2022年8月31日号(経済、経営)

2022.08.31


HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2022年8月31日号
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発行日:2022年8月31日(水)
 
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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2022年8月31日号の目次
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◇曲がり角の先の経済を考えてみよう(1):SBGマジックの行方
★中国経済は「末期状態」と判断すべきか?(その2)
◇これからの近未来経済(21):新しい資本主義を知ろう(1)
☆生産性の向上(その3)
 
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こんにちは、安中眞介です。
今号は、経済、経営の話題をお送りします。
 
今号から数回、「2025年から先の経済」を考えてみたいと思いました。
私の手に余るテーマですが、実際の出来事を題材に書き進めてみます。
 
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┃◇曲がり角の先の経済を考えてみよう(1):SBGマジックの行方   ┃
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SBG(ソフトバンクグループ)が直近の四半期(4~6月)で3.2兆円の大赤字を計上しました。
業績悪化の元凶は、投資会社のSoftBank Vision Fundが持つ投資株の下落です。
Vision Fund は、この半年で6兆円の損失を出しました。
損益累計では、まだ1122億円の黒字ですが、ピーク時に7兆円あった利益をほとんど吐き出したという状況です。
 
赤字の最大要因は米国の株価下落ですが、米国FRB(連邦準備制度理事会)は、今後も利上げを続けることを明言し、株価はさらに下がる見通しです。
こうした政策の影響を最も強く受けているのが、期待先行で株価が上昇していたIT先端銘柄であり、そこへの投資額が大きいSBGというわけです。
 
世界のIT業界ではサブスクリプション型のビジネスモデルが行き詰まりを見せ、さらに中国経済の失速が鮮明になり、世界全体で景気後退懸念が高まっています。
そうした状況下でSBGの投資株は、さらなる下落リスクにさらされています。
 
SBGの巨額な投資事業を根底で支えてきたのが、中国のアリババ・グループです。
誰もが知っているように、アリババ株はSBGの「打ち出の小槌」だったわけですが、この構図自体が崩れようとしているのです。
アリババは、共産党政権の強い締め付けに直面し、4~6月期に上場来初めて減収に陥りました。
こうした事態を受けて、SBGはアリババの株式を使った資金調達の一部をアリババ株の売却で返済するという“タコ足”的な裏技を使わざるを得なくなりました。
その調達額は約1兆3000億円に上ります。
巨額ですが、数年前なら、この3倍の金額にはなったでしょう。
それだけ、資金調達を急いだということです。
 
この売却によりアリババはSBGの関連会社ではなくなりました。
さらに、中国政府はアリババを締め付け、共産党の意向に沿った事業運営を徹底させようとしています。
孫正義氏の盟友でもある創業者のジャック・マー氏はアリババを含むアント・グループの支配権を手放す計画だと報じられています。
そうした懸念から、孫正義氏は「今後はコストカットを徹底して守りを強化する」と発表しました。
強気一辺倒だった孫氏が初めて口にした弱気といえるでしょう。
SBGは、財務管理の強化、出資先企業のリスク管理はもちろんですが、ビジョンファンド自体のリストラも必要となるでしょう。
しかし、アリババを失ったSBGにとって、頼みの綱は、半導体設計会社である英国アーム社の高値上場だけと言っても過言ではないでしょう。
 
ただ、孫正義氏は類まれなマジシャン経営者です。
この先の時代も、彼のマジックは効くのでしょうか?
 
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┃★中国経済は「末期状態」と判断すべきか?(その2)        ┃
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「中国が2030年までに台湾侵攻か?」の報道がネットを中心に飛び交っていますが、習近平主席の本音は「戦争はしたくない」でしょう。
戦争を煽っているかのようなマスコミの姿勢に疑問が湧きます。
 
経済に黄色信号が灯っている中国には、戦争する余裕はありません。
派手に騒いだ割には中身が薄かった台湾を巡る軍事演習の様子からも、それは推測できます。
中国経済は危険な縁に立っていると考えてよいでしょう。
 
前号で述べた不動産市況の悪化が、その要因のひとつです。
過剰な負債を抱える開発業者が急増し、資金繰りに窮した末に建設工事を中断するケースが相次いでいるのです。
その引き金となったのは、2021年1月に、加熱する不動産バブルを警戒して、中国人民銀行が市況引き締めのために導入した「総量規制」です。
その影響で、同年9月、不動産大手の『恒大集団』が経営危機に陥り、不動産市場全体が一気に冷え込んできました。
かつての日本のバブル崩壊と似たような事態が進行していますが、中国独特の商慣習のため、事態はより深刻になっています。
 
日本では住宅ローンの返済は物件の引き渡し後に始まるのが一般的ですが、中国では物件の購入契約をした時からローンの支払いが始まります。
賃貸住宅に住んでいる人は、当然、家賃を払いながらローンの返済を行うことになります。
 
