今後の建設需要(14)

2021.03.16


今号から“まちづくり”の話を始める予定でしたが、今号は、最近出てきた「ジョブ型雇用」について述べます。
 
建設通信新聞の2月18日付けの一面に「ジョブ型雇用 建設産業でも広がる兆し」という記事が掲載されました。
同紙を購読されている方は読まれたと思いますが、同紙の記事からの抜粋で、ジョブ型雇用を簡単に説明します。
同紙の記事によると、「あらかじめ雇用主と合意したジョブディスクリプション(職務記述書)に記載した仕事内容や求められる成果に基づいて雇用契約を結び人材を評価する制度」となっています。
要するに、TVドラマの「ドクターX」型フリーランス雇用ということです。
ドラマでは、主人公を快く思わない同僚から「バイト風情が・・」と言われていましたが、日本ではまだまだ「バイトとどこが違うの?」という認識が大半だと思います。
未だに、終身雇用が主流の日本の雇用環境では、労使ともにハードルが高いといえます。
 
建設通信新聞の記事では、そのことを以下のように解説しています。
企業側からみると「職務内容・業務の洗い出し・切り分けが難しい」、「ジョブディスクリプション(職務記述書)の作成負荷が大きい」といった課題を挙げています。
さらに、「既存制度との整合性や折り合いが難しい」、「コミュニケーション不足から共有業務の役割が不明確・おろそかになる」といった不安の声を挙げています。
 
記事の中でコベルコ建機が述べている「制度対象のジョブがなくなった際に自由に解雇できる法制度がないことが課題」に問題の本質が現れています。
企業側には「要らなくなったら解雇できる」という期待が見え隠れしますが、雇用者側から見たら、雇用の安定性が損なわれる不安がつきまといます。
よほど自分に自信がないと、大門未知子(ドクターXの主人公)のような生き方は選択できないでしょうね。
 
自分の話で恐縮ですが、20代前半のコンピュータ会社に勤務していた頃を思い出しました。
米国に派遣されていた時、仕事を通じて米国の若い技術者たちとの交流がありました。
夜の会食など、私的な付き合いの機会に、彼らのほとんどが、こう聞いてきたのです。
「きみは、いつ会社を作るんだ」
彼らにはサラリーマン人生を全うすることなど、まったく意識にないのです。
そうした付き合いの中に、27歳という最年少でIBMフェローとなったアンディ・ヘラーがいました。
IBMの「トップエンジニア」の称号がIBMフェローで、日本人ではノーベル賞受賞者の江崎玲於奈博士がそうでした。
そんな最高レベルの待遇を受けていた彼でも独立を念頭においていることに、ただただビックリしました。
「これが米国の活力なんだな」との思いを強くしました。
しかし、帰国した日本は、米国とはまったくの別世界でした。
 
あれから50年近く経っていますが、未だに日本では、この程度の認識レベルなのです。
働く側(特に、若い人たち)の「自分の働くことの意義・意識」が大きく変わらないと、労働のイノベーションが起きようもありません。
企業側も、ジョブ型雇用を「いつでも首が切れる」への期待ではなく、自企業の価値を高めるアイテムのひとつとの認識を持つべきです。
しかし、日本全体がその意識になっていくには、あと20年、30年、いや、それ以上かかるかもしれません。
経営者の中には、「ならば、我が社が・・」という方が出てくるかもしれませんが、簡単ではありませんよ。