2022年9月30日号(経済、経営)

2022.10.03

HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2022年9月30日号
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発行日:2022年9月30日(金)
 
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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2022年9月30日号の目次
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◇曲がり角の先の経済を考えてみよう(2):円安との戦い
★中国経済は「末期状態」と判断すべきか?(その3)
◇これからの近未来経済(21):新しい資本主義を知ろう(2)
☆生産性の向上(その4)
 
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こんにちは、安中眞介です。
今号は、経済、経営の話題をお送りします。
 
「文化800年転換説」によると、転換はいきなり起きるわけではなく、100年掛けて大きなカーブを描いて転換するといいます。
現在は、1975年から始まった転換期の只中にあり、ウクライナ侵攻もその転換現象の一つです。
今回の転換カーブの頂点は2025年ですが、その時が迫っています。
「曲がり角の先の経済」は、その先の世界を先読みする材料として書いています。
 
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┃◇曲がり角の先の経済を考えてみよう(2):円安との戦い      ┃
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9月22日、止まらぬ円安に、政府・日銀は、ついに24年ぶりとなる「ドル売り円買い」の為替介入に踏み切りました。
146円まで下がった円が一時140円台と円高に振れたので、短期的な効果はあったようです。
米財務省は、「われわれは日本の行動を理解している」として、介入を容認する姿勢を示しました。
事前に米国の了解を得ていたことは明らかです。
もっとも、協調介入を否定したことから、円は再び144円台に戻ってしまいましたが・・
 
ところで、私と同年代の人は「円安って、そんなに悪いこと?」と思っているのではないでしょうか。
20代前半、始めて海外へ出た時は1ドル360円の固定相場制時代で、しかも2000ドルしか持ち出せず、心細い思いをしました。
その後、変動相場制への移行で1ドル240円前後となりましたが、今から考えると、それでもスゴイ円安ですね。
でも、その円安が日本の輸出競争力を高め、高度成長の原動力になったのです。
 
しかし、米国の露骨な恫喝に屈した日本は、1985年9月、嫌々ながら「プラザ合意」を結びました。
その結果、2年ほどで1ドル130円への急激な円高が進み、民主党政権時代には一時80円台となり、日本経済は破綻寸前に追い込まれました。
この地獄をなんとか脱したのは安倍元首相と日銀・黒田総裁の功績ですが、消費税増税は悪手でした。
結果、長期不況から抜けることが出来ずに現在に至っているわけです。
 
こうした歴史を考えれば、円安は「良いこと」のほうが多かったように思えます。
円安になると、円建ての輸出額が増大し、輸出企業の売上が増加します。
原材料の輸入価格も上昇しますが、差し引きプラス分のほうが大きく、さらに企業は原価の増大分を売上単価に乗せ、最終的に消費者に転嫁していきます。
結果として、企業の付加価値(売上-原価)は増大するということになります。
しかも、賃金の上昇は遅れて起きるので、その間の企業利益の積み上げ分はかなり大きくなります。
 
しかし、財務省が9月15日に発表した8月の貿易統計では、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2兆8,173億円の赤字となり、1979年以降、単月としては過去最大の赤字額となりました。
エネルギー価格の高騰と円安によって輸入額が前年同月比で50%近く増加したことが主な要因です。
もはや、「円安は有利」とは言えない貿易構造となっているのですね。
でも、貿易外収支を加味すると、トントンで推移しています。
日本は、製品輸出国ではなく資本輸出国となっていて、この点では円安は有利に働いているわけです。
 
このように、日本の経済構造は根本から変わってきていて、「円安と円高のどちらが良いか」などという単純な思考では国家運営はできない時代なのです。
 
2025年から2075年まで続く大きなカーブの「後半の始まり」は、すぐそこです。
ウクライナ侵攻から始まった世界的な政治・経済の混乱は、その前兆です。
こうした時代には、若く鋭い感性を持ったリーダーを、深い戦略思考を持ち、多様な経験を有するベテランが補佐するという体制が、どの企業にも必要なのです。
もちろん、国家もです。
 