しかも、中国では早く契約するほど安く買える仕組みなので、住宅バブルの過熱により更地の状態からの募集に買いが集中し、早期にローン支払いが始まります。
こうした中、当局の「総量規制」が始まり、銀行は不動産業者にカネを貸さなくなりました。
資金繰りが悪化した不動産業者は、建築業者への支払いができなくなり、建築業者は工事を中断するという負の連鎖が起こっているわけです。
 
住宅の購入者は、完成する目処の立たない物件のローン返済と従来の家賃払いの二重負担が延々と続く事態に陥ったわけです。
そうした苦境に立たされた購買者の中から、ついに、住宅ローンの支払拒否を行う者が出てきました。
この「住宅ローンの返済拒否」は、またたくまに中国全土に広がり、収束の気配が見えない状態になっています。
 
中国では、個人情報はすべて政府に把握されています。
この中でのローン返済拒否は、国家のブラックリストに載るという“とんでもない”リスクです。
それが分かっていても、こうした行動に出るしかないほど、購買者は追い詰められているのです。
 
中国の不動産調査会社が「ローン返済拒否」に陥っている金額を公表しましたが、約4000億元(およそ8兆円)です。
中国の住宅ローンの総額は20兆元(400兆円)といわれているので、まだ大した金額とはいえません。
しかし、完成せず、引き渡しが遅れている物件のローン総額は、2~3兆元(40~60兆円)と言われていますから、爆弾を抱えているようなものです。
これが、ゼロコロナ政策で落ち込んだ中国経済に、さらなる追い打ちとなり、経済全体が一気に奈落の底に落ちるかもしれない危機になっています。
 
このところ、中国は、急に日本に微風を送り始めていますが、その魂胆は見え見えです。
「親中」といわれる岸田・林ラインが政権にいる間に・・というわけです。
こうした中国の下心を逆手に取れるか、岸田政権の姿勢を注意深く見ていく必要があります。
 
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┃◇これからの近未来経済(21):新しい資本主義を知ろう(1)   ┃
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今回から4回で、岸田首相の唱える「新しい資本主義」の4分野について、私なりの“無責任な”解説を行っていきます。
興味のない方は、読み飛ばしてください。
 
最初に、「新しい資本主義」が掲げる4分野を復習します。
(1)人への投資と分配
(2)科学技術・イノベーションへの重点的投資
(3)スタートアップの起業加速及びオープンイノベーションの推進
(4)GX(グリーン・トランスフォーメーション)及びDX(デジタル・トランス フォーメーション)への投資
 
今回は、「人への投資と分配」を取り上げますが、正直言って、岸田首相の真意が不明です。
分配が「企業に賃金を上げさせる」という要請(あるいは強制)であることは明白です。
雇用されている社員の立場から言えば「良いこと」ですが、経営者にとっては「慎重にならざるを得ない」課題です。
首相は、それで「人への投資」をくっつけたのだと思いますが、これが意味不明です。
「教育で社員の質を上げよう」なのか、「福利厚生を手厚くせよ」なのか、具体策がないのです。
そんなことを考えているうち、「投資と分配の中身は『給料を上げさせよう』しか無いのでは・・」と思うようになりました。
 
そう考えるようになったのは、首相が「最低賃金」を1000円台に乗せることを目玉政策と考えている節が見えてきたからです。
最低賃金を上げれば、それに連動して正社員の給料も上がるだろうという目論見です。
これって、隣の国の前大統領が行った政策と同じで、アルバイトやパートが主な戦力の飲食業や小売業、介護施設などの経営を圧迫する要素となります。
こうした雇用環境の悪化を防ぐ政策とのセットが求められますが、その具体策は見えません。
 
「人への投資」の根幹は、小学校からの教育制度の改革が大前提だと考えます。
大学への進学率が50~60%になったことで、小学校から高校までの教育が「進学塾」になってしまっています。
その中で、落ちこぼれていく子どもたちは、初等教育さえ満足に習得できていない状態で社会に放り出されます。
いえ、首尾よく有名大学に進学できた子も、合格がゴールになり、その後の成長が止まる子が大半です。
社会に出て、そのことに気づいた人たちは、「これじゃ、アカン」と自ら研鑽を重ねていきますが、残念ながら、それは少数です。
 
管理職時代、多くの部下を指導してきましたが、真に成長したと思える人は5%ぐらいかと思います。
勿論、指導する立場の私の力不足が第一の要因ですが、彼らが受けてきた学校教育の弊害が大きかったことも事実です。
 
