2016年11月15日号(国際、政治)

2016.12.02

HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2016年11月15日号
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                発行日:2016年11月15日(火)
 
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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2016年11月15日号の目次
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☆米国大統領選挙の総括
☆トランプ大統領をどう判断すれば良いのか
☆日本は、トランプ大統領のアメリカとどう付き合うべきか
☆戦争を起こさせない二つの仕組み(4):核兵器
 
http://magazine.halsystem.co.jp
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こんにちは、安中眞介です。
今号は国際問題、政治問題をお送りします。
 
英国のEU離脱ショックに続いて、米国大統領選挙でも驚きの結果です。
今号は、この話題を中心にお送りします。
 
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┃☆米国大統領選挙の総括                     ┃
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トランプ氏には、米国だけでなく、世界が騙され(?)ました。
「政治とはこういうものだ」とトランプ氏から教えられた思いです。
 
改めて確認させられました。
「政治家はウソをついてもよい」ということをです。
有権者は、そのウソが分かったら、次の選挙で落とせば良いのです。
たとえ、米国大統領のように4年の任期が保証されていたとしても、
議会選挙で反対勢力に勝たせれば、大統領の政治的権限は大幅に制限されますし、極端な場合「弾劾」で辞めさせることも可能です。
5年の任期がある韓国の大統領が、まさにその窮地に陥っています。
ゆえに、衆愚政治になるとしても民主主義が一番よい政治形態といえるのです。
 
さて、本題に戻ります。
人間にとって“正直さ”は良い資質ですが、政治家にとっては「無能」の証明です。
典型的な例として、外交交渉を考えてください。
正直なトップを持った国は100%負けます。
「本当のようなウソを言い、ウソのような本当を言う」
これが国際政治を生き抜く鉄則です。
国内政治においても、これほどシビアではありませんが、同じようなことが言えます。
身内相手とはいえ、”正直に”本音を喋った農水相は、それだけで政治家失格です。
 
日米とも、マスコミは、さかんに「政治の素人」とトランプ氏を批判していましたが、この勝利で彼は卓越した政治家だということを証明しました。
「実行できるわけがない」と誰もが確信する、これだけのウソを平気で言い続けてこられたのですから、脱帽ものです。
 
案の定、当選後のトランプ氏の言動は大きく変化してきています。
彼は心中、こううそぶいていることでしょう。
「オレの言ってきたことなど、ウソに決まっているじゃないか」と。
 
米国の有権者もマスコミも、そして対立候補のクリントン氏もまんまと彼の戦略にはまってしまったのです。
 
その中で、元NHKアナウンサーの木村太郎氏がトランプ勝利を言い当てたと話題になっています。
選挙前に木村氏の米国視察報告の番組を見ましたが、他のマスコミ評論家たちと際立って違う取材姿勢に今回の結果の予兆を感じ、「おやっ」と思いました。
大半のマスコミは、ニューヨークなど大都市の有権者の反応を取材していましたが、木村氏だけは、米国中西部の地方を回った印象を述べていました。
それを聞いて「これはクリントンが負けるかも」との印象を持ちました。
ただし、それを確信するまでの自信は持てませんでした。
木村太郎氏の成果は、「米国=ニューヨーク」との短絡思考とは一味違う「数千キロにも及ぶ米国の地方取材」の賜物(たまもの)です。
なるほど・・見習うべき姿勢です。
 
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┃☆トランプ大統領をどう判断すれば良いのか            ┃
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選挙期間中の計算された暴言(?)以外に判断材料に乏しいトランプ氏ですが、意外と単純に分析すれば良いのだと思いました。
まず、トランプ氏の個人的な価値観ですが、これはとても分かりやすいです。
「勝負に勝つ」。
これに尽きます。
かつ、「どんな汚い手を使ってでも勝つ」との執念の持ち主です。
さらに、「やられたら、やりかえす」といった強烈な「負けず嫌い」です。
 
だから、選挙期間中の人種差別、性別差別発言は、信念ではなく、単なる「ケンカの手段」に過ぎなかったのです。
クリントン氏への個人攻撃も、個人への偏見や憎しみではなく、この戦いに勝つための計算された手段だったのです。
この点は見事で、私も騙された部類に入ります。
TV討論会で、司会者から「互いに尊敬する点は?」と聞かれ、クリントン氏の「決してあきらめない戦士である点」と語った時に、トランプ氏の過激な発言が“手段”だということに気づきましたが、
それでも彼が勝つとは思えなかったのです。
彼を差別主義者と本気で批判してきたマスコミ(日米とも)は、完全な間違いを犯してきました。
クリントン側も、この術中にはまって、虚像のトランプ氏に振り回されたわけです。
 
