今後の建設需要(17):まちづくり

2021.07.16


「まちづくり」というと聞こえは良いですが、実態は不動産開発事業です。
前回、そこには「私権の調整」と「ファイナンス」という2つの大きな壁があると書きました。
建設会社の社員時代、そうした壁への対処は別の部署の仕事だったので、正直あまり気にかけてはいませんでした。
しかし、起業してからは、この難題から逃れることはできずに苦労してきました。
 
ある政令指定都市の依頼で、再開発計画の公聴会にオブザーバーとして参加したことがあります。
参加した住民たちの意見を集約すると、自分の土地には6階建てを許可して欲しいが、隣の土地には建てられないようにして欲しいというものでした。
あるいは、自宅の目の前にバス停が出来るのは嫌だが、近くには欲しいというような意見です。
まあ、当然といえば当然の主張なのですが、みなが同様の意見を声高に述べ、お互いの主張の矛盾に気が付かないのです。
いや、気付いている人もいたのですが、呪縛にあったように口に出せないのです。
まさに「空気の持つ圧力」に支配されてしまうのです。
 
同席していた市役所の方々は、住民の矛先が自分たちに向かないようにと、曖昧な説明に終始するのみ。
そのうち、頃合いを見計らっていたのか、担当課長が私に意見を求めました。
そう、この場の利害関係に最も遠い私に参加を依頼した理由がそこにあったのです。
その頃には、頭に血が上って声高に主張していた住民たちも疲れたのか、黙る人が増えてきました。
この段階ならば、住民たちに利害関係のない者の意見を聞く雰囲気が生まれるとの読みだったのです。
 
私は、次のような意見を述べました。
「みなさんのご意見は、どれも“ごもっともな”ご意見です。しかし、その全てを実現することが不可能なことも分かっておられると思います。
でも『だから妥協しろ』と言うのではなく、少しでも『今より良い街にする』という大きな目標を確認し合うことから始めませんか」
 
たしかに、この時の私の意見は「あいまいな綺麗事」にすぎません。
しかし、ものごとの第一歩は「嵐の状態」、つまり徹底的に自己主張をぶつけ合う場を設けて腹の中を吐き出させることから始め、第二歩で「チーム意識の形成」、つまり目指す共通目標への合意へと導くことで、最終成果の半分は出来上がります。
それを実感した経験でした。
 
もうひとつの難題「ファイナンス」の話は次回で。