短期的変動に備える経営へ(4)

2017.05.15

前回、「次回は9年後に至る市場動向を考えてみたいと思います」と予告しましたが、テーマが大きすぎて、考えあぐねていました。
そこで、いくつかのキーワードごとに論評を加えることにしました。
今回は、先進国で起きている「財政デフレ」が「9年後の市場」に及ぼす影響についてです。
 
 
先ごろ、OECDが「先進国で財政デフレが起こっている」と警告を出した。
どういうことかというと、リーマン・ショックを乗り切るため、先進国は金融機関に対して大幅な財政支援を実施してきた。
それが一段落したことで各国の財政赤字が減少する方向に向かい、むしろ総需要を抑制するという「財政デフレ」になっているという警告である。
国際的な低金利はそれが原因であり、ゆえに、各国は協調して財政支出を拡大すべきだという提言でもある。
と言うことは、9年後に向けて、世界的には公共インフラ投資がさかんになることが予測できる。
 
さて、日本でも同様であろうか。
日本が財政を拡大できる財政余地はGDP比で2.2%と言われている。
この計算の根拠は、マイナス金利にある。
日銀の採ったマイナス金利の影響で、日本の名目成長率>名目金利となっている。
ゆえに、財政支出を一定に保った場合、国債の金利払いより成長による税収増のほうが大きくなり、プライマリー赤字は減ってゆく計算である。
事実、そうなっている。
 
政府債務というものは、規模がいくら大きくなろうと、すべて返済する必要はなく、利払いで債務が拡大さえしなければ維持していくことはできる。
それが「プライマリーバランス」ということである。
そうした計算から、日本はGDP比で2.2%の財政拡大(あるいは減税)の余地があるということになる。
金額にして約12兆円だから、かなりの額である。
 
だから安倍首相は、アベノミクスで公共事業を拡大すれば、経済成長と財政再建の同時達成ができると考えているのであろうか。
ところが、OECDは「各国は協調して財政支出を拡大すべき」と言いながら、日本だけは例外だと言っている。
これはどう解釈すれば良いのであろうか。
 
OECDは、別の計量分析によって、日本の「財政乗数」がゼロに近いという理由を掲げている。
その原因として、かつての公共事業の拡大による公的資本ストックが過大になったことと、「ゾンビ企業」を救済することで投資効率が悪化したことをあげている。
一言で言えば、日本の公的投資のリターンが「マイナスになっている」ので、このままの公共投資を続ければ破綻する恐れが大きいという理由である。
 
この説には納得せざるを得ない。
たしかに指摘の通り、事業性を無視した公共事業がまかり通り、また実質破綻している企業を存命させてきたことで、公共投資リターンがマイナスになっていることは否定できない。
日本の政府債務の金利払いはマイナス金利のおかげで低く抑えられているが、国債発行高のGDP比230%は理論的限界値といえる。
もし世界的な金利上昇が起きたら経済が破綻する危険は、たしかに大きい。
 
怖いのは、日本以上に公共投資の効率が悪い中国経済の破綻である。
今後の9年間を考えた場合、その可能性を無視するわけにはいかない。
そうなった場合、日銀は必死に日本国債を買い支えるであろうが、日銀の購入限度額を超えたとたん、投資家は日本国債を買わなくなり、日本の破綻も現実となる。
だから、OECDは、各国に財政拡大を推奨しながら、日本にだけは社会保障などの構造改革を優先し、早く「財政中立」を実現せよと迫っているのである。
 
 
なんか9年後の日本の未来が暗くなるような話ですが、打つ手はあります。
それは、消費税増税と同時に大幅な法人税減税を実施し、さらに海外のインフラ受注を国家をあげて支援することです。
もちろん観光客の誘致を加速させ、8000万人の目標を掲げることも大事です。
 
こうした意見には反対も多いでしょう。
ですが、日本経済を9年後にバラ色に持っていくための戦略でもあります。
次号では、こうした未来が来るとした場合の、我々中小企業が採るべき戦略について述べたいと思います。