小さな会社の大きな手(6):事業継承とイノベーション

2015.08.31

イノベーションの続きです。
 
前号で、マネジメント型の企業後継者は、イノベーションを起こしにくいと書きましたが、「起こせない」わけではありません。
しかしながら、組織の内外から、前任者の「継承」が求められるため、それに縛られてしまいます。
 
さらに、前任者の事業が軌道に乗っている中での継承であれば、周囲は100%の継承を求めるでしょう。
しかし、それでは、事業継承が企業衰退のスタートとなってしまいます。
 
たとえ業績が好調な中でも、後継者は、前任者の施策の30%は変えるべきなのです。
そうです。 「30%のイノベーション」は、企業が伸びていくための必須数字なのです。
 
ましてベンチャー型の企業であれば、この比率は50%以上となるでしょう。
ゆえに、大企業になってしまったベンチャー企業は、事業継承が極端に難しくなるのです。
ソニーやシャープの衰退は、その典型的な例です。
マイクロソフトやアップルも後継者の時代になって、完全に成長は止まってしまっています。
このままでは、やがて衰退への道をたどるでしょう。
ソフトバンクやユニクロなど、まだ創業者が引っ張っている企業も、やがて来る事業継承によっては、衰退への道へ向かうかもしれません。
 
では、事業継承とイノベーションをどのように組み合わせれば、さらなる発展へとつなげることができるのでしょうか。
一番確実な方法は、飛び抜けた技術能力を持ちながら、マネジメント能力も人並み以上の人材を見つけて後継者にすることです。
しかし、このようなスーパーマンを見つけることは至難のことです。
社長のお子さんが、そのような人材であれば最良と思えますが、大塚家具の例もあります。
自分の路線を否定された前任者が“ガマン”できないことは十分に考えられます。
大塚久美子社長のように、裁判になっても、父親に対し一歩も引かないという強い経営者である必要がありますから、実務とマネジメントの両方の才能、経験とともに、鋼鉄の精神力の持ち主であることが必須となります。
さすがにハードルが高そうです。
 
次に考えられるのは、技術能力の高い者から抜擢し、徹底的なマネジメント教育を施し、育て上げることです。
米国の事業継承者に多いタイプですね。
日本でも、これからの経営施策の一つとなっていくと思います。
三番目の方法は、逆にマネジメント能力の高い者を抜擢する方法ですが、この場合、技術教育をしてもその能力向上には限界があるということが違います。
マネジメント能力は、机上の学問でもハイレベルに持っていくことは可能です。
しかし、技術能力は机上の学問だけでは向上しません。
実務経験と専門的センスが欠かせないからです。
ですから、この場合は、技術教育は「効果なし」と思ったほうが良いようです。
 
ではどうしたら良いのでしょうか。
マネジメント型の後継者には、本物の専門家を見抜く力と彼らを使う力を付けさせていけば良いのです。
ただし、創業者のような“力ずく”の強引さではダメです。
使われる専門家の合意を引き出しながら使う力です。
 
私の兵法の先生であった故武岡先生は、戦争末期に陸軍士官学校を卒業し、すぐに小隊長として最前線に送り出されました。
50名の部下の大半は、19歳の先生より年上の兵隊ばかりでした。
その中で得た教訓として、先生は「兵隊は命令で動くのではない。納得して動くのだ」と、よく仰っていました。
26歳で終戦を迎えた私の父も同じようなことを言っていました。
父は、太平洋の最前線で、砲兵大尉として、米軍と死闘を繰り広げました。
 砲兵陣地の指揮官として、「敵に損害を与える前に、どうすれば部下の損害を最小化できるか」を、部下と一緒に考えていたと言っていました。
歴戦の経験を持つ部下の兵隊は、先生や父より射撃や砲撃の能力は高かったと思います。
その専門家たちを巧みに使うため、彼らの命を大事に考え、共に戦ったことで生存できたのだと思います。
若い後継者が第一に考えるべきことだと思います。