次にトランプ氏の政治信条ですが、以前にも述べたように、「古き良きアメリカの復活」です。
「アメリカ人は、自らの力によって生き、そして富を築き上げてきた。
アメリカを再び成長への軌道に乗せるには、フロンティア精神を呼び起こし、あくなき挑戦を続け、軟弱になった米国を変革し、成功への執念を燃やそうではないか」
こうしたアジテーションに閉塞感を抱える有権者たちが動かされ、投票所に向かったのです。
もちろん、実際に「古き良きアメリカ」の復活などあり得ないし、経済のグローバル化をとどめることも出来ないのですが・・。
 
経済政策に関しては、基本的には古典的なケインズ論者のように思えます。
選挙後も、インフラ投資の拡大や大幅減税など、かつてのニューディール政策のような発言をしていますから、財政緊縮主義者でないことは確かです。
 
また、選挙期間中はFRB(米連邦政制度理事会)の低金利政策を批判していましたが、同時に、積極財政政策を進める財源を「国債の借り換え」に求めています。
となれば、低金利のほうが良いわけで、FRB批判は的外れです。
案外、トランプ氏自身はあまり経済理論に強くないのかもしれません。
それならそれで、経済ブレーンの能力が問われることになります。
 
いずれにしても、これから徐々に明らかになってくる新政権の人事に注目です。
 
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┃☆日本は、トランプ大統領のアメリカとどう付き合うべきか     ┃
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11月17日の「安倍首相VSトランプ氏」の会談内容に注目です。
トランプ氏が選挙後も発言している経済政策は、アベノミクスの第一弾(積極金融政策)と第二弾(公共財政出動)と同じです。
実際、トランプ氏は「アベノミクス」を評価する発言を行っています。
となれば、安倍政権発足当時と同様に、2年程度は米国経済は好況となり、株価は上昇すると思われます。
その恩恵は日本にも及びますが、トランプ氏の保護主義がどう影響するかが読めないところです。
しかし、貿易に関するトランプ氏の攻撃の矛先は、日本より中国に向けられるでしょう。
トランプ氏がやり玉にあげていた日本の自動車などは、今では海外での生産台数のほうが日本国内より多くなっています。
トランプ氏の知識は1980年代頃で止まっているようです。
今後、正しい知識が入るにつれ、日本攻撃は少なくなり、その分、中国に向かう割合が増えていくと思われます。
TPPはお先真っ暗ですが、それを除けば「そう悪くはない」となる可能性が大きいです。
 
問題の日米安保ですが、選挙後の発言は180度近く変化してきています。
それよりトランプ氏の軍事に関する思想を知るほうが大事です。
この点は、かなり明確です。
今回の選挙前から、トランプ氏は、米国の軍備は「不足だ」とし、具体的な軍拡案まで示しています。
例えば、陸軍は「49万人→54万人」、空軍は「戦闘機1113機→1200機」、海軍は「276隻→350隻」と、大幅な強化を主張しています。
日本などに対し、米軍駐留費を100%負担しなければ撤退すると脅していますが、本音は、増額した駐留費で軍拡をしたいのです。
 
彼は、イスラム国(IS)の殲滅を声高に主張していますが、これはかなり本気です。
オバマ政権の弱腰が今の事態を招いたと信じていますから、真反対の強硬姿勢に転じることは大いにあり得ることです。
 
ISへの共闘の意図もありロシアとの融和を進める一方で、中国に対する警戒心は強いと思われます。
中国の軍事能力は、かなりの部分、ロシアの技術力に頼っているところがあります。
戦闘機のエンジンや空母の艤装などにおいて、中国の技術レベルはかなり低いままです。
米国が、中国に対するロシアの技術供与にくさびを打ち込めれば、かなり優位に立てることは確実です。
安保問題を考える時、こうしたトランプ氏の軍事戦略を知ることが欠かせません。
 
では、日本はどうすべきか。
ある程度、米国の国益に沿う姿勢を取りながら、実質的には日本の国益に沿う戦略を採ることです。
トランプ政権は、どうにも方向が定まらなかったオバマ政権の時より分かりやすい政権になる可能性があります。
また、安倍首相との相性も良いかもしれません。
それが良いか悪いかは別ですが・・
 
