商品開発のおもしろさ(14):ワクチンの話(その1)

2021.08.17


現在、切実に求められている商品といえば新型コロナワクチンと思いますが、最も誤解を受けている商品ともいえます。
もとより私は専門家ではありませんが、医療関係や製薬関係の知り合いもいますので、それらの話を組合せて、自分なりに納得した意見を数回に分けて述べさせてもらいます。
 
まず、インフルエンザ用など、これまで使われてきたワクチンについて整理してみました。
こうした従来タイプのウィルスワクチンは、大きく3タイプに分類されます。
(1)生ワクチン:弱毒化した生きたウィルスを使う
(2)不活化ワクチン:ホルマリンに漬けるなどして感染力をなくしたウィルスを使う
(3)組み換え型蛋白ワクチン:遺伝子組み換えによって作成したウィルス蛋白を使う
 
今回の新型ウィルスに対しては、(1)は安全性で問題があり、(2)と(3)は有効性が低かったということです。
そうした中で、30年前からまったく新しい発想でワクチン研究を続けてきた会社があります。
ドイツのビオンテックという製薬会社です。
この会社が開発したワクチンが、今では多くの人が耳にする「m(メッセンジャー)RNAワクチン」です。
このワクチンは、ウィルスそのものを人体に送るのではなく、ターゲットとするウィルスを構成する蛋白を作る「設計図」を人体の細胞内に送り込むというものです。
この設計図はウィルスの遺伝子を解析して作りますが、“mRNA”とは、この設計図の名称です。
注射器で人体の細胞に送り込まれるのは、ウィルスではなく「設計図」というわけです。
こうして送り込まれた設計図に基づき、細胞はウィルスを構成する蛋白を作り出します。
このウィルス蛋白を体内の免疫細胞が認識し、体外から入ってくるウィルスに対抗する抗体を作り出し、ウィルスが体内に入ってくることを予防するというわけです。
また、実際に感染した場合でも、そこから回復することに欠かせない「細胞性免疫」を誘導する能力も獲得します。
このようにして作られたワクチンが臨床試験で「発症予防効果」95%という高い有効性を発揮したので、投与に踏み切ったというわけです。
 
といっても、ビオンテックはベンチャー型の小企業であったため、米国が多額な研究資金を提供し、ファイザー社と組ませて誕生したのがビオンテック・ファイザーワクチンなのです。
同時に、米国はモデルナ社を設立させ、同様の研究をさせ誕生したのがモデルナワクチンです。
モデルナ1社への支援額だけでも4000億円というから驚きです。
ちなみに、日本が「新興・再興感染症」と呼ばれる新型インフルエンザ、エボラ出血熱、MERSなどの研究に投じた予算は2019年度で64億円、しかも、新型コロナウィルスワクチンは、そのうちの一部というのですから、「できるわけない」のです。
 
こう書いてくると、資金さえあれば簡単にできそうに思えるかもしれませんが、30年もの年月がかかったのは、“mRNA”という設計図を細胞に運ぶ難しさゆえなのです。
ワクチン蛋白を作る精密な設計図である“mRNA”は非常に不安定であり、しかも、人体の細胞内に送り込まれると「異物」と認識され、すぐに壊されてしまうことが繰り返されたのです。
その結果、ようやくたどり着いたのが、マイナス70℃という超低温での保管であり、解凍後は「揺らすこと厳禁」などの厳しい扱い基準だったのです。
 
なお、英国オックスフォード大学などの研究で開発されたアストラゼネカも、同様の“mRNA”ですが、扱いが少し緩くて使いやすい反面、効果は少し劣ると言われています。
また、中国製やロシア製のワクチンは“mRNA”ではなく、従来型の不活化ワクチンです。
当然、効き目は薄いですが、扱いは簡単なので、途上国は気休めと分かっていても、これらを使うしかないというわけです。
先進国は、保管や運搬、解凍、接種までの体制の整備を含めて援助する仕組みを作る必要があります。
それができない理由の一つが、中国やロシアに忖度しているWHOや国連への不信感なのです。
次回も、ワクチンの問題を続けます。