を失い、株式や債権市場をぐるぐる回っています。
このようなマネーが黙っていても集まってくるでしょう。
 
このように、ウクライナにおけるインフラ破壊と大量の兵器消耗で巨大な需要が生まれてくることは、相変わらず、戦争が即効性を持った「需要喚起策」であることを実証した形になるでしょう。
その結果、温暖化阻止を名分にした化石燃料インフラの強制償却という政策は後退することになります。
 
プーチンが意図せずに開けてしまった「パンドラの箱」には、それ以外にも、溜まりに溜まった東西間や南北間の越えがたい溝、貧富の格差の広がり、民主主義対専制主義、先進国対資源国といったあらゆる矛盾が詰め込まれていました。
この箱を開けてしまったことが良かったのか悪かったのか即断はできませんが、この答えが出るのは2050年と考えています。
でも、おそらく、2030年代には、その答えの一端が見えてくるのではと思っています。
 
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┃◇政治家と軍司令官                        ┃
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ウクライナ戦争におけるウクライナ、ロシア両軍の動きを、純粋に軍事面の視点で見ていくと、際立った違いが浮き彫りになってきます。
もちろん、欧米による武器・弾薬の大量供給がウクライナ側の大きなアドバンテージですが、指揮官がそれらを有効に活用できなければ、ゲーム・チェンジャーになることは出来ません。
現代の戦争でも、指揮官の力量が戦局を大きく左右することは、昔と変わりがないのです。
 
ウクライナ軍の総司令官は、ザルージニー氏です。
欧米の軍事専門家が「まるで三国志を見ているようだ」と評したように、見事な戦略そして戦術を駆使して困難な戦局をリードしています。
同氏は、戦闘の経験が豊富なだけでなく、人格も優れているとの評価も高い軍人です。
対するロシアのゲラシモフ参謀総長も優秀との評価が高い軍人ですが、前線は後退するばかりで混乱が広がっています。
 
この両国の違いを分析してみると、司令官の能力以前に、国のトップと司令官との関係が浮かび上がってきます。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ザルージニー司令官に作戦の総指揮を全面的に任せていると言われています。
一方、ロシアのプーチン大統領は、参謀総長を飛ばして、作戦の細かなところにまで現地に横やりを入れていると言われています。
その状況で責任だけを取らされる現地司令官としては「やってられない」が本音でしょう。
最近の苦戦の責任を問われた司令官の更迭のニュースが多く上がってきています。
ついには、側近と言われるショイグ国防相のクビすら危ないとの報道まで出ている始末です。
 
第二次世界大戦でのドイツのヒットラーも、同じように軍の作戦に何かと口を出し、うまくいかないと指揮官にその責任を押し付けることが常だったと言われています。
古代中国の歴史書である正史三国志や史記には、君主や皇帝と軍師や将軍との関係が国の運命を左右したことが克明に書かれています。
このような歴史の教訓をプーチンは学んでいないのでしょうか。
 
こうしたことは、企業のトップと幹部との間にも存在する要素です。
私は、双方の立場を経験し、また経営コンサルとして企業の指導も行ってきました。
その経験から、この両者の関係が組織にとって最も大事、かつ最も難しい要素であることを痛感しています。
 
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┃◇中国の航空母艦の実力                      ┃
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2022年6月に進水した中国3番目の空母は、習近平主席が自ら「福建」と命名したように、本格的な航空母艦といえるようです。
たしかに全長315m、満載基準排水量8万トンの巨体は、図体だけは米国の原子力空母と遜色ないように見えます。
実戦配備は2024年と言われていますが、そうなると、現有の「遼寧」と「山東」と併せて3隻の空母打撃群を持つことになり、整備などでドッグ入りしても、常に最低1隻の部隊が活動できる状態になると言われています。
 
しかし、2012年に配備された最初の空母「遼寧」は、廃船寸前のポンコツ船をウクライナから購入して改造したもので、実戦では使い物にならない「見せ空母」としての存在です。
2隻目の「山東」は、初の国産空母ですが、「遼寧」と同じスキージャンプ式の艦載機の発艦しかできず、作戦能力はかなり低いレベルです。
3隻目の「福建」が、ようやく本格空母といえるレベルですが、背伸びした装備が問題です。
米国でもフォード級空母にしか装備されていない電磁カタパルト(艦載機の射出装置)を装備すると言われていますが、「きちんと稼働するのか?」の疑問符が付いています。
 
電磁カタパルトは、大量の電力を必要とします。
米国の空母はすべて原子力動力なので、電力の心配はありません。
一方の「福建」はディーゼルエンジン駆動なので、全速力で航行しながら短時間で艦載機を発艦させることが果たして可能なのか、そこが疑問なわけです。
 
さらに艦載機として考えられているJ-15Tやステルス戦闘機といわれるFC-31の性能にも疑問符が付いています。
もちろん、中国は懸命に改良を重ねていますので、戦力としての性能を徐々に上げてくるとは思いますが、現状では不明です。
 
そうなると、中国の空母は米国の空母打撃群との本格的な戦闘を目的としているわけではなく、日本や台湾、韓国への脅しとして使う「政治的な道具」の意味合いが強くなります。
実際、「遼寧」打撃群は、何度も沖縄と宮古の間の海峡を抜け、太平洋へと進出しています。
この行為は、「第一列島線内は、もう中国の管轄下にある」とのデモンストレーションです。
そのうち、2番目の「山東」打撃群を硫黄島近海まで進出させ、そこで演習を行うことで、「第二列島線も中国の支配下にある」と誇示するのではないかと思われます。
そのような状況を作った上で、「福建」に台湾近海での侵攻演習を行なわせ、日米を牽制しつつ、露骨な脅しをエスカレートさせるのではないでしょうか。
 
万が一、日本の自衛隊との戦闘になった場合は、空自のF-35、F-15の攻撃と海自の潜水艦隊からの水面下からの攻撃によって、日本近海に近づいた中国空母を撃沈することは可能でしょう。
ただし、そんなことは中国もよく分かっていますから、脅し以上の行為は行ってこないと思われます。
 
このような情勢を打破しようと、中国は空母6隻体制を整えることを目論んでいると言われています。
それが実現すれば、東シナ海と西太平洋に空母艦隊を展開して日米両軍を牽制した上で、台湾侵攻というシナリオを描けると習近平政権は思っているようです。
 
しかし、空母打撃群の建造・運用には膨大なカネが必要になります。
減速気味の中国経済の現状を考えると、6隻はおろか、4隻目の空母の建造も危ないといえます。
いや、3隻の運用すら“ままならない”事態に陥る可能性すらあります。
中国の経済をこれ以上大きくしないことが、東アジアの平和に欠かせない要素といえます。
岸田政権は、どう考えているのでしょうか。
 
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<編集後記>
中国の軍事研究家であるスタンフォード大学のオリアナ・スカイラー・マストロ氏は以下のことを指摘しました。
「中国が到達したいと考えている地点は2つある。1つ目は『中国の力が突出している状況で、中国が望んでいることは何でもすることができ、それに誰も口出しすることができず、さらにネガティブな反応すらも示せない地点』。
そして2つ目は『主に当該地域の国々(当然、日本や韓国が含まれる)が、それぞれの決定を下す際に中国の志向に合わせざるを得ないという地点』である」
 
こんな世界は「まっぴらごめん」と、声を大にして言いたいですね。
 
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