2020年9月30日号(経済、経営)

2020.10.05


HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2020年9月30日号
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発行日:2020年9月30日(水)
 
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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2020年9月30日号の目次
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◇これまでの経済、これからの経済(14):アベノミクスの評価
◇中国の思惑通りにはいかない(その6)
☆商品開発のおもしろさ(4)
★自然エネルギー立国ってなんだろう・・
 
<HAL通信アーカイブス>http://magazine.halsystem.co.jp
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こんにちは、安中眞介です。
今号は、経済、経営の話題をお送りします。
 
菅首相の経済政策は「規制緩和」に尽きるようです。
安倍前首相ができなかった(逃げた?)大きな置き土産ですが、とてつもなく重い課題です。
規制の恩恵を享受してきた官民勢力の抵抗の激しさが想像できます。
菅首相には「相打ちになっても・・」という覚悟があるのでしょうか。
あるとしたら、71歳という年齢がその決意の原動力でしょう。
後を考える必要のない年代ですが、まだ残っている力はありますから。
 
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┃◇これまでの経済、これからの経済(14):アベノミクスの評価       ┃
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今回は、前政権のアベノミクスという経済政策の功罪を検証してみます。
7年余りのアベノミクスを通じて株価は上昇し、企業業績は拡大しました。
これは功といえます。
一方、賃金は横ばいで、家計の可処分所得はむしろ減りました。
これは罪といえます。
ただ、この傾向は、安倍政権以前から続いていたことです。
実際、バブル以降のどの政権においてもGDP(国民総生産)の成長率に大きな差はありませんでした。
つまり、どの政権も時代の変化に合わせた経済への転換ができなかったのです。
安倍政権は、そこに気が付き、時代に合わなくなった産業構造を変え、日本を持続的な成長路線に乗せようとしました。
しかし、この改革には多大な時間がかかるため、その実現までの点滴として金融緩和を行い、長年続いたデフレを打破するため異次元の財政出動というカンフル剤の投与を行ったのです。
その役割を、抜擢された日銀の黒田総裁は実直に遂行しました。
そこまでは良かったのです。
 
しかし、残念ながら安倍前首相には産業構造を根っこから変えるという大改革を実現する力量がありませんでした。
その代わりに実施したのが、インフラ輸出の推進と海外からの観光客誘致によるインバウンド需要の喚起でした。
この両政策は、外国に頼った政策です。
輸出を増やし、外国人観光客にカネを落とさせれば、日本経済が潤うという考え方です。
想定外の新型コロナウィルスが、その幻想を打ち砕いたわけですが、結果としては、それで良かったのです。
 
これだけの犠牲者を出した災禍を「良かった」というのは気が引けますが、経済的考察なので、ご容赦願います。
日本経済を立て直す本丸は、「外国依存の経済」という価値観から転換することのはずでした。
つまり、日本自身の消費の力で経済を回すという内需主導型経済にシフトさせることです。
なのに、安倍前政権は、輸出やインバウンド景気で経済を成長させるという古い価値観に基づく政策を継続してしまったわけです。
輸出主導型経済が効果を発揮するのは、企業が国内で設備投資を行い、その結果、国民の所得が増え消費が拡大するという発展途上式のメカニズムが働く間です。
しかし、賃金の上昇は、やがてメーカーが生産拠点を賃金の安い海外に移すという側面を生み、輸出企業の業績が向上しても個人消費が拡大しないという負のスパイラルに陥ります。
 
日本のGDPにおける個人消費の割合はすでに6割を超えています。
つまり、日本はすでに内需で経済を回す仕組みにシフトしているのに、政策が輸出型企業を優遇する仕組みのままなのです。
内需経済の主役はサービス業であり、それを支えるITや建設産業などのインフラ整備産業です。
しかし、こうした産業に従事する社員の賃金ベースは製造業よりも圧倒的に低いのが現状です。
人口比で多数派になっている内需型企業に勤める国民の賃金が低ければ消費が増えないのは当然です。
安倍政権の失敗は、国内サービス産業やインフラ整備産業の生産性を向上させ賃金を引き上げることに無頓着だったことにあります。
ようやく数年前から生産性向上を言い出しましたが、中身は長時間残業の抑制ばかりで、内需型産業の根本改革というところには考えが及んでいませんでした。
とすると、菅政権が取り組むべきことははっきりしているわけです。
 