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┃★中国経済は「末期状態」と判断すべきか?(その3)        ┃
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中国はGDPでは世界第2位の経済大国ですが、その中身は未だ発展途上型の経済です。
ゆえに、住宅建設は“現代中国の土台”ともいえる基幹産業です。
それゆえ、前号で述べた「ローン返済拒否」問題は3期目を目指す習近平主席にとって、解決しなければならない“最重要課題”になっています。
この解決に失敗すれば、広範の国民の失望と怒りを買い、政権維持が困難な事態になるでしょう。
 
中国で、好況時に不動産開発会社へ行われた融資総額は51兆元(約102兆円)と言われています。
しかし、今や貸し手の銀行は、いずれも巨額の貸し倒れ危機を抱えている状況です。
 
中央政府が、ここまで手をこまねいていたわけではありません。
不動産市況が行き詰まりの傾向を見せ始めた時、これらの銀行に対し「不良債権を一掃せよ」という指令が言い渡されました。
しかし銀行は、この指令を果たさず、逆に、冒険的ともいえる資金調達を加速させ、処分すべき不良債権をむしろ増加させてしまったのです。
 
2000年に起きたアジア金融危機の際、中国政府は、華融、信達、長城、東方の4つの「不良債権処理会社」を設立しました。
つまり、危機の再来をある程度予測していたというわけです。
ところが、彼らは「不良債権の処理」という役目を外れて、多くの不動産開発会社に長年にわたり多額の資金を貸し続け、傷口を逆に広げてしまいました。
 
受け皿会社は、10~12%のプレミアムを上乗せして返済することを条件に、不動産開発会社のローンと社債を引き受けたのです。
不動産開発各社は、こうして確保した資金で大量の土地を購入し、住宅を販売することで収入を得ていたというわけです。
不動産価格が値上がりを続けている間はこのサイクルが回りますが、やがてバブル化し、弾けると強烈に逆回転することは、日本が先に経験しています。
中国は、日本の事例から何も学んでいないだけでなく、不良債権処理が使命の受け皿会社までも、バブルにどっぷり浸かってしまったのです。
 
受け皿会社が発行している社債の価格は急落し、彼ら自体が、もはや自力で財務を立て直すことは不可能な状況に陥り、政府の救済処置を待っているという惨状です。
4社のエクスポージャー(Exposure=特定のリスクにさらされている投資資産)は、合計で3000~4000億元(約6~8兆円)に上ると言われていますが、実態はそれ以上でしょう。
 
それなのに、中国の金融当局は2022年2月に、4社に対し、財務が脆弱な不動産開発会社の再編や行き詰まった不動産プロジェクトの取得や不良債権の購入を求めたのです。
誰が見ても、「そりゃ無理でしょう」なのですが、独裁国家ゆえ、何でも命令できるというわけです。
 
でも、「できないものは出来ない」のです。
音を上げた「不良債権処理会社」最大手の「華融」は昨年、420億元(約8400億円)規模の政府による救済策を受け入れましたが、その代償として、同社の元会長は収賄などの罪で死刑となりました。
いかにも中国らしいやり方です。
 
中国メディアの一部が報じましたが、中国政府は、受け皿会社の体制見直しを検討中とのことです。
複数の政府系事業体が4社のうち3社を引き継ぐ可能性があるとの情報が流れていますが、政府が国営会社を引き継ぐって「どういうこと?」との疑問しかありません。
 
この国では、正確な情報が流れることはありません。
処罰を恐れ、匿名を条件にした非公開情報しか手に入りません。
度々ネットで話題に上る不動産開発会社の「恒大集団」は、実質破綻状態にあると言われていますが、この会社に「不良債権処理会社」の長城と東方、信達を統合させるという意味不明な解決策まで水面下では流れています。
「国家資本主義」と称される中国の経済は、どうなっていくのでしょうか。
 
