2016年1月30日号(経済、経営)

2016.01.30

HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2016年1月30日号
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                発行日:2016年1月30日(土)
 
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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           2016年1月30日号の目次
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★軽井沢バス事故と杭問題は同じ根っこ
☆黒田バズーカ第3弾
☆小さな会社の大きな手(10):戦略投資の失敗(その1)
http://magazine.halsystem.co.jp
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こんにちは、安中眞介です。
今年最初の経済、経営の話題をお送りします。

甘利大臣の辞任、政治的道義からいえば当然なのでしょうが、日本経済に与えるマイナス面を考えると簡単には割り切れません。
「あのくらいのことで辞めなくてもいいのでは」との声があります。
「もっと悪い政治家はいっぱいいるのに」との声も聞こえます。
鬼の首でも取ったかのような野党の浮かれ具合のほうが気持ち悪いです。

後任の石原大臣の力量に公然と疑問が投げかけられている現状のほうが危機かもしれません。
今の政界はそれだけ人材難なのかと不安になってきます。

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┃★軽井沢バス事故と杭問題は同じ根っこ               ┃
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1月15日に起きた軽井沢のスキーツアーバスの事故、死者の多さと犠牲になった乗客が全て大学生だったことで、大きなニュースとなりました。
その後、TVや新聞、週刊誌などで繰り返し報道がなされたことで、ツアーバス業界の実態が明らかになってきていますが、それは、どの産業にも共通している問題です。
労働集約型の産業の多くが制度疲労を起こしていることは、長年、各方面から指摘されています。
しかし、抜本的な改革がなされないまま時間だけが過ぎ、その結果、一定の間隔で今回のような悲惨な事故や事件が起きるのです。
残酷な話ですが、今回のツアーバスの事故も、すぐに風化してしまうでしょう。
そして、「いつかまた」の繰り返しになるのです。

本日(1/30)のTVで、この事故の原因や防止策などを大学教授などの著名人たちがトークする番組が放映されていました。
しかし、言い古されたことの繰り返しで、見ていてイライラしてしまいました。
画面下部に流れるツイッターの投稿のほうが面白かったのは皮肉でした。

1/29付けの建設通信新聞の「建設論評」で「コストと安全」が取り上げられ、ツアーバス事故と杭偽装の問題の根が同じであることが指摘されていました。
私もまったくの同感です。
建設業界の構造は、ツアーバス業界以上に問題があります。
1/27、国交省が1万ヶ所の現場で行った重層下請け構造の調査の中間発表を提示しました。
その調査報告によれば、調査現場の70%が3次下請けまでで完結しているということです。
かつ、97%の業者が3次下請けまでに入っているということです。
この調査結果を読んだ時の最初の感想は「そんなはずはない」というものでした。
実際、1/29付けの建設通信新聞の記事では「見えない下請」の存在を指摘していました。
そうです、根本の問題は、この「見えない下請」、「中間搾取」にあるのです。
その構造が浮き彫りにならない国交省の調査は、税金の無駄遣いと呼ばれても仕方ないものです。

私は建設工事の下っ端監督から現場代理人、管理職と、様々な立場で現場を経験してきました。
また、会社を起ち上げてからも、現場指導や経営指導を通じて、多くの建設会社の実態に携わってきました。
その経験から、もし、自分が杭偽装の当事者だったら、どうしただろうと考えました。
それも、自分が元請けの立場だったら、あるいは下請けの立場だったらとです。
結論は明らかです。
「クビ」を覚悟で、あるいは「会社を潰す」覚悟で、真実を言う、また、実行する勇気が出るかどうかです。
結論は、90%以上の確率で「言えない」「できない」のです。

つまり、重層下請け構造自体が悪いのではなく、各構造体の役割、責任が全体の共通認識として、明記され、周知されていないことが悪いのです。
かつ、構造体が「垂直の上下関係」になっていることが悪いのです。
私は、産業構造を「水平の同格関係」にすることしか、解決策はないと考えます。

しかし、「お金を払うほうが上」という日本人の意識が変わらない限り、実現は難しいのです。
商売におけるおカネと製品(または、技術、サービス)の関係は「等価交換」という意識の醸成こそが真の解決策なのです。

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┃☆黒田バズーカ第3弾                       ┃
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日銀が、ついに禁断の「マイナス金利」を実施した。
日銀・黒田総裁の最近の言動からマイナス金利に踏み切ると予想していたが、予想よりかなり早い時期の実施といえる。
それだけ、年明けからの株価の下落が深刻な事態ということである。
このまま、いや、さらに下落して3月末の決算期を迎えたら、株価の損失は50~60兆円に及ぶと思われる。
その損失=機関投資家や大企業の損失となり、一気に景気を冷やす要因となる。
政府が静観できるはずはないのである。
故に、政府と日銀との間で何らかの意思疎通があったと考えるのが自然である。
もちろん、これは推測であるが・・

2013年の安倍内閣で始まったアベノミクスの第1弾となった最初の「黒田バズーカ」は、日銀の量的緩和である。
それまでの2倍という巨額の資金拠出は、市場に多大なインパクトを与え、長年のデフレ傾向を止めたのは事実である。
公平に見て、安倍政権と日銀の成果と言ってよいであろう。
その後のアベノミクス第2弾は政府の財政出動だから、政権の意思一つでできるし、一定の成果は上げた。
しかし、第3弾の産業の活性化は、民間企業の設備投資がカギとなるため、政権の思惑通りにはいかなかった。
実際、いくら銀行にカネがだぶついても、政府が保証する範囲でしか銀行は中小企業にカネを貸さなかった。
これでは、設備投資など増えるはずもないのである。
だから、2015年10月に「黒田バズーカ」第2弾として、さらなる金融緩和で市中資金を増やしたが、空振りに終わってしまったのである。