当面、「アベノミクス路線を踏襲する」ということはやむを得ないでしょう。
いきなり点滴を外せないからです。
肥大化した日銀のバランスシートは問題ですが、急激な処置は取れないため、量的緩和策も継続せざるを得ないでしょう。
しかし、その資金を単純な輸出振興策やインバウンド需要に充てることではなく、内需拡大策に投ずるべきなのです。
 
そのカギは高度人材の育成と高度インフラの整備にあります。
日本の最大の強みは教育の底辺の高さと部品産業に代表される基礎技術力の高さにあります。
この高さの上に、さらに高いスキルを持つ技術者や労働者の層を乗せていく政策が必要です。
具体的には、個人や企業活動のデジタル化を進めると共に、教育・研修を通じたスキルアップ支援などを手厚くバックアップすることです。
こうしたソフト面の強化によって、サービス業やインフラ整備産業の生産性の向上を実現し、関連産業の賃金を引き上げることです。
国交省が推進にやっきになっているキャリアップシステムは、こうしたビジョンも戦略・戦術もないので、普及が足踏みしているのです。
 
菅首相は、上記のような内需型経済への転換政策パッケージを国民に提示し、総選挙を仕掛けて欲しいと思います。
こうした政策に対して国民の信を問い、その支持をバックに果敢に打って出ればよいのです。
 
「もし支持されなければ」ですか・・
その時は、潔く身を引けば良いのです。
菅首相は、空手の達人(?)と聞きます。
武の心を期待します。
 
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┃◇中国の思惑通りにはいかない(その6)              ┃
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現代の中国では、米国のように、次々と新しいIT企業が生まれ、あっという間に大企業になっていきます。
その第1世代にあたるのが、アリババの馬雲(ジャック・マー)や華為技術(ファーウェイ)の任正非(レン・ジェンフェイ)などです。
ですが、今は、彼らの時代から第2世代の時代に入っていると言われます。
 
話題の「TikTok(ティックトック)」を生み出した張一鳴(チャン・イーミン)はその代表的な人物でしょう。
EMS(電子機器受託製造サービス)大手となった立訊精密工業(ラックスシェア)の創業者の王来春は、中卒の女性です。
また、コロナウィルス禍に乗り、online会議システムで一躍ブームとなったZoom社は、米国企業ですが、創業者の袁征(エリック・ヤン)は、中国生まれで米国に渡ったのは大学卒業後です。
かつ、同社の開発拠点は中国にあり、中国から多額の出資を受けています。
私は、同社は中国企業だと認識しています。
 
こうした第2世代の経営者が、今の中国に続々と生まれています。
だが、強烈な光は、同時に濃い影を生み出します。
急激に大きくなった彼らが、若者にありがちな「怖いもの知らず」になっていくのは必然といえます。
かつ、中国政府が彼らを世界制覇の尖兵として利用していくのも当然です。
 
そこに強い危惧を抱いたのが米国政府です。
米国は、セキュリティー問題などを理由に、これらの中国企業を市場から排除する動きに出ています。
ティックトックは、米国政府が利用禁止に動き出しています。
いったん決めた禁止の発動を停止しましたが、大きな制約が課されることは確実でしょう。
Zoom社は発展を急ぐあまり、セキュリティー上の懸念やプライバシー面での問題が表面化しています。
同社は米国企業とはいえ、米国政府は実質的に中国企業と認識しています。
中国との関係を完全に絶たない限り、その圧力は強化されるでしょう。
台湾企業から独立した立訊精密工業は、ソフトウェアではなく半導体企業ですが、今後の競争激化の中で、国際的なトラブルに巻き込まれていく可能性は大です。
 
彼らは国有企業ではないので、中国政府と距離を置き、セキュリティー上の問題をクリアしていくことは可能なはずですが、独裁色を強める一方の習近平政権下では難しいでしょう。
中国が彼らの強みを活かすためには、彼らの活動の自由を認めることですが、そのジレンマに中国政府は直面しているわけです。
中国政府が、金の卵を産む彼ら“ニワトリ”を活かす道を見つけられるかどうかに注目していますが、香港への強引な締め付けを見ていると、やはり権力に従わせる方向にしか行かないように見えます。
目の前の金の卵欲しさにニワトリを殺す愚を犯しそうな気がするのです。
 
