商品開発のおもしろさ(7)

2021.01.15


今回は、少し視線を変えた話をします。
元通産省工技院の所長が起こした池袋の自動車事故の裁判が12月14日に開かれました。
母子が犠牲になり、多くの負傷者を出した痛ましい事故ですが、被告が「車の欠陥が事故の原因なので無罪」と主張していることで注目を集めている裁判です。
本シリーズは「商品開発」がテーマなので、有罪か無罪かではなく、被告側の主張の「車の欠陥」について述べます。
 
いろいろな方が指摘していますが「ブレーキを踏んだが逆に加速した」という被告の言い分は、ゼロとは言い切れませんが、車の設計上ありえないと断言できます。
それでも弁護団がそこに執着するのは、事故を起こしたプリウスのハイブリットシステムの特殊性に付け込もうという法廷戦術だと思われます。
そう思うのは、弁護側が電気系統のトラブルで“ブレーキが利かなかった”という主張ではなく、「その可能性は否定できない」という「悪魔の証明」を用いた主張を展開しているからです。
悪魔の証明とは「無かったことを証明せよ」という無理筋の主張のことです。
 
私も、プリウスαというプリウスシリーズのハイブリット車を運転しています。
しかも、5年前、自損事故を起こし、前輪部分の破損で、結果としてその車を廃車処分にしました。
その時に、整備工場で、前輪に集中しているハイブリットシステムの仕組みを自分の目で詳細に確認しました。
私は、大学では機械工学を専攻し、卒業研究は自動車のターボチャージャーでした。
さらに、アルバイトで自動車レースチームのメカニックを経験しています。
自分でいうのはおこがましいのですが、車に関する専門知識は素人では無いと自負しています。
 
自動車ブレーキの多くは、ブレーキペダルを踏む足の踏力を油圧作動でブレーキディスクに伝える機構になっています。
しかし、プリウスのブレーキは、ブレーキ作動で発生するエネルギーを回生(回収)するため、確かに複雑になっています。
ブレーキペダルは、直接ブレーキディスクに踏力を伝えるのではなく、単なる電気的なスイッチになっています。
その点から言えば、被告側の主張のように「電子部品のトラブルでブレーキが効かなくなる」可能性はゼロとはいえません。
しかし、トヨタは、そんなことは百も承知で車を設計しています。
非常時に、ドライバーは当然ブレーキを踏みます。
それでも減速しなかった場合、機械式のブレーキが自動で機能する設計になっています。
私の事故の場合は、ブレーキを踏むまもなく側壁にぶつかり跳ねかえされました。
それでも機械式ブレーキが自動で作動したことが確認出来ました。
池袋の事故とは状況が違いますが、ブレーキ作動の優秀性は証明できます。
 
また、ご存知のように、アクセルはブレーキとは完全に別系統になっています。
ブレーキを踏んだのにアクセルが全開になる確率は、完全にゼロといえます。
実際、池袋事故の3人の目撃者は、ブレーキランプはついていなかったと証言しています。
被告がパニクって、アクセルを踏み続けたことは明らかです。
 
米国でも、プリウスで事故を起こしたドライバーが「ブレーキを踏んだのに勝手に加速した」と言ってトヨタを提訴しましたが、米国運輸省の何重ものテスト検証の結果、完全に敗訴となっています。
池袋事故の担当弁護士は、車の構造に詳しくなくとも、こうした判例は当然に承知だと思います。
普通なら「運転ミスを認めた上で減刑嘆願を」と被告を説得するはずです。
憶測ですが、そうした説得もしたと推測されます。
それでも被告が「ブレーキを踏んだのに車が勝手に加速した」と言い張るので、「それならそれで面白い裁判になり、注目される」という算段が働いたのかもしれません。
もちろん、なんの裏付けもないので、そう思うだけですが・・
裁判所の「被告の訴えはすべて却下。有罪」との早期判決を望みます。