アベノミクスは実感に乏しい? (その2:労働分配率)

2013.09.30

日本経済は着実に回復してきていると言われますが、「実感が乏しい」と、あちこちでこの回復を疑問視する声が聞こえます。
この「実感の乏しさ」の解説の2回目です。

前号で、「賃金が増えない」メカニズムのことを述べました。
今回は、付加価値額と労働分配率について述べます。

労働分配率=人件費÷付加価値額です。
付加価値額は、単純に言えば、下記の式で表わされます。
付加価値額=売上高-仕入れ原価(原材料費、外注費等の外部購入費用)

つまり、付加価値とは、企業に入るカネから外部に出ていくカネを引いて残ったカネということです。
これが、「企業が生み出した価値」というわけです。
労働分配率は、この「企業が生み出した価値」から、社員にどのくらいを分配したかを示す尺度です。

一般に、景気と給与額はそのまま連動せず、給与の変動は景気の波より遅れます。
景気拡大期においては、付加価値が拡大し(つまり分母が大きくなり)、人件費の伸びを上回ることで、労働分配率は低下します。
逆に景気後退期には、企業の付加価値は下がりますが、企業は雇用維持を優先して給与額を下げないため、労働分配率が上がります。

また、企業は、生み出した付加価値の一部を投資などのために内部留保に回すほか、株主への配当にも気を使わなければなりません。
このため企業は労働分配率が高くなると、労働分配率を下げる必要から、人員削減や賃金の抑制が不可欠となります。
これを怠れば、最悪、倒産の事態に陥るからです。

労働分配率は産業や企業規模によって大きく異なります。
適正な労働分配率は50~60%程度と言われていますが、一般に中小企業は付加価値額が低く、労働分配率は高いです。
つまり、中小企業の多くは、少ない利益の中で可能な限りの賃金を払っているのです。
だから、企業の付加価値額を上げないことには賃金が増やせない構造になっているのです。

では、中小企業は、どうすればよいのでしょうか。
労働分配率を下げ、給与のアップを果たすには、社員一人当たりが生み出す付加価値額を上げるしか手はありません。
つまり、労働生産性の向上がカギなのです。
次回は、この「労働生産性の向上」について解説しましょう。