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┃☆商品開発のおもしろさ(4)                   ┃
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今回も自動車の話を続けます。
前回書いたように、テスラは単に電気自動車という商品で勝負を賭けているわけではありません。
自動車という商品が生み出した経済構造そのものを変えようとしているのです。
今回は「商品開発の面白さ」というより、「商品が生み出す経済構造の変革」を論じたいと思います。
 
自動車が庶民のものとなったのは、戦後です。
そして、欧米に大きく遅れを取っていた日本の自動車産業を世界に押し上げたのはトヨタです。
しかし、トヨタは「商品開発の面白さ」で世界のトヨタになったわけではありません。
かつて、トヨタの開発主管をされていた方から聞いた話があります。
ある時、経営陣から「ベンツを作れ」と言われたそうです。
ベンツは、その品質以上のステータスを持つ車ですが、開発者にとっては「商品開発の面白さ」の塊のような車でした。
その開発主管は「ぜひ・・」という言葉を飲み込んで、こう言ったそうです。
「カタログ性能でベンツを上回る車は作れてもベンツは作れません」
そう、「商品開発の面白さ」は数値で測れるものではないのです。
彼は、それをトヨタでは作れないと、悔しさを押し殺して正直に言ったのです。
すると、トヨタの首脳陣は、こう言ったそうです。
「そうか・・、ならば儲かる車を作れ!」
 
この指令が、あの「カンバン方式」と言われるトヨタの生産革命を生み出したわけです。
そして、この「カンバン方式」を武器にコスト削減と品質向上の両立を実現させ、世界のトヨタになったわけです。
品質は、道路事情が悪かった時代にはまさに最強の武器でした。
それを、一切の無駄を排したトヨタ式生産方式で、コスト削減と同時に実現させたのです。
それだけではありません。
そこから派生する部品産業を始めとする様々な産業を生み出し、発展させることになったのです。
 
日本の車検制度は、早くも終戦から6年後の1951年にスタートしています。
車の故障が“あたり前”だった当時、この制度は画期的でした。
車検制度やその後に制定された12ヶ月点検などの「法定点検制度」により、自動車整備産業が発達しました。
さらに、車検制度により車の寿命が伸びたことで中古車販売業が活況を呈しました。
さらに、車が「長期間使用できる」になったことで、タイヤやオイルのような消耗品産業が栄え、さらに、保険やローンのような金融事業も活性化しました。
つまり、日本の自動車は、巨大なストック産業群を創り上げたのです。
 
しかし、自動車メーカー間の競争が全世界的な過当競争になり、各メーカーとも疲弊してきています。
トヨタを例に上げると、売上高の約60%は部品メーカーや下請け企業への外注費、20%が自社工場での生産費用、さらに広告費や営業費用が10%で、営業利益は約10%に過ぎません。
この利益だけでは巨大な自社を運営できないので、ローンなどの金融事業が重要な収益源になっているのが実情です。
 
こうしたストックビジネスにも変化の時代が来たわけです。
電気自動車を従来の自動車と同列に見ることは間違いです。
ガソリン自動車に比べて必要な部品数は1/3以下になると言われています。
トヨタが築き上げた部品産業は大打撃を受けることになります。
その代わり、半導体産業やソフトウェア産業への需要は大幅に増えます。
前回話したように、振興の自動車会社であるテスラの粗利の25%はソフトウェアです。
最先端の製造品である戦闘機の価格の7~8割は電子部品とソフトウェアだと言われています。
テスラは、こうした自動車ビジネスの構造自体を変える大変革を起こそうとしているのです。
 
ただし、テスラ自身が大成功を収めるかどうかは分かりません。
トヨタやベンツのような既存メーカーも黙って見てはいないし、後を追う新興企業も生まれてくるでしょう。
何より電気自動車自体が、バッテリーという大きな弱点を抱えています。
前回話したように、すべてはバッテリーにかかっているというわけです。
 