いま、銀行はだぶついたカネを企業への貸出しには使わず、日銀に貯金しているのである。
わずか0.1%の金利とはいえ、巨額なマネーである。
リスクを犯して中小企業に貸すよりは「マシ」というわけである。

だから、日銀が、さらにバズーカ砲を打つとしたら、金利しかないというわけであった。
それも、0.1%の金利をゼロにしたぐらいではインパクトに欠ける。
としたら、最後の手である「マイナス金利」しかなかったのである。

こうすると、銀行は日銀にカネを預けても目減りするので、手元に引き上げる。
そして、企業への貸出が増える・・という目論見である。

しかし、マーケットは悪材料だらけである。
株価の下落、原油安、中国経済の減速、円高、東アジアや中東の政情不安、欧州の移民問題などなど、いくらでも出てくる。
これらの悪材料を押しのけて「マイナス金利」が景気回復につながるかどうか。
果たして銀行の融資姿勢が変わるかどうか。
次回以降、解説を続けていく。

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┃☆小さな会社の大きな手(10):戦略投資の失敗(その1)     ┃
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今まで、「戦略投資の勧め」のような論調で本項を書いてきましたが、決して、「イケイケどんどん」の経営を勧めているわけではありません。
戦略投資には、常に危険が伴います。
その最大の危険は、投資につぎ込んだお金が回収不能になることです。
それと、失敗のトラウマが社内に残ることです。
従って、経営陣は、この危険要素を最小限に抑える戦術と、失敗した場合の傷を最小限に抑える戦術の、2つの戦術を立案しておく必要があります。
この2つの戦術を立案しておかない投資実行を「イケイケ・・」の経営と言うのです。

弊社は、過去に、このことを軽視した戦略投資を行ってしまい、結果として大きな痛手を負いました。
それも一度ではありません。
懲りずに、何度も行い、何度も失敗してしまいました。

TVの番組で「しくじり先生」という番組があります。
過去に大きな失敗をした芸能人などが、自分の失敗を赤裸々に語る番組です。
学校で、先生が生徒に講義する形式を模して、失敗芸能人が先生として、生徒役の芸能人たちに話すのですが、これが“面白おかしい”のです。
まさに、「他人の不幸は蜜の味」というヤツです。

私も、そこで話をしたいくらい、失敗を重ねてきました。
でも、挑戦したあげくの失敗で、今では経営の糧になっていますから、これはこれで財産だと開き直っています。
「しくじり先生」の芸能人たちも同じでしょう。
他人に話せるようになったのであれば、トラウマから脱したといえるのです。

最初の失敗は、創業した年に行った“商品”としてのCADソフトの開発です。
ある程度、手持ちの資金があったので、自信があった建築設計用のCADソフトを開発したのです。
1年も経たずに、「なかなかよい出来」と自負したソフトが出来上がりました。
当時の主たる事業であった建築設計業務では大いに力を発揮したので、客観的にも「良いソフト」だったのだと思います。
実際、販売するために、いろいろな建設会社や設計事務所で「デモ」を行いましたが、概ね好評でした。
しかし、“売れない”のです。

購入をしてくれた会社はありましたが、それらは、例外なしに「CADソフト」を導入していない会社でした。
すでに「CADソフト」を導入していた会社でも、「良いCADだ」と評価はしていただけるですが、購入はしていただけないのです。

「どうして?」と悩んだのですが、あるお客様が、売れないわけを教えてくれました。
その時のお客様の声を再現します。

「このソフト、すごくいいよ。すぐにでも導入したいくらいだ。
でも、ウチには、今使っているソフトがあって、まだ2年ぐらいしか経っていないんだよ。
これで、オタクのソフトを買うというと、上から『なんで、2年ぐらいしか使えないソフトを導入したんだ』と、過去の導入経緯を責められるんだよ。
それでもOKが出るには、『圧倒的に優れたソフト』でないとダメなんだよ」

この言葉には打ちのめされました。
商品としての製品を世に出すのは、圧倒的に優れた『何か』が無ければダメなのです。
性能か、価格か、速さか・・の『何か』が必要なのです。

こうして、最初の商品開発は大失敗に終わりました。
数千万円のおカネが露と消えましたが、それ以上の開発費をつぎ込めないことで、損害はそこで食い止められました。
創業間もない会社だったので、銀行がお金を貸してくれなかったのです。
逆に、だから良かったといえます。
借り入れが出来たら、傷が深くなり、そこで倒産していたかもしれないのですから。

さて、続きは次号で。

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<後記>
マイナス金利という聞き慣れない事態に、戸惑っている人が多いようです。
0.1%のマイナス金利とは、1万円を1年預けたら、10円引かれて9990円戻ってくるということです。
「そんなの誰も貯金しないだろ」と言えば、たしかにそうです。
銀行金利がそうなったら、みな「タンス預金」になるということです。

だけど、もし、住宅ローンがそうなったら、どうなるのでしょうか。
1000万円のローンを組んだら、毎年1万円ずつ元金が自動的に減るということです。
「そりゃ、ええや」となりますね。

実際は、今回の日銀のマイナス金利は、あくまでも「日銀vs銀行」間だけの取引ですから、上記のようなことは起こりません。
でも、金利全体に対する影響は確実に出ますから、順当に考えれば、ローンの利率は下がることになります。

実際は、日本で初めての事態なので、どうなるかは分かりません。
理論通りの結果になるか、何も変わらないか。
これから見ていくことにします。
 
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