今後の建設需要(5):生産性は市場に評価されない(その2)

2020.01.16

東日本建設業保証が2万社余りの財務統計データを発表しました。
それによると、総資本経常利益率は平均で5.19%、売上高経常利益率は3.23%、ともに2006年度以降で最高値とあります。
しかも、この統計にはスーパーゼネコンは含まれていませんので、業界全体が広く利益を上げているといえます。
 
ただし、業種、地域によるばらつきが大きいことが目に付きます。
そして、好景気の地域と大きな災害があった地域とが、みごとに重なっています。
東北地区が高いのは、東日本大震災の復興需要がまだまだ続いていることを意味しています。
こうした背景があるので、業界団体は世間に向かって「景気が良い」とは言えないのです。
 
それは当然です。
道義的なことより、こうした「天の恵み」に期待する経営はできないからです。
人口減など日本を覆う暗雲は、ボディブローのように建設産業にもかかってきます。
切り抜ける道として、国交省や業界紙が連日唱えているのが「生産性向上」です。
 
そうした一環で、建設技能者のマネジメントスキルの向上を目指した「建設キャリアアップシステム」がスタートしています。
2019年11月からは、受講者システムで使う4色のカードを無料で交付することが始まっています。
 
しかし、予算の都合上、無料登録は5万人までということで、普及に拍車がかかるかは疑問です。
5万人は、300万人超といわれる技能者の数からみると僅か1.6%です。
しかも、このカードを読み取るカードリーダーを設置できる現場は限られます。
中小建設業の小さな現場までの普及は、到底、無理です。
結局、「モデル現場での試行では○割が実施・・」といった大本営発表で終わる可能性があります。
 
こうした取組みの意義を否定はしませんが、これが生産性向上に大きな効果があると考えているとしたら、少々言葉は悪いですが、「笑止千万」と言いたいです。
また、IT施工への期待も高まっていますが、その導入費用に見合う効果が出るまで、どのくらいの年月がかかるか、先が見えないのが実情です。
いずれも、夢のような結果への期待が先行して、本質的な取り組みが疎かになっているように思えます。
 
私が現場監督していた時代は、はるか昔になってしまいましたが、現場生産性向上の基本は変わっていないと思います。
その基本を疎かにして、ITや制度ばかりを期待する今の行政や産業には危機感を覚えます。
 
「建設キャリアアップシステム」では、技能レベルを1~4に分けて色分けするということですが、人間の心理をまったく無視した官僚的発想です。
最低レベルの色のカードを持たされる人の身になったら・・という意識が無いのでしょうね。
政策側の官僚と現場の技能者との溝は、日本海溝のように深いと思わざるを得ません。