28日、李克強首相は「7~9月の第3四半期に中国経済は安定化した」とし、第4四半期の10~12月が回復の鍵になるとの認識を示しましたが、さて、どうなるでしょうか。
 
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┃◇これからの近未来経済(21):新しい資本主義を知ろう(2)   ┃
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新しい資本主義2番目の「科学技術・イノベーションへの重点的投資」ですが、個別要素としては、以下の項目を想定しているようです。
量子技術、AI、バイオ、再生・細胞医療・遺伝子治療、大学教育改革、2025年大阪・関西万博。
 
この中で最も力点が置かれているのがAIのようですが、その内容が曖昧で、多くの国民は「?」状態です。
誰もが知っているように、AIとは“artificial intelligence”、直訳して「人工知能」と言われています。
つまり、人間の頭脳と同じものを人工で造ろうということになります。
しかし、人間の頭脳を形成している脳細胞は生物的ハードであり、頭脳としての人工知能を形成する半導体チップは工業製品としてのハードです。
しかし、そんな半導体チップは断片すら出来ていないし、設計図さえ未完成です。
実現できるとしても、数十年先、いや22世紀以降ではないかと思われる“はるかな”未来です。
 
つまり、現在“AI”と称しているのは、人工知能というより、「AIとしてのソフトウェア」であり、正しくは「AIソフトウェア」と言うべきなのです。
ですが、それだと、大半のソフトウェアは“AI”となってしまうので、あいまいな概念のままになっているのです。
 
話を本題に戻します。
そもそも、この政策は米国オバマ政権が掲げた「AI活用を国家戦略に据える」のコピーです。
オバマ政権は「高い生産性を実現して、製造業を国内に戻そう」として、多数の雇用を生み出す製造業の米国回帰をAIソフト導入によって目指そうとしました。
具体的には、工場の製造ラインをAIソフトを搭載したロボットに置き換えて自動化することでした。
これで、安い労働コストを求めて海外に移転した工場を米国に戻し、しかも、自動化によって人件費を抑えるという政策でした。
 
しかし「製品設計」「工程管理」「マーケティング」といった付加価値が高く、進化し続ける必要のある高度な分野は、単なるAIソフトでは無理で、人間しかできない分野です。
それゆえ、優秀な人材を育てるための教育を並行して充実させました。
この政策は、トランプ政権に引き継がれ、トランプ氏は、これを「アメリカ・ファースト」として、国内外の企業に対し、米国への工場移転を半ば強制しました。
この政策によって、コロナ禍が起こるまでは米国経済は非常に好調であり、コロナ禍を脱した後では元の好調さを取り戻しています。
 
しかし、米国経済が好調になっても労働者の雇用は増えませんでした。
当たり前です。
工場の自動化が進んだことで、未熟練労働者の働き口がなくなったのですから。
そのため、旧来の産業の衰退が進む「ラストベルト」地域の労働者が、「トランプはうそつきだ」と反発して、彼は大統領選挙で敗れたのです。
 
日本は、こうした米国の事例から何も学ばず、工場の自動化を含めて、全てが中途半端なままです。
この要因は、企業においては、年功序列・終身雇用への固執が強く、非正規社員を切り捨てて正社員の雇用を守ろうとする労組の圧力のもと、国の労働政策もそれを後押ししていることにあります。
 
もう一つの懸念は、日本の官僚たちに残る大きなトラウマの存在です。
1980年代、当時の通商産業省が主導して、大手コンピュータメーカー3社の共同開発で、「第5世代コンピュータ」の開発が多額な予算を得て行われました。
欧米に先駆けて真のAIコンピュータを実現するという壮大なプロジェクトでした。
しかし、このプロジェクトからは、結局なにも生まれませんでした。
いまの経産省は、この失敗から何ひとつ学ばず、相変わらず国策半導体メーカーを作っては失敗を繰り返しています。
この日本的文化がなぜ続くのかは別の機会に論じたいと思いますが、こうしたプロジェクトで消えた国家予算は、数十兆円に上るでしょう。
 
岸田首相に言いたいのは、「AI関連の研究活動へ投資」の文言だけで、こうしたトラウマは解消できないということです。
前述のような過去の失敗事例をすべて公開し、AIソフトの発展がもたらす雇用面のメリットとデメリットを示し、それらの対策を“まな板”に載せ、超党派による国民に開かれた議論を促すことにあります。
さて、できるかな?
 
