これからの中小企業の経営(5)

2024.05.01


前号で「創業企業が10年生き延びられる確率は10%も無い」と書きましたが、5~6%との声も聞きます。
いずれにしても、生き延びる確率が相当に低いことは確かです。
そんな創業者の一人であるダイソーの故矢野博丈社長から聞いた話は衝撃的でした。
 
矢野社長は、ダイソーに至るまで30の商売に失敗し、3回の夜逃げをしたと語っていました。
3回目の夜逃げで、逃げるところもなくなり、最後に始めたのが100円ショップということです。
「なぜ100円なのか?」の質問には、
「買ったものが不良品だった場合でも、お客は100円なら『しょうがない』と諦めてくれる。これが1000円だったら絶対に諦めてくれない」と、拍子抜けするが納得の答え。
しかし、100円だから売れたというわけではないと言われました。
どういうことか?
さらに話を聞きました。
ここからは、ご本人の言われたことをできるだけ、そのまま掲載します。
 
当初、60円で仕入れた商品を100円で売ったが、まったく売れない。
それで90円で仕入れた商品を100円で売ったら売れた。
しかし、それでは経費を引くと赤字になってしまう。
でも、「これで売るしかない」と覚悟して売り続けた。
とうぜん、赤字は増え続け、借金はさらに膨らみ、どこからも貸してもらえなくなり、「もうアウトや」と思うしかなかった。
 
ところが、その時、仕入先から「あんた、よう売ってくれるから、これから80円でええよ」と言われた。
それで、なんとか商売が続けられ、頑張って売っていったら、次は「70円でええよ」となり、やがて60円で卸してくれることになった。
品質的には90円の商品を60円で仕入れて売るのだから、当然、売れた。
 
「なるほど」と思ったが、話はそれだけではなかった。
矢野社長の話を続けます。
 
100円ショップに来るお客は、何か目当てがあって来るのではありません。
店に来て「なにか面白いものはないか、新しいものはないか」と探すことを楽しんでおるのです。
だから、1週間も同じものを同じように並べておくと、来てくれなくなります。
だから、品物を変え、並べ方や見せ方を変え、店内をぐるぐる回ってもらうようにするんです。
お客は、店内を何回も回ったあげく、いくつもの商品を手にして買うていかれるのです。
100円の商品1個だけレジに持ってこられるというお客さんはおられませんね。
 
「なるほど」です。そこには、商品販売のエキスが詰まっています。
まず、「安さ」ではなく「リーズナブル」ということが大事です。
本来、販売とは、商品(サービス)とお金との「等価交換」なのです。
まず、お客にとって「欲しい」ものでなければ、そもそも入り口でアウトです。
そのうえで、「どうしても欲しい」か「この価格なら良いか」ということで購買が決まります。
それが「リーズナブル」という意味です。
 
次は、お客を「回遊させる」ということです。
この回数が多ければ多いほど、売り上げは増えるはずです。
ですから、ライバル店の出現はチャンスと言えるのです。
(もちろん、ライバル店に行ったきり戻って来ないは、アウトですが)
物販業でなくとも、製造業、建設業、サービス業でも同じです。
互いに切磋琢磨して、産業そのものを盛り立てていくことが本当の努力といえます。
 
もっとも、私には「100円ビジネス」はとても無理ですが・・