2025年8月31日号(経済、経営)
2025.09.01
HAL通信★[建設マネジメント情報マガジン]2025年8月31日号
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発行日:2025年9月1日(月)
いつもHAL通信をご愛読いただきましてありがとうございます。
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2025年8月31日号の目次
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◇企業の投資(3)
◇USスチール買収問題(後編)
◇新車陸送の世界(5)
<HAL通信アーカイブス>http://magazine.halsystem.co.jp
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こんにちは、安中眞介です。
今号は、経済、経営の話題をお送りします。
経済の要素が大きく変わり始めています。
これから企業が向かう先は濃霧が立ち込めている海域です。
濃霧の中、企業は向かう先を見定め、経営の舵を切っていかなければなりません。
その一助になればと、これからも本メルマガをお届けします。
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┃◇企業の投資(3) ┃
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現在の石破政権には「経済に強い」と思われる閣僚・幹部が少ないのが難点です。
誰とは言いませんが、農政大臣などは、その弱さの象徴ですね。
ゆえに、財務省に操られ、増税路線を走るしかないのです。
消費税減税は、この政権が続く限り不可能です。
国家であれ、企業であれ、成長するには投資が必要です。
まずは、国家としての投資の話をしましょう。
今の日本、投資資金を税収で賄うのは無理なので、国債発行で調達するわけです。
建設国債はその代表ですが、かつての民主党政権は「コンクリートから人へ」を掲げ、公共事業費を大幅にカットしました。
民主党政権で国交大臣に就任した前原誠司が放った、この「コンクリート~」の言葉で公共事業は悪者にされました。
実際、政権誕生の翌年2010年度の公共事業予算は、補正予算を含めて、前年度の8.8兆円から6.4兆円へと激減しました。
その後の2011、2012年度は、その傾向を引き継ぎ、当初予算は5兆円程度にまで圧縮されました。
しかし、景気悪化に慌てた政権が大幅な補正予算を組んだことで、結果として7.9兆円、7兆円と膨らみました。
ただし、建設工事の性格上、補正予算では計画的なインフラ投資ができず、景気向上の起爆剤にはなりませんでした。
こうして景気が悪化したことで2012年末に民主党政権は倒れ、安倍晋三率いる自民党が復権しました。
それでも、いきなり公共事業予算の増額はできず、2013年度からの3年間は、ほとんど補正予算が組めない状態が続きました。
ようやく2016年度になって補正予算の増額ができるようになり、予算全体は7.6兆円に伸びましたが、当初予算は6兆円程度に抑えられました。
その後も公共事業の当初予算は6兆円程度に抑えられたままで、2019、2020年度に6.3兆円と少し上がりましたが、
2021年度からは再び6兆円に抑えられ、この傾向は今年度(2025年度)まで続き、景気刺激の起爆剤になっていません。
財務省は、国債発行を「国、ひいては国民の借金だ」と言い続け、一部のマスコミもそれに同調しています。
石破首相は「日本の財政状態はギリシャより悪い」と発言しましたが、自らの経済音痴ぶりをさらけ出した格好です。
多くの専門家が指摘しているように、ギリシャはユーロで借金を重ねていて、自国通貨で返済が出来ず、ユーロの手持ちがなくなりデフォルトするしかなかったのです。
それに対し、日本政府の債務は、その半分を日銀が、残りの大半は日本の金融機関が保有しています。
読者の皆様には「釈迦に説法」ですが、通貨発行権を持つ国家は、国内の資金調達でデフォルト(債務不履行)にはなりません。
借り換えすればよいだけのことで、日銀はもちろんOK、利息が入る銀行は大歓迎です。
対外債務・債権に至っては、日本は大幅な黒字国で、そこからの収入もかなりに上っています。
しかし、「財務省が悪い」と単純には言えません。
財務省は、家庭で財布の紐を握っている専業主婦のようなものです。
とにかく出費を抑えようとするのは当然です。
だから、国家の家父長である首相が、国の発展を第一に考え、財政状態を踏まえながらも必要な投資を行っていく責任があります。