私が最初に就職した会社は、コンピュータメーカーでした。
そこの新入社員教育で教官から言われた言葉が、ずっと耳に残っています。
「我々は、君らが受けてきた教育を一切信用していない」
続けて「今、この瞬間から、学校で教育された内容をすべて頭から消せ」と畳み掛けられました。
当時の私は、自分が受けてきた教育を密かに誇りに思っていました。
しかし、教官の厳しい言葉に、その気持はぺしゃんこになりました。
あの時の衝撃は、今でも鮮明に覚えています。
でも、あの言葉がなかったら、慢心した“しょうもない”社会人になったと思います。
 
学習塾と化した学校教育が続けば、日本の未来は暗くなります。
受験名門校出身ながら東大受験に失敗した岸田首相のご意見を伺いたいものです。
 
次回は「科学技術・イノベーションへの重点的投資」を解説します。
 
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┃☆生産性の向上(その3)                     ┃
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日本の労働生産性は、G7(主要7カ国)で最低と言われています。
たしかに、統計データでは米国の60%程度であり、韓国にも抜かれているという記事も見かけます。
しかし、統計データを遡って見ると、1970年以降50年以上も「G7で最低」が続いているのです。
「えっ、あのバブル時代でも最低?」と思いますよね。
 
その理由を、ある経済学者は「日本の労働生産性が低いのは、中小企業が多いからだ」と言っています。
「学者の言うことなんて・・」と、中小の経営者の一人としては納得がいきません。
しかし、今の政治にも期待が持てないので、自分で以下のように考えてみました。
 
日本は、長い間、モノづくり国家として、世界から認められてきました。
その技術力に陰りが見えますが、まだその力は健在と考えています。
トヨタの「カイゼン」は、世界中の企業がお手本にするくらいの生産性向上の教科書になっています。
「それなのに、日本は最低?」と、どうしても腑に落ちません。
 
それで、いろいろな本を漁って読んでみました。
その中で面白い本に行き当たりました。
米国の文化人類学者のデヴィット・グレーバーの著書で「Bullshit Jobs:A Theory」という本です。
日本では、岩波書店から2020年に出版されていますが、表題が面白いです。
『ブルシット・ジョブ──クソどうでもいい仕事の理論』
なんとも人を食った書名ですが、読んでみて「なるほど」と笑ってしまいました。
 
“ブルシット”とは牛の糞(クソ)という意味です。
つまり、仕事の現場には無意味で無駄な労働(Bullshit Jobs)が溢れているというのです。
そう言われてみると、確かにブルシット・ジョブが多いなと思います。
しかも、そうした仕事の多くは事務仕事であり、それを行う労働者を「ホワイトカラー」と呼びます。
このホワイトカラーの行う「オフィスワーク」の生産性の悪さは、ずっと指摘され続けてきました。
 
学者らしくデヴィット・グレーバーは、以下のように言っています。
『1970年代に、生産性の上昇と報酬の上昇は分岐していく。つまり、報酬はおおよそ平行線をたどっているのに対し、生産性は飛躍的に上昇しているのである』
しかし、『生産性上昇から得られた利益は、1%の最富裕層、すなわち投資家、企業幹部に流れた』と言っています。
さらに、『それだけではなく、生産性上昇の実は、管理者の地位にある“無意味な事務職員の一群”を作り出すためにも投入されている』と続け、工場や現場作業で労働生産性を引き上げても、その利益は管理機構の無意味な作業に吸い取られ、結果として全体の労働生産性を下げていると結論付けています。
 
企業にとって営業活動は大切な仕事ですが、毎日、無駄な電話をかけ、やっと見込み客を見つけると、今度は、その会社なり家を何度も訪問して、相手が根負けすることを待つというスタイルが横行していました。
「名刺100枚置いて、ようやく営業マンの第一歩だ」などとの根性論は、今でもネット営業や電話営業に形を変えながら残っています。
これで労働生産性が上がるわけがありません。
工場や現場の努力はこうして霧散していくわけです。
 
こうした傾向は、特に日本で顕著といえるデータがあります。
米国ギャラップ社の調査によると、日本の会社員はたった6%の人間しか仕事に熱意を持っていないということです。
米国は31%もあり、日本は139カ国中、132位とほぼ最下位でした。
つまり、日本の会社員の大半は、毎日、「面白くねえ」「やってらんねえ」と思いながら、仕事をしているふりだけしているということになります。
 
ここまで読んで、管理職時代を思い出しました。
その話は次号で。
 
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<編集後記>
中小企業庁のデータによると、中小企業の数は2001年から2016年までの15年間で100万社以上減少しています。
コロナ禍が続く現在は300万社を切っていると思われます。
ということは、2025年には250万社を切るかもしれません。
企業経営者にとって大変な時代が来ますが、さて、どう生き抜きましょうか。
 
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