小さな会社の大きな手(17=最終回):中小企業の目指す経営とは

2016.09.20

1年半に渡ってお送りしてきたこの連載も、そろそろまとめになりました。
最後に、前号で少し取り上げた日本電産会長兼社長の永守重信氏の言葉を一緒に考えてみたいと思います。
もちろん、日本電産は大企業ですが、創業当初は中小企業でした。
一代で大企業へと飛躍した現代の経営者には、ソフトバンクの孫社長とかユニクロの柳井社長、楽天の三木谷社長とかがおられますが、あまりにもカリスマ的過ぎて、正直参考にはなりません。
その点、メーカーに徹してこられた永守社長の言葉は、中小企業の経営に通じることが多く、参考になると感じています。
そんな言葉を幾つか紹介します。
 
(1)上に立つ人間は、人を明るくしたり、楽しくしたりしなければいけないが、そういう経営者は少ない。
みんな謙遜して、慎重に発言する、ごく普通の人が多いね。
 
→「なるほど」と思います。
ですが、謙遜や慎重な発言を「美徳」と思っておられる方のほうが多いのではないでしょうか。
また、よほど自分の経営に自信がないと、永守社長のようには発言できません。
でも、永守社長は、会社の規模が小さい時から、このように発言されてきたのだ
と思います。
「かくありたい」と思わせる言葉です。
 
(2)投資しすぎた。腹八分目というか、ちょっと休まなければね。
私は人を切るのは絶対にいやなんですよ。リストラしたほうが、会社にとって早い。
でも人材は大切だ。最後、一番強いのは人を切らないことだ。
 
→戦略投資は必要だが「腹八分目」というのが“みそ”なのでしょうね。
投資の失敗で人を切ることだけはしたくないという強い思いが伝わってきます。
人を切らなければ会社が存在できない事態に追い込まれてはいけないという“戒め”にも聞こえます。
私はリストラが必ずしも悪いとは思っていませんが、ずさんな経営でリストラに追い込まれたとしたら経営者として失格なのは当然です。
戦略投資には、常にそのリスクが生じますので、リストラに追い込まれる前に撤退する勇気も必要と解釈しています。
 
(3)結局、酒を飲んだりゴルフをしたりして解消するようなストレスは、ストレスじゃない。
仕事のストレスは、仕事でしか治せない。
開発者だったら新商品を作る、営業だったら新しい注文をとる。
酒ではストレスをごまかすことはできても、治すことはできないよ。
 
→これは「そのとおり」と言うしかありません。
ほとんどの経営者は自覚しているでしょうが、経営とはストレスの塊です。
それが辛いのは当たり前です。
でも、そのストレスから逃げたいのであれば、そもそも経営者になるべきではないのです。
なにより、そんな逃げ腰の経営者に使われる社員が気の毒です。
建設会社の社員だったある日、国交省からの天下り役員と飲む機会がありましたが、その役員がこんなことを言いました。
「こんな大変とは思わなかった。僕は楽をするためにここに来たのに・・」
酒の席とは言え、こちらの気持ちは暗くなりました。
「そんな後ろ向きな気持ちの“あんた”の下に付く、こっちの身になってくれ」と怒鳴りたかったのですが、気弱な当時の私は言葉を飲み込むしかありませんでした。
30年以上経った今でも、あの時の苦い気持ちは忘れられません。
 
ここまで「小さな会社の大きな手」という命題で、このコラムを続けてきましたが、「大きな手」の真の解釈は、読者の皆様それぞれにお任せします。
この連載の中で、私は、自分の数々の失敗を語ってきました。
書きながら、「こんな失敗続きで、自分は本当にダメな社長だったな」と思う反面、「でも、ここまで生きてこられたということは、我が社は生きる価値があったということだ。その価値をこれから大きく育てていこう。本当の勝負はこれからだ」と思いました。
次の「大きな手」を読者の皆様にお届けすることを目標に、いったん本連載を終えます。