石破首相による最近のアジア・アフリカ外交での大判振る舞いな援助は、「悪い」とは言えません。
しかし、その援助がどのような形で日本の利益となって返ってくるかの説明がありません。
財務省が何も言わないのは、このような出費が増税の言い訳になると踏んでいるからです。
このように、リーダーシップ力が全く見えない現状でも、石破首相の支持率が上がっているという世論調査が本当ならば、日本の未来は暗いとしか言いようがありません。
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┃◇USスチール買収問題(後編) ┃
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この問題、時間が経ってしまいましたが、「一件落着」なわけではありません。
実は、問題だらけなのです。
日本製鉄の戦略の細部は、いまいち不明瞭です。
そのあたりを推測しながら、論評したいと思います。
日本製鉄は、141億ドル(約2兆円)でUSスチールの普通株100%を取得し、同社は上場廃止となりました。
これに加え、日本製鉄は2028年までにさらに110億ドル(約1兆6000億円)の投資を行うことになっています。
内訳は、ペンシルベニア州モンバレー製鉄所の設備、および研究開発拠点の新設です。
つまり、買収コストは合計3兆6000億円の巨額なのです。
USスチールの粗鋼生産能力は年間2300万トン程度で、この粗鋼生産能力あたりの投資額を計算すると、1100ドル(約16万円)程度になります。
日本製鉄が公開した資料では、投資金額は「1トン当たり600ドル(約8万7000円)が妥当」とあり、鉄鋼業界では、1トンあたり1000ドル程度が投資金額の限界と言われています。
つまり、今回の買収額は10%割高であり、その上、今後、トランプから追加投資が求められる可能性を考えると、この買収には危険要素が“いっぱい”と言えます。
それでも、日本製鉄がこの買収に執心したのは、国際的な競争力の確保が狙いです。
中国の台頭により粗鋼生産力が世界4位に落ちたことで将来を危惧した経営陣は、USスチールの買収により世界3位への浮上を狙いました。
しかし、どうやら4位のままになりそうです。
それでも、米国内での生産基盤を確保することで関税障壁の下で有利な立場を確保することを狙ったわけで、それは功を奏する見込みがあります。
米国が鉄鋼・アルミニウム品目関税を25%から50%に引き上げ、さらに8月15日に、この関税を約400品目の関連製品にまで拡大することを発表したからです。
(日本を含めた各国と約束した15%への引き下げには関係なく引き上げます)
この処置は、たしかに同社にとっての追い風となるでしょう。
韓国の現代製鉄(現代自動車グループ)は、ルイジアナ州に58億ドル(約8360億円)を投資して製鉄所を建設し、29年の商業生産を目標に推進中ですが、
同国の鉄鋼産業研究院のソン・ヨンウク代表は「日本製鉄が米国内インフラと販売網を先に確保した点で韓国より有利だ」と、自国の不利を認めています。
日本製鉄は2021年3月に発表した中長期経営計画で、「総合力世界トップを目指す」と宣言しました。当然、重視したのは米国事業の強化です。
主要先進国の中では、米国は人口が増加傾向にあり、鉄鋼需要が増加する期待も高い国です。
自動車やインフラ整備だけでなく、AIデータセンターの建設などで、鋼材需要は大幅に伸びると予想されています。
米国の現在の鉄鋼需要は約1億5000万トン/年ですが、自給率は約55%にとどまっています。
トランプ政権は、ご存じのように、製造業の復興を重視しています。
こうした背景を考えると、米国で国産の鉄鋼製品の生産量を増やすことができれば収益拡大の可能性は高くなります。
この考えで日本製鉄はUSスチールの買収を決断したわけです。
今後、鉄鋼業界を取り巻く環境は大きく変化していきます。
日本製鉄は、国内・国外の組織統合などを迅速に進め、同社が持つ高い技術力を駆使して、新生・日本製鉄の収益性を高めることが必要です。
最大のポイントは、強力なライバルである中国勢にいかに対峙するかです。
彼らは中国政府の全面支援による価格競争力で、世界に対し徹底した安値攻勢を仕掛けています。
今回のUSスチール買収で、米国市場においては、トランプ大統領による中国製品排除が日本製鉄には追い風となるでしょう。
しかし、本当の勝負はそこではありません。
日本製鉄は独自技術をさらに先鋭化し、安値競争ではなく新製品の開拓により世界市場に勝負を懸けていくことです。
今後の戦略構築および結果を出していく同社経営陣の力量が問われます。
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┃◇新車陸送の世界(5) ┃