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┃☆生産性の向上(その4)                     ┃
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前号の続きです。
管理職時代、傘下の現場で働く監督たちが事務職のようになっていく現状に頭を痛めた私は、以下の宣言をしました。
「工事推進および安全関係以外の書類作成は全部止めてください。報告書類は、全部私が作成します。その材料だけを私に送ってください」
 
当然、部下たちは大喜びですが、一人で全現場の社内報告書類を作成するなど、到底無理な話です。
しかも、私の現場監督時代に比べて書類の種類はかなり増えていました。
 
しかし、私の前職はコンピュータメーカーのSE(システムエンジニア)でしたし、建設会社に転職してからも、技術計算や管理業務用のソフトを自作してきました。
それを実務で使うだけでなく、欲しいと言ってきた他部署の人間にも使わせてきました。
これらのソフトを使い、現場から送られてくる情報を、まずは助手の女性に入力させ、最後に私が仕上げるという手法で、報告書類を作成していきました。
 
しかし、数ある管理部門が求める書類には「こんなの要らんだろう」と思う書類も多く、書式に合わないものもあり、実際は、かなり手を抜きました。
その結果、管理部門からは非難ごうごうで、四面楚歌状態となりました。
それでも、現場の生産性向上のためと、監督たちには現場管理に必須の書類の作成以外は求めませんでした。
クビになるのは時間の問題かなと思っていましたが、上層部としては、着実に利益を向上させている私のクビはなかなか切れないようでした。
 
もちろん、工夫も重ねました。
役員が目を留める言葉や主要な指標は、太字や囲み文字で印刷するなどのソフトの改良は進めました。
その結果、役員からの文句はほとんど出ませんでした。
どんな企業でも、中間管理職と役員の視点は、当然のごとく違います。
気を配るのは最上層部だけで良いと腹をくくりました。
 
しかし、管理側からの四面楚歌が直接の原因ではありませんが、私は40台半ばで会社を辞め、独立しました。
社内的な軋轢を恐れずに、こうした改革を実行するには辞める覚悟がないと出来ないという日本企業の現実は、現代でも重いのです。
トップを含めて経営陣の多くは私を支持してくれましたが、それ以下の組織からは敵視され、部下たちが標的になるという事態になり、対処し切れなくなってきました。
その上、私個人の作業量は増大し、真夜中まで書類作成に明け暮れる毎日に、このまま疲弊するだけの人生はゴメンだという意識が強くなっていき、独立を決意しました。
 
生産性向上は重要ですが非常に重たいテーマで、社内に対立構造を生む要素となります。
現在の私は経営者の立場ですから、こうした改革の責任者を絶対に辞めさせない会社にする責任を重く受け止めています。
 
本シリーズはいったん終わりますが、別の形で、より深い内容を発信したいと思っています。
 
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<編集後記>
日本の大学では、博士課程への進学率が低下し、良質な論文も減っています。
海外の大学との格差は広がる一方ですが、その背景には大学の資金力の問題があります。
研究者の育成などに使う基金の額でいうと、米国ハーバード大4.5兆円、イェール大3.3兆円に対し、東大でもわずか190億円です。
そこで、岸田内閣は、10兆円規模の「大学ファンド構想」を打ち出しましたが、中身を見ると「絵に描いた餅」で終わりそうな構想です。
いずれ、本メルマガで、この問題も論じたいと思います。
 
 
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