2016年11月30日号(経済、経営)

2016.12.16

HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2016年11月30日号
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                発行日:2016年12月1日(木)
 
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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         2016年11月30日号の目次
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☆トランプ氏は魔法の杖を持っているのか?
★未熟な日本の計画技術(3)
☆AIは果たして人間社会に益をもたらすのか(4)
★インフレ誘導政策は是か非か(2):日本経済の現状分析
 
http://magazine.halsystem.co.jp
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こんにちは、安中眞介です。
今号は経済、経営の話題をお送りします。
 
五輪会場問題で浮き彫りになってきた巨額の費用。
国民・都民の意識からは開催決定時の浮かれた気分はとうに消え失せ、憂鬱な気分が蔓延しているように感じます。
「アスリートファースト」なんて言っていますが、実態は「競技団体ファースト」じゃないかの声も。
当選時に掲げたはずの「コンパクト五輪」の旗は、もうぼろぼろですね。
 
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┃☆トランプ氏は魔法の杖を持っているのか?             ┃
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米国次期大統領のトランプ氏が、大統領就任の翌日TPPを脱退すると表明しました。
巷では「TPPは崩壊する」、「米国は保護主義になる」と、自由貿易が危機を迎えるという声が大きくなっています。
たしかにTPPは風前の灯となり、消え去るか大幅な修正で出直すかの岐路に立っています。
トランプ氏の当選でこうした事態は予想されたことで、経済評論家は以前から「株は下落し、円高が進み、日本の景気は悪化する」と言っていました。
しかし、いま現在、株価も為替も悪化とは真逆の方向になっています。
この事態をどう読み解けば良いのでしょうか。
それとも、この現象は一時的なもので、やがて評論家諸氏の主張通り「世界的な不況」へと落ちていくのでしょうか。
 
そのカギは、まさにトランプ氏にあります。
トランプ氏は、選挙期間中から、「全所得層への減税」や「法人税の大幅減税」を打ち出しながら、「公共投資の拡大」、「軍事予算の増額」といった歳出を大幅に増やす公約を掲げていました。
当選した後、言動はトーンダウンしていますが、これらの経済政策はぶれていないようです。
 
では、歳出を増やす一方で、所得減税や法人減税を実施し、それでいて国家予算をバランスさせるという芸当は可能なのでしょうか。
トランプ氏は、そのような「魔法の杖」を持っているのでしょうか。
 
さらに、トランプ氏は、連邦最低賃金を10ドル(11/30相場で約1145円)/時にすると公約しています。
物価水準が違うとはいえ、「本当に出来るの?」と疑問符が付く公約です。
 
また、北米自由貿易協定(NAFTA)など、これまで米国が結んだ数々の貿易協定を破棄あるいは見直しするとも公約しています。
しかし、協定に参加している各国にそれを認めるさせるのは困難です。
8月末にトランプ氏と面会したメキシコのペニャニエト大統領の支持率が、面会後に急落したというニュースも伝えられています。
協定を結んでいる各国首脳にとっては、トランプ氏と会うことすら危険だと警戒しているフシがあります。
いち早くトランプ氏と会談した安倍首相のもとには、各国首脳から「トランプって、どんな人?」とのホットメールが届いたと言われています。
その一方で、その後、会談を行った首脳はいません。
情報は喉から手が出るほど欲しいが、会うのは国内世論の反発が怖く、及び腰なのです。
 
そうした中、新政権の経済閣僚の人事が発表されました。
財務長官には、金融大手ゴールドマン・サックスの元幹部だったスティーブン・ムニューチン氏(53)、商務長官には、投資家のウィルバー・ロス氏(79)が指名されました。
ムニューチン氏は、親子二代に渡る指示金入りの金融マンです。
ロス氏は再建投資家として名高い人です。
両氏とも大統領戦ではトランプ陣営の参謀格でしたから、意外性の少ない人事といえます。
注目すべきは、商務副長官に名前が上がっているトッド・リケッツ氏です。
リケッツ氏は大リーグ、シカゴ・カブスの共同オーナーで、バリバリの経営者です。
 
このような実務家で固めた経済閣僚たちがトランプ氏の魔法の杖なのでしょうか。
少し時間をかけて、かれらがこれから打ち出す経済政策を検証していきたいと思います。
 
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┃★未熟な日本の計画技術(3)                   ┃
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日本で「計画技術」が未熟なままで育たなかった原因を、前号では「どんなプロジェクトや工事にも起こる『計画と現実とのズレ』を現場が収めてしまい、表面化を防いでしまったことにある」と論じました。
最近のTV番組を観ていると、「天才的な職人芸の話」がよく紹介されます。
彼らの作り上げた手作り製品は、海外でも高い評価を得ており、本当にスゴイなと感心します。
また、そのように脚光を浴びる職人さんだけでなく、私が現場で出会った多くの職人さんたちも、素晴らしい技術の持ち主ばかりでした。
 