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陸送員が埠頭まで運ぶ車は、工場の生産ラインから出てきたばかりの、“ほかほか”の湯気が出ているような新車です。
ですが、実はとんでもない代物なのです。
ラインから出されたばかりの新車は、最終検査を行っていません。
ゆえに陸送員は、ときに“とんでもない”車を運ぶ羽目に陥ります。
実際、走行中にタイヤが外れてひっくり返った車もありました。
運転していたドライバーは、死は免れましたが、重傷を負いました。
私も、片側のブレーキがまったく効かない車に当たったことがあります。
それでも、そのまま埠頭まで運転しなければなりません。
走行中にブレーキを踏むと、ブレーキが効くほうの車輪は減速しますが、反対の車輪の回転は止まらず回り続けます。だから、車はひっくり返りそうになります。
それで、ブレーキが効かない車輪の反対側にハンドルを思いっきり回すと同時にブレーキを踏み、ひっくり返るのを防止しながら走りました。
さすがに埠頭への到着は大きく遅れましたが、ブレーキが効かずに空転を続けた側のタイヤから白煙を上げている私の車を見て、「よく来たな!」という顔で誰も何も言いませんでした。
当然、事故は多発していましたが、大量の輸送量の中に埋もれてしまいます。
トップに君臨する大会社の人間以外、その全容を知る者はいません。
最末端の我々ドライバーは、半ば使い捨てのような存在でした。
事故はドライバーの運転ミスですべて片付けられていたと思います。
本牧埠頭の一角に、コンクリートのフレームだけの4階建ての大きな建物がありました。
開口部には扉もガラスもなく、そこから中に入ったことがあります。
中には、おびただしい数の事故車両が、ガラクタの“おもちゃ”の山のように積み上げられていました。
原型をとどめないくらいに壊れ、運転席に血のりがべっとり付いたままの車もありました。
一緒に入った先輩は「このドライバー、死んだろうな」と、ポツリとつぶやき、「オレたちも、いつこうなるか、分かんねえよな」と、私に話すでもなくつぶやきました。
そして、今度は私に向かって言いました。
「壊れた車は保険会社からカネが出るから親玉の会社に損害は出ねえ。でもな・・俺たちドライバーは生命保険に入れない。死んだら“それっきりよ”」
私が黙っていると、「お前は学生だろう。いいか、早いうちに足を洗え。間違ってもオレたちのように、こんな仕事なんかするんじゃねえぞ」と言いました。
その真剣な口調に、私は頷くだけでした。
たしかに、無造作に山と積まれた事故車両の光景に私は恐怖を覚えました。
原型もなく壊れた運転席のハンドルに付いた血のりの記憶は、今でも脳裏に焼き付いています。
しかし、私は大学の学費を、このバイトで賄っている身でした。
だから、辞めるわけにはいかず、卒業まで陸送の仕事は続けました。
ある時、走行中、ボンネットの中から異音がしました。
車を止めてボンネットを開けようとした瞬間、「シュ-」という音と同時に何かが私の頬をかすめました。
驚いて、手で頬を撫でたところ、手のひらに血のりが付きました。
「えっ」とびっくりして、ボンネットを開けたところ、オイルが噴き出しています。
慌ててエンジンを切って調べたところ、オイルゲージがなくなっていて、そこからオイルが噴き出していたのです。
つまり工場でのオイルゲージの取り付け方が悪く、運転中のエンジン振動でオイルゲージが回転するシャフトに接触したのでしょう。
それが異音発生の原因だと思われました。
そして、私がボンネットを開けようとした瞬間、回転しているシャフトの力でオイルゲージが弾き飛ばされたのです。
エンジンは毎分数千回転で回転します。
アイドリング状態でも800~1000回転/分で回転しています。
その勢いで弾き飛ばされたオイルゲージは、まるで弾丸です。
私の目に見えなかったのは当然です。
そして、そのゲージが頬をかすめただけで、私の顔を直撃しなかったのは奇跡です。
直撃されたら即死だったと思います。
オイルゲージは、私が開けようと手を掛けた鉄板製のボンネットに丸い穴を開け、どこに飛んでいったかは分かりませんでした。
工場のラインから出たばかりの新車は、このように、おそろしい代物なのです。
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<編集後記>
「儲かる建設会社になろう」のサイトは、第1章の「儲かる仕組みの理解」の最後のまとめ(第8回)を掲載しました。
https://realbiz.halsystem.co.jp/blog/?c=55&id=1186
来月からは、「儲ける仕掛けの作り方」を掲載する予定です。
ぜひ、こちらのサイトにも目を通してください。