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┃☆戦争を起こさせない二つの仕組み(4):核兵器         ┃
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10月27日、国連総会第1委員会(軍縮)は、核兵器禁止条約など核兵器の法的禁止措置について交渉する国連会議をニューヨークで来年開くとした決議を123カ国の賛成を得て採択した。
日本がこの決議に反対票を投じたことで、国内外に批判が起きている。
感情的に「被爆国の日本が・・」との批判が起きるのは当然だが、本メルマガでは冷静に考えてみたい。
これまで、「戦争を回避する戦略」として、国際政治学の以下の見解を解説してきた。
1.有効な同盟関係を結ぶ(戦争リスクの軽減効果40%)
2.相対的な軍事力を保持する(同、36%)
3.民主主義の程度を増す(同、33%)
4.経済的依存関係を強める(同、24%)
5.国際的組織への加入(同、24%)
(数値はいずれも標準偏差なので、合計100%を超える)
 
普通に考えると、核兵器は上記の「2.相対的な軍事力を保持する」に入ると思われ勝ちである。
たしかに軍事力には違いないが、核兵器は、今のところ「普通の兵器」ではない。
ある軍事評論家は、こう言っている。
「核兵器とは”報復兵器“である」
なるほど、「我が国を攻撃したら、報復に核兵器を御見舞するぞ」と言って相手の攻撃の意図を挫く兵器だというのである。
まさに、北朝鮮の主張がそうである。
つまり、「相打ち狙い」の兵器なのである。
 
若き日、実家の水商売を手伝っていたとき、地元のヤクザからビール瓶片手に脅されてことがある。
店を守るため逃げることができなかった私は、カウンター内の包丁を握って相打ちを狙った。
後になって、そのヤクザからこう言われた。
「相打ちを狙ってくるヤツが一番やっかいなんだ」
これが今の北朝鮮である。
(北朝鮮にとっては、米国が”ヤクザ”なんです)
 
このように、核兵器保有は上記の1~5のどの分類にも入らない戦争回避手段であり、
「防ぐことが出来ない兵器」であることが、核兵器を保有する意味となる。
 
断っておくが、筆者は核兵器保有論者ではなく、保有反対論者である。
上記の保有メリットは認めるが、外国の不信を招くデメリットのほうが大きいからである。
 
核兵器保有国は、核による報復能力の保有が自国安全の担保と信じて込んでいる。
しかし、防ぐことが出来るようになったら、この状況は劇的に変わってしまう。
「威力は大きいが、普通の兵器」となってしまい、戦略的価値は激減する。
 
ゆえに、北朝鮮のみならず中ロが「ミサイル防衛システム」の配備に強硬に反発するのは当然である。
米国と敵対する国々にとっては死活問題なのだから。
 
戦争の抑止について、もう一つ考えなくてはならないことがある。
それは、国際条約の無力さである。
第一次大戦の後、1928年に、当時の国際社会は「パリ不戦条約」を結んだ。
しかし、その後も戦争はなくならず、第二次世界大戦に至ってしまった。
戦争に対する罰則規定がない「不戦条約」など誰も守らないのである。
現に、中国は南シナ海に対する国際司法の裁定を「紙くず」と呼んで無視しているが、国際社会は中国に遵守させる手段がない。
 
今も昔も、戦争を防ぐのは「戦力バランス」なのである。
かつ、その戦力バランスは経済力に依存しているから、経済大国が世界を制圧してきたのである。
 
だが、核兵器が生まれ、拡散するに従い、その状況は劇的に変わってきた。
最初に核兵器を開発した米国は、そのことを甘く考えていた。
米国以外の国が核兵器を持てるのは“遠い未来”だとタカをくくっていた。
しかし、すぐにソ連が追随し、ついに北朝鮮のような貧しい国までもが持ってしまったのである。
 
以上述べてきたことから、大国の核の傘で守られていない国が、核兵器を持ちたがるのは当然といえる。
北朝鮮やイスラエルは、その典型である。
残念なことではあるが、国連で罰則のない禁止条約を作ったとしても効力はない。
それでも、2017年3月から、国連総会第1委員会(軍縮)で交渉が開始される。
禁止条約は、ある程度の心理的効果や、各国国民に訴える効果はあると思うので、交渉を行うこと自体は悪くない。
だが、世界から核兵器をなくすことは「夢のまた夢」であろう。
人間は、一度生み出した技術を、新たな技術が開発されない限り、決して手放さない。
歴史が証明していることである。
核兵器も、それを上回る兵器(反陽子爆弾のようなもの)が開発されればなくなるかもしれないが、
それを「解決」とは言えないであろう。
核兵器は「メビウスの輪」なのであろうか。
 
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<編集後記>
生物学的な意味でのヒトが発生して100万年。 文明が生まれて1万年。
人間の文明なんてあと1万年も続かないでしょう。
もっと早く、自滅してしまう可能性のほうが高いといえます。
 
地球の寿命は、あと50億年近くあると言われていますが、人類がその日を迎える確率は限りなくゼロです。
その前に自分の寿命が来てしまうわけで、真剣に考えるのが難しい難題です。
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