新しい日本型資本主義の中身(4)

2022.02.17

前回(3)、安倍前首相が岸田首相の「新しい資本主義」に注文を付けたという話をしました。
しかし国民には、そもそも両者の違いがよく分かりません。
そこで、今号から、互いの主張を要約し、私なりの解説を加えたいと思います。
まずは、岸田首相の「新しい資本主義」から。
 
実は、「文藝春秋」2月号の特選記事として、「新しい資本主義」を岸田首相自らが語っています。
この記事を要約して、以下に掲載します。
 
 
「資本主義は、市場を通じた『効率的な資源配分』が経済活性化を促すという理論ですが、同時に富の偏在や公害の発生という『外部不経済』という名の弊害をもたらします。
資本主義は、この二つの微妙なバランスを常に修正し続けることによって進化してきました。
これが19世紀以降の世界経済成長の原動力です。
20世紀半ばから起きた福祉国家に向けた取り組み(分配の強化)や、逆に分配の行き過ぎを是正するという意味での『新自由主義』などは、こうした資本主義の進化過程の一つです。
新自由主義とは『市場や競争に任せれば全てがうまくいく』とした経済理論ですが、1980年代以降に世界の主流となり、世界経済の大きな成長の原動力となりました。
しかし、その結果、経済のグローバル化が進み、弊害も顕著になってきました。
市場に過度に依存した結果、欧米諸国を中心に中間層の雇用が減少し、格差や貧困が拡大しました。
国民総所得に対する雇用者報酬や賃金支払総額の割合(つまり労働分配率)は、先進国では低下傾向にあります。
日本は2000年の50.5%から2019年では50.1%と、ほぼ横ばいですが、米国では56.4%から52.8%、ドイツは53.4%から52.3%へと減少しています。
さらに、1980年から2016年にかけての世界の所得階層別の所得の伸びをみると、最も豊かな1%の人々が、世界全体の所得の伸びの27%を獲得しています。
つまり、先進国の中間層の所得が抑えられてきたのです。
 
企業経営においても、短期的な効率化重視の限界が現れています。
コロナ禍において必要不可欠なモノが国内で供給できないというリスクが顕在化しました。
半導体不足によって、車やゲーム機などの生産まで滞る事態が発生しています。
効率性を追い求めすぎたゆえに、サプライチェーンやインフラの危機に対する強靱性が失われてしまっているのです。
私(岸田首相)は、アベノミクスなどの成果の上に、市場や競争任せにせず、市場の失敗がもたらす外部不経済を是正する仕組みを、成長戦略と分配戦略の両面から資本主義の中に埋め込み、資本主義がもたらす便益を最大化すべく、新しい資本主義を提唱していきます。
 
資本主義が課題に直面する一方、世界では、(中国のような)権威主義的国家を中心とする国家資本主義とも呼べる経済体制が勢いを増しています。
貧困や格差拡大による分断によって民主主義が危機に瀕する中、国家資本主義によって勢いを増す権威主義的体制からの挑戦に対し、我々は、自ら資本主義をバージョンアップすることで対応するしかありません。」              【引用元:文藝春秋】
 
 
よく練られた文章ですが、分析で終わっています。
なるほど、岸田首相の主張する「新しい資本主義」とは、市場原理に過度に依存した新自由主義経済から離れ、分配重視の社会主義の要素を強化した資本主義ということは分かりました。
しかし、肝心の成長戦略と分配戦略の中身についての具体論がありません。
首相の言う“バージョンアップ”の中身が知りたいのですが、これでは肩透かしです。
岸田首相、この記事の続編をぜひお願いします。
 
次回は、アベノミクスの分析と評価を行いたいと思います。