価格競争に勝てる『建設生産システム』(1)システムを機能させる2つの要素

2013.01.31

生産システムの問題は、建設工事だけでなくモノつくり全体の問題です。
“モノつくり”というと、我々はすぐに18世紀後半に起きた「産業革命」を思いだします。
当時の社会情勢の変化と技術革新が劇的な効果をもたらし、その後の世界を大きく変えたわけです。
まず、この問題を少しだけ掘り下げてみます。

最初の「社会情勢の変化」とは具体的にどんなことを指すのでしょうか。
当時、農業の効率化によって、農業人口が大量に余ってきました。
当時の農業従事者の大半は小作農で、自分の農地を持たない雇われ農夫でした。
つまり、農業の効率化によって農場主から簡単に解雇される労働者だったのです。
解雇された彼らは、職を求めて農村から都市へと流入してきました。
この人口流動こそが具体的な変化でした。

一方、劇的な技術革新をもたらしたのは、蒸気力の発見でした。
せいぜい馬や牛レベルの力しかなかった時代にあって、蒸気は、船を動かし、列車を走らせるという魔法の力でした。
やがて、手作業が主体であった“モノつくり”に蒸気機械が持ちこまれ、大量生産の口火が切られました。
大量生産の実現は、モノの1個当たりの価格を劇的に下げ、人々の購買欲に火を付けました。
その結果、工場が大量に建設され、増産に伴う労働者が大量に必要になりました。

ここで、上記2つの要素が噛み合ったのです。
農村から都市への流入者が新工場の労働者(しかも、安価な労働力)になっていったのです。
革命とは、常に上記2つの要素の噛み合いがあって起きることです。
一方の要素だけでは起きないのです。
このことは、自社の経営改革を目論む時、最も考えなくてはならない事項だと思います。

今の時代は、コンピュータによる情報技術が、産業革命時の蒸気力に当たります。
たしかに、情報技術の発達は、世の中に大きな変化をもたらしています。
しかし、200年前の産業革命ほどのインパクトにはほど遠いように感じるのです。
(当時の人は、もういないので、そんな感じがするだけですが・・)
その理由は、もう一つの要素「社会情勢の変化」が緩慢なせいではないでしょうか。
200年前の人口流動のような劇的な変化が社会にはまだ起きていないのではないでしょうか。

読者のみなさんの会社に当てはめて、同じ問題を考えてみてください。
パソコンが導入される前と比べて、今の会社に大きな変化が表れていますか。
ごく少数の会社では劇的な変化があったでしょう。
たとえば、売上が爆発的に増えた(うらやましいですが・・)。
ベテランがごそっと辞めて、社内の年齢構成がガラっと変わった。
たたき上げのトップが退任し、20歳以上も若い現場未経験の社長になった。
異分野へ営業転換し、業務内容が全く変わった・・などなど。
これが、企業にとっての「社会情勢の変化」と言えることです。
こうなった会社は、「今まで通りの仕事のやり方」を変えざるを得なくなったはずです。
そこに先進の情報技術の導入が噛み合えば、自社の産業革命は起きるわけです。

でも、大半の会社の「社会情勢の変化」は緩慢で、「昔と変わらないやり方」でも通用しているのです。
これでは、改革は動きません。
逆から考えればよく分かると思います。
「我社は新しいシステムを入れて情報化を進めているのに、さっぱり有効に機能せん」と嘆く経営者は多いですが、その理由は、上記にあるわけです。
つまり、その企業内に「社会情勢の変化」が起きていない(あるいは起こしていない)からです。