そうした技術を持つ職人さんたちは「日本の宝」とも呼ぶべき存在でした。
しかし、皮肉なことに、そのことが「計画技術」の進化を遅らせてしまった原因なのです。
計画が未熟でも、計画段階で失敗があっても、職人さんたちが何とかしてしまったのです。
規模が大きな工事現場であっても、職人さんや専門工事会社の人たちの努力で”なんとか”してしまったのです。
こうした結果、あらゆるプロジェクトにおいて、「計画の間違いはあり得ない」こととされ、間違いが浮上してしまった場合でも「現場がなんとか収める」が不文律のルールとなってきたのです。
 
私が担当した公共工事の現場で、重大な設計ミスが浮上したことがありました。
役所の担当官に相談に言った時、こう言われました。
「だから、おたくに発注してんじゃないの・・・」
つまり、「設計ミスの是正を含めた発注なんだ。それをアンタの会社は承知で受けたんだろう」というわけです。
公共工事ですから、設計は大手の設計事務所がやっていました。
私の所属していた会社は施工を請け負っただけで、設計に対する責任はありません。
でも、暗黙の了解で、「設計の責任を含めて受注した」ということになっていたのです。
 
もちろん、私も素人ではありませんし、業界の表も裏も熟知していました。
設計のミスを救うことは、いやになるほど行ってきました。
でも、その時の設計ミスはひどいもので、大幅なコストアップにつながるものでした。
さすがに黙っているわけにはいかず、相談に行ったのです。
なのに、“けんもほろろ”の対応でした。
 
どんな重大なことが起きても、すべての責任は受注者であるゼネコンにある。
このような不文律がある限り「計画技術」が進化することなどあり得ません。
そして、だから「日本の建築設計料は、異様に低い」のです。
それどころか、設計事務所不要論の声が大きくなってきている現実です。
建築設計界には、設計の価値と責任を明確に提示し、市場に納得させる努力が求められています。
設計は「価値ある大事な仕事」なのですから。
 
ところで、TV番組に映る「天才的な技術を持つ職人さんたち」ですが、働く工場や作業場があまりにも質素な(というより、貧しい)様子に胸が痛みます。
若い後継者が育たないのは当然で、やがて、これらの技術の大半は失われていく運命なのでしょうか。
 
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┃☆AIは果たして人間社会に益をもたらすのか(4)          ┃
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前号で、「近い将来コンピュータによって置き換えられていく可能性の高い職業」として、多くの職業をあげました。
しかし、いずれの予測調査でも、建設現場の仕事の大半はリストに入っていませんでした。
では、建設現場は安泰(?)なのか・・を、今号では論じたいと思います。
 
読者のみなさまには、この結論は既に分かっていらっしゃることと思いますが、暇つぶしにお付き合いください。
 
AI(人工知能)とロボット工学が結びつくことによって、人間の身体活動の全てが置き換えられるという世界は、いずれ実現するでしょう。
世界のロボット研究の中には、21世紀の半ばまでに「ロボットチームが、サッカーのワールドカップの覇者を破る」という研究があるそうです。
そこまで発達したならば、建設現場での「人がロボットに置き換わる」ことも現実化すると思います。
 
しかし、建設現場での人の動きは複雑です。
現場ごとに規模、形状、状況が異なり、しかも日々刻々と変化するわけです。
これは、ロボットが最も苦手とする状況・条件なのです。
ロボットの頭脳をAI化しても、変化の多様さと複雑さにAI学習が追いつくのは遠い先となります。
 
将棋は、打つ手が110万通りあると言われています。
囲碁は、その倍の220万通りです。
天文学的な数字と言えますが、性能の良いコンピュータと確率計算を効率よく実行できるソフトを組み合わせれば、解析は不可能ではありません。
事実、近年、そのようなシステムが出来て人間の名人と互角の戦いをしているわけです。
しかし、囲碁や将棋ファンの方には怒られるでしょうが、囲碁も将棋も、盤面が限られ、あらゆる確率が計算できてしまうゲームの世界です。
実際の建設現場はそうはいきません。
また、計算が外れて事故が起きても「ソフトのミスだよ」と言って済ませることはできません。
 
くどくどと、何が言いたいのかと言えば、「建設現場での仕事はそれだけ高度なのだ」と言いたいのです。
ロボットが進出する分野は増えていくでしょうが、建設現場の仕事は、最後まで人間の仕事として残る高度な仕事であることに誇りを持ちたいものだと思います。
 