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┃★自然エネルギー立国ってなんだろう・・              ┃
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立憲民主党の枝野代表が、次期衆院選では「自然エネルギー立国」を政策の柱に据えるとして、さらに「菅首相は取って付けたようにデジタル化なんて言いだした。この国は後ろ向きのデジタルではなく、前向きの自然エネルギーで食っていこう」と訴えました。
この報道に接した最初の感想は、「何を言っているのか、よくわからん」でした。
何度か読み返してみて、なんとか、次のように解釈しました。
「デジタル化・・」は単なる政権批判で意味はなく、どうやら「自然エネルギー」を次の総選挙の目玉政策にしようということらしいと理解しました。
 
あの福島原発事故の当時、官房長官だった枝野氏は、「ただちに危険はない・・」という迷(?)文句を連発しました。
今回の発言を聞いて、「この人、あの時と変わらないな~」と思いました。
つまり、昔も今も、科学的知見がほとんど無いのです。
弁護士出身だから仕方ないとは思いますが、勉強ぐらいはできるだろうと思ってしまいました。
 
自然エネルギー派に代表される環境保護活動の舞台裏は、ウソばかりです。
それは、原子力推進のウソと同じです。
アップルのサステナビリティ部門主任のリサ・ジャクソンは、イベントで「アップルは再生可能エネルギー導入率100%を達成した」と宣言しました。
しかし、再生可能エネルギーの専門家ですら、「太陽光や風力のみで運営している企業は、地球上に1社も存在しない」と話しています。
ネットには、アップルの太陽光施設を建設するために大量の森林が伐採されていく映像が流れています。
これが環境保護をうたうアップルの裏側の姿です。
太陽光エネルギーのみで運営されているとする音楽コンサートのステージの裏側でディーゼル発電機が回っていたという話も伝わっています。
 
自然エネルギーは、単位面積あたりのエネルギー量が低いため、大量の面積が必要となります。
(例外は、水力発電と地熱発電ですが、立地が難しいという難点があります)
そのため、太陽光発電やバイオマス発電のために広大な森林が消されていっています。
しかも、ソーラーパネルの寿命はせいぜい10年と言われ、壊れないまでも性能劣化によって古いパネルは廃棄処分となり、一部はそのまま打ち捨てられています。
 
大量の資金を集めたあげく意図的に破産する環境企業も世界中で相次いでいます。
環境問題が詐欺集団のいい餌食になっているのです。
環境保護活動家として全世界にその名が知られているアル・ゴア元副大統領が、若者向けとして設立したカレントTVを、中東カタールのアルジャジーラに売却し莫大な利益を得ていたことも発覚しました。
カタールは、誰もが知る産油国です。
アル・ゴアは売却の1年前に「石油への依存を減らすことが人類の未来につながる」と述べていたということですが、やることは「かくの如し」というわけです。
 
「持続可能な発展」を意味する「Sustainability(サステナビリティ)」は素晴らしい言葉ですが、
こうした言葉に触発された人々の欲望は、ときに暴走します。
太陽光発電は、採算を度外視した高額な買取り価格に欲の皮を突っ張らせた企業が家計からカネをむしり取っている構図で成り立っています。
その裏で森林の伐採や新たな公害が広がっています。
「環境を守ろうとする人々の行動が、結局、さらなる環境破壊を引き起こしてしまう」というパラドックスに対する解決策を、枝野代表から聞きたいものです。
 
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<編集後記>
日本におけるコロナウィルスの感染者数は横ばいからやや下降状態といったところですが、「冬場に第3次ピークが来る」との懸念もあります。
しかし、自粛ムードも限界に来て、様々な商売や活動が解禁になってきました。
「ある程度の感染はしかたない・・」という意識になってきたのでしょうか。
それとも「自分は大丈夫」と思う人が増えたのでしょうか。
 
弊社の本社がある浅草地区では、延期になった三社祭を中止にせずに10月に強行するようです。
どうやら、神輿(みこし)を人が担ぐのではなく、軽トラックに乗せて町を回るという案のようです。
その光景を頭の中で想像したら、「見たくないな」と思ってしまいました。
さて、どうなることやら・・
 
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