曲がり角の先の経済を考えてみよう(8):日本復活のカギは半導体(2)

2023.04.17

今回は、始めに言葉の整理を行います。
前回、トランジスタとダイオードという言葉を使いましたが、それぞれの言葉が意味する範囲が違います。
「ダイオード(diode)」は電流を一定方向にしか流さない「整流作用」を持つ「電子素子」全体を指す言葉です。
ゆえに「真空管」もダイオードです。
その後に、電子回路で信号の増幅やスイッチングを行う半導体素子が生まれ、それは「トランジスタ(transistor)」と名付けられました。
つまり、真空管もトランジスタもダイオードなのです。
このトランジスタを微細化し、集合体としたものを集積回路(IC)と呼んでいます。
この集積度を上げていけば、小さくて性能のよい半導体製品が作れるわけです。
 
1980年代、日本の半導体の世界シェアは50%を超えていました。
それが現在は、わずか5%という惨めな状態です。
日本を恐れた米国の圧力によって技術を中国や台湾、韓国へ強制的に移転させられたことが最大の要因ですが、その上にバブル崩壊という重しが重なりました。
その結果、その間に起きた半導体レベルの急上昇に日本は置いてきぼりを食ってしまいました。
 
日本の台頭を恐れて中国や韓国に肩入れした米国は、いま、大きな後悔をしています。
その後悔が、今度は、日米で最先端半導体を開発するという事業化を後押ししています。
少々遅かったと思いますが、遅すぎたというわけでもありません。
 
半導体の性能は「ナノ」という単位で表現されます。
これは回路の幅を意味し、細いほど性能が高いということです。
「1ナノ」とは、0.000001mm、つまり「1mmの100万分の1」の細さということです。
現在、日本が作っているのは40ナノの半導体が主軸で、28~29ナノが限界です。
台湾の半導体大手メーカーTSMCが熊本で建設中の工場で生産するのはそのレベルまでの製品です。
現在、世界で量産出来ている最先端の半導体は「7ナノ」で、1年後に「5ナノ」ができると言われていますが、世界の主流は14~16ナノです。
TSMCなどは、2ナノレベルの開発に挑戦していますが、まだまだ道は遠いのが現状です。
 
こうした現状に大きく遅れを取っている日本ですが、大手8社が組んで設立した製造会社「ラピダス」は、米国IBMと組み、数年で2ナノレベルの半導体を生産するとしています。
この共同開発ではIBMは研究開発だけでラピダスが製造までを行います。
さらに、ラピダスは“beyond 2”つまり2ナノ以下の開発まで進めると宣言しています。
 
半導体の集積度を上げるには、各素子間の仕切り(ゲート)の薄さがキーとなります。
このゲートは酸化膜で作られていますが、極限までの薄さを追求するという意味で「ナノシート」と呼ばれています。
このシートの究極の製品ともいえる“FinFET”は日立製作所が開発したものです。
さらに、生産に必須の製造装置や建物、クリーンルーム、半導体の各種素材などは日本がとても強い分野です。
 
これまで、こうした生産設備や技術を、日本は中国や韓国に教え、支援し、輸出してきました。
しかし、その中国は、感謝の代わりに日本を脅し、武力侵攻すらほのめかす有様です。
韓国にしても友好国とは言い難い状況であり、日本の善意はすべて仇となっています。
 
政治的問題はさておき、日本政府はラピダスを全力で支援し、半導体の覇権を取り戻すべきです。
ラピダスへの政府の出資金は700億円ですが、開発には2兆円の資金が必要だと思われます。
それには政府の強い姿勢とともに、国民の理解が欠かせません。
 
もうひとつ別の問題があります。
それは次号で・・