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┃★インフレ誘導政策は是か非か(2):日本経済の現状分析      ┃
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日銀のインフレ誘導策の是非を問うコーナーですが、そのためには現実の景気の背景を分析する必要があります。
日本経済は、政府・日銀の懸命の策でようやくマイナスに落ち込むことに堪えている状態だと思います。
政府に批判的なマスコミや野党、経済評論家は、この状態を「アベノミクスの破綻」として政府を攻撃していますが、マイナスに落ちない限り「破綻」とは言えないと思います。
さりとて「成功」とは言えない状態ですから、「まだ判断出来ない」としか言いようがありません。
それより今回は、現在の景気の背景を分析してみたいと思います。
 
どんな国でも、発展途上段階では「輸出主導型」の経済で景気を引っ張る策を採る。
それが成熟段階になると、「内需主導型」の経済で景気を引っ張るように切り替えていく。
日本経済は30年前にその段階に入ってきた。
しかし、それが行き過ぎたために「バブル経済」になってしまい、バブルが弾けて、長い低迷期に入ってしまった。
第二次安倍政権の経済政策でなんとかプラスに経済を立て直したが、足元があやしくなってきた。
 
日銀の量的緩和策は、現代経済学の本流ともいえる「合理的期待仮説」をベースにした策である。
専門家の言葉を借りれば以下のような説明になる。
「国民は、利用可能な情報に基づいてインフレ期待を形成し、おおむね合理的に振る舞う。だから、中央銀行がインフレになるような政策を実施すれば、それに応じて市場もインフレになる」
 
つまり、日銀・黒田総裁のインフレ誘導策は、経済学的には正しい策だといえるのである。
実際、欧米各国では、同様の量的緩和策の実施によって、市場はおおよそ期待した通りに動いてきた。
しかし、日本では、日銀がいくら量的緩和を進めてもなかなかインフレにならない。
これは世界の経済学者の中で「大きな謎」として受け止められている。
日本は普遍的な経済理論が適用できない唯一の市場なのか、それとも、理論は合っているが、日本人は非合理的な行動をとる人種なのか、で論争が起きている。
安倍首相の求めに応じ、有名経済学者たちが大挙して日本を訪れたのは、その興味があったのと、「もしかしたら、日本で“無責任な”実験ができるかもしれない」という誘惑にかられて来日したのである。
 
ところが、日本に来た彼ら経済学者たちは、みな驚いた。
日本の経済が豊かで、人々がゆったりと過ごしている姿にである。
海外で報道されている日本経済は、「もはや破綻寸前」という報道ばかりだったからである。
原発事故の時、「日本全体が汚染され、もう日本には人が住めない」と報道されたのと同じである。
そんな彼らの提言に耳を傾けなかった安倍首相は賢明であったと言うべきであろう。
 
日本経済停滞の根本要因は、個人消費の伸び悩みに尽きる。
その伸び悩みの第一の要因は、団塊世代の高齢化である。
高度消費経済の中を全力で生き抜いてきたこの世代は、人数の多さもさることながら、リタイヤ後もその消費意識は旺盛で、経済の牽引役であった。
しかし、今や全員が「前期高齢者」となり行動範囲が狭くなり、その先の老後の心配も深刻になってきた。
年金法改正により年金に頼る生活にも黄色信号が灯り、さりとて、子供である団塊ジュニア世代は、もっと大変な経済状態下にあり、頼れない。
 
しかも、今後の消費を牽引すべき若い世代は、従来型の消費に背を向け、「持たない、買わない、シェアする」といった生活スタイルを「カッコよい」とする低消費年代である。
リユース品(ようするに中古品)を、ネットでやり取りする個人間取引では経済は作れない。
新品の家具や衣料品、新車の販売が軒並み不振という事態がそれを物語っている。
インフレなど起きようがない状態なのである。
このように分析していくと、安倍政権の「官制賃上げ」がいかに的を外しているかが分かるであろう。
もっと有効な手はないのか。
次号では、それを論じてみたい。
 
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<編集後記>
日本で新しい消費経済が作れないのは、作る土壌つくりをやっていないからです。
良い農産物を作るには、良い土壌と良い水が必要です。
「良い天気は?」と思われるかもしれませんが、幼少の頃より92歳まで農業一筋で生きてきた私の伯父は、「お天道様は3日も顔を出してくれりゃ稲は育つ」とよく言っていました。
そんな伯父ですが、土壌作りと山から水を引く用水路の確保には一切の手を抜きませんでした。
経済も経営も同じだと思います。
 
 
<建設ビジネスサロンの開設>
「建設ビジネスサロン」の案内と募集が遅れていて申し訳ありません。
「なかなか良い文面が思いつかなくて・・」と言い訳をしておきます。
 
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