人を育てる(4):経営者自らが学ぶことは・・難しい?

2014.08.31

「経営者自らの学ぶ姿勢」が改革の必須事項なのですが、変節していく経営者が多いことも事実だと述べました。
本コーナーの最終回は、私の失敗談をお話しましょう。

創業当時は、経営のノウハウもなく、闇雲に働くしか策はありませんでした。
ですから、とにかく人の話を聞きました。
その甲斐もあって、経営が軌道に乗り出し、増収増益を続けました。

しかし、経験を積み、経営成績が上がるにつれ、徐々に自分の「学ぶ姿勢」に陰りが出てきました。
俗にいう「奢り(おごり)」そして「傲慢さ」です。
経営者になる人種は、そもそも、このような性格が強い人が多いようです。
「いや、私はそんなことはない」と言われる方もいらっしゃるでしょうが、第三者から見れば、必ずその性格を持ちあわせています。
それは、「リーダーシップ力」の裏返しの資質なので、経営者の宿命なのだと思うのです。
過去の名経営者と言われる方々の自叙伝などを読んでもこの傾向を読み取れますので、必ずしも「悪い性格」とは言えないところが難しいですね。

問題は、そのような経営者の性格がもたらす結果の受け止め方です。
全ての結果を「自らの責任」と受け止め、すぐさま是正策が打てれば、むしろ、さらなる上昇力を生む原動力になります。
しかし、社員や外部の人間、はたまた景気のせいにしてしまい勝ちなのが人間です。

私もそうでした。
自分では気付かないうちに徐々に「奢り」が出始め、それが「傲慢さ」へとエスカレートしていきました。
当然、やがて“ほころび”が出始めましたが、それを「自らの責任」と受け止めきれない自分がいました。
そうして、是正策ではなく、さらなる前進策を強引に推し進めていったのです。
懸念を表明する社員もいましたが、「聞く耳を持たない」自分がそこにいました。

しかし、それで経営が成り立つわけはありません。
長雨で造成地が崩れるように会社は崩れ出しました。

ここに至り、ようやく本質的なことに気付きました。
私とてバカではありません。
強引な拡大策が危険なことは承知していました。
しかし、その危険さよりも、後ろに下がることへの恐怖のほうが強かったのです。
一度、下がってしまうと、そのままジリ貧になり、会社が消えてしまうのではないかという恐怖です。

思い起こしてみれば、サラリーマン時代を含め、一度も下がったことがない人生でした。
それが、いつしか「後ろに下がる恐怖」に変わっていたのです。
創業から12年の年月が経っていました。

追い込まれて初めて、その時、後ろに下がる「撤退戦」の戦略を練ったのです。
実は、この時の危機を救ったのは、それまでの「学び」と、尊敬する経営者の方々の生き様、助言、そして師事していた先生からの教えでした。
それがなければ、「撤退戦の戦略」は作れなかったと思います。
そして、苦しい中を、一緒になってこの戦略を実行してくれた社員たちのおかげでした。

中小企業において、経営トップは絶対的存在です。
それが「自らの学び」の最大の障害であることを自覚すべきなのです。
私は、大きな失敗をするまで、その自覚ができませんでした。
読者のみなさんが、私の失敗から少しでも学ぶ要素を感じ取っていただけたら幸いです。